ブサイクは祝福に含まれますか? ~テイマーの神様に魔法使いにしてもらった代償~

さむお

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絆編

ぼっちすぎてクロノ死す

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 ファウストが王都に帰ってから数日後。今日も元気にギルド職員として頑張るぞい。


「おい、ブサクロノ。そろそろ調査を頼めるか」

「調査? ハゲの嫁さんの欲しいものでも調べればいいのか?」

「そんなわけねぇだろ。それはまた今度頼むわ、まじで。今回の調査は、赤龍出現で周辺の環境が変わってないか調査して欲しいんだよ」


 強敵との戦闘による環境変化の確認か。ドッカンドッカンやり合うと、どうしても自然環境が乱れたり、周囲の魔物が逃亡して生態系が微妙に狂ったりする。


 北の森に赤龍が潜んでいたとき、魔物の出現は極端に減った。やはり魔物も強敵は怖いのだ。だから、より遠くに行く。つまりはテリトリーが変化する。


 北の森にしか居ないはずのビッグボアが、なぜか他の森に現れるのだ。これは俺が何度も体験したことだし、ギルド職員の今ではより重要度が高いと思う。


 ギルド職員は、地域と冒険者のために活動する。アルバは中堅~新人冒険者が大半を占める。実力や経験が乏しい彼らが、居るはずもない魔物に遭遇したときの危険度は高い。


 極端な例だと、毒を持たない魔物しか居ないはずの場所に、毒を持った魔物が現れればどうなるか。解毒ポーションをお守り代わりに持つ人も居るとは思うが、すぐに使い切ることになるだろう。想像しただけで恐ろしい話だ。


 この手の調査はとにかく時間がかかる。周囲の確認は済んだが、他の森にどのような影響が及んでいるかはまだ未確認らしい。


「お前にも慣れて貰わないとな。そんなわけで、さっさと行ってこい。夜は俺が担当するから、夕刻までには戻ってこい」

「ういーっす。クロノ、行きまーす!」


 冒険と言えば準備は付き物だが、装備も持ってきているし、中級マナポーションだけで事足りる。いつもの森にレッツゴー。


「ここがやつのハウスね」


 毎度お馴染みの森である。先人たちの足跡を微妙に追ったり避けたりしつつ、闇雲に探索している。どこに何が居るか分からないから、これでいいんだよ。○○の巣……みたいな場所なら異変に気づきやすいんだろうが。


「まぁ、どこで何が出てきても余裕さ。今の俺は、アルバの町を微妙に救った英雄的存在だ。称号だって持ってるもん」

『今更のことだけど、赤龍討伐おめでとう。ボクも鼻が高いよ。そんなもの、ないけどね』

「おい最後……俺も強くなったわけじゃん。それに比例して、ナイトメアも存在が強まったりしないのか?」

『ないと言えばないし、あると言えばあるよ』

「ほうほう、例えば?」

『ボクを召喚するといい。レベルを捧げるほど、ボクもより形がハッキリするんじゃないかな』

「それ俺が弱くなるやつ……」

『ハハハ。ボクに期待しても無駄さ。ボクはキミなんだから、キミに出来ないことを求められても困るよ』


 懐かしのテンプレ回答をいただきました。いつも平常運行だな。


「俺も赤龍を討伐するくらい強くなったんだ。もうナイトメアを召喚する機会もなくなるんじゃないか」

『そうだといいね。あっ、キミの後ろに強そうな魔物が』

「びくぅぅぅっ!? なんだ、ホーンラビットか」

『今、1メトルくらい飛び上がったね? 情けなさすぎて、赤龍もあの世で泣いてるよ』

「ら、ラスボスだからセーフ。それに、いきなり視界に入ったらびっくりするに決まってるだろ。おいそこのホーンラビット、B級ホラー映画のキラー役に推薦してやろうかっ!?」


 かつては俺のラスボスとして君臨し、死闘を繰り広げたり、俺のアナルを掘ろうとしてきたやつだが、今となっては角の生えた動物にしか見えないな。


「無駄な殺生は好まない。森におかえり」

『右手に見えますのが、森でございます。左手に見えますのも、森でございます。そう、ここが森でございます。縄張りに土足で踏み入ってきたのは、こちらでございまぁす』


 ナイトメアのツッコミも、冗談交じりである。それだけの余裕が俺たちにはあるのだ。


 だから大人の余裕で見逃してやろうとしているのに、ホーンラビットが襲いかかってきた。


「危な……くない!?」


 相手さんは体を縮こまらせ、後ろ足で力強く地面を蹴る。途中でおひねりを加えて攻撃してきたのだが、どうにも動きが遅い。見てから回避余裕でした。


「うむ、俺も強くなってるな。強さとは、格下を相手にしたとき最も効果を発揮する、と」

『その格下が逃げずに立ち向かってくるあたり、キミのオーラのなさは最強だね』


 その攻撃は俺に効く! 基本的に格上どころか化け物に好まれる俺だが、たまには悦に浸ってもいいじゃない……。


 それにしても、妙だな。ホーンラビットの動きが本当にゆっくり見えるぞ?


「俺さま、強くなりすぎじゃないか? 基本的にレベルは上がってないし、ステータスも強化されてないはずなんだけど」


 これが称号の効果だ! と思いたいところだが、俺は低レベルなのである。いかんせん基礎ステータスが低すぎる。称号で微妙に上がったにせよ、ここまで効果が出るものではないはずだ。


 どこかでレベルが上がったのだろうか? 最近は忙しくてスライム狩りもしていない。まさか寝ている間に、マイホームに侵入してきたへんたいふしんしゃさんをボコっていた、なんてこともない。


 俺は常時シャドーデーモンをサモンしている。つまり、日常生活でも1ミリも経験値が入らない仕組みなのだ。


「どこでレベル上がったんだろう……」

『考えられるのは?』

「うーん、赤龍を討伐したとき?」


 俺の最強自傷スキルことダークレイ。使った瞬間から、もの凄い早さでシャドーデーモンが死んでいった。俺もすぐに後を追うことになりそうだったが、本当に寸前のところで赤龍を倒したのである。


 そのとき、シャドーデーモンが全滅していれば、サモンのデメリットはなくなる。そのごく僅かな時間なら、赤龍を討伐した経験値が俺に入るわけで……。


「うっそ!? 俺、レベル上がってるじゃん!?」

『レベルアップおめでとう』


 レベルアップは嬉しいものだ。単純に強くなるし、頑張りが認められた感じがして実に良い。それなのに、俺はサモンのデメリットで、ちっともレベルが上がらないのだ。死ぬよりはましだけど。


 だから、奇跡的な出来事が重なったとはいえ、自分がレベルアップしたなんて、もう本当に嬉しすぎる。ホーンラビットもドリルスピンでお祝いしてくれるので、一緒に小躍りしといた。


「こいつ、ちっとも逃げないぞ……」


 我に返った俺は、懲りずに攻撃を続けるホーンラビットの対応に困っていた。


 今はサモンしている。倒しても経験値は貰えない。だから倒す理由がまったくない。無意味な殺生は、レベルアップの高揚感に泥が付きそうだ。


 しかし、逃げると付いてきそう。ギルド職員として調査しているので、じっとりねっとり調べねば手抜きになる。遭遇するたびに走って逃げていたら調査がやりにくい。歩いて調べていると、他の魔物もやってきて流石に困る。


 仲間になりたくてこちらを見ているならともかく、自分の血肉にしたくてたまらないのは明らかである。むき出しの敵意の対象にされても穏やかなのは、やはり俺が強いからだろう!


「角だけ折れば流石に諦めるかな?」

『キミはご自慢の竿をちぎられて、「あばよ」って言われたらどう思う?』

「絶対に許さない。角を追ったらただのラビット。うさぎさんになっちゃうもんな。まいったなぁ。殺さないと決めたら、意地でも殺さないぞ」

『しょうがない。ボクが特別に、知恵を授けよう。赤龍を討伐したお祝いみたいなものさ』


 なん、だと……? ナイトメアが自主的に、知恵を貸してくれるなんて! 今日一番の驚きである。はたして、その内容は……。


『力を見せつけるのさ。それで分からせるんだ』

「ダメだよ、ダークレイなんて使ったら死んじゃう。俺が」

『だったら、ダークネスは? キミの最強スキルじゃないか』

「見てから回避余裕でしたってなるだろ。さっきの俺のブーメランになっちゃうだろ」

『シャドウバインド使いなよ。当たる直前で拘束を解けば、伝わると思うけど?』

「なんか悪魔みたいで嫌だなぁ。こいつに恨みないし」

『やれやれ、わがままだなぁ』

「お前こそ、上位存在の容疑者のくせに、知恵がしょぼいぞ。それくらい俺だって浮かぶっつーの」

『当たり前じゃないか。ボクはキミなんだから』

「結局いつもと同じじゃねーか!」


 ナイトメアはやっぱり平常運行だった。当てにしちゃダメだな。絡むのは楽しいけどさ。


『だったら、もう威嚇するしかないね』


 威嚇、か。自分を強く見せるにはうってつけだな。これなら動物の常識の範疇だし、通じそうだ。


 よし、威嚇しよう。半端な威嚇は逆効果だ。恥も外聞も捨てて、本気の威嚇をして、誰が強者か分からせてやる!


「ピンギャアァァァァァッ!」


 両手を上げ、背筋を伸ばし、全力の咆哮をする。ホーンラビットは『ビクッ』としたあと、茂みの中に消えていった……。


「威嚇……これが俺の、新しい力だ!」


 凄く弱そう……そうツッコまれたが無視して、調査を続行した。道中は何度も魔物に絡まれたので、威嚇で追い払った。


「……うん、こんなものかな」


 こうして、探索を終えた俺は、ギルドに戻ってきた。特に脅威となる変化は起きておらず、低ランクの冒険者たちが森に入っても問題ないだろう。


 報告書を作成しようとしていると、ギルドの扉が勢いよく開き、息を切らした冒険者が転がり込んできた。


――た、大変だ! 森に……森に、何かが居る!

「いやいや、俺が調査を終えたばかりだぞ。何も居ないから安心しろ」

――いや、でも……奇妙な鳴き声がして……っ。


 冒険者の表情は真剣だった。その思いが伝わったらしく、酒場でくつろいでいる冒険者たちも、少し険しい表情になった。ここはギルド職員として、きちんと対応してやらねばなるまい。


「どんな鳴き声だった? 姿は見たか?」

――姿は見てないけど、鳴き声は今も耳の奥にこびりついてる。『ピンギャアァァァァァッ!』って、珍妙な鳴き声だった!


 あぁぁぁぁぁっ!? それ俺じゃん!? うわっ、聞かれてたのか。恥ずかしいぃぃっ。


 ここはうまく誤魔化したいところだが――。


――聞いたことのない鳴き声だ。新種か?

――Dランクの俺が調査してみよう。

――なんだか、間抜けな感じもするな。


 酒場は奇妙な鳴き声の話題で一色である。どうしよう、これ凄く言い出しにくい。罰ゲームかよぉ……。


「……すまん、それ俺の声だ」

――はぁ……?

「魔物を威嚇しようとして……その……ねっ?」


 赤龍を倒し、正式にギルド職員になった俺は、少しだけ尊敬の眼差しで見られていたと思う。でも、それももう終わりだ。どいつもこいつも、こいつ何やってんだって、残念な目で俺を見てきやがる。


 アルバは平和だった。評価を落とした俺にとっては、散々な日となった……。
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