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絆編
理解者を得てクロノ死す
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【強運】は、俺の悩みのタネだ。誰にも相談できない、解けない呪いだ。ギルド長ですら内容を知らない秘密を、ファウストは知っているのか……。
「その表情は、当たりですね。でも、安心してください。僕もあなたと同じです。このスキルを誰にも打ち明けることなく、生きてきました。半ば諦めに近かったです。そんなとき、あなたの噂を聞いた」
「何が目的だ?」
「目的? 愚痴をこぼす相手が欲しいと思うのは、おかしなことですか?」
「そのために、王都からわざわざ来たのか」
「はい。依頼どころじゃないでしょう。どんな人でもいい。ただ、会って話をしてみたかった」
そうか。【強運】持ちには、俺の体験は不運では済まされない。確信を持ってやってきたわけか。いいだろう。話をしてみたくなった。
「俺の家に行くか。外は寒い。長話には向かない」
「助かります。既に宿は取ってますけど、あなたは出禁のようなので」
どうかしてるよ。出禁をやらかす俺と話をしたいなんて。そんなに寂しいのか。寂しいだろうな……。
早足で家に入り、扉を閉める。暖炉に火を付けて、近くに椅子をふたつ並べる。せっかく自分の家になったのに、最初に招くのが野郎か。あー、俺の人生、いつもそんな感じだった。
「いい家ですね」
「だろぉ!? 高かったんだぜぇ。ゆっくりしていけよ」
「でも、外の柵はちょっと悪趣味ですね」
「こいつぅ……表出るか?」
「冗談ですよ。でも、ちょっとした忠告です。成金趣味っぽいので、盗みに入られるかもしれないじゃないですか」
「うーん、もしそんなやつが居たら、町の外から来たやつだろうな」
「ははは……とんでもない悪評をお持ちなようで。話す人、間違えちゃったかな」
皮肉たっぷりのジョークがお好きなようで。まぁ、だいたい合ってると思う。
「でも仕方ないですよ。誰だって、強運なんてものに気づいてしまえば、自暴自棄になる」
よっしゃ。そういうことにしとこう! 説明する気もないしな!
「いくつか質問したい。俺を強運だと疑ったのは、ルークの件で俺の噂を聞いたからか?」
「はい。それだけではないですよ。あなたの戦闘スタイルが、疑惑を確信に変えた」
「えっ、闇の魔術師がなりやすいのか?」
「違いますよ。あなたは端から見たら、戦士の格好をした変人だ。けれど、僕は理に適ってると思います。だって、僕らはパーティーを組めないんですから、ソロでなるべく多くのことに対処しようと考える。自然と、本職以外の要素が取り入れられるものでしょう?」
「頭の中を覗かれている気分だ。もしかして、お前もか?」
「はい。僕は少し特殊です。職は、シャーマン。魔物の素材を触媒として、自分の体の特性を変化させます」
シャーマン? 聞いたことがない。ユニーク職ってやつかな。
「特別にお見せします。どれにしようかな……」
マジックバッグを漁り、取り出したのは緑の鱗。それを握りしめた。
「これはリザードマンの鱗です。驚かないでくださいよ?」
「それ絶対、驚くやつじゃん……」
ファウストの手から、怪しい炎があがる。黒い煙が揺らめいた。
「【オブセッション・リザードマン】」
ファウストの目が変わる。人間の目から、爬虫類の目になっている。腕をまくって見せてきた皮膚は、深緑色の鱗がびっしりと生えていた……。
「今の僕は、水属性に高い耐性を持っている。もちろん、本当の魔物ほどではありませんけどね」
「それがシャーマンの戦闘スタイルか。驚いたな。俺の真似事とは、根本的に違うじゃないか」
「似たようなものですよ。あなたが他職の真似事なら、僕は魔物の真似事だ。違うとすれば、僕は魔物のスキルを使えることですね」
「へぇ! そりゃ凄い。戦い方がガラッと変わるな。選択肢は多い方がいい」
「はい。想定外の化け物にたったひとりで立ち向かうわけですから、相性に応じて立ち回りを変える。それが出来なければ、死ぬだけだ」
ファウストの戦い方は、自分自身の強化だ。魔術師の俺は、サモンで弱点を補うが、やはり発想は近い。もうひとりの俺を見ているような気分だ。へそ曲がりの相棒は、俺そのものだからノーカウント。
「ファウスト……苦労したんだろ? 順調なやつには、浮かばない発想だ」
「あなたこそ。何も知らない人々に、笑われたんじゃないですか」
俺はその感情さえも利用した。だが、ファウストはどうだろう。まだ若いのに、頼れる人も居なかったんじゃないか。俺程度の苦労で済んだはずがない。
「そんな顔しないでくださいよ。僕だってうまくやってます。適正調査を拒否してますから、【強運】の存在は知られていない。たまに野良パーティーを組んでますよ」
「へっ……? どうやって拒否ったの!? 必須じゃないの? パーティー組めるの!???!??!」
「王都の話ですよね? 拒否できますよ。印象が下がるし、悪目立ちしますけど、強運がバレることに比べれば、些細なことでしょう。僕はユニーク職だからって理由で、それほど角が立たずに済みましたけどね」
「そっか。ユニーク職は謎が多い。誰もが知りたがるから、駆け引きに使ったのか。うまくやったなぁ! そんで、パーティーは?」
「誘われたとき、たまに。【強運】って、無から有を生み出すものじゃない。遭遇する確率を高めるものです。周辺に強敵が存在しなければ、何の効果もないんです。街道の護衛などは、他人と同じ境遇で済みますよ」
「やはりそうか! でも俺は怖くて試せなかった」
「僕はユニーク職なので、パーティー希望者が多くて。断り続けるにも限界がありましたし、試すしかなかったんですよ」
「あー、王都の冒険者って、我が強そうだもんなぁ」
「僕を指さして言うの止めてくれます!?」
「だってさっきギルドで、『ぶっ殺しますよゴミども』とか言ってたじゃん」
「そこまでは言ってないです!? あれは王都流なんですよ。実力がすべてだから、バカを黙らせるにはぶっ飛ばすしかないんです」
やだこの子、脳筋。どんだけ~。
「仕方がないじゃないですか。僕は見ての通り、まだ若い。だから他人の何倍もナメられる。そもそも、ブサクロノさんだって人のこと言えないでしょ!」
確かに。俺はこんな見てくれだからなぁ。派手に喧嘩売られたもんだよ。全部買ったけどさ。俺とファウストは共通点が多すぎて、ブラザーと呼びたい。
「ブサクロノさん、僕とパーティー組みませんか?」
あれ? 思ったより好戦的だな。俺は冒険なんざしたくないけど、ファウストの表情はとても乗り気のようだ。
「気持ちは分かります。怖いですよね。僕もそうでした。でも、考え方を変えたんです」
考え方、ねぇ。俺も前向きに考えたことはあったが、突然現れる化け物を見るたびに、『こりゃあかん』となるんだよなぁ。
「ブサクロノさんは、【強運】についてどう思ってますか?」
「死刑宣告」
「僕は、【強運】を英雄への登竜門だと思っています」
「お前ひょっとして、超ポジティブ?」
「どうかな……英雄譚は知っていますか? 勇敢な男が、龍に囚われた姫を救い出す。ありがちな子供じみた話です。けれど、変だと思いませんか? 冒険の最中に、何度も強敵と遭遇するんですよ?」
「そいつらも、【強運】持ちだって言いたいのか?」
「その通りです。世の中の冒険者が、血眼になってBランクを目指している。けれど強敵に会えない。でも、僕らは違う。誰よりもチャンスがある」
なるほど。王都の冒険者ならではの考え方だ。王都には実力者が揃っている。【強運】があろうと、上を目指す強い冒険者とパーティーを組めば、魔物の強さによるが、討伐も現実的なものになるか。
「そして僕は、シャーマン。魔物の素材を媒介にして、自身を強化する。倒す必要はないんです。鱗一枚、爪のかけらだろうと、手に入れば劇的に戦力が上がる」
「持ち帰るのが最初の壁か。そいつの素材を手に入れても、そいつには勝てない。違うか?」
「劣化版なので、まず勝てません。素材を手に入れ、逃げ延びる。別の相性の良い魔物を見つけ、討伐する。一度でも成し遂げれば、勝率はどんどん上がっていくんですよ」
「……お前なら、本当に英雄になれるかもしれないな」
「なりますよ。そうでなければ、怯えて暮らすことになる。けれど、英雄になるためには、僕には欠けている物がある。そして、ブサクロノさんは、それを持っている」
ファウストになくて、俺が持ってるもの? ルーティンソードか? 相棒か? 絶倫か? レアな素材なんて持ってないしなぁ。
「まさか、体脂肪か!?」
「生き残る力です。僕とブサクロノさんがパーティーを組めば、向かうところ敵なしですよ!」
「そうかぁ? 敵だらけの間違いじゃね……?」
「まとめてぶっ飛ばしてしまいましょう! まずはお試しで、パーティーを組みましょう」
お試しって響き、良いよね。リスク回避の代名詞。心配性のおじさんも、お試しなら……ってなっちゃう。
「いざ組むとなると危なくないか? 【強運】持ちがふたりだぜ。より遠くの化け物を呼び寄せたりして……」
「そこなんですよ。でも、試さないと分からない。それが悪い結果に転がったとしても、恨むことも恨まれることもないはずです」
「うん、まぁ、自己責任だよな。【強運】同士が出会うことなんて滅多にないし、試してみるかぁ!」
「その意気ですよ! どこかおすすめの場所ありますか?」
「それどっちの意味で? 化け物が出る場所? 出ない場所?」
「両方聞きます。その後で考えましょう」
改めて自分の過去を振り返ってみる。まず俺がクソ雑魚ナメクジだった頃に、転校生の赤龍ちゃんと森でばったり出会った。やべーやつだったので、ギルド長率いる冒険者チームにぶっころがされた。
次は、ユニークシャドウウルフちゃん。白い毛並みが特徴で、集団でいじめを行う陰湿なやつだった。ハゲに教育的指導を受けて首だけになったが、なおも俺にアタックしてきたので、『死ね、ブス』と派手に振った。
お次は蛇のヨルムンガンドちゃん。ダイナマイトボディはワールドサイズ。神話に登場するようなガチの化け物だったが、泥に塗れて逃げ延びた。胃袋でひとつになるなんてごめんだぜ。
4番手はヘルム。ただのカス。めっちゃ強いがゆえに油断して、晴れて鉄くずに戻った。俺の内蔵をぶっ飛ばして笑う変態は、死んで当然である。これは内緒にしておこう。
最後に、フロントデーモンちゃん。筋肉ムキムキのカッチカチJK。死肉を積み上げてデコるという見た目通りのクレイジーサイコな趣味をお持ちで、新しいブームこと新緑の翼にぶっころがされた。
「……なんですか、この説明」
「いや、思い出すの怖いからさ。擬人化してみた」
「……どうでした?」
「ムリがあったな。吐きそうだよ」
「僕もです。話を戻しましょう。ほとんど討伐されてますね」
「それな。ヨルムンガンド行っとく? 出会ったら絶対に死ぬぞ」
「その噂は聞いたことがなかったなぁ。止めましょう。そいつだけは、もはや魔物ではなく天災かと……」
「だよなぁ。どこ行けばいいんだろう。やる気なくなってきた。家でゴロゴロしたい」
ああでもないこうでもない。死なない程度の化け物が居たり居なかったりする場所を相談し合ったが、それらしい答えは出ない。そう、俺たちは、臆病になっていたのだ。
「あれから月日が経ってるし、過去の経験なんざアテにならん。どこか行きたい場所か、目的を変えて冒険したほうがいいんじゃないか」
「では、北の森に行きませんか? 僕はシャーマン。魔物の素材がなければオブセッション出来ません。赤龍の巣だった場所なら、古い鱗が落ちているかもしれません」
「ふーん、欲しいの?」
「めっちゃ欲しいです。龍の鱗は高いですから、拾えるならお財布にも優しい」
冒険者は装備に金を使うけど、シャーマンは魔物の素材そのものを買い求めるのか。しかも消耗品……協力してやるか。
「その表情は、当たりですね。でも、安心してください。僕もあなたと同じです。このスキルを誰にも打ち明けることなく、生きてきました。半ば諦めに近かったです。そんなとき、あなたの噂を聞いた」
「何が目的だ?」
「目的? 愚痴をこぼす相手が欲しいと思うのは、おかしなことですか?」
「そのために、王都からわざわざ来たのか」
「はい。依頼どころじゃないでしょう。どんな人でもいい。ただ、会って話をしてみたかった」
そうか。【強運】持ちには、俺の体験は不運では済まされない。確信を持ってやってきたわけか。いいだろう。話をしてみたくなった。
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「助かります。既に宿は取ってますけど、あなたは出禁のようなので」
どうかしてるよ。出禁をやらかす俺と話をしたいなんて。そんなに寂しいのか。寂しいだろうな……。
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「いい家ですね」
「だろぉ!? 高かったんだぜぇ。ゆっくりしていけよ」
「でも、外の柵はちょっと悪趣味ですね」
「こいつぅ……表出るか?」
「冗談ですよ。でも、ちょっとした忠告です。成金趣味っぽいので、盗みに入られるかもしれないじゃないですか」
「うーん、もしそんなやつが居たら、町の外から来たやつだろうな」
「ははは……とんでもない悪評をお持ちなようで。話す人、間違えちゃったかな」
皮肉たっぷりのジョークがお好きなようで。まぁ、だいたい合ってると思う。
「でも仕方ないですよ。誰だって、強運なんてものに気づいてしまえば、自暴自棄になる」
よっしゃ。そういうことにしとこう! 説明する気もないしな!
「いくつか質問したい。俺を強運だと疑ったのは、ルークの件で俺の噂を聞いたからか?」
「はい。それだけではないですよ。あなたの戦闘スタイルが、疑惑を確信に変えた」
「えっ、闇の魔術師がなりやすいのか?」
「違いますよ。あなたは端から見たら、戦士の格好をした変人だ。けれど、僕は理に適ってると思います。だって、僕らはパーティーを組めないんですから、ソロでなるべく多くのことに対処しようと考える。自然と、本職以外の要素が取り入れられるものでしょう?」
「頭の中を覗かれている気分だ。もしかして、お前もか?」
「はい。僕は少し特殊です。職は、シャーマン。魔物の素材を触媒として、自分の体の特性を変化させます」
シャーマン? 聞いたことがない。ユニーク職ってやつかな。
「特別にお見せします。どれにしようかな……」
マジックバッグを漁り、取り出したのは緑の鱗。それを握りしめた。
「これはリザードマンの鱗です。驚かないでくださいよ?」
「それ絶対、驚くやつじゃん……」
ファウストの手から、怪しい炎があがる。黒い煙が揺らめいた。
「【オブセッション・リザードマン】」
ファウストの目が変わる。人間の目から、爬虫類の目になっている。腕をまくって見せてきた皮膚は、深緑色の鱗がびっしりと生えていた……。
「今の僕は、水属性に高い耐性を持っている。もちろん、本当の魔物ほどではありませんけどね」
「それがシャーマンの戦闘スタイルか。驚いたな。俺の真似事とは、根本的に違うじゃないか」
「似たようなものですよ。あなたが他職の真似事なら、僕は魔物の真似事だ。違うとすれば、僕は魔物のスキルを使えることですね」
「へぇ! そりゃ凄い。戦い方がガラッと変わるな。選択肢は多い方がいい」
「はい。想定外の化け物にたったひとりで立ち向かうわけですから、相性に応じて立ち回りを変える。それが出来なければ、死ぬだけだ」
ファウストの戦い方は、自分自身の強化だ。魔術師の俺は、サモンで弱点を補うが、やはり発想は近い。もうひとりの俺を見ているような気分だ。へそ曲がりの相棒は、俺そのものだからノーカウント。
「ファウスト……苦労したんだろ? 順調なやつには、浮かばない発想だ」
「あなたこそ。何も知らない人々に、笑われたんじゃないですか」
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「そんな顔しないでくださいよ。僕だってうまくやってます。適正調査を拒否してますから、【強運】の存在は知られていない。たまに野良パーティーを組んでますよ」
「へっ……? どうやって拒否ったの!? 必須じゃないの? パーティー組めるの!???!??!」
「王都の話ですよね? 拒否できますよ。印象が下がるし、悪目立ちしますけど、強運がバレることに比べれば、些細なことでしょう。僕はユニーク職だからって理由で、それほど角が立たずに済みましたけどね」
「そっか。ユニーク職は謎が多い。誰もが知りたがるから、駆け引きに使ったのか。うまくやったなぁ! そんで、パーティーは?」
「誘われたとき、たまに。【強運】って、無から有を生み出すものじゃない。遭遇する確率を高めるものです。周辺に強敵が存在しなければ、何の効果もないんです。街道の護衛などは、他人と同じ境遇で済みますよ」
「やはりそうか! でも俺は怖くて試せなかった」
「僕はユニーク職なので、パーティー希望者が多くて。断り続けるにも限界がありましたし、試すしかなかったんですよ」
「あー、王都の冒険者って、我が強そうだもんなぁ」
「僕を指さして言うの止めてくれます!?」
「だってさっきギルドで、『ぶっ殺しますよゴミども』とか言ってたじゃん」
「そこまでは言ってないです!? あれは王都流なんですよ。実力がすべてだから、バカを黙らせるにはぶっ飛ばすしかないんです」
やだこの子、脳筋。どんだけ~。
「仕方がないじゃないですか。僕は見ての通り、まだ若い。だから他人の何倍もナメられる。そもそも、ブサクロノさんだって人のこと言えないでしょ!」
確かに。俺はこんな見てくれだからなぁ。派手に喧嘩売られたもんだよ。全部買ったけどさ。俺とファウストは共通点が多すぎて、ブラザーと呼びたい。
「ブサクロノさん、僕とパーティー組みませんか?」
あれ? 思ったより好戦的だな。俺は冒険なんざしたくないけど、ファウストの表情はとても乗り気のようだ。
「気持ちは分かります。怖いですよね。僕もそうでした。でも、考え方を変えたんです」
考え方、ねぇ。俺も前向きに考えたことはあったが、突然現れる化け物を見るたびに、『こりゃあかん』となるんだよなぁ。
「ブサクロノさんは、【強運】についてどう思ってますか?」
「死刑宣告」
「僕は、【強運】を英雄への登竜門だと思っています」
「お前ひょっとして、超ポジティブ?」
「どうかな……英雄譚は知っていますか? 勇敢な男が、龍に囚われた姫を救い出す。ありがちな子供じみた話です。けれど、変だと思いませんか? 冒険の最中に、何度も強敵と遭遇するんですよ?」
「そいつらも、【強運】持ちだって言いたいのか?」
「その通りです。世の中の冒険者が、血眼になってBランクを目指している。けれど強敵に会えない。でも、僕らは違う。誰よりもチャンスがある」
なるほど。王都の冒険者ならではの考え方だ。王都には実力者が揃っている。【強運】があろうと、上を目指す強い冒険者とパーティーを組めば、魔物の強さによるが、討伐も現実的なものになるか。
「そして僕は、シャーマン。魔物の素材を媒介にして、自身を強化する。倒す必要はないんです。鱗一枚、爪のかけらだろうと、手に入れば劇的に戦力が上がる」
「持ち帰るのが最初の壁か。そいつの素材を手に入れても、そいつには勝てない。違うか?」
「劣化版なので、まず勝てません。素材を手に入れ、逃げ延びる。別の相性の良い魔物を見つけ、討伐する。一度でも成し遂げれば、勝率はどんどん上がっていくんですよ」
「……お前なら、本当に英雄になれるかもしれないな」
「なりますよ。そうでなければ、怯えて暮らすことになる。けれど、英雄になるためには、僕には欠けている物がある。そして、ブサクロノさんは、それを持っている」
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「まさか、体脂肪か!?」
「生き残る力です。僕とブサクロノさんがパーティーを組めば、向かうところ敵なしですよ!」
「そうかぁ? 敵だらけの間違いじゃね……?」
「まとめてぶっ飛ばしてしまいましょう! まずはお試しで、パーティーを組みましょう」
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「いざ組むとなると危なくないか? 【強運】持ちがふたりだぜ。より遠くの化け物を呼び寄せたりして……」
「そこなんですよ。でも、試さないと分からない。それが悪い結果に転がったとしても、恨むことも恨まれることもないはずです」
「うん、まぁ、自己責任だよな。【強運】同士が出会うことなんて滅多にないし、試してみるかぁ!」
「その意気ですよ! どこかおすすめの場所ありますか?」
「それどっちの意味で? 化け物が出る場所? 出ない場所?」
「両方聞きます。その後で考えましょう」
改めて自分の過去を振り返ってみる。まず俺がクソ雑魚ナメクジだった頃に、転校生の赤龍ちゃんと森でばったり出会った。やべーやつだったので、ギルド長率いる冒険者チームにぶっころがされた。
次は、ユニークシャドウウルフちゃん。白い毛並みが特徴で、集団でいじめを行う陰湿なやつだった。ハゲに教育的指導を受けて首だけになったが、なおも俺にアタックしてきたので、『死ね、ブス』と派手に振った。
お次は蛇のヨルムンガンドちゃん。ダイナマイトボディはワールドサイズ。神話に登場するようなガチの化け物だったが、泥に塗れて逃げ延びた。胃袋でひとつになるなんてごめんだぜ。
4番手はヘルム。ただのカス。めっちゃ強いがゆえに油断して、晴れて鉄くずに戻った。俺の内蔵をぶっ飛ばして笑う変態は、死んで当然である。これは内緒にしておこう。
最後に、フロントデーモンちゃん。筋肉ムキムキのカッチカチJK。死肉を積み上げてデコるという見た目通りのクレイジーサイコな趣味をお持ちで、新しいブームこと新緑の翼にぶっころがされた。
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「いや、思い出すの怖いからさ。擬人化してみた」
「……どうでした?」
「ムリがあったな。吐きそうだよ」
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「その噂は聞いたことがなかったなぁ。止めましょう。そいつだけは、もはや魔物ではなく天災かと……」
「だよなぁ。どこ行けばいいんだろう。やる気なくなってきた。家でゴロゴロしたい」
ああでもないこうでもない。死なない程度の化け物が居たり居なかったりする場所を相談し合ったが、それらしい答えは出ない。そう、俺たちは、臆病になっていたのだ。
「あれから月日が経ってるし、過去の経験なんざアテにならん。どこか行きたい場所か、目的を変えて冒険したほうがいいんじゃないか」
「では、北の森に行きませんか? 僕はシャーマン。魔物の素材がなければオブセッション出来ません。赤龍の巣だった場所なら、古い鱗が落ちているかもしれません」
「ふーん、欲しいの?」
「めっちゃ欲しいです。龍の鱗は高いですから、拾えるならお財布にも優しい」
冒険者は装備に金を使うけど、シャーマンは魔物の素材そのものを買い求めるのか。しかも消耗品……協力してやるか。
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