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ギルド職員編
さよならテレサちゃん
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テレサを自由にするために、これだけ頑張ったというのに、拒否されてしまった。完全に想定外である。どうしよう。説得しなきゃ……。
「えーっとな? テレサちゃんは寒空の下、空腹を我慢した。たくさんの誘惑があったと思うが、盗まなかった。だから人として合格なわけだぜ……?」
「合格したなら、残ってもいいじゃない」
いやいやいや、何これ。せっかく自由になれるチャンスなのに……年頃の娘の考えは分からんもんだなぁ……。
「何が不満なんだ?」
「それはこっちのセリフよ」
理屈屋の俺にとって、理解が追いつかない状況は途端に動きが鈍る。どうしよう、おろおろしちゃう。誰かタスケテ。
「あんたが大事にしてた柵を壊したのは謝るわ。もうしないわよ」
「いや、あれは……元から罰を与えるつもりだったから……別の何かで怒ったふりをしたぞ……?」
「……女を連れ込んでもいいわ。我慢する。これでいいでしょ?」
すまん。誰か日本語で頼む。翻訳さーん、ちょっと君、壊れてませんかーっ!?
「どうすれば自由になってくれるのかな?」
「どうしたら、この家に居させてくれるわけ?」
「ひょっとして、出て行きたくない?」
「だからそう言ってるじゃない」
まじか。困ったぞ。ここまでやって、テレサの新生活がスタートしないなんてムリだろう。外で人が待ってるんだヨ?
「じ、自由はいいぞ! 俺に口煩く指導されることもないし、好きな食べ物を好きなだけ食べられるぞ!」
応答しろ、テレサ、オーバー。どうすりゃいいんだよ。ヘルムと戦ったときよりキツいぞ……。
「あんたがあたしのこと、考えてくれているのは分かったわ。でも、あたしだって、あんたのことを考えてるの。鬱陶しくても女にだらしなくても構わないから、あんたと一緒に居たいの」
あーっ、はいはい! 分かったぞ! テレサちゃんは、俺のことが好きなんだな。だから離れたくない、と! 伝わったぜ、その想い。男として、バッチリ返事してやるぜ!!
「すまん。ずっと一緒には居られない」
「どうして? 他の女の子を連れ込んでも怒らないわよ。うん、たぶん」
「理由は、教えてやれん。いずれ分かる」
「だったら分かるまでここに居るわ」
は、反抗期だ。反抗期マスターだ。俺の話を聞いてるようで聞いてくれない。
「テレサちゃん、よく聞け。君はチャンスを逃している。世の中の年頃の娘たちは、恋愛や趣味の話で盛り上がって青春を謳歌している。今この瞬間も、テレサちゃんはチャンスを逃し続けている。悔しくないのか?」
「他人は他人でしょ。あたしは別に困ってないわ」
ダメだこりゃ。今その正論は困っちゃう。もう卑怯だろうとなんだろうと、意地で説得してやる……っ。
「お前、俺のことが好きか?」
「えぇ、好きよ。だから一緒に居る。絶対に出ていかない」
「ガキが生意気を言うなよ。俺のことが本当に好きだって言うなら、今すぐ出ていけ。無数の男たちと見比べて、それでも俺が好きだって思えるようになるまでは、ガキ扱いしてやる」
腕を組んでいたテレサの決意が、揺れた。愛を試すなんて屑の考えだけど、まぁしょうがないよね。俺って屑だし……。
「他の男を好きなっても知らないわよ……っ?」
「あぁ、俺がお前に土下座して、ヤらせてくださいって頼むほど、良い女になれ。自分を磨いてこい」
「絶対……っ、良い女に……なってやるんだから……っ」
泣きながら力強く頷くテレサちゃん。分かってくれたようでおじさんも嬉しいぜ。
「フィーアちゃんの分まで、広い世界を見てこい。そのチャンスがやっと来たんだぞ、爪を立てて離すな!」
「うん、うん……っ」
俺がしてやれることなんざ限られている。テレサが生きていける知識を与え、背中を蹴飛ばしてやることだけさ……。
小さくなった背中を押してやろうとしたら、振り返って抱きついてくるテレサちゃん。時間が押しているというのに、こう泣き腫らされては出すに出せない。思ったより涙脆い子だ……。
「ときどぎ……っ、会いにぎでも……いい……っ?」
「おう。月に一度は顔を見せろ。忙しいなら痕跡くらい残していけ」
「相談どか……っ、乗っでくれる……っ?」
「もちろんだ。頑張って頑張って、もしダメだったら、そのときは帰ってこい。出ていったとしても、ここはお前の家だ」
「ありがどう……っ。あたし、ブサクロノのごとっ、大好きよ……っ」
返事はしない。背中をぽんぽんと叩いて、なだめてあげるだけ。最後に匂いくらいは堪能させて貰う。流行りの花の香り。俺があげた香水の匂いを嗅ぐのは、今日が最後になるかもしれないな……。
「あだし……頑張る……っ。行って来ます……っ!」
テレサが我が家から出ていく。扉が閉まると、外から町人の歓声が聞こえる。涙の訳は、俺が怖かったからと納得してくれることだろう。
俺はやりきった。頑張ったあとは、達成感が訪れる。同時に、虚無感もやってくるものだ。
『お疲れ様。寂しくなるね。でも、これで本当に良かったのかい?』
「……意地悪なことを聞くな。お前は知ってるだろ」
『あぁ、そうだね。ボクたちは、長く生きられない』
「そうさ。だから、これが一番、テレサちゃんの為になるんだ」
俺たちは長く生きられない。【強運】という呪いが、俺の命を狙い続けている。全力で抵抗はさせて貰うが、こいつだけは楽観視できない。齢1歳にして、達観したと言うべきかな。
今、テレサという存在を繋ぎ止めているのは、俺だ。もし俺が死ねば、テレサには何も残らない。だから、大切なものをたくさん見つけて欲しい。フィーアちゃんが見られなかった景色を、見てほしい。だから送り出したのだ。
「なるべく長生きしようぜ、相棒」
『そうだね。何もかもかなぐり捨てれば、跳ね返せる悪夢もあるはずさ』
「蓄えた脂肪で、ぽいんっ、と跳ね返してやろうぜ……」
近頃はずっと気を張っていたから、流石に疲れた。広くなったベッドで、一人寂しく寝ようとしていたら、家の扉が強めに叩かれた。
「はぁー、まだ何か……げぇっ!?」
扉を開けると、まだ多くの町人が残っていた。それは別にいい。俺が心底驚いたのは、ギルド長が眉間にシワを寄せて、立っていることである……。
「ブサクロノくん。私に何か、言うことが、あるんじゃないか?」
「えーっと、おかえりなさい?」
「この騒動をっ、謝罪せんかぁ!!」
「ひぃーっ! も、申し訳ありませんっ!!」
土下座待ったなし。床に頭を擦り付けるぞ。手も額も冷たぁい!!
「私に謝ってどうする。当事者たちに謝罪をするべきではないかね?」
「ははーっ、申し訳ありませんでしたっ!!」
――ざまぁ見ろ! クソオーク!!
――このブタ野郎!!
――人間の屑!!
ギルド長という虎の威を借りた狐こと町人が、ここぞとばかりに罵倒を浴びせてくる。石は投げないでください。
「血の気の多い冒険者たちを、諌め続けてやっとアルバという町に受け入れられた過去がある。それを台無しにしてくれたブサクロノ君は、クビだ」
ですよねー。これはしょうがない。また冒険者としてイチから頑張るべ。
「……と、言いたいところだが、ギルド職員は続けて貰う!」
なんだと? ギルド長が優しいぞ。これはひょっとして、俺のこと好きなんちゃう?
――軽すぎる!
――そうだそうだ! あいつの体重に見合う罰を!!
「皆様のご不満はごもっとも。しかし、ブサクロノ君は、元から性格に難があった。それを承知で雇ったのはこの私だ。本来ならば、私も責任を取って辞任すべきところだ」
ギルド長はそれなりに顔が知られているようだ。大半がギルド長が辞任する必要はないと擁護する。その中に、辞任を求める人も居る。
「彼は私の言うことなら、素直に聞いてくれる。今回の暴走は、私という抑止力が不在だったために起きた。私が辞任すれば、彼は野に解き放たれる。それをお望みかな?」
そう、俺はギルド長に恩がある。ギルド長の頼みなら、だいたい何でも聞く。つまり、俺というやべーやつを制御できる存在……それこそが、ギルド長なのである。
もう誰もギルド長の辞任を求める人は居ない。だが、俺をクビにしない理由に納得がいかない様子だ。
「5%……この数字は、冒険者の四半期ごとの死亡率だ。あらゆる対策をこなしてきたが、一度としてこの数字を下回ったことはなかった。ブサクロノ君が、ギルド職員になるまではね」
冒険者が100人増えたら、3ヶ月のうちに、5人死亡している。そういった統計も取っていたらしい。
「そしてその死亡した冒険者たちは、ブサクロノ君の講義を受けていないものたちだ。ブサクロノ君の講義を受けた新人冒険者たちは、健在だ。大きな怪我もなく、今日も市民の皆様の生活を守るべく、力を磨いている」
俺がギルド職員になりたての頃は、3人で交代で講義をしていた。俺が何回かやったら、あとはもう俺に丸投げされたけど。そうか、誰も死んでないのか。素敵やん。
「私が思うに、彼の陰湿すぎる性格が、講義に反映された結果だと思っている。パワハラ寸前のねちっこい指導が、未来ある若者たちの頭に焼き付いている。彼らは皆、ブサクロノ君の悪口を言うが、基本が芯まで染み渡っている。通常では絶対にありえないベテランの領域に達しているよ」
めっちゃボロクソ言われてますけど。これ、褒められてるんだよね?
「彼の性格の悪さは、才能なんだ。私なら彼を制御できる。その才能を、正しい方向に発揮させることができる。だから、明確な犯罪を犯していないのだから、クビという処罰は重いと判断した」
やったぜ。俺有能じゃん。やっぱギルド長って俺のこと好きなんちゃう?
「だが、彼は町の秩序を乱した。皆様の意見を重く受け止め、2ヶ月の減給処分とする」
ちょっと待って。今、穏やかじゃない言葉が聞こえたような。土下座しながら質問せざるを得ない。
「あのー、減給って、いかほどで……?」
「基本給50%カットだ。期間中、ヒーラーで稼いだ金額は、全額アルバに寄付して貰うことになる」
天国から地獄とはまさにこのことである。50%カットってやべーよ。一ヶ月タダ働きってことだぜ。そこから超絶ブラックなヒーラーの副収入すら取られてしまう……。
ギルド長は俺のことをよく知っている。俺に最も効果的な罰は、まさにコレ!
「……何か、不満があるのかね?」
「あ、ありません……しくしく」
俺が降参すると、町人から割れんばかりの喝采が起きた。勝者と敗者は、誰が見ても明らかだった……。
あとがき
今後も普通に登場しますけどね。
次から新章スタートです
「えーっとな? テレサちゃんは寒空の下、空腹を我慢した。たくさんの誘惑があったと思うが、盗まなかった。だから人として合格なわけだぜ……?」
「合格したなら、残ってもいいじゃない」
いやいやいや、何これ。せっかく自由になれるチャンスなのに……年頃の娘の考えは分からんもんだなぁ……。
「何が不満なんだ?」
「それはこっちのセリフよ」
理屈屋の俺にとって、理解が追いつかない状況は途端に動きが鈍る。どうしよう、おろおろしちゃう。誰かタスケテ。
「あんたが大事にしてた柵を壊したのは謝るわ。もうしないわよ」
「いや、あれは……元から罰を与えるつもりだったから……別の何かで怒ったふりをしたぞ……?」
「……女を連れ込んでもいいわ。我慢する。これでいいでしょ?」
すまん。誰か日本語で頼む。翻訳さーん、ちょっと君、壊れてませんかーっ!?
「どうすれば自由になってくれるのかな?」
「どうしたら、この家に居させてくれるわけ?」
「ひょっとして、出て行きたくない?」
「だからそう言ってるじゃない」
まじか。困ったぞ。ここまでやって、テレサの新生活がスタートしないなんてムリだろう。外で人が待ってるんだヨ?
「じ、自由はいいぞ! 俺に口煩く指導されることもないし、好きな食べ物を好きなだけ食べられるぞ!」
応答しろ、テレサ、オーバー。どうすりゃいいんだよ。ヘルムと戦ったときよりキツいぞ……。
「あんたがあたしのこと、考えてくれているのは分かったわ。でも、あたしだって、あんたのことを考えてるの。鬱陶しくても女にだらしなくても構わないから、あんたと一緒に居たいの」
あーっ、はいはい! 分かったぞ! テレサちゃんは、俺のことが好きなんだな。だから離れたくない、と! 伝わったぜ、その想い。男として、バッチリ返事してやるぜ!!
「すまん。ずっと一緒には居られない」
「どうして? 他の女の子を連れ込んでも怒らないわよ。うん、たぶん」
「理由は、教えてやれん。いずれ分かる」
「だったら分かるまでここに居るわ」
は、反抗期だ。反抗期マスターだ。俺の話を聞いてるようで聞いてくれない。
「テレサちゃん、よく聞け。君はチャンスを逃している。世の中の年頃の娘たちは、恋愛や趣味の話で盛り上がって青春を謳歌している。今この瞬間も、テレサちゃんはチャンスを逃し続けている。悔しくないのか?」
「他人は他人でしょ。あたしは別に困ってないわ」
ダメだこりゃ。今その正論は困っちゃう。もう卑怯だろうとなんだろうと、意地で説得してやる……っ。
「お前、俺のことが好きか?」
「えぇ、好きよ。だから一緒に居る。絶対に出ていかない」
「ガキが生意気を言うなよ。俺のことが本当に好きだって言うなら、今すぐ出ていけ。無数の男たちと見比べて、それでも俺が好きだって思えるようになるまでは、ガキ扱いしてやる」
腕を組んでいたテレサの決意が、揺れた。愛を試すなんて屑の考えだけど、まぁしょうがないよね。俺って屑だし……。
「他の男を好きなっても知らないわよ……っ?」
「あぁ、俺がお前に土下座して、ヤらせてくださいって頼むほど、良い女になれ。自分を磨いてこい」
「絶対……っ、良い女に……なってやるんだから……っ」
泣きながら力強く頷くテレサちゃん。分かってくれたようでおじさんも嬉しいぜ。
「フィーアちゃんの分まで、広い世界を見てこい。そのチャンスがやっと来たんだぞ、爪を立てて離すな!」
「うん、うん……っ」
俺がしてやれることなんざ限られている。テレサが生きていける知識を与え、背中を蹴飛ばしてやることだけさ……。
小さくなった背中を押してやろうとしたら、振り返って抱きついてくるテレサちゃん。時間が押しているというのに、こう泣き腫らされては出すに出せない。思ったより涙脆い子だ……。
「ときどぎ……っ、会いにぎでも……いい……っ?」
「おう。月に一度は顔を見せろ。忙しいなら痕跡くらい残していけ」
「相談どか……っ、乗っでくれる……っ?」
「もちろんだ。頑張って頑張って、もしダメだったら、そのときは帰ってこい。出ていったとしても、ここはお前の家だ」
「ありがどう……っ。あたし、ブサクロノのごとっ、大好きよ……っ」
返事はしない。背中をぽんぽんと叩いて、なだめてあげるだけ。最後に匂いくらいは堪能させて貰う。流行りの花の香り。俺があげた香水の匂いを嗅ぐのは、今日が最後になるかもしれないな……。
「あだし……頑張る……っ。行って来ます……っ!」
テレサが我が家から出ていく。扉が閉まると、外から町人の歓声が聞こえる。涙の訳は、俺が怖かったからと納得してくれることだろう。
俺はやりきった。頑張ったあとは、達成感が訪れる。同時に、虚無感もやってくるものだ。
『お疲れ様。寂しくなるね。でも、これで本当に良かったのかい?』
「……意地悪なことを聞くな。お前は知ってるだろ」
『あぁ、そうだね。ボクたちは、長く生きられない』
「そうさ。だから、これが一番、テレサちゃんの為になるんだ」
俺たちは長く生きられない。【強運】という呪いが、俺の命を狙い続けている。全力で抵抗はさせて貰うが、こいつだけは楽観視できない。齢1歳にして、達観したと言うべきかな。
今、テレサという存在を繋ぎ止めているのは、俺だ。もし俺が死ねば、テレサには何も残らない。だから、大切なものをたくさん見つけて欲しい。フィーアちゃんが見られなかった景色を、見てほしい。だから送り出したのだ。
「なるべく長生きしようぜ、相棒」
『そうだね。何もかもかなぐり捨てれば、跳ね返せる悪夢もあるはずさ』
「蓄えた脂肪で、ぽいんっ、と跳ね返してやろうぜ……」
近頃はずっと気を張っていたから、流石に疲れた。広くなったベッドで、一人寂しく寝ようとしていたら、家の扉が強めに叩かれた。
「はぁー、まだ何か……げぇっ!?」
扉を開けると、まだ多くの町人が残っていた。それは別にいい。俺が心底驚いたのは、ギルド長が眉間にシワを寄せて、立っていることである……。
「ブサクロノくん。私に何か、言うことが、あるんじゃないか?」
「えーっと、おかえりなさい?」
「この騒動をっ、謝罪せんかぁ!!」
「ひぃーっ! も、申し訳ありませんっ!!」
土下座待ったなし。床に頭を擦り付けるぞ。手も額も冷たぁい!!
「私に謝ってどうする。当事者たちに謝罪をするべきではないかね?」
「ははーっ、申し訳ありませんでしたっ!!」
――ざまぁ見ろ! クソオーク!!
――このブタ野郎!!
――人間の屑!!
ギルド長という虎の威を借りた狐こと町人が、ここぞとばかりに罵倒を浴びせてくる。石は投げないでください。
「血の気の多い冒険者たちを、諌め続けてやっとアルバという町に受け入れられた過去がある。それを台無しにしてくれたブサクロノ君は、クビだ」
ですよねー。これはしょうがない。また冒険者としてイチから頑張るべ。
「……と、言いたいところだが、ギルド職員は続けて貰う!」
なんだと? ギルド長が優しいぞ。これはひょっとして、俺のこと好きなんちゃう?
――軽すぎる!
――そうだそうだ! あいつの体重に見合う罰を!!
「皆様のご不満はごもっとも。しかし、ブサクロノ君は、元から性格に難があった。それを承知で雇ったのはこの私だ。本来ならば、私も責任を取って辞任すべきところだ」
ギルド長はそれなりに顔が知られているようだ。大半がギルド長が辞任する必要はないと擁護する。その中に、辞任を求める人も居る。
「彼は私の言うことなら、素直に聞いてくれる。今回の暴走は、私という抑止力が不在だったために起きた。私が辞任すれば、彼は野に解き放たれる。それをお望みかな?」
そう、俺はギルド長に恩がある。ギルド長の頼みなら、だいたい何でも聞く。つまり、俺というやべーやつを制御できる存在……それこそが、ギルド長なのである。
もう誰もギルド長の辞任を求める人は居ない。だが、俺をクビにしない理由に納得がいかない様子だ。
「5%……この数字は、冒険者の四半期ごとの死亡率だ。あらゆる対策をこなしてきたが、一度としてこの数字を下回ったことはなかった。ブサクロノ君が、ギルド職員になるまではね」
冒険者が100人増えたら、3ヶ月のうちに、5人死亡している。そういった統計も取っていたらしい。
「そしてその死亡した冒険者たちは、ブサクロノ君の講義を受けていないものたちだ。ブサクロノ君の講義を受けた新人冒険者たちは、健在だ。大きな怪我もなく、今日も市民の皆様の生活を守るべく、力を磨いている」
俺がギルド職員になりたての頃は、3人で交代で講義をしていた。俺が何回かやったら、あとはもう俺に丸投げされたけど。そうか、誰も死んでないのか。素敵やん。
「私が思うに、彼の陰湿すぎる性格が、講義に反映された結果だと思っている。パワハラ寸前のねちっこい指導が、未来ある若者たちの頭に焼き付いている。彼らは皆、ブサクロノ君の悪口を言うが、基本が芯まで染み渡っている。通常では絶対にありえないベテランの領域に達しているよ」
めっちゃボロクソ言われてますけど。これ、褒められてるんだよね?
「彼の性格の悪さは、才能なんだ。私なら彼を制御できる。その才能を、正しい方向に発揮させることができる。だから、明確な犯罪を犯していないのだから、クビという処罰は重いと判断した」
やったぜ。俺有能じゃん。やっぱギルド長って俺のこと好きなんちゃう?
「だが、彼は町の秩序を乱した。皆様の意見を重く受け止め、2ヶ月の減給処分とする」
ちょっと待って。今、穏やかじゃない言葉が聞こえたような。土下座しながら質問せざるを得ない。
「あのー、減給って、いかほどで……?」
「基本給50%カットだ。期間中、ヒーラーで稼いだ金額は、全額アルバに寄付して貰うことになる」
天国から地獄とはまさにこのことである。50%カットってやべーよ。一ヶ月タダ働きってことだぜ。そこから超絶ブラックなヒーラーの副収入すら取られてしまう……。
ギルド長は俺のことをよく知っている。俺に最も効果的な罰は、まさにコレ!
「……何か、不満があるのかね?」
「あ、ありません……しくしく」
俺が降参すると、町人から割れんばかりの喝采が起きた。勝者と敗者は、誰が見ても明らかだった……。
あとがき
今後も普通に登場しますけどね。
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