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アリシア編
漏らしてクロノ死す
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心地よい肉布団に包まれていたのに、ふと寒気を覚えた。
ギュッと抱きつくも体の温もりは失われるばかりで、徐々に目覚めていく。
「んが……あのまま寝ちまったか。おはようアリシア。調子はどうだ?」
「っ……ぐす……ひっく……ひっく……」
俺が気持ち悪いのは分かるが、別に泣かなくてもいい。助けは来ないぞ。
そう言おうとしたとき、下半身がとても冷たいことに気づいた。
ベッドシーツがびしょびしょである。
「まじか……この歳で漏らしちまった……」
「ごべんなさい……ご主人さま゛……っ」
なぜアリシアが謝るのか。
そう思って、ハッとした。
漏らしたのは俺ではなく、アリシアだったのか。
「な、なんてこった……」
「汚じてしまって……ごべんなさ――」
アリシアは俺にのしかかられたままで、抜け出せなかった。
そして漏らした。俺の目の前で、俺に向かって放尿したのだ。
そんな素敵体験を、寝ていたばかりに楽しめなかった俺は――。
「俺は……馬鹿だ……」
『バカには違いない』
(相棒も起こしてくれても良かったじゃん……)
『ボクはキミなんだから、寝てたに決まってるじゃないか。もし仮に起きていても、何も見えなかったよ。そんなことより、彼女を放置したままだけど』
「やべっ。ごめんなアリシア……俺……重かっただろ?」
「私が悪いんです……ごめんなさいごめんなさい……」
すっかり落ち込んでしまっている。
助けるつもりが、心の傷を増やしてしまった気がする。
正直なところ、すべて俺が悪い。
アリシアの体の状態を忘れていたし、配慮が足りていなかった。
誠心誠意の謝罪をするのが筋だが、とても話を聞いてくれそうにない。
奴隷がご主人さまにおしっこをかけた。
理由はどうあれ、世間的には奴隷の失態なのだろう。
だからアリシアは自分を責めてしまっている……。
「……風呂にしよう」
アリシアを抱き上げて、風呂場にやってきた。
シャワーでアリシアの体を洗っているうちに、浴槽に湯が溜まった。
「それじゃお風呂に入るぞ~」
上機嫌な俺と違って、アリシアの表情は険しい。
またしても配慮が足りなかったようだ。
人は浅い水たまりで溺死する。今のアリシアにとっては、恐怖でしかない。
しかし、必要なことを『配慮』として止めるのは逃げだと思う。
「お風呂、怖いか?」
「こ、怖いです……溺れてしまいそうで……」
「一緒に入るし、絶対に放さない。別に信頼しなくていい。諦めて信用しろ」
「わ、分かりました……お願いします……」
アリシアを膝に乗せて湯に浸かる。たったそれだけのことに神経を使う。
少し湯を抜いて浅くしたし、膝を立ててアリシアの体が滑らないようにする。
後ろから抱き締めるように右腕で柔らかな腹を巻き込むと、少しだけアリシアの体から緊張が抜けた気がする。
「ふー、極楽だ。怖いもんじゃないだろ?」
「は、はい」
「……あまり風呂に浸からない習慣だったか?」
「そ、そうですね。いつもはシャワーでした。こうなってからは、体を拭いて貰うことが多かったです」
「そっかそっか。これからは毎日入るし、遠慮するのは諦めて俺に付き合ってくれ」
「ご主人さまはいつもお湯に浸かるんですか?」
「普段はシャワーだ。誰かと入るときだけ、こうしてる」
アリシアは出会ってから今までで一番、饒舌な気がする。
これがお風呂の効果かと思ったが、裸の付き合いなら昨日の夜にガッツリしたし、単純に顔を合わせていないのが大きいか。
自信をなくしたアリシアにとって、視線はストレスになるようだ。
だったら、盗み見ればいいじゃん?
お湯に浮かぶ、アリシアのおっぱいをガン見する。
おや……ちょっと身を縮こまらせたぞ。
流石は高レベルのレンジャー。視線にも敏感なのか。
「今どんな気持ち?」
「鼻息がくすぐったい……です……」
「なるほど。バレてしまっては仕方ない。堂々とおっぱいを揉んでやる」
「あっ……ご主人さま……」
「暴れると危ないぞぉ(ニチャァ)」
「ご、ごめんなさい……」
「謝らんでいいから、寄りかかってくれ」
「し、失礼します……」
アリシアの丸まった背中が、伸びて持たれかかってくる。
出来物ひとつない滑らかな肌を感じながら、浮かんだおっぱいで遊ぶ。
「うはは、ぽよぽよ」
「うぅ……」
「何だ嫌なのか? 止めて下さいって言ってみ?」
「や、止めて下さい……」
「だめーーー。ぽよぽよ」
「う、嘘つき……」
「心外だなぁ。アリシアみたいな美人と風呂に入ってるんだぞ? 止めてくれと言われたくらいで止めるわけないんだよなぁ」
「……………………」
少しおちょくったくらいで黙り込んでしまった。
意外と短気なのだろうか?
遠慮なく顔を覗き込んで見ると、うつむいて悲しそうな顔をしていた。
「そんなに嫌かぁ? 好きな人でも居たのか?」
「違うんです。そうじゃないんです……」
「だったら、何だよ? 独り言だと思って、言ってみ。何を言われようとお前に何かしたりしないぞ」
「美人だって言われたのが……間違いだからです……」
「ふーん? どういうことだ?」
「こんな醜い姿を褒められても嬉しくないです。でも言えないから黙っていました」
アリシアの言うことは間違ってはいない。
だが、裏を返せば――。
「こうなってから、可愛いって言われたことないんだな」
「当たり前じゃないですか……」
「可愛い」
「っ!?」
「世界一、可愛いよ!!」
「ほ、本当に止めて下さいっ」
「可愛いアリシアの頼みでも、それは聞けないなぁ」
「わ、私をからかって楽しいですか……」
「耳まで真っ赤にしちゃって、可愛いねぇ。今まで褒められ慣れてるだろ? 昔がどうとか、今がどうとか細かいことは気にするな」
「こ、細かくないですっ」
ちょっと怒り始めた。いい傾向だ。
やはり人の中身を知るときは、煽るに限る。
感情の揺れ幅で心にもないことを口にしたり、行動に出たりするものだが、頭にまったくないことは絶対に出てこないと俺は思っている。
「よし決めた。俺はアリシアのことを褒め殺す。ついでにセクハラする」
「せめてどっちかにしてください……」
「あ~、可愛い。アリシア可愛いよ。きれいだよ。自信持てって。おじさん面食いだけどさ、太鼓判を押しちゃうね」
囁きながら、首筋や耳の裏に口づけをする。
我ながら何という気持ち悪さだ。
「も、もう許してください……っ」
「じゃあ、ありがとうございますって言ったら、止めるよ」
「うぅ……ありがとう……ございます……」
その横顔は、気恥ずかしそうに俯いていた。
やはり人間というものは、褒められたら嬉しいに決まってるよな。
でも恥ずかしいから謙遜したり、慌てたりしてしまうものだ。
これから毎日アリシアを褒めようぜ。
相棒と誓った俺は、身をよじって不自然なまでに顔を背けてくるアリシアに笑いつつ、上機嫌で風呂を出た。
ギュッと抱きつくも体の温もりは失われるばかりで、徐々に目覚めていく。
「んが……あのまま寝ちまったか。おはようアリシア。調子はどうだ?」
「っ……ぐす……ひっく……ひっく……」
俺が気持ち悪いのは分かるが、別に泣かなくてもいい。助けは来ないぞ。
そう言おうとしたとき、下半身がとても冷たいことに気づいた。
ベッドシーツがびしょびしょである。
「まじか……この歳で漏らしちまった……」
「ごべんなさい……ご主人さま゛……っ」
なぜアリシアが謝るのか。
そう思って、ハッとした。
漏らしたのは俺ではなく、アリシアだったのか。
「な、なんてこった……」
「汚じてしまって……ごべんなさ――」
アリシアは俺にのしかかられたままで、抜け出せなかった。
そして漏らした。俺の目の前で、俺に向かって放尿したのだ。
そんな素敵体験を、寝ていたばかりに楽しめなかった俺は――。
「俺は……馬鹿だ……」
『バカには違いない』
(相棒も起こしてくれても良かったじゃん……)
『ボクはキミなんだから、寝てたに決まってるじゃないか。もし仮に起きていても、何も見えなかったよ。そんなことより、彼女を放置したままだけど』
「やべっ。ごめんなアリシア……俺……重かっただろ?」
「私が悪いんです……ごめんなさいごめんなさい……」
すっかり落ち込んでしまっている。
助けるつもりが、心の傷を増やしてしまった気がする。
正直なところ、すべて俺が悪い。
アリシアの体の状態を忘れていたし、配慮が足りていなかった。
誠心誠意の謝罪をするのが筋だが、とても話を聞いてくれそうにない。
奴隷がご主人さまにおしっこをかけた。
理由はどうあれ、世間的には奴隷の失態なのだろう。
だからアリシアは自分を責めてしまっている……。
「……風呂にしよう」
アリシアを抱き上げて、風呂場にやってきた。
シャワーでアリシアの体を洗っているうちに、浴槽に湯が溜まった。
「それじゃお風呂に入るぞ~」
上機嫌な俺と違って、アリシアの表情は険しい。
またしても配慮が足りなかったようだ。
人は浅い水たまりで溺死する。今のアリシアにとっては、恐怖でしかない。
しかし、必要なことを『配慮』として止めるのは逃げだと思う。
「お風呂、怖いか?」
「こ、怖いです……溺れてしまいそうで……」
「一緒に入るし、絶対に放さない。別に信頼しなくていい。諦めて信用しろ」
「わ、分かりました……お願いします……」
アリシアを膝に乗せて湯に浸かる。たったそれだけのことに神経を使う。
少し湯を抜いて浅くしたし、膝を立ててアリシアの体が滑らないようにする。
後ろから抱き締めるように右腕で柔らかな腹を巻き込むと、少しだけアリシアの体から緊張が抜けた気がする。
「ふー、極楽だ。怖いもんじゃないだろ?」
「は、はい」
「……あまり風呂に浸からない習慣だったか?」
「そ、そうですね。いつもはシャワーでした。こうなってからは、体を拭いて貰うことが多かったです」
「そっかそっか。これからは毎日入るし、遠慮するのは諦めて俺に付き合ってくれ」
「ご主人さまはいつもお湯に浸かるんですか?」
「普段はシャワーだ。誰かと入るときだけ、こうしてる」
アリシアは出会ってから今までで一番、饒舌な気がする。
これがお風呂の効果かと思ったが、裸の付き合いなら昨日の夜にガッツリしたし、単純に顔を合わせていないのが大きいか。
自信をなくしたアリシアにとって、視線はストレスになるようだ。
だったら、盗み見ればいいじゃん?
お湯に浮かぶ、アリシアのおっぱいをガン見する。
おや……ちょっと身を縮こまらせたぞ。
流石は高レベルのレンジャー。視線にも敏感なのか。
「今どんな気持ち?」
「鼻息がくすぐったい……です……」
「なるほど。バレてしまっては仕方ない。堂々とおっぱいを揉んでやる」
「あっ……ご主人さま……」
「暴れると危ないぞぉ(ニチャァ)」
「ご、ごめんなさい……」
「謝らんでいいから、寄りかかってくれ」
「し、失礼します……」
アリシアの丸まった背中が、伸びて持たれかかってくる。
出来物ひとつない滑らかな肌を感じながら、浮かんだおっぱいで遊ぶ。
「うはは、ぽよぽよ」
「うぅ……」
「何だ嫌なのか? 止めて下さいって言ってみ?」
「や、止めて下さい……」
「だめーーー。ぽよぽよ」
「う、嘘つき……」
「心外だなぁ。アリシアみたいな美人と風呂に入ってるんだぞ? 止めてくれと言われたくらいで止めるわけないんだよなぁ」
「……………………」
少しおちょくったくらいで黙り込んでしまった。
意外と短気なのだろうか?
遠慮なく顔を覗き込んで見ると、うつむいて悲しそうな顔をしていた。
「そんなに嫌かぁ? 好きな人でも居たのか?」
「違うんです。そうじゃないんです……」
「だったら、何だよ? 独り言だと思って、言ってみ。何を言われようとお前に何かしたりしないぞ」
「美人だって言われたのが……間違いだからです……」
「ふーん? どういうことだ?」
「こんな醜い姿を褒められても嬉しくないです。でも言えないから黙っていました」
アリシアの言うことは間違ってはいない。
だが、裏を返せば――。
「こうなってから、可愛いって言われたことないんだな」
「当たり前じゃないですか……」
「可愛い」
「っ!?」
「世界一、可愛いよ!!」
「ほ、本当に止めて下さいっ」
「可愛いアリシアの頼みでも、それは聞けないなぁ」
「わ、私をからかって楽しいですか……」
「耳まで真っ赤にしちゃって、可愛いねぇ。今まで褒められ慣れてるだろ? 昔がどうとか、今がどうとか細かいことは気にするな」
「こ、細かくないですっ」
ちょっと怒り始めた。いい傾向だ。
やはり人の中身を知るときは、煽るに限る。
感情の揺れ幅で心にもないことを口にしたり、行動に出たりするものだが、頭にまったくないことは絶対に出てこないと俺は思っている。
「よし決めた。俺はアリシアのことを褒め殺す。ついでにセクハラする」
「せめてどっちかにしてください……」
「あ~、可愛い。アリシア可愛いよ。きれいだよ。自信持てって。おじさん面食いだけどさ、太鼓判を押しちゃうね」
囁きながら、首筋や耳の裏に口づけをする。
我ながら何という気持ち悪さだ。
「も、もう許してください……っ」
「じゃあ、ありがとうございますって言ったら、止めるよ」
「うぅ……ありがとう……ございます……」
その横顔は、気恥ずかしそうに俯いていた。
やはり人間というものは、褒められたら嬉しいに決まってるよな。
でも恥ずかしいから謙遜したり、慌てたりしてしまうものだ。
これから毎日アリシアを褒めようぜ。
相棒と誓った俺は、身をよじって不自然なまでに顔を背けてくるアリシアに笑いつつ、上機嫌で風呂を出た。
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