ブサイクは祝福に含まれますか? ~テイマーの神様に魔法使いにしてもらった代償~

さむお

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アリシア編

クロノの力

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「大丈夫ですか?」
「それはあれか? こいつ本当に大丈夫かって意味か?」
「普通に心配しただけですけど……」
「アリシアは過保護だなぁ。奇襲されてちょっとだけびっくりしちゃったけどさ、俺だって冒険者だ。サクっとやれたよ? 本当だよ?」
「では、この後も大丈夫なんですね?」
「へーきへーき。えっ、まだ居るのか!?」


 慌てて天井を見上げるが、スライムは落ちてこない。


「俺の強さに恐れをなして逃げたか」
「あの、前からです」


 剣を前に向けると、微かに羽ばたく音がする。
 小さなふたつの光が、甲高い鳴き声と共に、顔の横を抜けていった。


「何だ、大蝙蝠か……」
「あれは囮です。もう1匹来ますよ」
「どこからでもかかって来い!!」


 後頭部に衝撃が走り、振り返るとまた大蝙蝠が飛び去っていく。
 何と見事な奇襲だろう。俺じゃなきゃ危なかったな。


「ご主人さま、大丈夫ですか?」
「ノーダメージだ。あいつはきっとユニークだな」
「普通の大蝙蝠です……」
「えへへ……」


 本日N度目の呆れ顔を拝んでしまった。
 だってしょうがないじゃん。戦ったことほとんどないし。


「アルバは……その、凄く平和なんですね……?」
「新人冒険者が育つ過程で、魔物たちは間引かれてるからな。2回ほど赤龍降ってきたけど」
「それでよく生き残れましたね……」
「ギルド長とハゲが強いからな。お陰様で俺みたいな鈍くさいやつでも、どうにかやれてるよ」


 我ながら情けないことを言っているのは承知しているが、気合だけで強くなるなら苦労はない。
 まずは生き残れば勝ちだと思う俺とは違って、王都ギルドで名を上げていたアリシアには受け入れがたいことだろう。

 色んな考えがあるのは認めるが、今回の場合は――。


「ご、ご主人さまにはハイヒールがありますからね!! 凄いですよハイヒール!!」


 やはり、ヒーラー要因でギルド職員として雇われてると思われている。
 俺のチャームポイントのひとつなのは間違いないが、本命は別だ。


「……今の俺は訳あってスキルを使えないが、たったひとつだけ例外がある。特別に見せてやるよ……【エンチャント・ダークネス】」


 俺の新しい勇気の象徴が、ダークネス色に染まっていく。
 一切の光を逃さない黒は、暗い洞窟の景色に同化する。
 それを掲げて、アリシアに見せつけた。


「それが3億の聖遺物ですか!?」
「いいや、俺のスキルだ」


 これは軽々しく見せてはいけないスキルだ。
 俺個人が舐められるのは構わないが、アルバのギルド職員が舐められるのは極めて遺憾である。またルークのような馬鹿が現れても困る。
 何より、ギルド長が舐められることと同義であり、それだけは許されない。
 いつの間にか、面倒な肩書を背負っちまったもんだな。


「凄まじい力を感じます……!」


 アリシアが驚くと同時に、洞窟内が騒がしくなっていた。
 暗闇に潜んでいた大蝙蝠たちが一斉に飛び立つ。正しくは、一目散に逃げようとしていた。
 その原因は、やはり【エンチャント・ダークネス】を恐れてのことだろう。

 俺の顔を横切る大蝙蝠に剣を振るうと、黒い稲妻が走り、大蝙蝠の姿は跡形もなく消え去っていた……。


「これでもまだ、頼りないブタ野郎だと思うか?」
「凄いです!! 凄いですけど……」
「もったいぶらずに言ってみな。それとも恐ろしくて震えるか?」
「凄く、オーバーキルです……」


 それな。何か前より強くねぇ?


「おかしいなぁ。いつもは肉片くらい残るんだが」
「どっちにしても討伐報酬が貰えませんよ。弱い魔物には、弱いスキルを使って倒さないとダメなんですよ?」


 ぴえん。先駆者のアドバイス痛み入る~。


「これあれだ。カッコつけたら逆にカッコ悪いやつだ!!」
「いえ、凄かったですよ。カッコイイです。その力がありながら、どうしてアルバでギルド職員になったんですか?」
「スキル化してるからな。1日3回。1回あたり30分で合計90分しか使えないんだ」
「あぁぁ……なんてことを……」


 アリシアはそう言うが、何事も使いようだと思う。
 今の俺はスキルを使えない特殊な事情があるが、スキル化は回数制限がある代わりにMPを消費しない。
 俺が使える唯一にして最強のスキルとなっている。

 早く腕を治して、また真の最強スキル【ダークネス】をぶっ放したいね。
 こんな洞窟で使ったら、崩落の恐れがあるから使えないけど。
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