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ギルド職員編

とんちでクロノ死す

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「うーん、せっかく習得したのに自傷スキルとは……はぁ」


 いつの間に俺はメンヘラになったのだろう。恐ろしい体験が多すぎて、とうとうおかしくなってしまったようだ。まぢ辛い。リスカしょ。


「自傷スキル、ねぇ……」


 そもそも、自傷スキルってなんだろう? 俺の勝手なイメージだが、強力すぎる技の代償ではなかろうか? 銃の反動しかり、捨て身の特攻であったり。諸刃の剣ってやつだと思う。


 それなのに、メンヘラリスカ中毒のダークレイちゃんは、何の力もないのに使用者である俺を傷つける……そんなことあるかぁ?


「目には見えないけど、発動してるとか……」


 周辺を見渡してみたが、何の変化もない。見渡す限りの森だし、小鳥たちもチュンチュンしている。死を振りまくスキルではないと思う。


『これは長くなりそうだなぁ』


 相棒はもうヒントをくれないらしい。常日頃から自分の力で生き抜いてきたが、今度ばかりはこってり分からない。


『仕方ない。最後のヒントだ。そもそも、どうしてキミは怪我をしたのかな?』


 俺が聞きたい。それを聞くつもりだった。この鬼畜め。だが、裏を返せば、着眼点は間違っていないことになるが、本当に分からない……。


「……やっぱり夢だったのかなぁ。スキルを使ったとき、一瞬だけなんか浮遊感がしてさ。夢から覚めるあの瞬間に似ている……待てよ」


 スキルを使うと、気絶する。俺の意識がないときに、スキルの効果が出ているのではないか? いわば酔拳の一種で――。


『酔っぱらいのほうがまだ建設的な考えをする』

「えぇ……これもハズレかよ……しょうがねぇ。切り札を使うか」


 一度家に戻って、カメラの魔道具を抱えて、北の森に戻ってきた。このカメラがあれば、空白の時間を録画して見れる。解決の糸口になるはずだ。


 シャドーデーモンを召喚して、中継機となる小型カメラを持たせた。真横にスタンバイさせる。それっぽい合図よろしく。


――はい、笑って……死にたい。


 笑えねぇよ。シャドーデーモン流のハイチーズはともかく、録画が始まった。あとはスキルを唱えるだけでいい。


「頼むぞ……【ダークレイ】」


 ……目覚めた俺は、背中を擦りながらカメラに触れた。脳内に広がる映像には、俺が映っている。そして、スキルを唱えると……姿が消えた。


「……瞬間移動するスキルなのか?」


 俺が目覚めたとき、スキルを使った場所から、数メトル後方の大木にもたれかかっていた。思い返せば、何度も気絶したが、似たような状況だった。


 では、後方にのみ瞬間移動するスキルなのか? ちょっと無理がある。映像を何度も見返していると、消える前に一瞬だけ映像が乱れた気がする。微かな違和感が次の手がかりか。


「【サモン・シャドーデーモン】」


 映像が乱れるのは、きっと動きが早すぎて捉えきれないせいだ。シャドーデーモンの動体視力なら、俺やカメラでは見えない動きを見れるはず。


 俺を囲むように配置して、準備完了。クロノ、行きまーす!


「【ダークレイ】」


 シャドーデーモンたちが、空白の時間を捉えた!


 まずは1カメくんこと、横のシャドーデーモンの視界を見る。俺がスキル名を唱えると、突き出していた腕が下がり、自分の胸にへばりつく。その直後にぶっ飛んだ俺がカメラ外にフェードアウトする。


 同時に、正面の2カメくん。ぶっ飛ぶのはお馴染みだが、俺の手のひらが黒く染まっている。これがスキルの効果だろう。そして、気絶した。


「……夢だけど、夢じゃなかった!」


 目覚めた俺は、新しい発見に背中の痛みを忘れるほど興奮した。その後も何度も実験と気絶を繰り返し、黒く染まった手のひらから、何かが出ている。これはひょっとすると――。


「おいおい、とうとう手からビーム出せるようになったわ」

『3センチくらいだけどね』


 謎のスキル【ダークレイ】は、闇の波動を出せるスキルなのだ。きっと凄まじい威力なのだろう。だから反動が酷い。俺では支えきれず吹き飛んでしまい、障害物にぶつかって気絶しまうわけだ……。


「ククっ、クククっ、ハーッハッハッハ!」

『……何か、掴んだようだね?』

「木にぶつかるなら、最初からぶつかればいいじゃない!!」


 最初から木に背中を預ければ、ぶつかって気絶しない。スキルの発動が途切れなくなれば、3センチしか出ない闇の波動が、本当にビームのように放てる。アントワネット腰掛け論、ここに成るっ!


「いくぜぇ! 【ダークレイ】 ……ぶぅおぇぇぇぇぇっ!?」


 ……おはようございます。俺は生きています。反動で引き下がった腕と、木に挟まれて圧死するかと思いましたが、奇跡的に生きています。


「反動なんて生易しいもんじゃないな。まさかカッコつけたポーズに命を救われていたとは……」


 空中で発動させたら、トリプルアクセルできそうだ。幻の4回転ジャンプも見えてくる。氷上の貴公子クロノと名乗るべきか。


『さぁ、クロノ選手が大技に……飛んだァ! 涙と鼻水を撒き散らしながら、凄い勢いで回転しています。なんと汚いハイライトでしょう。あぁーっと、着地に失敗! これは大幅な減点です!』


 これだけ何度も気絶すると、ダークレイちゃんの特性が分かってきました。ダークレイちゃんは、メンヘラサイコクレイジーなスキルだけど、気絶こそが最初にして最後の良心だったのです。


「魔術師にしか使えないけど、魔術師には使えないスキルか……」

『……とんちかな?』


 なんだそれふざけるな。温厚な一休さんも橋を爆破し、屏風に火を付けるレベル。しかも昼夜問わず。


「ちくしょう。とんでもないハズレスキルだ!」


 時間をかけ、痛みを堪えて頑張ったのに、なんて日だ。怒り心頭の俺は、ずんずんと夕日に染まった森を歩きながら、家に戻った。


「おかえり。今日は早かったじゃない……えっ? なに? 怒ってる? あ、あたし何かした――」

「した。ただでさえ新スキルで上手くいかなくてイライラしてるんだ」

「そ、そういうこともあるわよ。相談に乗ってあげるから機嫌直しなさいよ。そもそも、あたし悪くないじゃない」

「いいや、テレサちゃんが悪い。ノースリーブにパンツ丸出しでさ。石鹸の良い匂いまでさせてさ。おじさんのちんちんがイライラしてしょうがない」

「えっ、えーっ? だって風呂上がりだし、慌てて服を着て出迎えただけ……ちょっ、ちょっとぉぉぉ!?」


 そして、テレサちゃんに八つ当たりした。性的な意味で。


「……ふぅ。今日は良い日だったな」

『テレサちゃんは犠牲になったのだ』


 ベッドにうつ伏せで伸びているテレサちゃん。その生尻を撫でながら目を閉じた。


 従順なやつはつまらないが、じゃじゃ馬すぎるのも困りもの。お手上げおてんば娘ダークレイちゃんを使いこなせる日は来るのだろうか……。
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