ブサイクは祝福に含まれますか? ~テイマーの神様に魔法使いにしてもらった代償~

さむお

文字の大きさ
上 下
169 / 230
絆編

スライドジト目

しおりを挟む
 清水の匂いが薄れ、別の香りが漂う小さな股ぐらから顔を話す。見上げた先にあるのは、熱を帯びた瞳だ。互いに乱れた息を吐き出しながら、何も言わずに見つめ合う。そんな時間も、いずれは終わる。


「……続き、しちゃう? 今ならママの処女だってあげるよ……?」


 ママの処女とかいうパワーワードに、ごくりと喉を鳴らしたとき、薄い扉の向こう側で人の気配がした。レンジャーでなくとも、あまりのボロさに床が軋む音がするのだ。


「ティミちゃーん。いつまで休憩してるんですかー? 寝てるなら叩き起こしますよ――」


 ノックもせず、ばばーんと扉を開け放ってしまうのは、ミラちゃんである。俺もティミちゃんも素っ裸で、こんな状況を見てしまったミラちゃんは……。


「あれ? おじさんじゃないですか。いつ来たんです? ティミちゃん、おじさんが来たら教えるって約束しましたよね?」


 そんな約束をしていたのか。名指しされたティミちゃんは、ミラちゃんから目を逸らした。それはもう、見事なスライドジト目だった。


「まさか抜け駆けですか!? だいたい、おじさんを最初に拾ってきたのは誰だと思ってるんですか! 私ですよ!」


 そんな捨てられた子犬みたいな言い方されてもなぁ。まぁ、あの当時は社会から蹴り出されてた節があるから、完全に間違いとは言い切れないけど。


「その私を差し置いて、内緒で楽しいことをするなんて。筋が通らないってものですよ!」


 絡み方が完全にヤクザ。まぁ、ミラちゃんも遊んで欲しい年頃だからな。はたちだけど。さて、ティミちゃんの言い訳は……。


「あー、ミラはポーション作りサボったし?」


 なるほど。約束を先に破ったのはミラちゃんだと。微妙に論点をすり替える作戦に出たようだ。


「い、いいじゃないですか。サボったと言われても、ちょっとだけですよ」

「毎日サボってるの知ってるよ。それに、毎日ちょっとずつサボる時間が増えてるのも知ってるよ」

「き、気のせいですよ。ティミちゃん真面目なとこあるから、自分を基準にしちゃいけませんよ」

「どうせ今もあたしを呼ぶふりして、サボろうとしてたでしょ」

「ち、違いますよ。おじさんは信じてくれますよね?」



 こういう行為の途中だったので、気持ちの切り替えが難しい。まぁ、ミラちゃんがサボってるのは分かった。


 女の子の体をいじるのは大好きだが、ミラちゃんをいじるのも楽しいから好きなのである。


「うーん、おじさん赤ちゃんだからなぁ。難しいことはティミちゃんママに聞いてよ」

「赤ちゃん!? ティミちゃんママ!?」

「そんな目で見ないで。疲れた男を癒やすのも良い女の嗜み」

「良い女って……それ、自分で言っちゃうのは違うと思いますよ。良い女って言うのは、私のような巨乳のことです!」


 えっ? ミラちゃん巨乳だったのか? ええっ、意味が分からないぞ。


 混乱した俺は、言い争いをするふたりを並べて、横から覗き込んでみる。すると、僅かではあるが、ミラちゃんのほうが膨らみがある……気がする。


「ほら、おじさんも頷いてる。私の勝ちです。反省してください」


 小人族の基準だと、これが巨乳なんだなぁ。こういうの、どんぐりの背比べって言うんだぜ。言わないけどな。


「確かにミラは巨乳だけど、胸の大きさで女の子の価値は決まらない」


 あっ、やっぱり巨乳なのか。さっきは自分に言い聞かせる感じだったけど、そうなのか。仕方ないね。


「外見よりも内面。最後は包容力が勝つ」


 確かに。だって誤差だし。言わないけど。


「好きな人を満足させられるなら、それでいい。実際、ブサクロノを満足させたから間違いない」

「ほらやっぱり抜け駆けです。私だって満足させられますよ! さぁ、おじさん。次は私と楽しいことしますよっ」


 名指しされてしまった。もう少し、仲睦まじい口論を眺めていたかった。本物の喧嘩はもっと罵倒が飛び交うものなのだ。


「それが金玉からっぽでさぁ。いやぁ、短時間の連続射精はハードだね」

「ははぁーん。さては私を試してますね? いいですよ! 手順をすっ飛ばして、即尺です――」

「あっ、待ってミラ。止めたほうが――」


 ぶらぶらしていた息子をパクっと咥えたミラちゃんは、そのまま固まった。そしてすぐに俺の股間から離れて、天を仰ぐ。


「なんかおしっこ臭いんですけどおぉぉぉっ!?」

「あーあ、だから言ったのに。ブサクロノのちんちん、あたしの……その、あれで洗ったから……」

「なんてことしてるんですかあぁぁぁ!」

「あたしもどうかと思ったよ。でも、ブサクロノに頼まれちゃったから……」

「出したてのおしっこはほぼ無菌だぞ」

「そういうことを言ってるんじゃないですよっ。友達のおしっこの味なんて知りたくなかったですよ……」


 落ち込むミラちゃんの肩にポンと手をおいて、慰めの言葉をかけてあげないとな。


「大丈夫だって。だいたいみんな同じ味だ」

「慰めになってません……」


 とうとう膝をついてしまった。仕方ないなぁ。ご機嫌を取るか。えーっと、ミラちゃんが喜びそうなことは……。


「機嫌直してくれよ。お詫びにチューしよう」


 目を閉じて、唇をタコのように突き出して迫る。冗談半分だったのだが、ミラちゃん的にはOKだったらしい。


 小さな唇の感触を楽しんだあと、ぬるりと舌を入れる。


「んっ……おじさん……ちょっと……っ」


 いつもならされるがままなのに、今日は抵抗してくるねぇ。いいね、燃えてきたぜ。強引に続けようとしたら、するりと抜け出されて、ミラちゃんはまたしても天を仰いだ。


「なんかおしっこ臭いんですけどおぉぉぉっ!?」

「あぁ……そういえばティミちゃんのあそこを舌で拭いたばかりだ。ごめん」

「一度ならず二度までも!」

「ミラ、ちょっと落ち着いて。元はと言えばミラが割り込んできたのが悪い。ブサクロノは悪くない」

「そんなこと言ったら、ティミちゃんが約束を破るからですよっ」


 堂々巡りである。まぁ、タイミングが悪かったってやつじゃないかなぁ。ふたりをなだめて、お部屋を掃除した。


 風通しが良すぎる部屋なので、濃密な匂いはもうどこにもない。少し名残惜しいが、気持ちを切り替えて普通のお話をするのも悪くない。


「ミラちゃんってポーション作れたのか」

「ううん、ミラは作れないよ」

「つ、作れてますよ!」

「効果が安定しないものはポーションと呼ばない」

「今日はちょっと調子が悪かっただけです。明日は大成功しますよ!」


 ティミちゃんが鼻でため息をついた。ふたりの仲の良さは分かるが、落ち着いて話を聞いたことってほとんどなかったな。この際だから、聞いてみるか。


「小人族はポーションを作れるようになって一人前と認められる。あたしが族長なのは、ポーション作りが得意だから」

「どうせ私は落ちこぼれですよーだ」


 うーん、なんとなく分かったけど、太ったゴブリンだって世の中には居るんじゃないか? 別に小人族=ポーションって少し極端じゃないか?


「昔の話をするね。あたしたちは、名前の通り。体が小さく、非力で、戦う力がほとんどない。優しいエルフに守られて生きてきた。でも守ってくれた人は、あたしたちの代わりに傷つく。だから小人族はポーション作りに特化した」

「おぎゃあと言った瞬間から、ポーション作りのいろはを叩き込まれるんですよ。それで、私だけが適応できなかったというか……」


 小人族の考えは合理的だ。ただ少し、前時代的だ。俺の生前は、時代とともに変化して、多様化が進んでいたものだが、古い体制はいつもどこかに残っていた。魔物が蔓延るこの世界では、やはり難しい問題だな。


「友達を抜きにしても、あたしは別に、ポーションを作れない小人族が居てもいいと思ってる。でもミラが自分からポーション作りを希望したからには、妥協はしない」

「分かってますよ。ちょっと合わないだけです。それでも、諦めたくないんですよねぇ……」


 苦手だろうと頑張る。ティミちゃんママから再教育を受けたばかりのおじさんも、これには同意する。そもそも、なぜ合わないのにやりたがるんだろうか。楽しそうには思えないし。


「ミラはね、いつかブサクロノにポーションを渡したいんだって。小人族にとっては親しい人への贈り物で、愛とか友情とか感謝とか。そんな意味がある。どれだと思う?」

「ちょっ!? ティミちゃん!? それ言わなくていいですよっ」

「あたしが言わなきゃ、ミラ絶対に言わないでしょ……ミラね、もう夜を売るのは止めてるよ。かなり前のことだけど、知らなかったでしょ?」


 そりゃ初耳だ。全世界のロリコンも血の涙を流すことだろう。ただ、個人的には喜ばしいことだ。別に独占欲というわけではない。やりたいこと……夢が見つかったのだろう。夢を叶えるために努力する子はいつだって素敵さ。


 だから、その夢を叶えてあげたいな。俺はポーション作りに関して協力してあげることはできないが、もしミラちゃんがポーションを作ったときは、飲んであげよう。ティミちゃんと愛のポーション契約をしているが、浮気は男の甲斐性さ。


「あの、おじさん。もし私がポーションを……ちゃんとしたポーションを作ったら、そのときは……飲んでくれますか……?」

「もちろん。それで、ティミちゃんに怒られたときはこう言うんだ。『水とポーションを間違えた』ってね」

「あたしの前で言ってどうするの。でも、そのときだけは目を瞑ってあげる」

「もう……めっちゃ恥ずかしいんですけど! とにかく約束ですよ。嘘付いたらポーション飲~ます」


 どっちにしても飲むんだな。ミラちゃんと指切りをしてお約束。


「おじさんは嘘つきだけど、約束は守る主義なんだ。まぁ、困ったことがあったらいつでも言ってくれ。腹の肉を揺らしながら駆けつけるからさ。それじゃ、またね」


 笑顔でふたりと別れて、ボロ宿の扉を開け放つ。今日はいつもより晴れ渡っている気がする。まぁ、中に居たときと明るさはほとんど変わってないが、気のせいだろう。


 最高の宿に背を向ける。名残惜しさはない。また疲れたら、立ち寄ればいいのだ。湧き上がる気力をエネルギーにして、力強く歩き出した……。


 途中でティミちゃんとの行為を思い出して、息子も元気を取り戻してしまったがために、前のめり……いや、前かがみで歩くことになった……。
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...