ブサイクは祝福に含まれますか? ~テイマーの神様に魔法使いにしてもらった代償~

さむお

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絆編

護送されてクロノ死す

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 依頼を受けた俺は、ひとつミスを犯した。翌日に出発するなんて言うべきではなかった。魔物は分からず、周辺の地形も把握していない。


 何を持っていけばいいんだ? これが楽しい遠足なら良かったのだが、生命に直結するのだ。鞄に詰め込んでは引っ張り出す作業が始まった。


「うーん、何系の魔物なんだ? オークならおしっこボトルで釣れそうだし、獣系なら骨でも投げつけてみようか。煙幕が効くやつだといいけどなぁ」


 ぶつくさと準備を続けていると、肩に鋭く食い込む爪。この痛みは、フクロウこと暴君ネロが肩に止まった証である。これでも優しくなってるから痺れるぜ。


『何をしてるのかってさ』

「探索の準備だ。やばいところに行かなきゃならん。もし俺が帰らなくても、元気で暮らせよ」

『どこに行くのかってさ』

「スノーウッドの森。お前のお気に入りの巣箱がたくさんある森だ……痛だだだだっ!? 何をする! 晩ごはんはさっき出したでしょ!」

『行くなと言ってる』

「おや、意外としおらしいところもあるじゃないか。俺はな、不本意ながら、何度も死にかけて生きて帰ってきた男だ。何とかするさ……痛ァい!!」


 いつもよりつつき攻撃が激しい。こうしてつつかれるのも最後になるかもしれない。ナイトメア翻訳を頼んで、話くらいしてやるか……。


『スノーウッドの森には、絶対に近寄らないで。本当に死ぬわ』

「太鼓判を押されると覆すフラグが立つ。それが俺だ」

『そうじゃない。あそこは、元の住処だった。逃げてきたの』

「何だと? じゃあ、何の魔物か知ってるのか!?」

『分からない。だから怖い』


 魔物の正体を知っていれば話は早かったのだが、そう甘くはないか。だが、何らの手がかりを掴めるかもしれない。詳しく聞くことにした。


 ネロは、スノーウッドの森に住んでいた。管理された森は人の出入りが少なく、凶暴な魔物は人に狩られる。密猟される心配もない。時々、人前に姿を見せて機嫌を取りながらも、共存していたらしい。群れを作る習性はないものの、同様の考えを持った仲間たちも居たようだ。


 変化が起きたのは秋の中頃だった。森が静かになった。人が想像する静けさとは違い、自然には必ず音がある。動物や虫たちの鳴き声に、木々のせせらぎ……それらが日に日に薄れていった。


 フクロウは森のハンターだ。夜目が効くし、耳も良い。羽ばたく音はほとんどせず、森の中を走り回る小動物を的確に仕留める飛行能力もある。そんな野生のハンターの直感に、警笛が鳴っていた。


 小動物といった狩りの獲物も姿を見せなくなり、静けさは増すばかり。不気味に思ったネロたちは、森を離れて新天地を探すことになる。決行は真夜中……各々が別の方角に飛び、しばしの別れだ。


 ネロは友達と一緒に飛んだ。白い木々の間を縫うように飛び、小話をしていたらしい。途中で立派なスノーウッドがあり、ネロと友達は左右に幹を避けて飛んだ。それが友を見た最後の瞬間だった……。


「ちょっと待て。1秒にも満たない時間で、消えたって言うのか?」

『そうよ。何の気配もなかった。始めはいたずらかと思ったわ。気づかないふりをして、逆に驚かせてやろうって、澄まし顔で森を抜けた。でも、どれだけ待っても出てこなかった。友達だけじゃないわ。森を出られたのは私だけ』


 やがてネロは、森の近くに居ることすら恐ろしくなり、飛び立った。少しでも遠く離れた場所ならどこでも良かった。昼夜を忘れて飛び続け、力尽きて俺の頭に落ちてきたわけか……。


 異常だ。異常すぎる。大自然の中で生活をしていて、環境を熟知している。野生の勘も備わっている。そんなネロたちが、まったく気づけない存在だと言うのか。


 やはり、この依頼は引き受けるべきではない……。


「それでも、俺は行かなきゃならん」

『だったら、私も行くわ。ガイド役が必要でしょ?』

「もし恩義を感じてのことなら、捨てておけ」

『スノーウッドの森から離れても、得体の知れない化け物が居ることに変わりはない。その恐怖を特定できるのがあなただけだとしたら……協力すると言っているの』

「そうか。好きにしろ。途中で帰ってもいいからな……カーク!」


 俺のレスキューバードことカークは連れて行くつもりだった。いつもなら呼んだらすぐ来るのに、今日に限って来ない。そっと薄目を開けてこちらの様子を伺っている。あのチキン野郎。


「カーク、起きてるんだろ。頼りにしてるぞ」


 臆病だが頼られると弱いカークは、空いていた肩にスッと降りてきて、元気に鳴いた。本当に調子のいいやつだなぁ……。


 冒険の準備を終えた頃には、すっかり朝日がチュンチュンしてやがる。馬車の用意を頼んでおいたのは正解だった。ひとまず待ち合わせ場所であるギルドに向かう。


 まだ薄暗いが、待ち合わせ場所には誰も居ない。鞄を枕代わりにしてうとうとしていると、車輪の音がして目が覚めた。


「おはようございます。約束通り、馬車を用意致しました」

「あぁ、昨日の執事さんか。助かる……待て、これ馬車じゃなくね?」


 鉄板で作られた馬車……うん、これ護送車だね。犯罪者とかを運ぶやつ。馬も普通は2匹なのに、4匹だよ。どんだけ分厚くて重いんだよ……。


「細かいことは気にしてはいけませんなぁ。これもあなたを安全に送り届けるための配慮でございます」

「嘘つけ。あんたが安心するためのものだろ。何もしないっつーの」

「まぁまぁ、そう仰らずに。小さいですが、ちゃんと窓も備えているではありませんか」

「これ窓じゃねーよ。鉄格子って言うんだよ。中の人が景色を見るものじゃなくて、外の衛兵が中の囚人が逃げてないか確かめるものだろ」

「長くとも4日の辛抱でございます。そんなことより、その……お連れの方はどこに……?」


 昨日は粋がっていたのに、今は肩身が狭そうにしている。まぁ、怖いんだったら仕方ないか。一般人だもんなぁ。


「テレサちゃんなら、馬車の中に居るぞ」

「ははは、ご冗談を。鍵をかけておりますゆえ……開いてますな!?」

「言ったろ。凄腕のレンジャーだって。そんじゃ、出発してくれ。また鍵をかけるなよ。魔物に襲われたとき、戦うのは俺たちだ。扉を蹴破る頃には、あんたは魔物の腹の中に居るかもしれんぞ」


 鍵をかけないと暗殺者が野放しに。鍵をかけると魔物に襲われたら助けて貰えない。よたよたと馬車に乗り込む執事の背中は、それはもう哀れだった。


 ネロとカークは馬車の屋根に配置する。分かりやすい監視の目であるし、空が見えたほうがいいだろう。さて、俺は窮屈な馬車の中に入るとするか。


「おはよ。凄い荷物ね?」

「あぁ、何を持っていけばいいか分からなくてなぁ。おかげで徹夜だよ。感動の再開を喜ぶより、とにかく寝たい気分だ」

「呆れたわ。そんな大荷物、邪魔なだけじゃない? 何が入ってるのよ」

「色々だ。2人分だから、文句を言う子にはご飯も毛布もあげません」

「わ、悪かったわよ。そもそもこの依頼を受けたのあたしのせいだもんね」

「俺がやりたいからやるんだ。今は眠いから寝る」


 クッションを尻に敷き、毛布に包まる。温かさが眠気を誘う。


「ねぇ、あたしも入っていい?」

「んー、いいぞ。でも起こすなよ」

「うん……ありがと」


 もうひとつの毛布を取り出したが、テレサちゃんは受け取ることなく、肩を寄せてきた。仕方がないので俺の毛布を分けてやり、懐かしい匂いに包まれながら、そのまま寝た……。


 目覚めると、生きていた。俺の場合、そのまま死んでる可能性もあるからな。ちゃんとシャドーデーモンに警戒させていたが、必ずしも安心安全じゃない。やっぱり、寝るのは家に限るな。尻も痛いし。


「……起きた? 執事に色々と聞いてきたわよ」


 目的地までは順調に進んで4日ほどかかるらしい。なるべく安全な街道を進むとのこと。今は昼らしいので、しばらくは馬車の中で過ごすことになるのか。。


「うーん、暇だな。4日は長すぎる」

「あたしは話したいこと、沢山あるんだけど?」


 昨日は感動の再開を果たしたのに、テレサちゃんそっちのけで話を進めてしまった。一応、テレサちゃんの身辺は覗き見て知っているが、見ると聞くとでは大違いだろう。


 まず、テレサちゃんの身元を引き受けたあの女性は、マーサという名らしい。夫と息子を亡くしており、残された宿屋をひとりで切り盛りしていた。テレサちゃんを娘のように可愛がってくれているんだとか。


 レストランの手伝いをきっかけに、ウェイトレスも始めた。客の評判も良いらしい。その辺のくだりは何度も覗いたので、もう完璧だ。目を閉じても浮かび上がる……色っぽい黒だったなぁ。


 マーサさんは厳しさと優しさを兼ね揃えているようで、テレサちゃんは忙しいながらも充実した生活を送っているようだ。やはり送り出して良かったな。


「なるほどねぇ、話を盛ってるんじゃないか?」

「事実よ。この前だって、お客さんにデートに誘われたんだから。まっ、断ったけどね」


 俺の目を真っ直ぐ見て言ってくる。グイグイ来るなぁ。俺としては別に誰とデートしてもいいと思う。視野が広がるってもんさ。まぁ、門限は夕方の4時までだけどな!!


「楽しそうで良かったよ。実際のところ、どうだ?」

「楽しいわ。確かに忙しいけど、やりがいみたいなものあるし。みんな優しくて、なんだか嘘みたい」

「人間ってやつはひねくれていてな。幸せの中に居ると、夢だとか明日終わるんじゃないかと後ろ向きなことを考えやすい」


 テレサちゃんの発言は、実は的を得ている。今はまだ仮初めだ。夢みたいなものだ。自分の罪と素性を隠して手に入れたもの。それを現実とするには、今回の司法取引が絶対に必要だった。


「夢ね、あんたのおかげで叶ったわ」

「その程度で叶う夢なんざ、夢とは言わん。過程に過ぎない。もっと大きな夢がそのうち見つかるさ。そうすると、もっと楽しくなる」

「そっか。そうかもね。ありがと」


 テレサちゃんが肩を寄せてくる。図らずも良い雰囲気だ。護送中じゃなければ、濃厚接触するところなのだが……。


 分厚い鉄板の向こうには、執事が震えながら馬車を動かしていることだろう。ここでギシギシアンアンしちゃうと、さすがにバレる。生憎と耳はまだ遠くないようだしな。


 だからといって、この状況で何もしないほど俺は愚かではなァい! 暇を楽しい時間とするために、テレサちゃんの乳首開発を決行する!!
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