156 / 230
絆編
ネーミングセンスでクロノ死す
しおりを挟む
数日に渡って調査を続けたが、やはり森に変化はない。赤龍との戦闘の爪痕は、土の魔術師たちが埋めて修復してくれたらしい。
人が手を入れて管理しているからこそ、動物たちや弱い魔物が生息し、繁殖してくれる。それを見習い冒険者たちが倒して実力を付けていく。強敵は町が一丸となって倒す。世の中、うまく回ってるもんだ。
こうして、赤龍の騒動は完全に終結した。俺の調査も終わり、夜にマイホームに帰ると、シャドーデーモンが勝手に明かりを付けてくれる。
「カラス、梟、帰ったぞー」
二階の吹き抜けからカラスが飛び降りてくる。ちゃんと寝床は用意しているのだが、ナイトメア通訳によると、『怪しいやつが入って来ないか監視している』らしい。もちろん、たまにサボる。うたた寝もままあるが、許す。でも、そのまま落ちるのはどうかと思う。危ないぞ。
「かー!」
「よしよし、出迎えご苦労。いいカラスだ」
梟は出迎えに来なかった。あいつは気分屋だからな。
『いつまでもカラスくんと呼ぶつもりかい? そろそろ名前を付けてあげたらどうだい?』
ふむ、一理ある。カラスくんは赤龍戦で、レスキューバードの役目を果たした。援軍は来なかったが、それは別の話だ。いわば一緒に戦った仲間なわけで、少し豪華な死肉? をあげただけでは報酬としては物足りないもんな。
「……俺、名前付けるの苦手なんだよなぁ」
『キミがちゃんと考えて付けた名前なら、きっと喜んでくれるさ』
カラスくんは鳥だ。カラスだ。だからそれらしい名前がいいと思う。真っ先に浮かんだのは、クロ。すぐに却下した。
黒いカラスだし安直な感じだし、これはペット全般に使われそう。そして何より、俺の名前と被る。俺の正式名称がクロノだし。呼べる人ほとんど居ないけどな。クロの○○なんて遠回しに俺の名を呼ぶ幻のシチュエーションなどいらん。
次は、キョ口ちゃん。某お菓子のキャラクターである。銀はいくつか集めたけど、いつの間にか捨てているのでお宝を拝んだことはない。ちなみに、『ロ』ではなく『くち』だからきっと怒られないと信じたい。
他には、トリ○ピー。ピーは修正音だからこちらもセーフ? この手の発想はギリギリを攻めてこそ意味がある。まぁ、そういうやつはだいたい事故って死ぬんだが。
『やめなよ』
ナイトメアにもお叱りを受けたので、真面目に考える。これから何度も呼ぶわけだから、呼びやすい名前がいい。そして閃いたのは……。
「よし、お前の名前は……カークだ!」
「カー!」
「よしよし、自分の名前を覚えたな。この名前は、いわば称号だ。赤龍の戦いに参加した称号だ。カークとしてこれからも適度に励むんだぞ」
カラス改め、カークと喜びを分かち合っていると、白い塊が音もなく飛んでくる。気分屋レディ・梟である。
「ほー」
『梟も名前が欲しいってさ』
「こういうときだけ素直なんだから……」
『どうもカークのせいらしいよ。よく見てごらん』
カークは梟の横に立ち、じーっと横顔を見ている。微妙に近い距離で。表情の違いは分からないが、これは煽りでは?
俺は名前もらったけど、梟ちゃんは!???!?!? きっとこんな感じなのだろう。すぐ調子に乗るカークは、逆に親近感が湧くなぁ。
「しゃーない。梟は俺のペットだ。ペットはファミリー。名前を付けてやろう」
最初は、本当に定住すると思っていなかった。そのうち飽きて故郷に帰ると思っていたので、別れが寂しくなるから名前を付けなかったのである。どうやら居座る気満々のようなので、いつまでも梟ではいかんな。
この梟は白い。だから最初に浮かぶのは、某ファンタジー超大作で有名なヘドウ○ッグだが、これまた怒られそうなので言葉には出来ない。名前を呼んではいけないあの人状態である。
ちなみに、誰に怒られるかというと、俺と同じく転生した人が居るかもしれない。そいつがファンかもしれない。だからどこかの何かから名前を取ってはいけないのである。うん。
頭からあの鳥のイメージを振り払おうとするも、どうもそのイメージが強すぎる。ちょっと名前を変えれば許されるのではないか?
「うーん……ヘルウィッグ?」
『地獄のカツラ』
「ホォォォッ!!」
これには梟も激おこ。飛び上がって俺の肩の肉を掴みながら、くちばしで頭を攻撃してくる。俺の髪は巣の材料ではない。ハゲとそこまで並びたくない。
「痛い痛い! 防具は外してるんだから、肩に止まるのはやめろって!!」
肩だけ部分的ダイエットになる前に、真面目に考えよう。
「よし、梟。お前の名前は、ネロだ」
『意味が知りたいらしいよ。キミが地獄のカツラなんて出すからだよ』
まるで信用されていない。一応、理由はある。梟から『ふく』を取り、福という漢字を崩してネロにしたわけだが、漢字だと言っても伝わるまい。そうなると……。
「昔の偉いやつだ。ほら、お前も見た目は高貴だし、ピッタリじゃないか?」
暴君などと言われていることもあるが、その実態は定かではない。歴史は勝者が作るもの。このご時世……前世だとデマはすぐに論破されるが、当時は有力者の意向が反映されやすい。ぶっちゃけ、俺はどっちでもいい。
ひとつだけハッキリしていることは、ネロは偉いやつなのだ。昔の偉人にあやかって名付けをするのは、普通のことだろう。
『ネロでいいらしいよ。良かったね』
後出しで作った理由を説明すると、梟も納得してくれた。めでたしめでたし。まぁ、皇帝の名前をペットに名付けるって、ちょっとドSっぽい。出来ることなら俺が美少女に飼われたいよ。理想は交代制だけどな。
「名前も決まったし、俺は疲れている。夜も遅い。早くネロ」
おじさんの渾身のダジャレは通じることもなく、鳥たちは大人しく巣箱に戻っていった。寂しくなんてないもん。
翌日、ギルドに出勤すると、ギルド長がお出迎えしてくれた。
ギルドにはふたつの太陽がある。ひとつはハゲ頭。もうひとつは、美人の存在そのものである。むさ苦しい冒険者が大半を占めるギルドにおいて、ギルド長は太陽と呼ぶ他ないだろう。
「やぁ、おはよう。さっそくだが、少し話をしよう。ついてきたまえ」
爽やかな笑顔から、有無を言わさぬこの感じ。間違いなく、作り笑いだなぁ。察したからこそ、黙って別室に続く。ソファーに腰を下ろした。
「君に頼みがある。赤龍戦の話を、私に売ってはくれないか?」
言い出されたときは了承するつもりだったが、少しくらい、探りを入れてみるか。
「ちょっと困りましたね。他の冒険者から、赤龍の話を聞きたいって言われることも増えそうだし。昔とは状況が違うというか?」
「なるほど。分かったよ。金貨20枚出そう。ファウストくんは、了承してくれたが?」
ファウストから手紙は来ていない。この場でファウストの名前が出たということは、王都ギルドは既に口止めをしたか。嫌な予感ばかり当たっちまうな。
「それで王都からとんぼ返りしてきたわけですか」
「私も上から話を聞かされたときは、本当に驚いたよ。素直に祝福したかったのだがね、上司風を吹かせねばならなくなってしまった」
「称号を得た人が現れるたびに、こんなことを?」
「極めて稀なケースだよ。よりによって、赤龍とは。他の魔物はともかく、赤龍は最悪だね。人の言葉を理解する彼らが、答えに近いヒントを与えてしまうからね」
そう、龍は会話が出来るのだ。俺と赤龍の会話内容は、まさしく称号習得の条件である。これをべらべらと周りに話されると、誰でも気づく。
「幸いにも、君は重要な部分を隠して話したそうじゃないか。用心深い君らしい行いに、感謝してもしきれないよ」
俺は赤龍戦の話を宴で話したが、ダークレイやオーバーロードなど、各々の切り札となるスキルの話はしなかった。だから、3人で頑張って倒しました……そういう話だったのだ。今思えば、紙一重だったな。
「うっかり話していたら、どうなっていたんでしょうねぇ」
「ゾっとする話だね。町を救った功労者を、嘘つき者として叱らねばならなかっただろうね。その場に、私とハーゲルも居たとね」
消されるとかじゃなくて良かった。俺はまだやることがあるんだ。意地悪はこれくらいにして、さっさと売るか。
「ありがとう。称号の話に関わらない部分は、好きに話してくれて構わない。聡明な君のことだ、うまくやるだろうからね」
「それはどうも。本日初めてギルド長の笑顔を見ましたよ」
「意地悪なことを言わないでくれたまえ。これで無駄に人が死なずに済む……あぁ、君をどうこうするとか、物騒な話ではないからね」
「分かっていますよ。見知った顔が、ある日突然居なくなるなんて、嫌ですからね」
「うむ。上は戦力としか見ておらずとも、我々は違う。称号の秘密を守ることで、友人や仲間を不用意な危険から救える。あれはハイリスク・ローリターンだ。仲間の命と引換えに手に入れた称号など、虚しいものだよ」
「俺もだいたい同じ意見ですよ。それが分かるのは、称号を習得するほど、紙一重を生き抜いた人だけなのもまた、面倒なところですね」
「まさしくね。私が隠居するときは、君をギルド長にしようかな」
ギルド長なんて面倒なだけだろう。死んでも嫌だね。ギルド長が隠居したくなったら、隠居したくなくなる話をしてやろう。クリスタルゴーレムの地域特性とか、きっと詰め寄ってでも聞きたがるだろうしな。
「さて、私の話はおしまいだ。今日も頑張ってくれたまえ」
「その笑顔がいつまでも見れるように、精進します」
厄介事をナチュラルに回避していた俺は、しばらくの間は平凡な日々を過ごしていた。
そんなある日のこと、いつも通りに出勤すると、ハゲが深刻な表情で話しかけてきた。
「ブサクロノ……言おうか迷ったが、言う。良くない知らせが届いた」
「どうした? 俺のお仕置き時間が伸びたか? 町中で駄々こねちゃうぞ」
「ファウストが……行方不明らしい……」
人が手を入れて管理しているからこそ、動物たちや弱い魔物が生息し、繁殖してくれる。それを見習い冒険者たちが倒して実力を付けていく。強敵は町が一丸となって倒す。世の中、うまく回ってるもんだ。
こうして、赤龍の騒動は完全に終結した。俺の調査も終わり、夜にマイホームに帰ると、シャドーデーモンが勝手に明かりを付けてくれる。
「カラス、梟、帰ったぞー」
二階の吹き抜けからカラスが飛び降りてくる。ちゃんと寝床は用意しているのだが、ナイトメア通訳によると、『怪しいやつが入って来ないか監視している』らしい。もちろん、たまにサボる。うたた寝もままあるが、許す。でも、そのまま落ちるのはどうかと思う。危ないぞ。
「かー!」
「よしよし、出迎えご苦労。いいカラスだ」
梟は出迎えに来なかった。あいつは気分屋だからな。
『いつまでもカラスくんと呼ぶつもりかい? そろそろ名前を付けてあげたらどうだい?』
ふむ、一理ある。カラスくんは赤龍戦で、レスキューバードの役目を果たした。援軍は来なかったが、それは別の話だ。いわば一緒に戦った仲間なわけで、少し豪華な死肉? をあげただけでは報酬としては物足りないもんな。
「……俺、名前付けるの苦手なんだよなぁ」
『キミがちゃんと考えて付けた名前なら、きっと喜んでくれるさ』
カラスくんは鳥だ。カラスだ。だからそれらしい名前がいいと思う。真っ先に浮かんだのは、クロ。すぐに却下した。
黒いカラスだし安直な感じだし、これはペット全般に使われそう。そして何より、俺の名前と被る。俺の正式名称がクロノだし。呼べる人ほとんど居ないけどな。クロの○○なんて遠回しに俺の名を呼ぶ幻のシチュエーションなどいらん。
次は、キョ口ちゃん。某お菓子のキャラクターである。銀はいくつか集めたけど、いつの間にか捨てているのでお宝を拝んだことはない。ちなみに、『ロ』ではなく『くち』だからきっと怒られないと信じたい。
他には、トリ○ピー。ピーは修正音だからこちらもセーフ? この手の発想はギリギリを攻めてこそ意味がある。まぁ、そういうやつはだいたい事故って死ぬんだが。
『やめなよ』
ナイトメアにもお叱りを受けたので、真面目に考える。これから何度も呼ぶわけだから、呼びやすい名前がいい。そして閃いたのは……。
「よし、お前の名前は……カークだ!」
「カー!」
「よしよし、自分の名前を覚えたな。この名前は、いわば称号だ。赤龍の戦いに参加した称号だ。カークとしてこれからも適度に励むんだぞ」
カラス改め、カークと喜びを分かち合っていると、白い塊が音もなく飛んでくる。気分屋レディ・梟である。
「ほー」
『梟も名前が欲しいってさ』
「こういうときだけ素直なんだから……」
『どうもカークのせいらしいよ。よく見てごらん』
カークは梟の横に立ち、じーっと横顔を見ている。微妙に近い距離で。表情の違いは分からないが、これは煽りでは?
俺は名前もらったけど、梟ちゃんは!???!?!? きっとこんな感じなのだろう。すぐ調子に乗るカークは、逆に親近感が湧くなぁ。
「しゃーない。梟は俺のペットだ。ペットはファミリー。名前を付けてやろう」
最初は、本当に定住すると思っていなかった。そのうち飽きて故郷に帰ると思っていたので、別れが寂しくなるから名前を付けなかったのである。どうやら居座る気満々のようなので、いつまでも梟ではいかんな。
この梟は白い。だから最初に浮かぶのは、某ファンタジー超大作で有名なヘドウ○ッグだが、これまた怒られそうなので言葉には出来ない。名前を呼んではいけないあの人状態である。
ちなみに、誰に怒られるかというと、俺と同じく転生した人が居るかもしれない。そいつがファンかもしれない。だからどこかの何かから名前を取ってはいけないのである。うん。
頭からあの鳥のイメージを振り払おうとするも、どうもそのイメージが強すぎる。ちょっと名前を変えれば許されるのではないか?
「うーん……ヘルウィッグ?」
『地獄のカツラ』
「ホォォォッ!!」
これには梟も激おこ。飛び上がって俺の肩の肉を掴みながら、くちばしで頭を攻撃してくる。俺の髪は巣の材料ではない。ハゲとそこまで並びたくない。
「痛い痛い! 防具は外してるんだから、肩に止まるのはやめろって!!」
肩だけ部分的ダイエットになる前に、真面目に考えよう。
「よし、梟。お前の名前は、ネロだ」
『意味が知りたいらしいよ。キミが地獄のカツラなんて出すからだよ』
まるで信用されていない。一応、理由はある。梟から『ふく』を取り、福という漢字を崩してネロにしたわけだが、漢字だと言っても伝わるまい。そうなると……。
「昔の偉いやつだ。ほら、お前も見た目は高貴だし、ピッタリじゃないか?」
暴君などと言われていることもあるが、その実態は定かではない。歴史は勝者が作るもの。このご時世……前世だとデマはすぐに論破されるが、当時は有力者の意向が反映されやすい。ぶっちゃけ、俺はどっちでもいい。
ひとつだけハッキリしていることは、ネロは偉いやつなのだ。昔の偉人にあやかって名付けをするのは、普通のことだろう。
『ネロでいいらしいよ。良かったね』
後出しで作った理由を説明すると、梟も納得してくれた。めでたしめでたし。まぁ、皇帝の名前をペットに名付けるって、ちょっとドSっぽい。出来ることなら俺が美少女に飼われたいよ。理想は交代制だけどな。
「名前も決まったし、俺は疲れている。夜も遅い。早くネロ」
おじさんの渾身のダジャレは通じることもなく、鳥たちは大人しく巣箱に戻っていった。寂しくなんてないもん。
翌日、ギルドに出勤すると、ギルド長がお出迎えしてくれた。
ギルドにはふたつの太陽がある。ひとつはハゲ頭。もうひとつは、美人の存在そのものである。むさ苦しい冒険者が大半を占めるギルドにおいて、ギルド長は太陽と呼ぶ他ないだろう。
「やぁ、おはよう。さっそくだが、少し話をしよう。ついてきたまえ」
爽やかな笑顔から、有無を言わさぬこの感じ。間違いなく、作り笑いだなぁ。察したからこそ、黙って別室に続く。ソファーに腰を下ろした。
「君に頼みがある。赤龍戦の話を、私に売ってはくれないか?」
言い出されたときは了承するつもりだったが、少しくらい、探りを入れてみるか。
「ちょっと困りましたね。他の冒険者から、赤龍の話を聞きたいって言われることも増えそうだし。昔とは状況が違うというか?」
「なるほど。分かったよ。金貨20枚出そう。ファウストくんは、了承してくれたが?」
ファウストから手紙は来ていない。この場でファウストの名前が出たということは、王都ギルドは既に口止めをしたか。嫌な予感ばかり当たっちまうな。
「それで王都からとんぼ返りしてきたわけですか」
「私も上から話を聞かされたときは、本当に驚いたよ。素直に祝福したかったのだがね、上司風を吹かせねばならなくなってしまった」
「称号を得た人が現れるたびに、こんなことを?」
「極めて稀なケースだよ。よりによって、赤龍とは。他の魔物はともかく、赤龍は最悪だね。人の言葉を理解する彼らが、答えに近いヒントを与えてしまうからね」
そう、龍は会話が出来るのだ。俺と赤龍の会話内容は、まさしく称号習得の条件である。これをべらべらと周りに話されると、誰でも気づく。
「幸いにも、君は重要な部分を隠して話したそうじゃないか。用心深い君らしい行いに、感謝してもしきれないよ」
俺は赤龍戦の話を宴で話したが、ダークレイやオーバーロードなど、各々の切り札となるスキルの話はしなかった。だから、3人で頑張って倒しました……そういう話だったのだ。今思えば、紙一重だったな。
「うっかり話していたら、どうなっていたんでしょうねぇ」
「ゾっとする話だね。町を救った功労者を、嘘つき者として叱らねばならなかっただろうね。その場に、私とハーゲルも居たとね」
消されるとかじゃなくて良かった。俺はまだやることがあるんだ。意地悪はこれくらいにして、さっさと売るか。
「ありがとう。称号の話に関わらない部分は、好きに話してくれて構わない。聡明な君のことだ、うまくやるだろうからね」
「それはどうも。本日初めてギルド長の笑顔を見ましたよ」
「意地悪なことを言わないでくれたまえ。これで無駄に人が死なずに済む……あぁ、君をどうこうするとか、物騒な話ではないからね」
「分かっていますよ。見知った顔が、ある日突然居なくなるなんて、嫌ですからね」
「うむ。上は戦力としか見ておらずとも、我々は違う。称号の秘密を守ることで、友人や仲間を不用意な危険から救える。あれはハイリスク・ローリターンだ。仲間の命と引換えに手に入れた称号など、虚しいものだよ」
「俺もだいたい同じ意見ですよ。それが分かるのは、称号を習得するほど、紙一重を生き抜いた人だけなのもまた、面倒なところですね」
「まさしくね。私が隠居するときは、君をギルド長にしようかな」
ギルド長なんて面倒なだけだろう。死んでも嫌だね。ギルド長が隠居したくなったら、隠居したくなくなる話をしてやろう。クリスタルゴーレムの地域特性とか、きっと詰め寄ってでも聞きたがるだろうしな。
「さて、私の話はおしまいだ。今日も頑張ってくれたまえ」
「その笑顔がいつまでも見れるように、精進します」
厄介事をナチュラルに回避していた俺は、しばらくの間は平凡な日々を過ごしていた。
そんなある日のこと、いつも通りに出勤すると、ハゲが深刻な表情で話しかけてきた。
「ブサクロノ……言おうか迷ったが、言う。良くない知らせが届いた」
「どうした? 俺のお仕置き時間が伸びたか? 町中で駄々こねちゃうぞ」
「ファウストが……行方不明らしい……」
0
お気に入りに追加
150
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる