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ギルド職員編

心まで醜いクロノ死す

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 アルバに帰ってきた俺は、こっそりと家に入る。別にテレサちゃんを驚かせようとしているわけではなく、単純に夜中だから起こしたくないからである。


「……おかえり。遅かったじゃない」


 暗闇の中、仁王立ちしたテレサちゃんがお出迎え。びっくりして叫びそうになった。レンジャースキルの無駄遣いではないか!?


「こっそり帰ってくるなんて、うしろめたいことでもあるわけ?」

「ないぞ。テレサちゃんこそ、怒るような出来事があったのかな?」


 暗闇に目が慣れてくると、毎度お馴染みの怒り笑いしたテレサちゃんの顔が見えたのである……。


「突然、黙ってどこかに行っちゃって? あたしが心配しないとでも思ったわけ?」


 実に回りくどい言い回しである。反抗期かな。年頃の女の子は難しいなぁ。だが、それは大した問題ではない。


 今日のテレサちゃんは一味違う。なんと、ミニスカートを着ているのだ。ミニスカートは好きだ。かしずくほど好きだ。好きすぎて、頭を突っ込むしかないだろう!


 温かく滑らかなふとももを撫でながら、かつて俺がプレゼントした黒のおパンティに顔を埋める。ゆっくりと深呼吸すると、生地の匂いに混ざって、女の子の少しツンとした匂いを存分に堪能する……。


「すぅはぁ……あぁ、これだよ。やっぱりこれが一番だ。ただいまテレサちゃん。ひとりにしてごめんね。おじさんも頑張ってきたんだよ」

「……あのね、常日頃から目を見て話せと言っておいて、肝心のあんたは何してるのよ」

「そんなこと言わないでくれ。グッドスメルの誘惑には誰も抗えないんだ」

「あそこに話しかけるの止めてくれる!? ちゃんと顔を見て話しなさい」

「やだ。もうちょっとだけ。すぅはぁ、おぉふ……繊細なレースの奥側には、クロッチがあって、テレサちゃんの大切な部位を包み込んでると思うと、勃起が止まらないよ」


 我ながら気持ち悪いことを言っているのは分かっているが、止められないのである。そして、テレサちゃんは俺が気持ち悪いことを知っているので、何の問題もないのである!


「はぁ、もういいわよ。そのままでいいから、ちゃんと説明して」


 黙って深呼吸しているとテレサちゃんが暴れ始めたので、仕方がなく炭鉱夫の生活を話した。かなりハードな生活だったと思う。


「そう、頑張ったじゃない。もう少しだけ嗅がせてあげるわ。でもあたしは眠いから、射精したいなら勝手にしごきなさい」


 わぁい、ツンツンなご褒美ワードいただきました。張り詰めたテントから開放して、自分で楽しくしごく。たまにテレサちゃんの生足で踏まれてしごかれて、一ヶ月ぶりの射精の快感に脳が焼けるかと思った。


 もちろん生足にぶっかける。怒られるかなと思ったが、意外にも静かだった。


「ふぅん、浮気はしてないようね。飼い主の自覚があるようで嬉しいわ。さぁ、今日は寝るわよ。あんたも疲れてるでしょ」


 精液の量を確認しているようだ。俺としては、浮気とか他の女とか、そういうレベルじゃなかった。もうずっと穴の中で生活してたし、マッチョなアニキしか居なかったからな……。


 テレサちゃんが足を拭いているあいだも、俺はパンツの匂いを嗅ぎ続けた。俺が腰に手を回して一向に離れないものだから、よたよたと怪しい足取りで歩くテレサちゃんに続いて、匂いに誘われるようにベッドに入って一緒に眠った。


「……ぐっもーにんっ」


 俺の腕にしがみつき、足を折りたたんで丸くなったテレサちゃんは、未だにおやすみのご様子。反抗期ゆえ少しだけ素直じゃないが、やはりひとりで過ごす一ヶ月は寂しかったんだろうな。


 ここから性的な意味でいたずらしようとすると、秒で起きるんだよ。毎朝のひと揉みか、ひと舐めが唯一のチャンスタイムなのであった……。


「それじゃ、おじさんは税金を納めてくる。そのままギルドに行くと思うから、また夜にな」

「はぁい。今日くらいは、早く帰って来るのよ?」


 家を出ようとすると、扉がノックされる。扉を開けると誰も居ない……と思いきや、下に居る。小さなエンジェル・ティミちゃんだった。


「おかえりブサクロノ。会いたかった」


 腰にタックルするように抱きついてくるティミちゃん。うむ、元気そうで何よりだ。抱っこしたくなる可愛さである。


「いやぁ、そのうち挨拶に行くつもりだんだけどね。タイミングが良くてびっくりしちゃったよ」

「風の噂でブサクロノが帰ってきたと聞いた。ブサクロノは、目立つからね」

「それでわざわざ会いに来てくれたのか。うーん、良い子!」

「ブサクロノはいつも突然居なくなる。会えるときに会うしかないの。ついでに、頼まれていたものも出来たよ」


 頼んだものは、マナポーションの丸薬である。ミラちゃん経由でおねだりしていたが、こんなに早く作ってくれるとは……。


「ブサクロノ、嬉しい?」

「……あぁ、とても嬉しいよ」

「……悪い顔してる。ほどほどにしてね」


 これで勝つための条件が揃った。勝利の女神のおでこにキスをする。予定変更だ。いざゆかん。憎き敵が居座るギルドに。


 懐かしのギルドは今日も賑わっている。野郎どもの匂いに混ざって、美味そうな飯の匂いがするのだ。


――おい、腰抜けが戻ってきたぞ。


 ルーク一派の嫌味の混ざった挨拶である。バリエーションが少ない。もうちょっとひねりのある内容にして欲しいものだ。


――1ヶ月近くギルドをほったらかして、何がギルド職員だよ。ギルド長が早く帰って来ねぇかなぁ。あんなやつクビにして、ルークさんにもっとたくさん教わりたいぜ。


 おっ、良いこと聞いた。やつは今もただの冒険者のままらしい。そして目付役であるギルド長は未だ王都に居るようだ。


 さて、いっちょやるか!!


 陰口を叩く集団のもとに、ずんずんと歩いていく。周りが急に静かになるが、お察しの通り、そういうことがとうとう起きるぞ。


「今、俺の文句を言ったのはお前か? こそこそ話すしか能がない臆病者が、よくもまぁ俺に腰抜けなんて言えたもんだな!」


 うろたえる雑魚は放っておき、取り巻きの中心に居るルークを睨みつける。


「ルーク……お前が先導しているのも分かっている。姑息な手を使わず、堂々としたらどうだ? 俺をギルド職員にしてくださいってな」

「……誤解じゃないか? こいつらが不満を漏らすのは、ある意味で素直な感想なんだよ。強いやつに教わりたいと思うのは自然なことだと思うぜ」

「お前のほうが優れている。そう言いたいわけか?」

「あぁ、そこは譲れないな。Dランクのお前と、Cランクの俺。どちらが冒険者として優れているかなんて、子供でも分かることだ」


 その通りだ。だから、こいつと決着をつける方法は決めている。


「ルーク……俺ももう我慢の限界だ。お前に決闘を申し込む!」

「へぇ、大きく出たな! いいぜ、受けてやるよ!」

「一時間後、場所は中央の広場だ。逃げたきゃ来なくてもいいぞ」


 ――け、決闘だ! ルークとブサクロノの決闘だぁぁぁっ!!


 冒険者たちが一斉に立ち上がり、ギルドの建物を出ていく。この騒ぎですぐに衛兵が呼ばれ、町中に広がることだろう。


 ルークと取り巻きどもも消えた。宿に戻って準備をするようだ。俺は既に準備を終えているため、自分の足で中央の広場に向かった。


 決闘会場に着くと、人で溢れかえっている。その中で活気があるのが、賭けごとである。


――決闘だ決闘だ! どっちが勝つか賭けときな! 銀貨1枚から参加できるぜ。おぉっと、決闘の当事者は賭けには参加できないぜ。


 倍率はルークが1.1倍。俺が1.9倍だった。なんと、この賭けは仲介業者が手数料を取らないらしい。どうも賭け事は王都以外では禁止されているようで、商売とすることは出来ないらしい。ちょっとガバガバな法律だな。


 それにしても、1.9倍か。ほぼ全員が俺が負けると思ってる。妥当ではあるが、俺に賭けるやついるのかね? そんなことを考えていると、イケメンことライオネルが走ってやってきた。


「久しぶりだなクロノ! 帰ってきたと思ったら決闘って、お前は本当に忙しいやつだな」

「イケメンほどじゃない。そうそう、ライオネルは明日誕生日なんだろ? 何か欲しいものある?」

「欲しいものかぁ。うーん、鎧を買おうか迷ってる。本格的にタンクとして立ち回るなら、金属の全身鎧じゃないと、パーティーを守るのは難しいからなぁ」

「楽しそうだな。でも、全身鎧となると高いだろ」

「そうなんだよ。だから、毎日冒険してたけど、思い切って遠征してさ。ガッツリ稼いで帰ってきたところだ。クロノが決闘しなけりゃ、今晩にでも一緒に飲もうとしたんだけど、取り消すつもりはないのか?」

「ない。俺にも我慢の限界があるんだ。それはともかく、俺から1日早い誕生日プレゼントをあげよう。そこに賭けがあるだろ? 手持ちの金を俺の勝ちに賭けてみな。俺が負けたら、損失分は即金で払うよ」

「変なプレゼントだなぁ。まっ、いいか。俺からの応援だ。全額賭けてやるよ」


 これでプレゼントは固まったな。取り巻きのメスAちゃんから、ライオネルの欲しい物を聞き出す約束をしていたが、今からでは間に合わない。ライオネルもプレゼントできない代物だから、言っただけだろうし。


「最前列で応援するぜ。頑張れよ、クロノ! 負けたら俺がおごってやるよ」


 俺に向けられたイケメンスマイルで、取り巻きのメスどもがくらりとする。みんな楽しそうだな。他人にとってはイベントでしかないのだから、これでいいのだ。


 活気ある広場をのんびりと眺めていると、ガイルさんが血相を変えて走ってきた。うーん、お説教の予感。


「こらブサクロノ! あれだけバカなことはするなと言ったのに、お前というやつは、よりによって決闘を申し込むなどっ」

「あっ、これ家の税金です。お納めください」

「むっ……確かに。これで正式に、あの家はお前のものだ。しかし決闘はいかん。考え直してくれないか。俺が見届人をしなくちゃならんのだ。友人がすべてを失うところなど、見たくないんだ」

「見届けてください。男には、引けないこともあるんです」

「ぐぬぬ……分かった。思いっきり、ぶつかっていけ!」


 やらなきゃいけないことが片付いた。いつの間にかルークたちも到着していて、約束の時刻が迫っていた。


 見届人にして進行役のガイルさんが、槍を地面に打ち付けて、高らかに叫ぶ。


「両者、前へ! 決闘に至る胸の内を聞かせて貰う!」


 まずは俺から話そう。言い出しっぺの法則である。


「俺はルークとその仲間の冒険者から、嫌がらせを受けています。ずっと我慢してきましたが、職務に影響が出るほど酷いものとなりました。決闘で解決を図るしかありません」

「嫌がらせなんてとんでもない。誰もが優れた人に教わりたい。気持ちは分かる。だから、皆が求めるなら、俺はギルド職員を目指す」


 バカどもを焚き付けておいてよく言うぜ。まぁ、話し合いで解決しないことだけは事実だけど。


「経緯は分かった。では、勝者の権利として、何を望む!?」


 ガイルさんの問い。ここが攻め時だ。


「俺が負けたら、ギルド職員を辞める。空いた枠は、ギルド長の判断に委ねられる。こればかりは俺の権限じゃどうしようもない」

「あぁ、それでいいとも。俺が負けたら――」

「俺が勝ったら、そこの獣人の女・キャリィを貸せ。ヤらせろ。1週間でいいや」


 はぁい。爆弾投下のお時間です。


「にゃっ!? なんでキャリィが条件になるのにゃん!?」

「何を驚くことがあるんだ? ルーク自身では、俺が求める勝利の報酬にならない」

「待てよ。俺の恋人のキャリィを好き放題させろ、だとぉ? 女の子を物としか考えてないのか。最低のことを言ってるって気づいてないのか?」


――最低のやつだ。顔だけじゃなく心まで醜いのか。


 これがただの市民の罵倒なら聞き流すが、ルークの取り巻きの言葉とあっては黙っておけない。まぁ、必ず言うと思ったよ。言われたから、俺は怒る理由を得た。


「心まで醜いだと!? よくもそんなことが言えるな! お前たちは、いつもそうだ。自分たちは遊びだの悪ふざけだと言って、被害者の気持ちを少しも考えない!」


 俺の怒声で、どよめいていた会場がシンと静まる。分からないなら、教えてやる。ルークが最低の行動をしており、俺に否がないことを。


「俺は闇の魔術師だ。最弱と笑われ、ギルドのツートップにも冒険者になることを止められた。それでも、冒険者になる道を選んだ」


 ギルド長には聖職者を勧められたし、合格してもお祈りをされた。その悔しさを忘れることはない。


「必死にやったさ。誰よりも劣っているから。恵まれたやつらに言われるがまま負けるのが嫌で、過酷なバイトヒーラーもして金を貯め、装備を整えた。戦士の真似事のような格好も、必要だからしている」


 毎日が吐き気との戦いだった。クソどうでもいい人間関係を壊さないために、ツケにも応じた。求めらたら必ず治療した。


「他の冒険者が弱いと言っている魔物に恐れ、逃げ出し、改めて立ち向かった。他人が軽く飛び越える階段を、俺は一歩ずつ苦労しながら上がってきた」


 ゴブリンに恐怖し、逃げ出した。手にかけた感触を忘れることはない。何度も化け物に遭遇し、命からがら逃げ出して、理不尽な世界に立ち向かっている。


「そうやって必死にやってきて、認められて、ギルド職員という立場を勝ち取ったんだ。いわば、俺の人生そのものだ。それを奪おうとするのなら、お前も人生を賭けろ! 人生の伴侶を賭けろと言っているんだ! それでようやく、決闘の条件として釣り合うんだ。その覚悟がないなら、今すぐ目の前から失せろ!」


 流れが、変わる。民衆は外野であり、俺たちのことなど深く知りはしないし、興味もない。だが、俺がぶちまけた思いの正当性に納得せざるを得ない。


 挑戦者から一転して、悪役となったルークとキャリィ。さぁ、話し合え。そして答えを出せ。今引けば、腰抜け呼ばわりされるだけで済むぞ。


「キャリィは嫌だにゃん。あんなやつに好き放題されるなんて、死んだほうがましだにゃん!」

「大丈夫だ。俺は勝つ。必ず勝つ。あいつに負けている要素なんてひとつもない。だから、勝とう。そして、ギルド職員になって、一緒に暮らそう!」

「ほ、本気にゃん? 信じていいのにゃん……?」

「あぁ、信じてくれ。この槍に誓おう」


 まさかのプロポーズ。指笛がふたりの恋路を祝福する。それフラグって言うんだぜ。帰ったら結婚しようの愚者版だ。


「ブサクロノ! お前の望み通り、俺も人生を賭ける。俺が負けたら、キャリィを貸し出そう。だが、負けるつもりはまったく無い!」


 いいねぇ、楽しくなりそうだ。両者が合意したら、見届人のガイルさんの出番である。


「両者が合意したことで、決闘は承認された。ブサクロノが勝てばキャリィを1週間、自由に扱えるものとする。ルークが勝てば、ブサクロノはギルド職員を退職する! 間違いはないか!?」


 最終確認に、互いに頷く。これでもう後には引けない。


「相手を殺すか、降参させたら勝者となる。他人の手出しは重罪に問われる。戦士はポーション類の使用を禁止する。魔術師はマナポーション類の使用が認められる。制限時間は無制限だ」


 武器を持つ戦士と違って、魔術師の攻撃はMPに依存する。MPが尽きたら杖で殴りかかるなど見苦しい。だからマナポーションの使用は公平である。


「互いに正々堂々と戦うがいい! では……始めっ!!」

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