ブサイクは祝福に含まれますか? ~テイマーの神様に魔法使いにしてもらった代償~

さむお

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ギルド職員編

ライバル登場クロノ死す

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「やぁやぁ、おはよう。ブサクロノくん。今日も講義をしてくれたまえ」

「ま、またですか……? まさかおサボりを覚えて癖になったんじゃないですよね?」

「皆が君をご指名なのだよ。私も情熱のある者たちに水を差すほど野暮ではない。とにかく、君なりに上手くやってくれ」


 手をひらひらと振って2階に去っていく。目の下のくまも減ったし、俺が頑張れば美人の美貌が保たれる。依頼書を貼り付けて、ボケーッと立ってるよりは講義のほうがましだと気づいた。サボりやすいから。


 講義まで少し時間がある。ハゲに「皆に頼られて忙しいわ。カーッ!」とバカ話でもしようかと思ったのに、朝の仕込みでフル回転中のご様子。なんか腕が6本くらい見えるし。こりゃガチなやつだ。話しかけられる雰囲気じゃない。


「……俺、頼られてるのかぁ」


 どうしよう。ちょっと嬉しい。ソワソワしちゃう。いつもより丁寧に床掃除をして、指定された時刻に訓練場に移動した。


 いつもは殺風景なのに、今日は賑やかだ。野郎どもが集合している。中には見知った顔もあるし、俺とランクが同じやつも居る。基本に立ち返りたいのだろうか?


「おっほん、皆から頼られているクロノだ。ゆえに俺も忙しい。お前たちの熱意を聞かせてくれ」

「俺たちに彼女の作り方を教えてください!」

「……なんだって?」


 俺の講習を受けると、恋人が出来る。そんな噂がギルド内で流れているらしい。噂の元は、俺が初めて講義をしたカイルと、一番弟子のマルスだとか。


 カイルはライネとカップルになり、マルスは市民学校のマドンナと交際中。以上の結果から、くすぶっている野郎どもは、誰かが酒の席で呟いた話を、右ならえで信じて、今こうして集まっていることになる。


「……よし、帰れ!!」

「そこをなんとかお願いします。最近、故郷の母ちゃんから恋人作れの突き上げが厳しいんだよ!?」

「うるせぇ! 母ちゃんは大事にしろ!」

「だから教えてくれよ!?」


 そんなこと言われても、知らんがな。俺はティミちゃんにプロポーズされるし、女友達のミラちゃんも居る。ツンツン居候も居るし、男だが弟子だって居る。だが、恋人は居ねぇんだよ。作らねぇからな。


「恋人以上の関係あるじゃん!? プロポーズされたきっかけは!?」

「うーん、タンクヒーラー?」

「あーあ、その辺に魔物に襲われかけてるフリーの可愛い子が居ねぇかなぁ」


 清々しいまでのクズだな。好感が持てます。


「はい、秘伝の吊り橋効果を教えました。解散、消え失せろ」

「うるせぇ! 出し惜しみしてんじゃねぇ。もっと教えろクソオーク」

「ブヒヒヒッ。オークに負けた哀れな負け犬どもめ。傷口舐めあってんじゃねーよ。推しの娘の店に惜しげなく通え」

「毎日通ってるんだよ。チクショーめ!」

「だまらっしゃい。俺なら1日2回は通うね。背中を舐め回すように視姦するね」

「だったら俺は3回通う! あの子の運んだ物しか食べねぇ!!」

「冒険しろやバカたれ」


 いつの間にか、罵倒しあえるくらい仲良しになっていた。色恋話はグローバルスタンダード。その後は、皆でない知恵を持ち寄り、狙っているあの子を落とす作戦会議になった。


 例題なくして話は膨らまない。自分の失敗談を皆の前で語って貰うしかあるまい。


「最初のしくじり先生、どうぞ」

「この前さ、気になるあの子に花束を贈ったんだ。そしたら、引かれた」


 なんだこのピュアおっさん。周りのやつらも「それな」って雰囲気で頷いてるぞ。間違ってるのは分かるが、俺もまともに女と付き合ったことがない。タイプの子の尻を追いかけ回すのは好きなんだけど……。


 もし付き合ってしまうと、他の女の子とヤれない。そうなると俺の人生はドブ色だ。小人族のファッキンクレイジーな恋愛観も、この一点では俺に優しい。


「モテモテクロノ様がアドバイスをしてやろう。花を贈りたいなら、納品依頼をチェックだ。野生のきれいな花を大量に採取して、納品前に店に寄る。装備と持ち物を預けるついでに、集めすぎたから少しどうぞと気楽な感じでプレゼントする。最悪でも店に飾られる」

「な、なるほどぉぉぉ! ちょっと依頼受けてくる!」


 なぜおっさんたちは花を贈りたがるのか? この世界に花屋はほとんどない。花を愛でる余裕のある貴族や金持ちが、庭師を雇ってご自慢の庭を作るくらいだ。


 一般人にとって身近な花とは、野生の花である。群生地は町の外なので、ちょっとお花摘んでくる、なんてノリで出歩けば魔物に出会う。清水を撒き散らす程度で済めばましな方だろう。


 ゆえに、冒険者といえば花だ。危険を承知で、あなたのために摘んできました。これが野郎どもなりのアプローチであるらしい。物語の勇者がサクっとドラゴンを倒して姫をゲットする。それの劣化版である。


「次のしくじり先生を連れてきたよ」

「凄く景色が良いところを見つけたんだ。案内してあげようと思って、デートに誘ったら、悲鳴を上げられました!」


 魔物ぶっ転がすと書いて人生と読む。それが冒険者である。気軽に見られる100万ドルの夜景と違い、この世界ではやはりデンジャー。山登りから始まっちゃう。魔物に出会えば、汚い花火を撒き散らす可能性もなくはない。


「まず誰かとその店に入り、周りに聞こえるように、自然な感じで絶景スポットの話をしよう。ウェイトレスが食いついてきたら、安全なことをアピール。前日に下見はもちろんのこと、冒険者を雇って掃除と護衛をつけましょう」

「野郎ども、まずは飯食いに行くぞ!!」


 ゼロからアイディアをひねり出すのは大変だが、手直し程度のアドバイスならいくらか楽だ。俺の話を聞いた野郎どもが、我先にと離脱していく。この調子で捌き切ってやろうとしたら、男が息を切らしてやってきた。


――た、大変だ! 里帰りだっ!!


 アルバから王都に行った冒険者が、稀な休暇を利用して、アルバに戻ってくることを里帰りと呼ぶらしい。血生臭い理由で故郷を失った人も居るので、そういうことになったとか。


 冒険者たちのざわめきは相当なもので、色恋話ムードは消え去った。退屈な田舎町に、都会から転校生がやってきたノリだ。俺も、気になります。


 図らずも解散となり、俺たちは列をなして冒険者ギルドの建物に入っていく。すると、受付の前に、それらしい男を見つけた。


――あれが王都で生き抜いた冒険者か。オーラが違うな。


 目を引くのは、白い鎧だ。白騎士という響きがぴったりである。主張の激しい鎧より、さらに目立つのが、槍だ。


――あの槍、長くないか? 形も変わってるな。魔剣……いや、魔槍か?


 背中に収めた槍は、少なく見積もっても3メトルはある。穂に刃が付いている一般的な槍と違って、先端に刃はなく、傘みたいな形だ。


 何度がゲームで見たことあるが、突撃槍と呼ばれる武器ではなかろうか。刃こぼれのしやすい刃を捨て、刺突攻撃に特化している。あれだけの質量なら、そう簡単に折れ曲がることはなさそうだ。


 磨き抜かれた鋼より、一層輝く銀の色。恐らくは、希少な鉱石を元に作られた武器。コストと実用性に特化したアルバの冒険者の装備とは、あまりにもかけ離れたオーラがそこにはあった。


「ふふん、みんなルークを見てるにゃん」


 白騎士の死角からひょっこり現れた女の子は、頭から耳が生えている。尻尾も生えている。まさかまさかの、獣人ではないか!?


 興奮気味に横の冒険者に耳打ちすると、反応は意外と冷めていた。アルバでは滅多に見ないが、王都ではちらほら見かけるらしい。個体数では、エルフのほうが珍しいようだが、俺はギルド長とアリシア見てるし、ギャップを感じる。


 白騎士が兜を脱ぐと、金髪の青年だった。顔立ちからして、20代前半だろう。


「知ってるやつは久しぶり。知らないやつは、はじめましてだな。俺はルーク。王都でCランクの冒険者だ」

「ワイルドキャット族のキャリィだにゃん。ルークの里帰りに付き合ってるにゃん。しばらくのあいだ、仲良くしてにゃん♪」


 にゃんにゃんにゃん。あざといにゃん。でも好き。おじさんはあざといのが大好きなのだ。あざとさとは計算であり、キャラ作りである。それを頭に入れておけば、これほど愉快なものはないし、○○星にだって電車と徒歩で行けるぞ。


 周りの冒険者たちも浮足立つ。こっちはオタサーに舞い降りた姫としてだろうな。さっきまで「あの子」に夢中だったやつらが、コロっとさや替えだ。


 色んなやつらが、色んな思惑で王都組に詰め寄る。普段なら混ざっていたかもしれないが、今の俺はギルド職員であり、勤務中である。恥ずかしい真似は出来ないのだ。


『出遅れただけでしょ』


 相棒よ、図星を突くのはいい。ちょっとだけ首を絞めてくるのは止めてくれ。二重苦ではないか。


『ボクなりの予防線さ。出遅れて悔しいからって、ボクを売って注目をかっさらうのは止めようね。それこそ、恥ずかしいことさ』


 それっぽいことを言っているが、売られたくないだけだろう。なにせ俺の相棒だから、自分のことは棚に上げるんだよね。


 俺は基本的に目立ちたがり屋なので、大人気者のクロノ様よりぽっと出の里帰り野郎どもに注目が移ったのが悔しい。がっ、いつまでもスネないのが俺だ。貴様をライバルと認めてやってもいいぞ。感謝しろ。


『……ちょっと暇だね』


 諭す側の相棒がぼやいてしまうほど、騒ぎが収まらない。当初の予定とは違うが、場の空気をぶち壊すしかねぇな。


 人混みを押しのけ、カウンターの前に立つ。机を叩いて、みなさん、はい注目ですよっと。


「冒険者ギルドへようこそ。話をしたいだけなら、外でやれ。大の男たちが溜まってたら、他の冒険者が入って来れないんだよ」


 お楽しみを邪魔されてムッとした冒険者たちだったが、すぐに我に返る。どんな理屈があろうと、今回だけは俺の言い分が正しいのである。


「悪かったよ。つい話し込んじまった。受付くんに迷惑かけないように、今日は周辺を探索してみるさ」

「分かってくれればいい。それと俺は、受付くんじゃない。ギルド職員だ」


――バイトだろうがっ!


 周りのツッコミは笑顔で流す。別に嘘は言ってない。


「……へぇ、あんたギルド職員なのか。王都じゃ見たことないけど、ひょっとして有名な人だったり?」

「ふっ、俺を知らないやつはアルバには居ないぜ。なんたって俺は、飛ぶ鳥を落とす勢いでDランクになった闇の魔術師だ」

「……闇の魔術師だって?」


 ルークは訝しむと、いきなり肩を組んできた。馴れ馴れしいやつめ。こういうときは、まずはお友達から始めましょうと言うのが礼儀だぞ。


「……なぁ、あんた。どうやって取り入ったんだ? 色仕掛けってわけじゃないだろ?」


 こいつ、俺のことを見下している。隠そうとしているようだが、言葉や態度ににじみ出ている。これは確信だ。


 さてはこいつ、嫌な奴だな……?

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