ブサイクは祝福に含まれますか? ~テイマーの神様に魔法使いにしてもらった代償~

さむお

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ギルド職員編

もみくちゃにされてクロノ死す その2

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 特設ステージは垂れ幕で隠されている。俺は関係者なので舞台裏から入ると、ロイスさんが息を切らしながら駆け寄ってきた。


「ブサクロノさん、いいところに来てくれました! 司会をお願いします!」

「えぇ……そっちで用意するんじゃ……?」

「緊張で倒れました。代役を探そうにも、次々と倒れる有様で――」


 準備に追われ、元気そうに走り回る職員を、ちらりと横目で見る。目が合った瞬間、ばたばたと倒れていく。そのくせに、薄目で俺の様子を伺ってくるではないか。


「何だこいつら。面白すぎだろ」


 単独で人前に立つ度胸はまだないらしい。まもなく始まることだし、俺が司会者クロノとして場を盛り上げるしかない。テステス、マイクテスト。


 特設会場の垂れ幕が上がり、開けた視界に映るは人、人、人。豪華景品に釣られた浅ましき人間どもよ。俺の言葉で一喜一憂するがよい!


「レディース・アンド・ジェントルメェン。ウェルカム! ウェルカァム! 本日は、薬師ギルド主催のイベントに、ようこそお越しくださいました。これより、メインイベントである大ビンゴ大会を開催します!!」


 俺くらいになると二ヶ国語を話す。世界様がどんな翻訳をしてくれたのかしらないが、最悪でも『大事なことなので2回言いました』くらいかな。俺だって緊張しないわけじゃないし。


「ルールは簡単! こちらの箱の中から取り出された玉に、数字が書かれています。その数字と、お客様方のビンゴカードが一致したら、穴を開けてください。1列揃うと、ビンゴォォォ! 豪華景品をプレゼントします!!」


 盛り上がる観客たち。その中でもひときわ目立つのは、冒険者だ。一般市民と違ってアクティブな彼らの歓声に引っ張られ、会場の熱は高まるばかりである。


「さっそく開始……する前に、ボールガールをご紹介しましょう! この度、薬師ギルドと提携を結んだ小人族。その代表としてティミちゃんです! 小さくて可愛いティミちゃんです。拍手でお出迎えください!!」


 舞台裏からひょっこり出てきたのは、巨大な箱。なんと足が生えている。この摩訶不思議生物こそ、何を隠そうティミちゃんである。


 別に攻めたマスコットデザインではなく、単純に箱が大きすぎて、上半身が隠れてしまっている。会場の笑いを誘う計算された演出である。


「それでは、ボールガールのティミちゃん! 最初の数字を引いてください。お客様方は、数字とご自分のビンゴカードにご注目!!」


 ティミちゃんは背伸びをして、巨大な箱に手を突っ込む。ガサゴソと音を立てて、掲げた玉の数字は……見えない。


「あーっと、これは思わぬアクシデントだ! ティミちゃんが皆様に見せているのは、ボールの裏側です。それとも粋な演出なのかーッ!? 今度こそ、最初の数字を掲げてください!!」


 ティミちゃんがくるりとボールを回し、今度こそ観客に見せる。がっ、ここでもアクシデントは付き物だ。


「おやおや? これは……なんとぉ! ティミちゃんの背が小さくて、掲げても見えないお客様方もいらっしゃるようだァ! でも可愛いから許しちゃう!」


 必死に背伸びしながら、たまにぴょんぴょん飛んでいる。それでもやはり、小さいと見えにくい。笑いとざわめきに包まれる会場。少しの間を取ったら、次の作戦を開始する。


「おぉーっと! ティミちゃんに駆け寄る男性が居るぞ……? あれは誰だ。一体、誰なんだ!? な、なんと……薬師ギルドの3代目。若くして代表を務めるロイスさんだぁぁぁぁっ!!」


 ややぎこちなく歩くロイスさんは、ティミちゃんとガッツリ握手をする。そして、ティミちゃんの脇に手を入れて、グイっと持ち上げる。


「これは粋な計らいだぁ! それにしても、なんと微笑ましい光景でしょうか。頬を染めるティミちゃん可愛すぎる。羨ましい! 代わって欲しいぞ、こんちくしょう!!」


 この演出は客にウケた。歓声もさることながら、大きな拍手と、たまに指笛が鳴る。これで、薬師ギルドと小人族の繋がりは、強烈に印象付けられたことだろう。


 ナイトメアに夢中だった子どもたちも、いつの間にか親と合流している。より活気のある場所に人は流れる。そして、ロイスさんとティミちゃんの姿を見た子供たちは、どのような行動を取るか?


「おぉーっと! 会場に居るお子様たちの様子が変です。落ち着きがありません。これはもしかすると、おんぶや肩車をねだっているのでは!?」


 子どもたちは背が低い。だから人混みに視線を遮られる。そこでロイスさんたちの解決法を見ると、当然ながら自分も求めずにはいられない。会場を巻き込んだ肩車合戦だ。


「お父さん、お母さん。腕の見せどころです! ご自慢の家族を高々と掲げ、仲の良さを見せつけ、力強い親の威厳を分からせるのです!! この日の体験が、一生の思い出になること間違いなしでしょう!!」


 肩車をする浅黒いおっさんや、両腕に子供を抱えたマッチョマン。我が子を抱き上げる母の姿……たとえ世界が違っても、世界は愛で回っているのだ。


 もちろんそれは建前で、イベントが盛り上がるほど記憶に深く焼き付く。薬師ギルドの存在や貢献度を、思い出とともに擦り込んでやるのだ。


「皆様、大変長らくおまたせしました! 最初の数字を発表します! 8番。8番です!!」


 その後も次々と数字を読み上げていく。そのたびに一喜一憂するビンゴ参加者たち。そしてとうとう、客が手を挙げた。


 ガタイのいいハゲオヤジが、力強く握りこぶしを掲げ、ビンゴォと叫ぶ。平時なら笑われる光景も、イベントの熱の前には正しい行動となる。


「出ました! ついに出ました! 最初のビンゴ達成者です。なお、ビンゴ達成者には、クイズに挑戦する権利が与えられ、見事正解すると、豪華賞品の中からお好きなものをプレゼントします!!」


 ライオネル経由で噂を広げたが、知らない客も居るらしい。人づてに伝えるのも悪くないが、ヒントのありかを説明すると、誰もがパンフレットを読みふけっている。予習・復習が大事だぞ。


「クイズに挑戦する前に、豪華景品を紹介いたします! まずは、このずらりと並んだ下級ポーションを御覧ください。なんと、ポーション1年分に相当します!! 他にも、非売品の中級ポーションセットもございます!!」


 ポーション一年分。そう言えば聞こえはいいが、数字に換算すると、360本。1日あたり1本の計算だ。それでも、市民からのウケはいい。だってタダだし。


 中級ポーションは、基本的に非売品。腕利きの冒険者と、店が契約を交わして、数量限定でやっとこさ買える代物らしい。俺はティミちゃんから貰ってるけど、冒険者にとっては憧れの品物……一人前の証なのだ。


「今から問題を読み上げます。幸運な挑戦者のあなた! どうぞ実力で、豪華景品を勝ち取ってください!!」


 肝心のクイズは、極めて簡単である。パンフレットを流し読みしただけでも答えられる。難しいと不満が溜まる。熱気に水をぶっかけてはならない。


「このたび、国民の生活を支える薬師ギルドは、ある方々と提携を結びました。その方々は……? さぁ、お答えください!!」


――小人族だッ!!


「正解です!! 豪華景品をプレゼント!! おめでとうございます。景品はまだまだございます。どうか皆さまも、拍手をお願いします!!」


 俺は心が狭い人間である。よって同族の心理は分かる。『ちっ、外れれば俺に回ってくるのに』と、嫉妬しまくり。それを避けるために、景品がまだあると教え、場の空気を壊さない。


 その後も次々とビンゴ達成者が出て、クイズを出題する。どれも簡単な内容で、中には小さくて可愛いあのボールガールの名前は!? なんてラッキー問題もある。


「さぁ、残す景品もわずかです。中級ポーションセットを勝ち取る幸運な挑戦者は……あぁっと! 手が上がりました。前に来てください!!」


 パンフレットを掲げ、軽い足取りでやって来たのは、なんとライオネルだった。イケメンに飽き足らず、運まで持ってる。これが世界か。


「幸運な挑戦者に出題です!! 今、舞台に上がっている人物の名前を、最後を締めくくるべく、大きな声でお答えください!!」

「ロイスさんと、ティミちゃんだ!!」


 正解。これでもかと騒ぎ、盛り上げる。中級ポーションセットを受け取ったライオネルの表情が自然とほころぶ。すると、取り巻きのメスがメスの顔をして、うっとりと見つめている。外れても美味しい思いを出来て良かったね。


 ビンゴ大会が終わる。お客さんたちの中には、パンフレットを空に投げる人も居る。馬券を外したおっさんはワールドワイド、と。


「ここでお知らせがあります。お帰りの際に、所定のサービスカウンターでパンフレットを提示しますと、ささやかな粗品を進呈します」


 慌てて拾い上げる客の姿は滑稽である。油断するなよ。性格の悪い俺のプレゼンなんだからなァ!!


 こうして、かつてない盛り上がりに包まれたイベントは終わった。客がぞろぞろと帰っていくが、俺を含めて職員たちは、後片付けでデスマーチである。


 撤収作業を終えると、ティミちゃんが駆け寄ってきた。ちっちゃい。可愛い。脇に手を入れて、持ち上げるしかない。


「ブサクロノ、ありがとう。おかげで大成功だったね」


 夕日を背景に、少女が笑う。得難い。これは得難い光景である。おじさんも努力が報われた思いだ。


「違うさ。ティミちゃんたちが頑張ったから、成功したんだよ。おじさんはただ、口うるさく喋ってただけ」

「ううん。あたしたちだけじゃムリだった。ブサクロノ、最初は怒ってて怖かったけど、やっぱり凄い。みんな夢中になってた」

「そうかい? 自慢じゃないが、体脂肪率には自信があるんだ」

「ふふっ、あたしが見込んだ通り。やっぱりブサクロノは、小人族を率いる器の持ち主!!」


 大げさだなぁ。おじさんは口は出すけど、責任は取らない人間の鑑なので、遠慮させていただく。でもティミちゃんとは、あへあへ変態おじさんとして、これからも仲良くするつもりである。


 キャッキャウフフしていると、ロイスさんが大手を振って駆け寄ってくる。今から打ち上げがあるらしい。誘われたし行ってあげてもいいんだからねっ。そんなことを考えていると、視界の端に、テレサちゃんの姿が見えた。


「俺は遠慮するよ。疲れたから、家に帰って眠りたい」

「ブサクロノが行かないなら、あたしも行かない」

「こら、ティミちゃんは参加しないとダメだよ。薬師ギルドと提携したんだよ。もう仲間なんだから、行っておいで」


 ティミちゃんを地面におろし、戸惑う背中をぽんと押す。何度振り返ったところで、おじさんは行かないぞ。さぁ、楽しんでおいで。


「さーて、俺は帰るぞ。帰るぞ」


 会場をあとにして、あえて裏道を通る。そこでテレサちゃんが、隠密スキルを解除したのか、姿を現した。


「……行かなくて良かったの?」

「寂しげな少女を見つけてな。気になったのさ」

「あたしは別に――」

「それより、イベントは楽しかったか? どこかで見てたんだろ?」

「……うん。楽しかったわ。ビンゴはハズレたけど。当たってもどうせ出れないけど」


 テレサちゃんのパンフレットを見ると、リーチ状態だった。実に惜しい。埋まってないところは、勝手に指で開けていく。


「はい、ビンゴ。豪華景品をそのうちプレゼント」

「何よそれ、インチキじゃない」


 困ったように笑うテレサちゃんに、パンフレットを返す。れっきとした思い出なので、捨てるなと釘を差す。


 こんな生活が良い生活なはずがない。幸せなはずがない。遠くから見つめるだけの人生なんてクソだ。いつか必ず、あの会場の一員にしてやる。たとえどんな手段を使っても。


 あとがき

せっかく連載してるんだから、少しくらい季節に合わせた話があってもいいよね。だから祭りというかイベント。まぁ、その、お盆シーズンらしい内容になったな( ˘ω˘)
さむおも美少女にだっこされたいです。バスロマンバスロマン。

さむお基準の100話はもうしばらくお待ち下さい
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