ブサイクは祝福に含まれますか? ~テイマーの神様に魔法使いにしてもらった代償~

さむお

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アリシア編

夜の運動

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 無事に家に帰れた俺は、アリシアの様子を見るため寝室に向かった。


「た、ただいまー」
「どうしたんですかご主人さま!? 顔が真っ青ですよ!?」
「いや、ちょっと、いきなり3億の装備を貰っちゃって……」
「何だそんなことですか……3億ですか!?」
「道中、生きた心地がしなかったね」


 そりゃ驚くよね。聞き返すよね。
 アリシアも一流の冒険者だから良い装備は持ってるんだろうけど……。


「アリシアはどんな装備を持ってるんだ?」
「持ってないです」
「あー、その体じゃ持てないか。悪かった」
「そうですけど、そうじゃなくてですね。もう持ってません。売られてしまったようで」
「あーーー、アレックスか。あいつ見た目通りのクズだったな」
「……もう、終わったことですから」
「思い入れがあるなら買い戻そうか?」
「平気です。消耗品としか見てなかったので。トレントの弓なんて特別珍しいものでもないですからね」


 一流の冒険者は一流の装備を持つ……と思われがちだが、そうでもない。
 お財布事情もあるので、せいぜい上質な○○止まりだろう。
 武器・防具・ポーションなどの消耗品……それら全てをバランスよく揃えるほうが大事だし、俺もそう思う。
 聖遺物のオリハルコン装備フルセットのハゲ頭がおかしいだけである。
 まぁ、俺もそこに片足突っ込んでしまったわけだが。


「特別な思い入れがないなら良かったよ。それより一緒に運動しないか?」
「私でも出来る運動があるんですか?」
「うん。一緒に街の外で魔物を狩らないか? 精霊弓士は魔術スキルが使えるんだろ?」
「使えますけど……あまり外に出たくないです……」
「エルフって陰キャなのか? 穴蔵で生活するのはドワーフのイメージなんだが」
「魔術は使えます。自然も好きです。でも歩けませんし、人に見られたくないです」
「なるほど。人に見られない方法があるって言ってもだめか?」


 マジックバッグから取り出したのは、普通のバッグ。
 ただしデカい。アリシアの体が余裕で入る大きさだ。


「アリシアの気持ちは分かるけど、気分転換も必要だと思うんだ。このバッグに入れば歩かなくていいし、人に見られることもない。魔物もそんなに強くないから背負ったままでも戦えるよ」
「ご主人さまのご迷惑になりませんか?」
「へーきへーき。ぶっちゃけるとさ、俺が手伝って欲しいんだよね。俺はギルド職員なんだけど、復職したからには定期的に森の様子を確認しなきゃならんのだ。アリシアは高レベルのレンジャーだから、俺よりそういうの得意だろ?」
「分かりました。精一杯頑張ります」
「ありがとう。頼もしいよ」


 別に俺だけでもいいが、家にアリシアを置いたままでは心配だ。
 それにアリシアも寂しいんじゃないだろうか。
 自分のことを役立たずと思ったまま、静かで暗い部屋で過ごすより、出来ることを一緒に考えて見つけて、同じ時間を少しでも増やせば、気持ちもアゲアゲパーティーナイトだと思う。


「そんじゃ、行こっか」
「今からですか!? もう日が暮れる時間ですよ?」
「夜なら人目を気にしなくていいからな。ちゃんと配慮してるのさ」
「そこまで私のことを……でも夜って門が閉まりますよね?」
「ククク……心配するな。すぐに分かる」


 アリシア入りのバッグを背負って門の前までやってきた俺は、遠くから大げさに手を振って、衛兵に近づいていく。
 篝火の明かりがあっても夜は暗く、俺の容姿はオークのユニークと間違われやすい。相手にも心の準備が必要なのだ。


「おーい、俺だよクロノだよ。お仕事ご苦労さん」
「ん? あぁ、ブサイクロノさんか。要件は?」


 ギルド職員として復職したことを話し、リハビリと職務を兼ねて森の見回りをすることを告げる。
 なぜ夜かと聞かれれば、ない左腕をちらりと見せて、少し人目を避けていることを匂わせれば察してくれる。


「こんな姿だし、リハビリのために新人冒険者たちの邪魔をしたくないんだ」
「分かった。気を付けろよ。それと復帰おめでとう。ガイルさんも心配してたぞ」
「ありがとう。日付が変わるまでには戻るよ」


 俺は町の守備隊長であるガイルさんと仲良しなので、その部下である彼らとも顔見知り。牢屋で世話になったこともある。逮捕という名の保護だったが。
 そこにギルド職員という肩書きの合せ技で、大体の要望は通るのだ。


 緊急用の扉から町の外に出て、北の森に入れば、人に見られる心配はない。
 星の淡い光が薄っすらと森の中を照らすだけだ。


「もう出てきていいぞ」
「はい。警戒はお任せください」
「まぁまぁ、肩の力を抜けよ。外は久々だろ? どんな気分だ」
「夜風が気持ちいいです」


 たった一言だったが、その声色は穏やかなものだった。
 それだけでも外に連れ出した価値があるというものだろう。
 まぁ、すぐに不快な空気になるんですけどねぇ。


「そんじゃ、洞窟に入ろっか」
「あっ、はい……」


 気持ちは分かる。洞窟と言っても小規模なものだが、暗いしジメジメした空気はあまり良いものではない。
 動物や魔物の住処になりやすく、それなりに臭いもするしな。


「明かりを出しますね。【ライト】」
「助かる。もう最高」


 アリシアはご機嫌取りだと思ったようだが、俺の言葉は本心だった。
 頼まなくてもスキルを使ってくれるあたり、やっぱりプロだと思う。


「洞窟なら人に見られる可能性はほとんどゼロだ。助けも来ないぞ」
「それは、気楽でいいですね。ここはどんな魔物が居るんですか?」
「んー、初めて来たときは赤龍が居たぞ」
「赤龍ですか!? えっ、今は居ませんよね!?」
「居ないさ。昔の話だ」


 俺がまだ新人だった頃、レイナという自称トレジャーハンターの弔いで赤龍の卵を盗もうとしたことがあった。
 もちろん失敗したし、それが縁でその子供にも襲われたが、みんなで倒したのも懐かしい。
 結果として赤龍一家を根絶やしにしてしまったので、血生臭い縁は途切れている。
 予めシャドーデーモンを先行させて内部を確認したから赤龍が居ないのは確認済みだ。


「今居るとすれば獣か魔物か。大したやつじゃな――」
「上です、ご主人さま!!」
「へっ? 危ねぇぇぇっ」


 天井から落ちてきた大きな水球……スライムを大げさに躱す。


「奇襲とは男の風上にも置けないやつめ。新しい俺の剣のサビとな――」
「【ライトニング】」
「あっ、はい」


 背中越しに放たれた青白い光がスライムを瞬殺した。
 あれ? アリシアって俺より強くね?
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