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自由編

男の花道

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 宴から一夜明け、嬢たちの体は悲鳴を上げていた。大勢の客を相手に見事に立ち回った彼女たちのガッツに免じて、臨時休業となった。


 今日は店長として過ごす最後の日なのだが、花形店の発表があるので、俺たちはロックの帰りを待っていた。


「戻りやした! さぁ、アニキ……これを開けてくだせぇ」

「いや、お前が開け。男の花道とやらで送り出してくれるんだろう?」

「花形店……ね、なれるのかしら?」

「頑張ったから~、だいじょ~ぶ!」

「シベリアよりキツかったわね。これで負けたらやってられないわよ」

「全身だるおも」

「そんじゃ、開けますぜ!!」


 嬢たちは昨日のデスマーチに疲れた顔をしながらも、どこか浮足立っている。それは俺たちも同じだろう。やるだけのことはやったんだ。その結果は……。


「……くそぉ! 2位じゃねぇか!」


 結果は2位だった。1位は、ロックが言っていた高級娼館・デアフロラ。売上はうちのほぼ倍だった。


「2倍も差があるなんて……」

「頑張ったのに~、悔しい~!」

「見間違いじゃ、ないわよね……」

「まっ、しゃーない」


 肩を落とす嬢たちにかける言葉はない。言わずとも察しただろう。これが勝負の世界の残酷さだ。


 ただ、肉薄していたはずの数字がここまで開くとなると、向こう側が俺たちを競争相手と見なし、本気のブーストをかけてきたのだろう。


 今のままでは負ける……絶対的な王者に冷や汗をかかせただけでも、上出来だと思う。


「アニキ……すまねぇ! 俺たちが不甲斐ないばかりに……っ」

「……まったくだ。お前らは本当に期待はずれだった」

「!! アニキ!?」

「用事も済んだし、俺は帰る。見送りもいらん」

「待ってくだせぇ! アニキにそこまでさせるわけにはいかねぇんで!」

「……何の話だ?」

「俺はっ、泣き縋るつもりだった! アニキにずっと店長で居て欲しかった! 今だってそうしたいくらいで。でも、それじゃダメなんだって気付かされやした」

「……長くなるなら帰るが?」

「俺じゃアニキには敵わねぇ。アニキが心にもないことを言って、こいつらを落胆させて、俺を頼らせようってお考えでしょうが、こいつらも分かってやす」


 見破られたか。ロックのやつめ、生意気だぞ。


「俺はもう充分良くして貰いやした。だから、最後にっ、こいつらに何か……何でもいいんでっ、声をかけてやっちゃくれやせんか!」


 今更話すことなど……まぁいい。最後にちょっとくらい話をするか。


「マリー。お前の悩みは、吹っ切れたか?」

「えぇ、おかげ様で。恥ずかしいところを多くの方に見られてしまったけれど、だからこそ抱え込まなくて済むのね。わたくしの新しい扉も開けたことですし」

「女王様か。俺は良いと思うぞ。困ったことがあれば、周りに相談するといい。仲間たちと仲良くな」


 お前は母親のようにはならない……そう言ってあげたいが、プライバシーの問題でここでは話せない。だが、俺が伝えたかったことは理解してくれたらしい。元々、学があるやつだし、多くを語らずとも良い。


「ドゥーエちゃん。君がこの調子で頑張れば、この店より良い条件で雇ってくれる店があるだろう。いや、もう既に声がかかっているはずだ。この店と契約が切れたら、行くといい」

「……うん。さっきの1位のお店から、誘われてるよ。でもでも、みんなと別れたくない。友達だもん」

「友達なら、休みの予定を合わせてまた会えばいい。手繰り寄せたチャンスを逃すのはもったいない。残りの9ヶ月、じっくり考えればいいさ」

「うん! あとあと、外で店長に会ったら話しかけてもいい~?」

「もちろんダメだ。おじさんはこう見えてギルド職員でね。しかも凄く評判が悪い。積み上げた功績が崩れるのは一瞬だ」

「そっか~。断られちゃったら仕方がないよね~。またね、店長っ!」


 話を聞いてるのかは知らないが、ある程度の区切りにはなったか。俺の顔は、【ブサイク】の呪いのせいで客商売と相性が悪いからな。相手に俺を連想させてはドゥーエちゃんも困るだろう。


「ガラナ。お前は店に残れ。ロックなら守ってくれるだろう。ちょっと条件が良いからって移籍したいなら止めないが……その時は、八重歯くらいは拾ってやるよ」

「こ、怖いこと言わないでよ! でもそんな気がするわ……」

「だからと言って、ロックに舐めた態度を取りすぎると、俺が入れ知恵したお仕置きオプが解禁される。程々に調子に乗ってくれ」

「ひぃ! 余計なことしないでよぉ! お礼の一言くらい言ってあげるつもりだったのに……もう店長禁止! クビよ!」


 ガラナのお仕置きオプが解禁されたら、俺もちょっと行ってみたい。ある意味で、一番魅力的な子だなぁ。


「アーネちゃん……は、何も言うことがないなぁ」

「なんかあるっしょ。うち店長のこと、まぁまぁ気に入ってたんだけど……ないわぁ」

「だってお前、器用だからなぁ。精神年齢もこの中でぶっちぎりだし、副店長になってくれると、俺も安心だし、ロックも空回りしなくて済む。考えておいてくれ」

「えぇ……うち、姉御って呼ばれたくないし」

「そこはほら、姉御の特権で、姉御って呼ばせなければいいんだ」


 一緒じゃん……アーネのぼやきは無視した。


「アニキ! 最後にひとつお願いがありやす! どうか、この店の名前を、アニキに名付けて貰いてぇ!!」


 名前、か。俺はネーミングセンスが壊滅的なんだよなぁ。だっておじさんだし……うーん。


「エンジェル倶楽部……で、どうだ?」

「……だっさ。もうちょっとましなやつないわけ?」

「あはは、ちょっと古いかも~」

「ふたりとも、真実を告げれば良いというものではなくってよ」


 凄く不評だった。我ながらおっさん臭いと思うけど、頭に浮かんだのがそれしかなかった。だっておっさんだし……。


「まーまー、うちらが相手にする客って、おっさんも多いし。おっさんが付けた名前のがしっくりくるかも知れないじゃん」


 さすがアーネ。おじさんも姉御と呼ばせていただきてぇ。


「おっさんによる、おっさんのための、お店ってわけ?」

「ガラナ……それはお店の趣旨がまったく違うものになりますわよ……」

「てめぇら、アニキが考えてくれた名前にケチ付けすぎだ! これから俺らは、エンジェル倶楽部の看板のもと、励ませていただきやす! いずれこの名を、天下に轟かせてみせやす!!」


 それは、何とも……世も末だなぁ。


「それじゃ、俺は店長を辞めさせて貰う……頑張れよ」


 ロックと嬢たち。大勢の舎弟くんたちに見送られ、俺は店を出た……。



 家に帰るなり、カークとネロに出迎えられる。こいつらは何故か俺の肩に止まるのが挨拶だと思っている。着替えの邪魔なんだよなぁ……。


「まぁいいさ。いい子でお留守番できたようだな」


 今日の俺は機嫌がいい。その理由は、煩わしい環境が今日で終わるからだ。鼻歌交じりに寝室に移動し、ベッドに寝転がったら、カっと目を開く!


「くくく……お前らもよく見ておけ。この無いはずの左腕が、元通りになる瞬間をなぁ!」


 俺が店長として過ごした3ヶ月は、副業ではないし、慈善事業でもない。アラクネに切られた左腕を取り戻すため……自分のためだった。


 俺は、【エクスヒール】を習得している。神の癒やしと言われ、あらゆる怪我・病気を治す。失われた部位であってもだ。


 ただ、習得しているが、使用できなかった。エクスヒールの消費MPは2000。奇跡的にレベルも上がり、そこそこ強くなったくらいじゃ最大MPが足りないから使えないままだった。


 その不足を補ったのが、【吸魔】だ。絶頂させた相手に触れているとき、確率でMPを1吸収する。
この効果で得たMPは、最大MPを超えて蓄えることができる。
同時に、詳しい条件は未だ不明だが、吸った相手のレベルを下げることがある。


 このクソスキルは、ナイトメア召喚のレベルリセット効果でも消せない。俺にとって忌まわしいスキルだ。それがまさか、俺を救うことになるとは夢にも思わなかった。


 足りないMPを誰から吸うのかが問題だった。俺と関係を持つ女の子たちには頼れない。命が羽のように軽いこの物騒な世界で、レベルが下がるのは致命傷になる。


 別の生贄を探していたとき、たまたまロックと関わり、店長になったのだ。


「店長として過ごした3ヶ月……くっ、今思い出しても辛かったぜ……」


 一般人はレベルが低い。仮に【吸魔】の副作用でレベルが下がっても、日常生活ですぐ上がる。魔物が蔓延る街の外に出ない彼女たちに危険が及ぶこともない。


 その見返りとして、俺は持てる性知識を授けた。言わばWIN-WINの関係というわけだ。


 俺がいかに興奮しようとも、本番行為より嬢の性感帯開発を優先したのもそのためだ。クンニを選んだのは趣味だが。


「かー(早く見たい)」

「ほー(日が暮れたら、スキルの光で気づかれるかも知れないわ)」


 ナイトメア翻訳によるペットたちの催促で正気に戻った俺は、さっそく使うことにした。


 さらば、隻腕のクロノ。おかえり、双腕のクロノ!!


「【エクスヒール】」


 失った左腕を天に掲げ、スキル名を叫んで待ってみたものの……。


「……あれ? 何も起こらない。【エクスヒール】」


 その後も何度か叫んでみたが、やはりスキルが発動しなかった。嫌な予感がして、目を閉じる。瞼の裏に映し出されたエクスヒールの文字は、灰色のままだった……。


「……嘘だろ。まじで?」

『MPが足りないみたいだね……』


 予想が外れた俺は、なんかもう色々と死んだ……。




あとがき

永らく伸び悩んでいたブサ祝ですが、書きたいエロを大体書いて気持ちが切れたので、これで終わります。
ほぼ2年の連載を続けられたのも、すべてブックマークしてくださった方々のおかげです。
本当にありがとうございました。
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