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絆編
龍狩りのクロノ死す
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「おいお前ら! 主賓そっちのけで盛り上がってんじゃねぇ!!」
声を大にして存在感を出すと、バカ騒ぎをしていた冒険者がチラりと見てきた。そして、またバカ騒ぎに戻った。なんでじゃー!?
――だってお前、どうせ赤龍の話しないだろ……。
――そうそう。ギルド長に売ったからダメだって言うんだよな。
――だからこっちで勝手に盛り上がったほうが楽しいよな。
――ライオネルなら話してくれそうだけど、逃げちまったからなぁ。
「ぐぬぬ……なんたる言い草。町を守ったどすけべヒーローに対する敬意というものが足りん」
――そう言われても。酒奢ってやるから機嫌直せって。
――食べかけのつまみもやるよ。
――一品だけ奢ってやるか。何がいいんだ?
「そうそう、俺様を労ってだな……って、ささやかすぎだろぉ!?」
こんなの赤龍討伐の宴じゃない。ただの飲みじゃねーか。しかも家飲みレベルの地味さ。こうなったら、話してやるか……。
「あーあ、せっかく赤龍の話をしてやろうと思ってたのに。こんなしょぼいんじゃ、話す気にならないな……チラッ」
ガタリ。冒険者たちの椅子が揺れる。露骨に食いついた浅ましい人間どもよ……さぁ、人を集めるのです。
それから数分のうちに、好き勝手やっていた宴はひとつになった。俺の話を今か今かと待ちわびる冒険者たち……悪くないだろう。
「俺たちはいかにして赤龍に出会ったのか? それは、北の森に妙な気配を感じてな、調査を目的に旅立ったわけよ」
「いや完全に消去法でしたよね」
ファウストのツッコミも、話に浮足立つ冒険者たちにかき消される。
「森に入った瞬間、妙だと思ったね。森が静かすぎた。俺たちはほぼ同時に、この森には何かが居る……っ! と気づいたわけよ」
「僕たちライオネルさんを弄り倒してましたけどね」
「俺たちは険しい顔で、周囲を警戒しながら進んだ。だが、赤龍は上手だった。完璧な警戒をくぐり抜けるように、上空から降ってきたんだ!」
「よくもまぁそんな嘘が付けるなぁ……」
こ、これは嘘ではない。脚色だ!! エンターテイメントのためなら、どんな嘘でも付いていいのである。
「赤龍は強かった。そして狡猾だった。俺の盾を避けるように尻尾を自在に操った。足をぶっ叩かれたときは死ぬかと思ったね」
――それおかしくねぇ?
「いや、どこが? 生まれてからずっと真実しか言ってないぞ」
――お前、魔術師だろ。赤龍の尻尾なんて直撃したら、上半身と下半身が別れるはずなんだが……。
――そもそも、魔術師が盾で受けても腕が吹っ飛ぶよな……?
ファッッッ!? 赤龍強すぎ問題。確かに強かったけど、世の中の魔術師はスタートラインにも立てないのか。
「お、俺はステータス強化するスキルあるから!」
――それって耐久面? 珍しいことするなぁ。
――あー、光の適正持ちだし、バッファー的な意味かもな。
すまん。ただのパッシブスキルですまん。他人に強化バフ使われると弱体化する問題児ですまん。弱点だから人に言えなくてすまん。
バフを使えればもっと楽だったようだ。一応、俺もその手段を考えたことがある。そうしなかったのは、SP効率が最悪と言っていいほど悲惨な代物だからだ。
俺は【闇の祝福】を習得している。こいつは俺の全ステータスを、常時1.5倍にしてくれる。かなり初期に習得したスキルである。このスキルがなければ、シャドーデーモンで防御力を補っていても無茶できない場面も多かったろう。
一般的にバッファーとは、光の魔術師の担当である。ひとつのステータスを2倍にするスキルを、対象1体に使える。全ステータスを上げようと思ったら、そのたびに習得する必要があるため、SPがいくらあっても足りやしない。
ゆえに、攻撃のほとんどを捨てて、回復と支援スキルに特化した光の魔術師をバッファーと呼ぶ。かなり珍しいので、王都の有力クランでも引っ張りだこだとか。俺は姫プなんて嫌だなぁ……。
それに比べて、【闇の祝福】はSP1で済む。一身上の都合によりパーティーを組めない俺が、バッファーになる意味がない。サモン中は最大MP減るし、むしろ弱体化するという結論になったのだ。
「俺は俺なりにライオネルとファウストを支援して、赤龍と戦った。だが赤龍は強かった。たった3人で援軍が来るまで凌ぐのは、不可能だと悟った!!」
拳を握り、カッコつけて言ったら、冒険者たちが一斉に目をそらした。俺、変なこと言ったっけ? 意味が分からず問いただすと、おっさん冒険者が恐る恐る手を上げた……。
――すまん。援軍は出ないことになっていた。
「はいぃぃぃ!?」
――ギルド長とハーゲル不在の状況だぞ。指揮官も居なければ、戦力も足りない。門番長のガイルも、町の守備を固めることで精一杯だ。だから、俺たちも町の守備を固めるということで結論が出ていた……。
「えぇ……俺たち、見捨てられてるじゃん。この人でなし」
――悪かった。でも、駆けつけたところで大した戦力にならないんだ。こうして宴を開けているのも、死者が出なかったおかげだよ。お前らのおかげだ。この場を代表して、感謝するぜ。
「いやいや、感謝するぜ……って態度じゃなかったろ!? 床に転がされてたんだが!?」
――お前は……重すぎた。
「物理!! 胴上げされない理由もそれかな!?」
――すまんな。どうしても胴上げされたいなら、ハーゲルに頼むといい。今は赤龍の後処理で北の森に出ているが……。
「俺の胴上げ難易度Bランクかよ……」
――半分は冗談だが、町を救った英雄を落とすようなことがあっちゃいけない。ビッグボアなら、面積が大きいから運びやすいんだがな。
「僕がやりましょうか? 胴上げ……切り札を使えば可能ですよ?」
ギャグ漫画だったら星になるやつだな!? ニヤニヤしやがって。イジる元気が戻ったようなので、特別に許したるわ。
もう胴上げはいい。別にそこまでこだわっていたわけでもない。脱線もほどほどにして、赤龍の話に戻ろう。
「俺たちはリスクを承知で攻めに転じた。そして、見事に赤龍を打倒したんだ。死の間際、赤龍は言った。龍狩りを名乗れ、ってな!」
俺の話が終わると、場が静まり返り、歓声が上がった。これよ、これだよ。なぜかファウストまで立ち上がって驚いているが。
「龍狩りを名乗れ、そう言われたんですね!?」
「えっ、うん。お前も聞いてたじゃん」
「僕は意識が混濁していました。でも、その話が本当なら……ありますねぇ!!」
目を閉じたファウストが、数秒の後に目を見開いた。うわ、びっくりした。何があるんだ?
「龍狩りですよ! 通り名とは違う、本物の称号です!」
よく分からないが、目を閉じる。そしてちょっと念じると、習得しているスキルが瞼の裏に現れる仕組みなのだ。見慣れたスキルの中に、【龍狩り】の文字が浮かび上がっていた……。
【龍狩り:赤】……全ステータス上昇。火耐性上昇。自己再生習得。
声を大にして存在感を出すと、バカ騒ぎをしていた冒険者がチラりと見てきた。そして、またバカ騒ぎに戻った。なんでじゃー!?
――だってお前、どうせ赤龍の話しないだろ……。
――そうそう。ギルド長に売ったからダメだって言うんだよな。
――だからこっちで勝手に盛り上がったほうが楽しいよな。
――ライオネルなら話してくれそうだけど、逃げちまったからなぁ。
「ぐぬぬ……なんたる言い草。町を守ったどすけべヒーローに対する敬意というものが足りん」
――そう言われても。酒奢ってやるから機嫌直せって。
――食べかけのつまみもやるよ。
――一品だけ奢ってやるか。何がいいんだ?
「そうそう、俺様を労ってだな……って、ささやかすぎだろぉ!?」
こんなの赤龍討伐の宴じゃない。ただの飲みじゃねーか。しかも家飲みレベルの地味さ。こうなったら、話してやるか……。
「あーあ、せっかく赤龍の話をしてやろうと思ってたのに。こんなしょぼいんじゃ、話す気にならないな……チラッ」
ガタリ。冒険者たちの椅子が揺れる。露骨に食いついた浅ましい人間どもよ……さぁ、人を集めるのです。
それから数分のうちに、好き勝手やっていた宴はひとつになった。俺の話を今か今かと待ちわびる冒険者たち……悪くないだろう。
「俺たちはいかにして赤龍に出会ったのか? それは、北の森に妙な気配を感じてな、調査を目的に旅立ったわけよ」
「いや完全に消去法でしたよね」
ファウストのツッコミも、話に浮足立つ冒険者たちにかき消される。
「森に入った瞬間、妙だと思ったね。森が静かすぎた。俺たちはほぼ同時に、この森には何かが居る……っ! と気づいたわけよ」
「僕たちライオネルさんを弄り倒してましたけどね」
「俺たちは険しい顔で、周囲を警戒しながら進んだ。だが、赤龍は上手だった。完璧な警戒をくぐり抜けるように、上空から降ってきたんだ!」
「よくもまぁそんな嘘が付けるなぁ……」
こ、これは嘘ではない。脚色だ!! エンターテイメントのためなら、どんな嘘でも付いていいのである。
「赤龍は強かった。そして狡猾だった。俺の盾を避けるように尻尾を自在に操った。足をぶっ叩かれたときは死ぬかと思ったね」
――それおかしくねぇ?
「いや、どこが? 生まれてからずっと真実しか言ってないぞ」
――お前、魔術師だろ。赤龍の尻尾なんて直撃したら、上半身と下半身が別れるはずなんだが……。
――そもそも、魔術師が盾で受けても腕が吹っ飛ぶよな……?
ファッッッ!? 赤龍強すぎ問題。確かに強かったけど、世の中の魔術師はスタートラインにも立てないのか。
「お、俺はステータス強化するスキルあるから!」
――それって耐久面? 珍しいことするなぁ。
――あー、光の適正持ちだし、バッファー的な意味かもな。
すまん。ただのパッシブスキルですまん。他人に強化バフ使われると弱体化する問題児ですまん。弱点だから人に言えなくてすまん。
バフを使えればもっと楽だったようだ。一応、俺もその手段を考えたことがある。そうしなかったのは、SP効率が最悪と言っていいほど悲惨な代物だからだ。
俺は【闇の祝福】を習得している。こいつは俺の全ステータスを、常時1.5倍にしてくれる。かなり初期に習得したスキルである。このスキルがなければ、シャドーデーモンで防御力を補っていても無茶できない場面も多かったろう。
一般的にバッファーとは、光の魔術師の担当である。ひとつのステータスを2倍にするスキルを、対象1体に使える。全ステータスを上げようと思ったら、そのたびに習得する必要があるため、SPがいくらあっても足りやしない。
ゆえに、攻撃のほとんどを捨てて、回復と支援スキルに特化した光の魔術師をバッファーと呼ぶ。かなり珍しいので、王都の有力クランでも引っ張りだこだとか。俺は姫プなんて嫌だなぁ……。
それに比べて、【闇の祝福】はSP1で済む。一身上の都合によりパーティーを組めない俺が、バッファーになる意味がない。サモン中は最大MP減るし、むしろ弱体化するという結論になったのだ。
「俺は俺なりにライオネルとファウストを支援して、赤龍と戦った。だが赤龍は強かった。たった3人で援軍が来るまで凌ぐのは、不可能だと悟った!!」
拳を握り、カッコつけて言ったら、冒険者たちが一斉に目をそらした。俺、変なこと言ったっけ? 意味が分からず問いただすと、おっさん冒険者が恐る恐る手を上げた……。
――すまん。援軍は出ないことになっていた。
「はいぃぃぃ!?」
――ギルド長とハーゲル不在の状況だぞ。指揮官も居なければ、戦力も足りない。門番長のガイルも、町の守備を固めることで精一杯だ。だから、俺たちも町の守備を固めるということで結論が出ていた……。
「えぇ……俺たち、見捨てられてるじゃん。この人でなし」
――悪かった。でも、駆けつけたところで大した戦力にならないんだ。こうして宴を開けているのも、死者が出なかったおかげだよ。お前らのおかげだ。この場を代表して、感謝するぜ。
「いやいや、感謝するぜ……って態度じゃなかったろ!? 床に転がされてたんだが!?」
――お前は……重すぎた。
「物理!! 胴上げされない理由もそれかな!?」
――すまんな。どうしても胴上げされたいなら、ハーゲルに頼むといい。今は赤龍の後処理で北の森に出ているが……。
「俺の胴上げ難易度Bランクかよ……」
――半分は冗談だが、町を救った英雄を落とすようなことがあっちゃいけない。ビッグボアなら、面積が大きいから運びやすいんだがな。
「僕がやりましょうか? 胴上げ……切り札を使えば可能ですよ?」
ギャグ漫画だったら星になるやつだな!? ニヤニヤしやがって。イジる元気が戻ったようなので、特別に許したるわ。
もう胴上げはいい。別にそこまでこだわっていたわけでもない。脱線もほどほどにして、赤龍の話に戻ろう。
「俺たちはリスクを承知で攻めに転じた。そして、見事に赤龍を打倒したんだ。死の間際、赤龍は言った。龍狩りを名乗れ、ってな!」
俺の話が終わると、場が静まり返り、歓声が上がった。これよ、これだよ。なぜかファウストまで立ち上がって驚いているが。
「龍狩りを名乗れ、そう言われたんですね!?」
「えっ、うん。お前も聞いてたじゃん」
「僕は意識が混濁していました。でも、その話が本当なら……ありますねぇ!!」
目を閉じたファウストが、数秒の後に目を見開いた。うわ、びっくりした。何があるんだ?
「龍狩りですよ! 通り名とは違う、本物の称号です!」
よく分からないが、目を閉じる。そしてちょっと念じると、習得しているスキルが瞼の裏に現れる仕組みなのだ。見慣れたスキルの中に、【龍狩り】の文字が浮かび上がっていた……。
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