ブサイクは祝福に含まれますか? ~テイマーの神様に魔法使いにしてもらった代償~

さむお

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ギルド職員編

日曜大工でクロノ死す

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 キャリィをファ○ックした翌日、俺はガイルさんの元を訪ねるべく、豚箱……おっと、詰め所に向かって歩いている。


 吹き抜ける風が冷たい。温暖な気候のアルバにも、とうとう冬がやってきたのだ。雪こそ降らないが、半袖では身震いが止まらない。


 駆け足で詰め所にたどり着くと、ガイルさんにルークの一件のお小言をコレでもかと言われたが、右から左に流れていく。本題は、転び屋にお支払いする弁償金を持ってきたわけだが……。


「えっ? 払わなくていいの?」

「うむ。いきなり取り消しの申請が来てな。どうも、保険が下りたらしい。良かったじゃないか」


 ふむ、これはアレだ。相手さん、チキったな。ルークに派手にやったから、復讐を恐れて手を引いたのだろう。別に支払うつもりだったのだ。高い勉強代として。


 まぁ、そいつに嫁か娘が居たなら札束でヤってたけど。脅す理由もたくさんあるし、確実に買えたことだろう。その後、転び屋に、大切な人の録画映像を送るつもりだったのだが……負けたぜ。完敗だ。


『コンマ数秒でそれを閃き実行しようとするんだから、キミはそこの豚箱に入るべきだと思うよ』


 バレなきゃ犯罪じゃない。やらなきゃ犯罪じゃない。世界で唯一、人が自由なのは、己の頭の中だけなんだぞ。


 ともかく金が浮いた。そこで、俺は日曜大工に精を出すべく、奮発してスノーウッドの木材を取り寄せた。


 スノーウッドは、葉まで白い木だ。花粉は雪のようで、時期が良ければ真夏でも雪に包まれたような幻想的な景色を拝めるということで、お貴族様が護衛をぞろぞろと引き連れて観光に行くほど有名な森である。


 スノーウッドは見た目が良い。ただ白いだけではなく、少し灰色が混ざったような、味のある色だ。薄い炭で描かれたような木目の黒がまた良い。耐久性もピカイチときている。最高級の家具に使用される、最高級の木材なのである。


 そんな素晴らしい素材を使って作るのは、家の柵である。なぜ柵を作るのか? それは、正式に俺の持ち家になったのだから、とびきりゴージャスにドレスアップするためである。


「とんてんかーん♪」


 実はこのスノーウッドは、とびきり扱いが難しい。夏は水分をたっぷりと含んで取り扱いやすいが、冬になると鋼より硬くなるそうで。


 その性質を逆手に取って、夏に伐採しておき、注文が入ってから木材に加工することで、扱いやすくなった。職人の知恵だな。


「角は曲げすぎないように慎重に……エビ反りのイメージで……」


 今はまだ水分があるので、しなやかに曲がってくれた。冬とはいえ、温暖なアルバの気候なら、数日ほど乾かせば、堅牢かつ美しい柵が、家を守ってくれること間違いなし!!


「いやぁ、来世は大工もイケるな」


 作業を終えた俺が、上機嫌で家に入ると、家の空気が悪い。あぁ、思い出してしまった。俺が現実逃避した理由を……。


 ルークとの騒動で、最も怒ったのは誰か? それは――。


「何よ、ちょっと耳と尻尾があるからって。ちょっと耳と尻尾があるからって」


 大事なことなので2回言いました。そう、最も怒った人は、プリプリ同居人のテレサちゃんなのである。


 ちなみにテレサちゃんの発言は、独り言である。イライラがピークに達しているらしく、こうして漏れてしまっているわけだ。


 何に怒っているかといえば、キャリィを犯したことである。別に「女の敵」と怒っているのではなく、単純に嫉妬である。


 テレサちゃんを拉致監禁してからというもの、家に女を連れ込んだことはない。機会があれば連れ込むつもりだったので、たまたまキャリィが第一号になったに過ぎない。


 テレサちゃんの存在は極秘中の極秘なので、テレサちゃんは地下室で過ごしていた。由々しき事態が発生した場合に備えて、俺が地下に食料を一週間分用意していたから快適だったろう。ちなみに、その由々しき事態とは、俺が女の子を連れ込むことである。


 そんなわけで、テレサちゃんが嫉妬してしまったのだ。


「たかが耳と尻尾が付いてるくらいでデレデレしちゃって……」


 大事だと思う。JKも制服脱いだら、ただの人。コスプレファックで衣装を脱がせたら、カツラの色しか特徴ないぞ。顔とあそこにモザイクかけるな。どっちかにしろ。もう何してるか分からねーよ。


『※個人の感想です』


 やっと手に入れた自分の家なのに、べらぼうに居心地が悪い。だから気晴らしも兼ねて、スノーウッドでパァっとマイホームをドレスアップしたのである。


「……で、あんたは木が大事なわけ?」


 気配を隠していたのに、バレました。怒り笑いがいつもより深いぞぉ……。


「うん、まぁ……どっちも大事?」

「へぇ、ふぅん、耳と尻尾と木がそんなに大事なわけ」


 自分をもっと大事にしろ、その意味は分かる。ただ、ここまでお怒りになられるとは思ってもいなかった。これはデンジャーである。予想より、早かったな。


「テレサちゃんにも手伝って貰おうかな。家の裏手がまだだから、そこなら誰かに見られることもないし」

「……ふん。いいわ。やってあげるわよ」


 この子は、そっぽを向いた姿こそ映えるのだ。まぁ、甘やかすのはこれまでなんだけどな。


 道具を持って家の裏に行き、簡単にやり方を教えてやる。


「この金槌で、釘を打ち込んで柵を作るだけさ。簡単でしょ?」

「えぇ、こんなの見ないでも出来るわ」

「待てそれは危ない。怪我したらどうするんだ」

「うるさいわね。こんなの余裕よ、余裕で――」


――バキィッ!!


 あぁ、なんということでしょう。未完成ながらも美しかった白い柵に、金槌が無情にもめり込んでしまいました。おまけに、その衝撃で付近の柵も傾いてしまいました。これはもう使えません……。


「お、お前……これ高かったんだぞ……」

「ま、また買えばいいじゃない」

「それは俺が言うセリフであって、お前が言うセリフではない」

「な、何よ。怒ってるの? 謝ったじゃない」


 謝ってないんだよなぁ。反抗期と嫉妬が混ざり合い、そこにアクシデントが加わったことで、テレサちゃんは失言をした。


 いつもなら、俺は笑顔で許す。だが、もうこの子を甘やかすことはないのだ。よって、げきおこである。


「反省してないようだな。もう怒ったぞ。罰として――」


 俺が与える罰は、とびきりだぜ? 甘ったれのテレサちゃんも、すぐに分かることだろう……。



 冬の季節と言えど、アルバの町は活気に満ちている。そんな大通りに、変わったプラカードを持ち、薄着で歩く少女が居る。


 温暖な気候であっても、冬となれば風は冷たい。誰もが厚着をしているのに、その少女の格好は、黒のタンクトップ一枚に、ふとももまで顕になる名前とは真逆のホットパンツ姿。


 不釣り合いであるがゆえに、周囲の視線が彼女に向けられる。そして、市民の誰かが、プラカードの内容を読み上げる。


――私はクロノさんの家を壊しました。罰として町を歩いています。衣服を与えないでください。餌を与えないでください……?


 ちなみに、背中と胸にも同様の張り紙がしてある。


 町の活気が、ざわめきに変わる。見るからに寒そうな格好の通り、少女は自分の体を抱きしめるように震えているのだ。


 しかし、誰も声をかけない。市民が冷たいわけではない。声をかけられない理由がある。それこそが、俺である。


――クロノって……あのクロノか。厄介なやつに目を付けられたんだな。可哀相に……。


 ルークとの決闘からまだ日が浅いので、誰もが俺のことを知っている。性格が歪んでおり、下手に恨みを買えば何をされるか分からない。だから、誰も少女に声をかけられない。


 少女は人目を避けるように早足になる。だが、路地裏には入らない。大通りを選んで進み、足を止めることなく町を一周しなければならない。


「うぅ……あいつ何を考えてるのよ。こんな人目のある場所で……バレたらどうするつもりよ……っ」


 血の気の薄れた唇から、独り言が溢れる。少女とはテレサちゃんであり、あいつとは俺のこと。俺の命令で罰を受けている真っ最中なのである。俺は家で暖炉にあたりながら、のんびりとシャドーデーモン越しの光景を眺めているのだ。


 テレサちゃんは元暗殺者。アインの素顔を知る人は居なくとも、ここまで目立てばバレてしまうのではないか、そんな考えが頭をよぎり、寒さか恐怖か、体の震えは大きくなる……。


 テレサの恐怖は正しい。テレサの存在は極秘である。人混みに溶け込んで散歩するならともかく、コレでもかと目立つ格好で注目を集める行為は、絶対にしてはいけないことだ。


「あ、あいつ……あたしのこと捨てる気じゃ……そ、そんなことない。きっとただの罰よ……っ」


 俺はただ、今の格好で間抜けな張り紙をして、人通りの多い道を歩き続けろと命令した。俺の気が済むまでな。


「さ、寒い……お腹空いたわ……」


 日が暮れたアルバの町に、冷たい夜風が吹き抜ける。体を抱きしめたところで、肌を露出させていては体温は奪われていく。そこに空腹と孤独感が加わり、終わりの見えない苦痛がテレサの心を痛めつける。


「……ぐすっ」


 切れ長の目から流れた涙が頬を伝う。泣きたくて泣いているわけではない。ただどうしようもなく寒く、寂しく、悲しいと感じてしまう。


 俺に拉致監禁されたアインならこの程度のことでは動じなかった。だが、テレサとして生まれた彼女に、初めて訪れた苦痛が、自然と目から溢れてしまっていた。


「もう……帰ろう……っ。帰ってちゃんと謝ろう……っ」


 もはや人通りは皆無だ。よって歩く理由はなくなった。一歩が重かったはずの足が、軽快になっていた……。


 それからしばらくして、家の扉が叩かれた。そこにはテレサちゃんが居て、目が合うなり泣き出した。


「ごめんなさい。あたしが悪かったわ。だから……っ、もうしないから……許してください……っ」

「……反省したのか?」

「うん。自分のことばかり考えて、物に八つ当たりしてごめんなさい……」

「そうか。じゃあ、また明日も歩いてきて。今日はその辺で寝ていいよ」

「……えっ?」


 家の扉を閉める間際に見た表情は、絶望に満ちていた。短い問いかけは、意図せず漏れたもの。テレサは激しく混乱したことだろう。


 俺はいつも優しかった。家は暖かかった。他愛もない会話が楽しかった。そんなところだろう。テレサはすべてを持っていた。それが、すべて手元からこぼれてしまっている。


 くしゃりと顔が歪み、家の扉を叩こうとする。だが、彼女はもう泣きはらすだけの子供ではない。夜中に騒ぎとなれば、衛兵が巡回ルートのこの場所に駆けつけてくることが分かっている。


 もし衛兵に疑いをかけられ、身元を調べられたのなら、赤く染まる罪の魂が公になり、すぐに処刑されてしまうだろう。


 だからテレサは、握りしめたままの拳を下げ、家の裏で丸まって眠る。冷たい夜風に吹かれながら……。


 そして数日が経過した夜、家の外で寝ているテレサを叩き起こし、一緒に真夜中の散歩に出かけることにした。



 あとがき

次はエロ回
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