207 / 230
自由編
一流の条件
しおりを挟む
怒りのシベリア送り以降、連日の繁盛にも関わらず遅刻者は出ていない。またあれを期待する客も少なくなかったが、一夜の夢とでも思って欲しいものだ。
あれだけ過激なことをしたのは、ちゃんと理由がある。更に店を繁盛させるには増員が必要だ。非認可娼婦の中で光る原石たちを、この店で正式採用するべく準備を進めていた。
そんな中でマリーたちの気が緩んでいた。それでは店を任せられない。先輩として後輩の見本にもならない。だから一度だけ、シベリア送りにしたのだ。ちなみに、もう半分は趣味だった。
「ふたりくらい採用するか。ロックが気になる子は?」
「ひとり追加で。ほっとけねぇ境遇なもんで」
俺は属性で選び、ロックは境遇で選ぶ。俺とロック、ダブル店長体制でやっているうちはいいが、こいつひとりに戻ると、また廃れそうである。それを止められるとしたら、やはりマリーたちだろう。
そういう意味でも教育に力を入れていたのだが……。
「ドゥーエちゃん出勤したよ~!」
手を上げて気さくに挨拶するドゥーエ。今日もおっぱいがデカいぜ。
「はい、おはよう。今日も頑張ってくれ。何か変わったことは?」
「引き抜きされたよ~。でもでも、ちゃんと断ったよ~。ドゥーエちゃんには店長が居るし、契約もあるから~って!」
「アニキの言う通りになりやしたね」
俺が常に危惧していたのは、他店からの引き抜き行為である。当店でくすぶっていた嬢たちは、いずれも磨けば光る素材だった。せっかく育てた人材を引き抜かれまいと、教育の条件として1年間の移籍禁止で双方合意している。
「ドゥーエちゃん残るよ! この店に居るよ! 嬉しい? ねぇ嬉しい~?」
「お前はうちの花形だからな。居なくなられちゃ困るさ」
「今日も1位になるから、またご褒美エッチしてね~!」
シベリア送り以来、ドゥーエが近い。距離が近い。かなり詰め寄ってくる。嬢たちの性感帯開発は今も続けているが、ドゥーエだけは本番を求めてくるようになった。
非効率的という理由で断っていたが、連日の花形により俺が無視できなくなった。今ではドゥーエが花形の日は、ご褒美という名目でスタンダードなプレイをしている。
「あの男嫌いのドゥーエが、変われば変わるもんで。さすがアニキ! お願いですから、アニキの女として引き抜かないでくだせぇ」
「そんな重要な問題を知ってて隠してやがったな。おこ、だぞ」
「いやぁ、俺も半信半疑だったもんで。女好きって噂は聞いてやしたが、経緯が女の同業者のやっかみで追い出されてやすし、何が真実だか。それと、正直に話したら、クビにされちまうかと思ってやして……ははは」
「裏を取るのは大事だ。多めに見てやる。あと、ドゥーエは契約が切れたら引き止めはムリだぞ。分かってるか?」
「もちろんで。それもまた、あいつのためってもんでさ。だからこその新人育成……ですよね?」
「その通りだ。その調子で頼むぞ」
それからしばらくして、マリーがやってきた。場違いに感じるオーラは健在だな。
「ごきげんよう。近頃はわたくしの魅力に気づいた輩が多いけれど、契約は守りますわ。それでは、また」
「おう……何だあいつ、近頃はツンツンしてるな」
「確かに、少し様子が変で。あとでそれとなく話をしてみやす」
人の心に踏み込む行為は、すべてロックに任せている。何だかんだ仲良しだからな。俺の出番がないことを祈るばかりだ。
「ガラナ様のご出勤よ! 聞いてよ店長! 今日、めっちゃ引き抜きされたわ!」
「ほーん、良かったじゃん。契約破るなよ。本物の地獄を見せるぞ」
「あんなのこっちから願い下げよ!!」
「何だどうした? お前の性格なら、飛び跳ねて喜びそうなもんだが」
「SM関係の店だったのよ! しかも全部よ!? この美尻が爆発しちゃうわ!」
「お前は契約が切れても、この店に居たほうがいいな。ロックしか守ってくれないぞ……」
「あたしもそう思った! だからロック副店長に、このアイスあげる! それじゃあね! 今日こそ花形取るわよーっ!」
「食べかけじゃねーか! 新品をよこしやがれ!」
ガラナのメスガキ属性は、お叱りの翌日には復活してるからな。良くも悪くも懲りない。それがまた、メスガキ感を加速させ、物好きから人気がある。あとガラナと同年代の、若いやつからも地味に人気だ。
「そう怒るな。人によっては、新品より価値がある」
「えぇ……物好きもいたもんで……」
「んー、ガラナ限定オプション追加するか。アイス一緒に食べるオプ」
「甘やかしすぎじゃないですかい?」
「アイスって腐らないからな。当たれば儲けもんだ。甘やかすか決めるのは客だし、オプションは自由に攻めていこう」
「アニキがそう言うのなら……もし、あいつにお灸を据えるとしたら、どうすりゃいいんで?」
「その時は、お叱りオプも解禁しろ。スライム浣腸だ。サモンされたやつな。ピュアスライムは危ないから、使ったら殺すぞ。もし客がこっそり持ち込んだら、ボコって裏に捨てとけ」
「がってんで。舎弟にサモナー居るんで、それとなく声をかけておきやす。スライムくらいなら、アニキの力を借りずとも、便所に居るんで」
生意気で可愛くないけどほっとけない。それがまた可愛い。ときに優しく、ときに泣かせたい。それもまた、メスガキの魅力だろう。他店なら腹パンルートだな。
「最後はアーネか。いつもより遅いが……」
「おはざーす。はぁ、もう、疲れた」
「引き抜きは売れっ子になった証拠だ。我慢しろ」
「いやいや、違くて。近頃、客にデートに誘われるんよ。うちって出張しないっしょ?」
「しない。いざというとき、お前らを守れない。あまり酷いなら俺かロックに相談しろ。自由恋愛なら、こっそりやれ。舎弟とも仲良しだし、こっそり守って貰ってもいいが」
「まぁ、今の所は話が通じる男だけだからいいかな」
「優しいのは結構だが、判断を誤るなよ。店としては、お前が花形になるべく頑張ってくれるためなら努力は惜しまない」
「あざっす。何かあったら、そんときはよろしく」
アーネには、熱心な客が付いている。ほとんどが同年代の男だ。行為そっちのけで、恋愛相談や人生相談をされている。男たらしと言うよりは、聞き上手が光っている。もちろん、最後にはヤる。それがプロのプライドだ。
こっそり覗いたときは、客が気になる女の子を落とせるように、デートプランを練っていた。褒められたことではないが、ロックとも相談し、今のスタイルを認めることとなった。
アーネを指名する客は、長時間の会話を望む。割高になっても延長を望む客も多いため、店に貢献していると判断したのだ。もはやセックスが出来るひとりキャバクラだな。最後にはちゃんとヤるアーネのプライドが、延長の秘訣かな。
「アーネは残りやすかねぇ」
「分からん。あの手のタイプは、実は器用だ。力の抜き方を分かっている。地位よりも厄介事を嫌う調和型……逆に言えば、お前が頼み倒せば流されるはずだ。その時は、アーネに副店長をさせるといい」
「押しに弱いのは何となく分かりやしたが、副店長ですかい? 断られそうなもんですが……」
「無駄を嫌うんだよ。面倒だから。それが結果的に、効率を良くするはずだ。俺が抜けて、お前の我が通せるのも最初だけ。長期を見越せば、誰かの意見は必ず必要なんだ。それを言える立場の人間を、ひとり置いておけ」
「うぅ、アニキ……ずっと、この店に居てくだせぇ!」
「やかましい。俺にも都合がある……おい、ロック。ちょっと外の様子を見てこい。客の入りが悪い」
ロックがレンジャーの舎弟たちと店を出る。それを見送って、俺は腕を組んで唸っていた。
俺が新店長になって、もう2ヶ月か。店の知名度は高まり、今では屈指の人気店だ。回転率を重視していても、行列が起こるほど。常連客だって大勢いる。
その行列に目をつけた飲食店が、小さな出店で稼ぐ。ヘイト管理のために、協力体制という名目で持ちつ持たれつやっている。
我ながら、上手くやっている。その蚊帳の外に居る同業者は、面白くないだろうが――。
「アニキ! 大変で! 同業者が、うちのサービスを意識させるのぼり旗を出してやす。手コキ・口技! それも、一斉に!!」
「……来たか。第二ラウンドの始まりだ」
「俺たちが必死に考えたサービスを、盗もうなんざ筋が通らねぇ! 俺、話付けてきやす――」
「このバカ野郎がぁぁぁ!」
「ぐぅっ、はぁぁぁ!? アニキ、何で殴るんで!?」
「これは世界中の男を代表して振り上げた拳だ……性行為は、お前が考えたのか?」
「!!」
「誰かに見聞きしたものだろ。難癖を付けたところで、筋が通らない。お前も店長なら、ドンと構えておけばいいんだよ」
「アニキは優しすぎやす! 何もしなきゃ、つけあがるばかりですぜ!? この商売、舐められちまったらお終いなんでさぁ!」
「お前は大事なことを見落としている。俺たちの店は、誰を相手にやってるんだ? 客商売だろうがっ!!」
「だ、だったら尚更ってもんで! 他店のまがい物のサービスに騙されちまえば、それこそ客のためにならねぇ!!」
「それが分かっているなら、問題ない。本物は残り、偽物は淘汰される」
「それでもっ、我慢ならねぇんでさぁ!! アニキと、嬢たち、舎弟のみんなで磨き上げてきた誇りで! それを汚されたとあっちゃぁ、黙ってられやせん!」
ふむ、言うようになったじゃないか。ロックのそういうところは、嫌いじゃない。しかし、まだまだひよっこだ。同時に、俺も熱くなっていた。少し頭を冷やそう。
「お前は良い店長になろうと、必死で努力している。だが、今は忘れろ。ひとりの男として、考えるんだ」
「ひとりの、男……」
「いいか、ロック。ち○ぽをま○こに突っ込めばセックスだ。初めはそれでいい。だが、慣れていくうちに物足りなくなる。別の何かが欲しくなる。それが性癖ってもんだ……分かるか?」
「うす。分かりやす!」
「世界が主神アルフレイア様に創造されてから何億年。人間が生まれてまた何億年……この途方も無い時間のなかで、人と性行為は、手を取り合いながら進化してきた」
「ご、ごくり……」
「人の数だけ性癖がある。大まかにジャンル分けしようとも、その下には、無数に枝分かれしている……性癖は、未来だ。可能性なんだ」
「べ、勉強になりやす!」
「お前の言う通り、同業者はうちの人気に嫉妬して、サービスをパクったのかもしれん。だが、客にとっては関係がない。むしろ、喜ばしいことだと思う人も多いだろう」
「な、何故なんで!? 劣化サービスを受けるかもしれないんですぜ!?」
「お前の言う通り、まがい物の劣化サービスだろう。だが、大局を見ろ。俺たちがどん底からここまで上がってきたように、彼らもまた、成長する。同時に、俺たちの苦労を知るだろう。そうしてひとつ、良い店が増える」
俺は贅沢だ。客は贅沢だ。最高のサービスを、お求めやすい価格で、いつどこでも受けれる。それが何よりの望みである。
「うちじゃ捌けないから、見逃せってことですかい……?」
「違う。同業者は敵ではなく、ライバルだ。互いに競い合い、高め合う。そうやって、少しずつ洗練されたサービスが生まれる。その一方で、別の道を歩む友が、新たなサービスを思いつく」
「文句を言う暇があるなら、自分を磨けと、そう仰るんで!?」
「少し違うな。うちの店は最高だ……そう言うのは簡単だ。実際に人気店だしな。でも、お山の大将に過ぎない。どうせならもっとデカい夢を持とうぜ」
「デカい夢……?」
「この娼館ゾーンを、国で一番のすけべエリアにしよう。いや、世界屈指のすけべエリアにする……その中で、うちの店は最高だ! そう言えたなら、凄く気持ちがいいと思わんか?」
「アニキ……かっけぇ! かっけぇよぉ!」
男泣きするロック。自分の地位に固執する小さな男は死んだ。今なら、純粋だったあの頃の心を取り戻しているに違いない。
「今なら分かるんじゃないか? パクった店も、今そこに並んでいる客も、あの頃のロックと同じだってことにな」
「……分かりやす。現状を変えたくても、方法が分からねぇ。でも立ち止まれねぇから、もがき続けた……あの頃の俺でさぁ!!」
「分かってくれたか。見逃すのは、勝者の余裕からではない。先駆者だけが知る成功に至る苦悩と、この2ヶ月というアドバンテージがあるからだ! それを活かすも殺すもお前次第だ」
あれだけ過激なことをしたのは、ちゃんと理由がある。更に店を繁盛させるには増員が必要だ。非認可娼婦の中で光る原石たちを、この店で正式採用するべく準備を進めていた。
そんな中でマリーたちの気が緩んでいた。それでは店を任せられない。先輩として後輩の見本にもならない。だから一度だけ、シベリア送りにしたのだ。ちなみに、もう半分は趣味だった。
「ふたりくらい採用するか。ロックが気になる子は?」
「ひとり追加で。ほっとけねぇ境遇なもんで」
俺は属性で選び、ロックは境遇で選ぶ。俺とロック、ダブル店長体制でやっているうちはいいが、こいつひとりに戻ると、また廃れそうである。それを止められるとしたら、やはりマリーたちだろう。
そういう意味でも教育に力を入れていたのだが……。
「ドゥーエちゃん出勤したよ~!」
手を上げて気さくに挨拶するドゥーエ。今日もおっぱいがデカいぜ。
「はい、おはよう。今日も頑張ってくれ。何か変わったことは?」
「引き抜きされたよ~。でもでも、ちゃんと断ったよ~。ドゥーエちゃんには店長が居るし、契約もあるから~って!」
「アニキの言う通りになりやしたね」
俺が常に危惧していたのは、他店からの引き抜き行為である。当店でくすぶっていた嬢たちは、いずれも磨けば光る素材だった。せっかく育てた人材を引き抜かれまいと、教育の条件として1年間の移籍禁止で双方合意している。
「ドゥーエちゃん残るよ! この店に居るよ! 嬉しい? ねぇ嬉しい~?」
「お前はうちの花形だからな。居なくなられちゃ困るさ」
「今日も1位になるから、またご褒美エッチしてね~!」
シベリア送り以来、ドゥーエが近い。距離が近い。かなり詰め寄ってくる。嬢たちの性感帯開発は今も続けているが、ドゥーエだけは本番を求めてくるようになった。
非効率的という理由で断っていたが、連日の花形により俺が無視できなくなった。今ではドゥーエが花形の日は、ご褒美という名目でスタンダードなプレイをしている。
「あの男嫌いのドゥーエが、変われば変わるもんで。さすがアニキ! お願いですから、アニキの女として引き抜かないでくだせぇ」
「そんな重要な問題を知ってて隠してやがったな。おこ、だぞ」
「いやぁ、俺も半信半疑だったもんで。女好きって噂は聞いてやしたが、経緯が女の同業者のやっかみで追い出されてやすし、何が真実だか。それと、正直に話したら、クビにされちまうかと思ってやして……ははは」
「裏を取るのは大事だ。多めに見てやる。あと、ドゥーエは契約が切れたら引き止めはムリだぞ。分かってるか?」
「もちろんで。それもまた、あいつのためってもんでさ。だからこその新人育成……ですよね?」
「その通りだ。その調子で頼むぞ」
それからしばらくして、マリーがやってきた。場違いに感じるオーラは健在だな。
「ごきげんよう。近頃はわたくしの魅力に気づいた輩が多いけれど、契約は守りますわ。それでは、また」
「おう……何だあいつ、近頃はツンツンしてるな」
「確かに、少し様子が変で。あとでそれとなく話をしてみやす」
人の心に踏み込む行為は、すべてロックに任せている。何だかんだ仲良しだからな。俺の出番がないことを祈るばかりだ。
「ガラナ様のご出勤よ! 聞いてよ店長! 今日、めっちゃ引き抜きされたわ!」
「ほーん、良かったじゃん。契約破るなよ。本物の地獄を見せるぞ」
「あんなのこっちから願い下げよ!!」
「何だどうした? お前の性格なら、飛び跳ねて喜びそうなもんだが」
「SM関係の店だったのよ! しかも全部よ!? この美尻が爆発しちゃうわ!」
「お前は契約が切れても、この店に居たほうがいいな。ロックしか守ってくれないぞ……」
「あたしもそう思った! だからロック副店長に、このアイスあげる! それじゃあね! 今日こそ花形取るわよーっ!」
「食べかけじゃねーか! 新品をよこしやがれ!」
ガラナのメスガキ属性は、お叱りの翌日には復活してるからな。良くも悪くも懲りない。それがまた、メスガキ感を加速させ、物好きから人気がある。あとガラナと同年代の、若いやつからも地味に人気だ。
「そう怒るな。人によっては、新品より価値がある」
「えぇ……物好きもいたもんで……」
「んー、ガラナ限定オプション追加するか。アイス一緒に食べるオプ」
「甘やかしすぎじゃないですかい?」
「アイスって腐らないからな。当たれば儲けもんだ。甘やかすか決めるのは客だし、オプションは自由に攻めていこう」
「アニキがそう言うのなら……もし、あいつにお灸を据えるとしたら、どうすりゃいいんで?」
「その時は、お叱りオプも解禁しろ。スライム浣腸だ。サモンされたやつな。ピュアスライムは危ないから、使ったら殺すぞ。もし客がこっそり持ち込んだら、ボコって裏に捨てとけ」
「がってんで。舎弟にサモナー居るんで、それとなく声をかけておきやす。スライムくらいなら、アニキの力を借りずとも、便所に居るんで」
生意気で可愛くないけどほっとけない。それがまた可愛い。ときに優しく、ときに泣かせたい。それもまた、メスガキの魅力だろう。他店なら腹パンルートだな。
「最後はアーネか。いつもより遅いが……」
「おはざーす。はぁ、もう、疲れた」
「引き抜きは売れっ子になった証拠だ。我慢しろ」
「いやいや、違くて。近頃、客にデートに誘われるんよ。うちって出張しないっしょ?」
「しない。いざというとき、お前らを守れない。あまり酷いなら俺かロックに相談しろ。自由恋愛なら、こっそりやれ。舎弟とも仲良しだし、こっそり守って貰ってもいいが」
「まぁ、今の所は話が通じる男だけだからいいかな」
「優しいのは結構だが、判断を誤るなよ。店としては、お前が花形になるべく頑張ってくれるためなら努力は惜しまない」
「あざっす。何かあったら、そんときはよろしく」
アーネには、熱心な客が付いている。ほとんどが同年代の男だ。行為そっちのけで、恋愛相談や人生相談をされている。男たらしと言うよりは、聞き上手が光っている。もちろん、最後にはヤる。それがプロのプライドだ。
こっそり覗いたときは、客が気になる女の子を落とせるように、デートプランを練っていた。褒められたことではないが、ロックとも相談し、今のスタイルを認めることとなった。
アーネを指名する客は、長時間の会話を望む。割高になっても延長を望む客も多いため、店に貢献していると判断したのだ。もはやセックスが出来るひとりキャバクラだな。最後にはちゃんとヤるアーネのプライドが、延長の秘訣かな。
「アーネは残りやすかねぇ」
「分からん。あの手のタイプは、実は器用だ。力の抜き方を分かっている。地位よりも厄介事を嫌う調和型……逆に言えば、お前が頼み倒せば流されるはずだ。その時は、アーネに副店長をさせるといい」
「押しに弱いのは何となく分かりやしたが、副店長ですかい? 断られそうなもんですが……」
「無駄を嫌うんだよ。面倒だから。それが結果的に、効率を良くするはずだ。俺が抜けて、お前の我が通せるのも最初だけ。長期を見越せば、誰かの意見は必ず必要なんだ。それを言える立場の人間を、ひとり置いておけ」
「うぅ、アニキ……ずっと、この店に居てくだせぇ!」
「やかましい。俺にも都合がある……おい、ロック。ちょっと外の様子を見てこい。客の入りが悪い」
ロックがレンジャーの舎弟たちと店を出る。それを見送って、俺は腕を組んで唸っていた。
俺が新店長になって、もう2ヶ月か。店の知名度は高まり、今では屈指の人気店だ。回転率を重視していても、行列が起こるほど。常連客だって大勢いる。
その行列に目をつけた飲食店が、小さな出店で稼ぐ。ヘイト管理のために、協力体制という名目で持ちつ持たれつやっている。
我ながら、上手くやっている。その蚊帳の外に居る同業者は、面白くないだろうが――。
「アニキ! 大変で! 同業者が、うちのサービスを意識させるのぼり旗を出してやす。手コキ・口技! それも、一斉に!!」
「……来たか。第二ラウンドの始まりだ」
「俺たちが必死に考えたサービスを、盗もうなんざ筋が通らねぇ! 俺、話付けてきやす――」
「このバカ野郎がぁぁぁ!」
「ぐぅっ、はぁぁぁ!? アニキ、何で殴るんで!?」
「これは世界中の男を代表して振り上げた拳だ……性行為は、お前が考えたのか?」
「!!」
「誰かに見聞きしたものだろ。難癖を付けたところで、筋が通らない。お前も店長なら、ドンと構えておけばいいんだよ」
「アニキは優しすぎやす! 何もしなきゃ、つけあがるばかりですぜ!? この商売、舐められちまったらお終いなんでさぁ!」
「お前は大事なことを見落としている。俺たちの店は、誰を相手にやってるんだ? 客商売だろうがっ!!」
「だ、だったら尚更ってもんで! 他店のまがい物のサービスに騙されちまえば、それこそ客のためにならねぇ!!」
「それが分かっているなら、問題ない。本物は残り、偽物は淘汰される」
「それでもっ、我慢ならねぇんでさぁ!! アニキと、嬢たち、舎弟のみんなで磨き上げてきた誇りで! それを汚されたとあっちゃぁ、黙ってられやせん!」
ふむ、言うようになったじゃないか。ロックのそういうところは、嫌いじゃない。しかし、まだまだひよっこだ。同時に、俺も熱くなっていた。少し頭を冷やそう。
「お前は良い店長になろうと、必死で努力している。だが、今は忘れろ。ひとりの男として、考えるんだ」
「ひとりの、男……」
「いいか、ロック。ち○ぽをま○こに突っ込めばセックスだ。初めはそれでいい。だが、慣れていくうちに物足りなくなる。別の何かが欲しくなる。それが性癖ってもんだ……分かるか?」
「うす。分かりやす!」
「世界が主神アルフレイア様に創造されてから何億年。人間が生まれてまた何億年……この途方も無い時間のなかで、人と性行為は、手を取り合いながら進化してきた」
「ご、ごくり……」
「人の数だけ性癖がある。大まかにジャンル分けしようとも、その下には、無数に枝分かれしている……性癖は、未来だ。可能性なんだ」
「べ、勉強になりやす!」
「お前の言う通り、同業者はうちの人気に嫉妬して、サービスをパクったのかもしれん。だが、客にとっては関係がない。むしろ、喜ばしいことだと思う人も多いだろう」
「な、何故なんで!? 劣化サービスを受けるかもしれないんですぜ!?」
「お前の言う通り、まがい物の劣化サービスだろう。だが、大局を見ろ。俺たちがどん底からここまで上がってきたように、彼らもまた、成長する。同時に、俺たちの苦労を知るだろう。そうしてひとつ、良い店が増える」
俺は贅沢だ。客は贅沢だ。最高のサービスを、お求めやすい価格で、いつどこでも受けれる。それが何よりの望みである。
「うちじゃ捌けないから、見逃せってことですかい……?」
「違う。同業者は敵ではなく、ライバルだ。互いに競い合い、高め合う。そうやって、少しずつ洗練されたサービスが生まれる。その一方で、別の道を歩む友が、新たなサービスを思いつく」
「文句を言う暇があるなら、自分を磨けと、そう仰るんで!?」
「少し違うな。うちの店は最高だ……そう言うのは簡単だ。実際に人気店だしな。でも、お山の大将に過ぎない。どうせならもっとデカい夢を持とうぜ」
「デカい夢……?」
「この娼館ゾーンを、国で一番のすけべエリアにしよう。いや、世界屈指のすけべエリアにする……その中で、うちの店は最高だ! そう言えたなら、凄く気持ちがいいと思わんか?」
「アニキ……かっけぇ! かっけぇよぉ!」
男泣きするロック。自分の地位に固執する小さな男は死んだ。今なら、純粋だったあの頃の心を取り戻しているに違いない。
「今なら分かるんじゃないか? パクった店も、今そこに並んでいる客も、あの頃のロックと同じだってことにな」
「……分かりやす。現状を変えたくても、方法が分からねぇ。でも立ち止まれねぇから、もがき続けた……あの頃の俺でさぁ!!」
「分かってくれたか。見逃すのは、勝者の余裕からではない。先駆者だけが知る成功に至る苦悩と、この2ヶ月というアドバンテージがあるからだ! それを活かすも殺すもお前次第だ」
0
お気に入りに追加
150
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる