ブサイクは祝福に含まれますか? ~テイマーの神様に魔法使いにしてもらった代償~

さむお

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自由編

始動

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 店の全貌は把握した。あとは店長同士の作戦会議が必要だ。


「まずは喜べ。嬢たちにマグロは居なかった。個性も豊かだし、磨けば光る曲者揃いだ」

「へへっ、自分のことのように嬉しいや。底辺だろうと、あいつらだって店のトップ張ってやすからね……」

「何を他人事のように言ってるんだ。彼女たちの今後は、お前にかかっているんだぞ」

「俺が……? な、何をすればいいんで?」

「彼女たちは圧倒的に経験値が足りていない。体作りは俺が担当し、性技指導はお前がするんだよ」

「俺が技術指導で!? アニキのようには、流石に……」

「じゃあお前が性感帯を開発するか? 毎日あれを出来るか?」

「もっとムリで! あんなの毎日続けていたら、勃たなくなっちまいそうで……俺、情けねぇなぁ」

「じゃあ指導担当はロックで決まり。方向性は俺が決めておく。ロックはただ、自分がされて気持ちいいことを、根気よく嬢に説明するんだ」

「さっきのアニキみたいにですかい……?」

「そうだ。何もできないなら体を張るしかない。お前はそうやって、慕われてきたんじゃないのか? 口で言うのは簡単だ。俺も体を張るタイプだ。その辛さが分かるから、お前に一目置いていたが、見込み違いだったか?」

「!! 任せてくだせぇ!」


 単純なやつは扱い易くていいなぁ。このチョロさも魅力ってことにしておくか。


 あとは店の運営方針を決めなければ。磨き上げた宝石を輝かせる最高の場所にしたいものだ。元店長のロックの話を聞けば、俺がどうするか分かるだろう。


 ロックの話では、リニューアルオープンは1ヶ月後の予定らしい。見ての通りボロい娼館なので、雨漏りなど補修も兼ねているそうだ。


 それらにかかる費用は、なんとほぼゼロだ。ロックはスラムのボス的存在である。他の現場などで安月給でこき使われている舎弟たちが、善意から余った資材を持ち寄り、どうにかやりくりしているとのこと。


 その御礼の意味もあり、店の売上の一部はスラムの人々に還元される。吹けば飛びそうな外観ではあるが、大事な屋台骨であり絆の象徴か。


「なるほどな。そこは加味しよう。でも一番にはしない。売れる店を作るのが最大の恩返しだ」

「それはもちろん、願ったり叶ったりってやつで。それで、店の全容としちゃ……」


 住み込みで働く嬢たちがいるので、2階は埋まっている。すぐに改築はできない。これも仕方ない。元より俺の狙いは1階だ。


 1階の空き部屋を見せて貰ったが、物置だった。古いベッドやら、使えるかも分からないエログッズがぎっしり詰まっていた。空き部屋の定義を見直せ。


「……これ、全部捨てていいよな?」

「まだ使えるものもあるんで……たぶん」

「そうか。お前の命を捨てるか、このゴミを捨てるか。今すぐ選べ」

「よーし、部屋の片付けで! 暇なやつ呼んでおきますんで!」


 しばらくすると、ぞろぞろと人がやってきた。どんだけ暇なんだろう。まぁ、人手が足りているのは助かるな。


 次々とゴミが運び出され、まっさらになった物置を見渡したところで、頭に思い描いていたプランが現実的になった。


「リニューアルオープンは、7日後とする。雨漏りなどの致命的な補修に人員を割き、若干名で4部屋を作ろう」

「7日後ォ!? 4部屋ァ!? 嬢たちの引っ越しを考えるとまずムリで!」

「2階の嬢たちはしばらくそのままでいい。急な引っ越しは士気に関わる」

「だったら4部屋なんて土台ムリな話で……」

「この1階にある空き部屋を、区切る。それで1部屋が2部屋になる。隣のゴミ部屋も片付ければ、合計4部屋になる」

「そいつぁ名案だと思いやすが、客と入れば満足に寝返りもできねぇ広さで」

「うん、だから手コキ専門店としてオープンする。プレオープンってやつ」


 まずは手コキ専門店として始め、口技の解禁、1夜買いの解禁と、段階的に店を広げる作戦である。


「資金稼ぎ・嬢の育成・店のリニューアル・客という土台作り……これらを同時進行する。異論があれば聞く。聞くが、殺す」

「ありやせぇん!! でも、ちと不安が。手コキ専門って、イメージが悪いもんで、客を捕まえるのは骨が折れそうで」

「なぁに、悪いイメージを消し飛ばせばいい。質問だが、どこまで値引きしていいんだ?」

「問題はそれなんで。1晩で銀貨1枚。これ以下にすると同業者から妨害に合うもんで……組合の約束は無視できねぇっす」

「まじで? 喜べロック。この戦いは、すでに勝っている」



 7日後……手コキ専門店としてプレオープンをした我が店は、人で溢れかえっている。これらはすべて、客なのだ。いきなり大繁盛していた。


 俺がしたことはシンプルだ。ボロい店の外観を、ペイントして巨大な看板とした。


――手コキ15分、中銅貨1枚。イけなかったら全額返金致します!!


「フハハハハ! ちょろいちょろい! 立地の悪さは巨大看板でカバー。イメージの悪さはサービスで一蹴!」

「流石、アニキ! 逆転の発想てなもんで!」


 1晩あたりの値段は破れない。だが15分あたりの値段なら問題ない。初日の宣伝価格なので、グレーゾーンには同業者も目をつぶってくれるだろう。


 当然、客を取られて面白くない店のサクラや、質の悪い客も中には居るわけだが、損失は15分だけ。まぁ、今のところその手の輩は出てきていない。


「アニキ、アンケート上がりやした!」


 割引にはアンケートに答えるのも条件に入っている。内容も実にシンプルだ。


――①店が狭い。②狭いが問題なかった。
――①満足できなかった。②満足した。


「ご苦労。どれどれ……ほとんど②を選んでいるな」

「満足してやすね。ただ、人気すぎて客が溢れてるもんで。どうしやしょう?」

「行列もまた看板だ。わざとやった。だが、もういいだろう。初発組が我先にとすけべ仲間に手コキの素晴らしさを説く。今すぐ店を改築するぞ」

「はぁ!? 改築って……客を叩き出すんで!?」

「いや、出口を作る」


 これまで終わった客は、店内を経由して店の外に出ていた。当たり前のことだが、実は目的がある。中で順番を待つ客とすれ違うことで、顔つきからサービスの質を次の客に悟らせるためであった。これも大事な宣伝だったのだ。


 今は繁盛しすぎて、店のキャパシティを超えている。出ていく客が邪魔になってしまう。この無駄を省くために、専用出口が必要になる。


「誘導ってことで! して、どこに作りやしょう?」

「プレイルームの後ろ。外に面してるから、発射したらそのまま帰って貰う」

「がってんで! おう、おめぇら、頼んだぞ!!」


 待機させていた舎弟は、土属性の適正を持つ、魔術師なのだ。土の魔術師は、特定の建材を音もなく自在に変えられる。俺は有名なので表に顔は出さないが、シャドーデーモンを介してちゃんと見ているぞ。


「アニキ、改築が終わりやした! 客の流れが驚くほどスムーズで! 最初から作っておいても良かったかもしれやせんね」

「ダメダメ。最初から作っておくと、野次馬が出口に群がる」

「な、なるほど。野次馬が集まってきたら、追い返しやしょうか?」

「目に余らない限り、放っておけ。明日は知らんが、今日は客にならない連中だからな」

「追い返せば、並ぶかもしれやせんよ?」

「客の流れは作ったが、嬢の捌きには限界がある。今の行列の最後尾を区切りとして、午前の営業を終える。不満が出たら整理券を渡しておけ」


 まだまだ客は来るだろう。しかし、嬢は機械ではない。先週まで素人同然だった彼女たちが、朝からぶっ通しで手コキを続ければ、どうなるか。ロックに語るまでもないだろう。



「はい、みんなお疲れ様。君たちの努力が、先ほどの繁盛だ。つまり力を付けてきたわけだ。今なら、話を聞いてやろう」


 震える手を上げたのは、マリーだ。


「いつまで続けるつもりですの? もう、手が動かないのだけれど……」

「他の嬢たちも頷ける気力があるなら余裕だな……冗談だ。このミーティングが終われば、夕方までは休憩とする」

「このわたくしに、何でも聞いてくださる?」


 手は動かなくとも、掌返しは凄いもんだ。もうこれドリルスピン。


「手応えは、あったか?」

「ありましたわ。いつもは偉そうな男たちが、腰を引きながら喜んでいる様を見るのは圧巻ですわね」

「うむ、これもロックが辛抱強く指導したおかげだ。これからも言葉と体……あらゆる方法を使って、相互理解を深めて欲しい」


 これでミーティングは終わり。嬢たちには待ち望んだ休憩時間がやってくるわけだが……。


「食事が済み次第、口技のレッスンを行う。参加は自由だ。ここで終わりたいやつは、やらなくていいぞ」

「断れないやつですわね……」


 項垂れる嬢たち。うむ、これが見たかった。不満がありながらも受け入れる様子は、伸びしろですねぇ。自分に何が必要か理解しているのだ。


 この調子なら、大口叩いた売上10倍も夢じゃないかもしれないな……。
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