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絆編
イゼクト大森林でクロノ死す
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体を揺すられ、肌寒さを感じながらむくりと起き上がると、朝日に目を持っていかれた。
「ぶっさ。早く起きるにゃん。お望みのイゼクト大森林が見えてきたにゃんよ!」
「おぉ……そうか……よくやった……」
「テンション低いにゃん。あんたも冒険者なら30秒で起きろにゃん」
昨日は神経を使ったし、寝心地が悪かった。あと遠征苦手かもしれない。北の森のピクニックを思い出してテンション下がるんだよな……。
「相方はもうとっくに起きてるにゃんよ」
そう言われると弱いのが日本人である。顔面に張り手をかまして起き上がる。
「……ここがイゼクト大森林か。ただの森にしか見えないが。ルークは入ったことあるか?」
「あの槍を手に入れる前に少しだけ。森って感想は、間違いじゃない。ただし、めちゃくちゃ広いのさ。あとは魔物の数が半端じゃない」
樹海みたいなものだろうか。見つけ出すのは苦労しそうだ。
「カーッ!」
『自分が空から偵察してくる、だってさ』
「よし、カークに任せる。俺たちの準備が終わるまで、軽く周囲を探してくれ」
カークが任せろと言わんばかりに翼を広げ、飛んでいった。あっという間に姿が見えなくなった。飛行って便利だなぁ。飛べない豚はただのオークさ。
「……あれ? 空の彼方が曇り始めたぞ。天候が不安定な場所なのか?」
「いや……あれは挨拶みたいなもんかな」
ルークが言った意味が分からず、遠くの雲を眺めていると、どんどん近づいてくる。はて、風はないはずなのだが……。
「……これ、何の音だ?」
「すぐに分かる。あの鳥、死んでなきゃいいけどな」
「カー! カァァァァッ!?」
「おっ、お前のペット生きてる。良かったな」
妙に早い雲に追い立てられるように、カークが鳴きながら戻ってくる。謎の音が、次第にはっきりしてきた。これは、羽音だ。無数の羽音が混ざり合って耳を通り抜け、背筋を凍らせる。
「あれ全部、虫なのか!?」
「そうだよ。あれ全部キラービーだ。戦士殺しさ」
「範囲攻撃の魔術スキルでもにゃいと、蜂の巣にゃん」
「やつらなりにテリトリーがあって、入るのあのザマだ。困ったことに、テリトリーの目安になるものはない」
あいにくと範囲攻撃は切らしてまして。とにかくカークが無事で良かった。厄介な虫雲は森の奥に消えていった……。
「カーク、大丈夫か?」
俺の肩に止まって、縮こまって震えている。よほど怖い思いをしたらしい。アレに追い立てられるのは、しばらく夢に見ることだろう。
「もう分かったと思うけど、念のために言っておく。イゼクト大森林は、虫型の魔物の聖地みたいなもんでね。並の冒険者じゃ、すぐに引き返すことになる」
「まっ、数時間はここで待っておいてやるにゃん。キャリィたちも眠いからにゃあ……」
「中で何か起きても、俺たちじゃたどり着けない。助けは期待しないことだ。もし引き返すか迷ったなら、早いうちがいいだろうな」
ありがたい助言を受け取ったところで、俺の準備は完了した。ライオネルも完全武装している。朝日が反射して眩しいというか、もううっとおしいレベルの輝きであった。
「よっしゃ、行こうぜ。ガードとして、きっちり守るからよ!」
「行くか。お前たちは別に帰ってくれて構わない。もし残るつもりなら、出迎えの準備でもしとくんだな」
ライオネルを先頭に、いざ森の中へ……。
イゼクト大森林は、緑の匂いが濃い。ジャングルほどではないが、木々が立ち並び視界は狭い。ただ、天然の障害物のおかげで、森に入った瞬間にキラービーに追い出されずに済んでいるのだろう。
「カーク、俺から離れるな。空からの捜索は、今は待て」
「それがいいぜ。いくら弱い魔物でも、あれだけの数じゃ鉢合わせたら捜索どころじゃないぜ……」
「先頭は任せるぞ。しばらくはまっすぐ進んでくれ。ファウストの居場所はもっと奥地だろう。近くに居るなら、さっさと森から出ているからな」
「違いねぇぜ。会話も最低限でいこう。目的は捜索だし」
「あぁ、魔物を呼びたくないからな」
先頭をライオネルに任せ、俺はシャドーデーモンを周囲に展開する。イゼクト大森林は広大なフィールドらしく、外から偵察は不可能だ。自らの足で歩きながら、周囲を人海戦術で探すのが発見の近道になるだろう。
「……クロノっ」
ライオネルが息を潜めて俺を呼ぶ。そしてすぐに、魔物が現れた。
背丈は俺と同じくらい。虫にしてはデカすぎだ。両手の鎌がギラりと光る。こいつは見たことがある。
「ケイブマンティスか」
「知ってたのか。こいつの攻撃は受けちゃいけねぇ。あの鎌は、金属だって切り裂く。耐えても装備を消耗させちまう。機動力の高いガードなら、相性は悪くないはずだぜ」
装備の消耗、か。確かに、この先も戦いは続く。ライオネルの実力は赤龍戦でこの目に焼き付いているから、疑う余地はない。任せておけば、危なげなく討伐するのだろう。
しかし、一刻も早くファウストを見つけるために、もう手段は選んでいられないか……。
「ライオネル、下がってろ。そいつは俺が始末する」
「始末するって……魔術師があいつの攻撃を食らったら……はぁ?」
ケイブマンティスの両鎌が、地面に落ちた。すぐに足も落ちる。ライオネルが間抜けな声をあげているあいだに、厄介な魔物は無力化した。
ケイブマンティスは、ヌルの一件で弱点を知っている。外殻は硬く刃を通さないが、中身は非常に脆い。外殻には隙間が存在し、そこにシャドーデーモンを滑り込ませ、締め付ければ、その部位はもぎ取れる。
「なっ、何だ!? 新手の魔物かっ!? 一体、どこから攻撃を――」
「落ち着け。俺のスキルだ。トドメを差して、次にいこう」
「あ、あぁ……そうだな……」
本当は、シャドーデーモンの存在を匂わせたくない。それでも、今は一分一秒が惜しいのだ。
ライオネルがトドメを差したのを見届けて、歩きだそうとすると、またケイブマンティスが現れた。しかも数が多い。シャドーデーモン越しに見た光景では、森の奥から追加もやってくる。
「急いでいるんだが……」
「囲まれているな。一度下がって、前方に集中するか?」
「いや、前だけ任せた。食い止めてくれるだけでもいい」
「任せな。それこそ、ガードの得意分野さ」
ケイブマンティスは俺が思っていたより賢いらしい。左右だけならまだ取りこぼしと鉢合わせただけかもしれないが、背後にも居るのだから意図があるのは間違いない。囮を出して実力を確かめ、集団で囲い込み、狩るつもりか。
展開していたシャドーデーモンを呼び戻し、ケイブマンティスに差し向ける。先程と同じやり方で、ケイブマンティスは無力化できた。魔物による個体差があれど、通じるなら同じことだ。
ただ、数が多いのは困る。一度に倒せるのは数匹だけなので、何セットにも分けて倒していかないといけない。いくら相性が良くても、やはり限界があるな。
あの両鎌は、恐らくシャドーデーモンさえ切り裂く威力だ。処理が追いつかなければ、俺がやられていただろう。注意を引いてくれているライオネル様様だ。
「……ふぅ、片付いたか」
「トドメはどうする? これだけの数だと、時間がかかりそうだ」
「どうせもう何も出来ない。先を急ごう」
お互いに怪我はなく、装備の消耗もほとんどない。ただ、この短時間で大量の魔物と遭遇してしまったことで、自分たちがいかに危険な場所に居るのかを嫌でも知った。
戦士と魔術師の2人パーティー。索敵と捜索をシャドーデーモンにさせるプランは白紙になった。展開する数を最低限にして、自分の身を守らなくちゃいけないようだ。
「……何の音だ?」
「分からねぇ。何か来るぜ……っ」
ほんの少し、地面が揺れた。その揺れが次第に大きくなっていく。前方の地面が爆ぜ、黒い何かが飛び出てきた。
「まずいっ。イビルドーザーだっ」
地面から現れたのは、巨大なムカデだ。禍々しい装甲のような黒い外殻と、無数に生えた赤い足が蠢く。生理的嫌悪感は凄まじいが、こいつも倒したことがある魔物だ。
「何がまずいんだ?」
「硬すぎて刃が通らねぇ。体液は酸性で、触れれば肌が焼けるし、装備を腐食させる。手持ちのロングソードじゃ、ちっとばかし相性が悪いぜ……」
「なるほど。俺が倒そう。下がっていろ」
「下がってろって……おい、クロノっ」
ライオネルの制止を無視して、ただまっすぐ歩いていく。獲物を定めたイビルドーザーが、大顎を鳴らしながら突撃してくる。
ヌルのときは部屋が暗かったが、これだけ明るいと姿がはっきりと見える。襲い来る様子は、怖くて仕方がない。それでも、ここで逃げては勝ちを逃すと知っている。
イビルドーザーは俺に巻き付き、絞め殺そうとする。シャドーデーモンは歓声を上げるが、本体の俺が受ける痛みは、あの日ほどじゃない。
巻き付き攻撃を受けた今こそ、俺の必殺の間合いだ!
「【ダークネス】【ダークネス】【ダークネス】」
一撃で装甲に亀裂が走り、二撃でぶち抜いた。ご自慢の巨体に大穴を開けたイビルドーザーは、茶色の血を撒き散らしながらのたうち回っている……。
やがて甲高い断末魔を上げたあと、絶命した。
問題となる血の酸は、シャドーデーモンを一匹脱ぎ捨てるだけで無効化できる。少量のマナを消費しただけで倒したのだから、上出来だろう。
「おいクロノ! 無茶しやがる……怪我はないかっ!?」
「安心しろ。怪我は……もう治したよ。今後、やつの相手は俺がしよう」
「それは助けるけどさ。ひとまず逃げないと――」
「ちゃんと倒したじゃないか。別に逃げる必要は……んっ? 何の音だ?」
遠くから地鳴りのような音がする。鈍感な魔術師が、足の裏で振動を感じるようになった。そして、森の向こうから、黒い波が押し寄せてくる……!?
「イビルドーザーは死ぬ間際に、仲間を呼ぶんだよっ! あれ全部、任せていいのか!? ダメだろ!?」
「任せろ。逃げ足には自身がある! 逃げるぞ!」
俺たちはなりふり構わず逃げることになった……。
「ぶっさ。早く起きるにゃん。お望みのイゼクト大森林が見えてきたにゃんよ!」
「おぉ……そうか……よくやった……」
「テンション低いにゃん。あんたも冒険者なら30秒で起きろにゃん」
昨日は神経を使ったし、寝心地が悪かった。あと遠征苦手かもしれない。北の森のピクニックを思い出してテンション下がるんだよな……。
「相方はもうとっくに起きてるにゃんよ」
そう言われると弱いのが日本人である。顔面に張り手をかまして起き上がる。
「……ここがイゼクト大森林か。ただの森にしか見えないが。ルークは入ったことあるか?」
「あの槍を手に入れる前に少しだけ。森って感想は、間違いじゃない。ただし、めちゃくちゃ広いのさ。あとは魔物の数が半端じゃない」
樹海みたいなものだろうか。見つけ出すのは苦労しそうだ。
「カーッ!」
『自分が空から偵察してくる、だってさ』
「よし、カークに任せる。俺たちの準備が終わるまで、軽く周囲を探してくれ」
カークが任せろと言わんばかりに翼を広げ、飛んでいった。あっという間に姿が見えなくなった。飛行って便利だなぁ。飛べない豚はただのオークさ。
「……あれ? 空の彼方が曇り始めたぞ。天候が不安定な場所なのか?」
「いや……あれは挨拶みたいなもんかな」
ルークが言った意味が分からず、遠くの雲を眺めていると、どんどん近づいてくる。はて、風はないはずなのだが……。
「……これ、何の音だ?」
「すぐに分かる。あの鳥、死んでなきゃいいけどな」
「カー! カァァァァッ!?」
「おっ、お前のペット生きてる。良かったな」
妙に早い雲に追い立てられるように、カークが鳴きながら戻ってくる。謎の音が、次第にはっきりしてきた。これは、羽音だ。無数の羽音が混ざり合って耳を通り抜け、背筋を凍らせる。
「あれ全部、虫なのか!?」
「そうだよ。あれ全部キラービーだ。戦士殺しさ」
「範囲攻撃の魔術スキルでもにゃいと、蜂の巣にゃん」
「やつらなりにテリトリーがあって、入るのあのザマだ。困ったことに、テリトリーの目安になるものはない」
あいにくと範囲攻撃は切らしてまして。とにかくカークが無事で良かった。厄介な虫雲は森の奥に消えていった……。
「カーク、大丈夫か?」
俺の肩に止まって、縮こまって震えている。よほど怖い思いをしたらしい。アレに追い立てられるのは、しばらく夢に見ることだろう。
「もう分かったと思うけど、念のために言っておく。イゼクト大森林は、虫型の魔物の聖地みたいなもんでね。並の冒険者じゃ、すぐに引き返すことになる」
「まっ、数時間はここで待っておいてやるにゃん。キャリィたちも眠いからにゃあ……」
「中で何か起きても、俺たちじゃたどり着けない。助けは期待しないことだ。もし引き返すか迷ったなら、早いうちがいいだろうな」
ありがたい助言を受け取ったところで、俺の準備は完了した。ライオネルも完全武装している。朝日が反射して眩しいというか、もううっとおしいレベルの輝きであった。
「よっしゃ、行こうぜ。ガードとして、きっちり守るからよ!」
「行くか。お前たちは別に帰ってくれて構わない。もし残るつもりなら、出迎えの準備でもしとくんだな」
ライオネルを先頭に、いざ森の中へ……。
イゼクト大森林は、緑の匂いが濃い。ジャングルほどではないが、木々が立ち並び視界は狭い。ただ、天然の障害物のおかげで、森に入った瞬間にキラービーに追い出されずに済んでいるのだろう。
「カーク、俺から離れるな。空からの捜索は、今は待て」
「それがいいぜ。いくら弱い魔物でも、あれだけの数じゃ鉢合わせたら捜索どころじゃないぜ……」
「先頭は任せるぞ。しばらくはまっすぐ進んでくれ。ファウストの居場所はもっと奥地だろう。近くに居るなら、さっさと森から出ているからな」
「違いねぇぜ。会話も最低限でいこう。目的は捜索だし」
「あぁ、魔物を呼びたくないからな」
先頭をライオネルに任せ、俺はシャドーデーモンを周囲に展開する。イゼクト大森林は広大なフィールドらしく、外から偵察は不可能だ。自らの足で歩きながら、周囲を人海戦術で探すのが発見の近道になるだろう。
「……クロノっ」
ライオネルが息を潜めて俺を呼ぶ。そしてすぐに、魔物が現れた。
背丈は俺と同じくらい。虫にしてはデカすぎだ。両手の鎌がギラりと光る。こいつは見たことがある。
「ケイブマンティスか」
「知ってたのか。こいつの攻撃は受けちゃいけねぇ。あの鎌は、金属だって切り裂く。耐えても装備を消耗させちまう。機動力の高いガードなら、相性は悪くないはずだぜ」
装備の消耗、か。確かに、この先も戦いは続く。ライオネルの実力は赤龍戦でこの目に焼き付いているから、疑う余地はない。任せておけば、危なげなく討伐するのだろう。
しかし、一刻も早くファウストを見つけるために、もう手段は選んでいられないか……。
「ライオネル、下がってろ。そいつは俺が始末する」
「始末するって……魔術師があいつの攻撃を食らったら……はぁ?」
ケイブマンティスの両鎌が、地面に落ちた。すぐに足も落ちる。ライオネルが間抜けな声をあげているあいだに、厄介な魔物は無力化した。
ケイブマンティスは、ヌルの一件で弱点を知っている。外殻は硬く刃を通さないが、中身は非常に脆い。外殻には隙間が存在し、そこにシャドーデーモンを滑り込ませ、締め付ければ、その部位はもぎ取れる。
「なっ、何だ!? 新手の魔物かっ!? 一体、どこから攻撃を――」
「落ち着け。俺のスキルだ。トドメを差して、次にいこう」
「あ、あぁ……そうだな……」
本当は、シャドーデーモンの存在を匂わせたくない。それでも、今は一分一秒が惜しいのだ。
ライオネルがトドメを差したのを見届けて、歩きだそうとすると、またケイブマンティスが現れた。しかも数が多い。シャドーデーモン越しに見た光景では、森の奥から追加もやってくる。
「急いでいるんだが……」
「囲まれているな。一度下がって、前方に集中するか?」
「いや、前だけ任せた。食い止めてくれるだけでもいい」
「任せな。それこそ、ガードの得意分野さ」
ケイブマンティスは俺が思っていたより賢いらしい。左右だけならまだ取りこぼしと鉢合わせただけかもしれないが、背後にも居るのだから意図があるのは間違いない。囮を出して実力を確かめ、集団で囲い込み、狩るつもりか。
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ただ、数が多いのは困る。一度に倒せるのは数匹だけなので、何セットにも分けて倒していかないといけない。いくら相性が良くても、やはり限界があるな。
あの両鎌は、恐らくシャドーデーモンさえ切り裂く威力だ。処理が追いつかなければ、俺がやられていただろう。注意を引いてくれているライオネル様様だ。
「……ふぅ、片付いたか」
「トドメはどうする? これだけの数だと、時間がかかりそうだ」
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「……何の音だ?」
「分からねぇ。何か来るぜ……っ」
ほんの少し、地面が揺れた。その揺れが次第に大きくなっていく。前方の地面が爆ぜ、黒い何かが飛び出てきた。
「まずいっ。イビルドーザーだっ」
地面から現れたのは、巨大なムカデだ。禍々しい装甲のような黒い外殻と、無数に生えた赤い足が蠢く。生理的嫌悪感は凄まじいが、こいつも倒したことがある魔物だ。
「何がまずいんだ?」
「硬すぎて刃が通らねぇ。体液は酸性で、触れれば肌が焼けるし、装備を腐食させる。手持ちのロングソードじゃ、ちっとばかし相性が悪いぜ……」
「なるほど。俺が倒そう。下がっていろ」
「下がってろって……おい、クロノっ」
ライオネルの制止を無視して、ただまっすぐ歩いていく。獲物を定めたイビルドーザーが、大顎を鳴らしながら突撃してくる。
ヌルのときは部屋が暗かったが、これだけ明るいと姿がはっきりと見える。襲い来る様子は、怖くて仕方がない。それでも、ここで逃げては勝ちを逃すと知っている。
イビルドーザーは俺に巻き付き、絞め殺そうとする。シャドーデーモンは歓声を上げるが、本体の俺が受ける痛みは、あの日ほどじゃない。
巻き付き攻撃を受けた今こそ、俺の必殺の間合いだ!
「【ダークネス】【ダークネス】【ダークネス】」
一撃で装甲に亀裂が走り、二撃でぶち抜いた。ご自慢の巨体に大穴を開けたイビルドーザーは、茶色の血を撒き散らしながらのたうち回っている……。
やがて甲高い断末魔を上げたあと、絶命した。
問題となる血の酸は、シャドーデーモンを一匹脱ぎ捨てるだけで無効化できる。少量のマナを消費しただけで倒したのだから、上出来だろう。
「おいクロノ! 無茶しやがる……怪我はないかっ!?」
「安心しろ。怪我は……もう治したよ。今後、やつの相手は俺がしよう」
「それは助けるけどさ。ひとまず逃げないと――」
「ちゃんと倒したじゃないか。別に逃げる必要は……んっ? 何の音だ?」
遠くから地鳴りのような音がする。鈍感な魔術師が、足の裏で振動を感じるようになった。そして、森の向こうから、黒い波が押し寄せてくる……!?
「イビルドーザーは死ぬ間際に、仲間を呼ぶんだよっ! あれ全部、任せていいのか!? ダメだろ!?」
「任せろ。逃げ足には自身がある! 逃げるぞ!」
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