ブサイクは祝福に含まれますか? ~テイマーの神様に魔法使いにしてもらった代償~

さむお

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アリシア編

再会

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 クソ迷惑な幻聴に導かれ、たどり着いたのは町の東区だった。
 倉庫が建ち並ぶ場所であり、物流に関わらない人にはほとんど縁がない場所だということは知っている。
 そんな飾り気のない場所で、館のような建物があり、逆に存在感があるなぁと見上げていると……。


――あの子を……お願い……。


 それっきり、幻聴は聞こえなくなった。もっとも、帰ろうとしたらまた騒ぐんだろうが。
 それでも一度くらい帰ろうかと真剣に悩んでいると、館からメイドさんがやってきて、中に案内された。


 だだっ広いホールを眺めていると、仕立ての良いスーツを着込んだ初老の男性が、実に礼儀正しく出迎えてくれた。


「ようこそお越しくださいました。ご新規の方で……おや? もしやブサイクロノ様でございますか?」
「そうだが……会ったことはないよな?」
「失礼。お客様のお噂は聞こえが良いものでございますから。正しくお名前を呼べないことも聞いておりますので、今後はお客様と呼ばせていただきます」


 初対面にしては実に理性的な対応である。好感が持てますねぇ。


「さて、本日はどのような奴隷をお探しでしょうか? 当商会では一流の奴隷を取り揃えております。必ずやお客様のお役に立つでしょう」
「ちょっと待て。ここは奴隷を売ってるのか?」
「販売・レンタルのどちらも可能でございます」
「そういうことじゃないんだが……」


 幻聴に導かれた先は、奴隷商の館だったのか。
 まさか不当に扱われているどこぞの誰かを助けろって話じゃないだろうな。
 ぶっちゃけ、この商人のこと気に入っちゃったんだよなぁ。

 中身が善人であれ悪人であれ、ここまで礼儀正しいわけで、俺を発狂まで追い込んだファッキン幻聴とどっちが好感が持てるか言うまでもない。
 だが、俺の安眠のために、この礼儀正しいご老人に泣いて貰うこともあるかもしれない。


「容姿・性格・人種など、ご希望はございますか?」
「特にないが、色々と見せてくれると助かる」


 主人が軽く手を叩くと、メイドがぞろぞろとやってくる。いずれも成人した女性であり、整列した順に簡単な挨拶をされた。
 俺と目が合っても悲鳴どころか嫌な顔ひとつしない。相当な教育を受けているな。


「彼女たちは借金奴隷でして、当商会で教育を受けた自慢のメイドたちでございます。性行為も可能ですぞ」
「なるほど。女には困ってない」
「身の回りのお世話についても太鼓判を押させていただきます。この若さにして、メイド検定2級から準1級の資格を取得しております」


 メイド検定とかあるんだ……。
 詳しく聞きたい気持ちもあるが、今はそれどころではない。

 幻聴は助けろと脅迫してきたわけで、目の前の彼女たちが困っている様子が微塵もないのである。
 つまり、本命は別に居るわけだ。


「他にも見たいな」
「お気に召しませんでしたか? それとも奴隷がお嫌いなのでしょうか?」
「いや、まぁ、俺はへそ曲がりだからさ。直感でビビっときたやつにしたいな」
「かしこまりました。では案内させていただきます」


 主人に連れられて別室に入る直前……後ろのメイドたちから、安堵の吐息が微かに聞こえた。ようやく人間味を感じたところで、おさらばである。


「ここの奴隷はまだ教育中ですので、無作法があるかもしれませんがご了承下さい」
「なぁに、俺よりよほど礼儀正しいだろうよ」
「はっは、一流のお方はジョークも一流なようで」


 館の外観の通り、ここにはいくつもの部屋がある。
 奴隷となった彼女たちは与えられた自室で勉学や習い事に勤しんでいるようで、暮らしの質は町の平民より良い気がする。


 主人はノックもせず部屋に入る。すると彼女たちは手を止め、立ち上がり頭を下げたままだ。


「やっぱり俺より礼儀正しいな」
「もったいないお言葉ですな。当商会は主に富裕層向けですので、ご想像していたものとは違うのでしょう」
「なるほど。一流の商会だから為せる技か」
「光栄です。どの奴隷もお客様の生活をより良いものにしてくれると自負しておりますが……」


 気に入った奴隷は居るか?
 その問いには首を横に振るしかない。
 幻聴の元凶となりそうな奴隷が見つからないのだ。


「困りましたな。当商会の奴隷はすべてお見せしたのですが……」
「……あの部屋は?」
「いえ、あそこは、お客様のご希望には沿わないかと」


 ホールに戻ろうとする主人に、まだ入ってない部屋を指さして尋ねると、口を開くまでに若干の間があった。


「見せてもらえないか?」
「……なるほど。そういうことでしたか」


 どういうことだろう。勝手に納得されても意味が分からない。
 だが、ここは知ったかぶりで力強く頷いておいた。


「お客様にこの先の部屋を案内することは可能でございます。しかしながら、おすすめはしませんな。痛ましい姿をしておりますので……」
「頼む。きっと俺は、この先に用がある。そんな気がするんだ」
「かしこまりました。どうか、決して、取り乱すことのないようにお願い致します」


 主人は重々しく頭を下げ、扉をゆっくりと開いた。
 椅子に座っていたメイドが慌てて立ち上がり、頭を下げる。
 だが、俺は彼女の存在を忘れ、部屋の隅に転がったものを見て、目を見開いた。


 何かが、這い寄ってくる。
 透き通るような金の長髪から覗く長い耳……。
 俺は見覚えがある。


 俺がギルド職員の試験として訪れた魔術師の塔で、フロントデーモンと遭遇し、討伐の際に関わったCランクパーティー『新緑の翼』のエルフ。
 魔術と弓に長け、溢れんばかりの輝きを放っていたアリシアという女の子だ。

 その再会は、良いものではなかった。


「何だこれは……何なんだこれは!!」


 俺が見たのは、四肢を失い、芋虫のように這い寄ってくるアリシアの姿だった。
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