ブサイクは祝福に含まれますか? ~テイマーの神様に魔法使いにしてもらった代償~

さむお

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ギルド職員編

不合格でクロノ死す

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 俺が不合格だと? なんでやねん! 今だけ関西人になるレベル。


「いやおかしいだろ。あれだけ頑張って不合格って、そりゃないぜとっつぁん」


 床に寝転がって駄々こねようとしたら、ハゲに手で制された。どうやら続きがあるらしい。


「……お前をCランクにして、王都ギルドに推薦を出そうと思っている」

「はぁ? ガーゴイルしばいただけでCランクか? この調子なら、来週にはA5ランクだぜ」

「違う。お前が使ったあのスキルを加味すると、Cランクでもおかしくない。アルバみたいな田舎でギルド職員になるより、王都で名声を得て欲しいんだ」


 なんだと? いきなり人生の岐路に立ってるな。でも、答えは決まってる。


「いや、アルバでギルド職員になるよ」

「アルバの特性を知ってるだろ。有能な冒険者は、王都に送る義務があるんだ。とくに、お前のあれはユニークスキルと呼ばれる部類だ。アルバに留めておくことはできないんだ……」


 なるほど。大人の都合か。だがしかし、俺はそんな大層なやつじゃない。スキルのことを隠しすぎて、過大評価されちまったらしい。


「あのスキルな、スキル化してるんだよ。1日3回しか使えんよ?」

「なんだとぉぉぉぉぉ!?」


 世間的にメジャーな『スキル習得』は、上級スキルになるほど消費MPが多く、運用が難しい。しかし、マナポーションさえあれば無制限に使える。マジックバッグがあるこの世界では、きちんと準備すれば問題をクリアしたと言える。


 今回の騒動の火種となった【エンチャント・ダークネス】は、『スキル化』によって、消費MPがない代わりに、使用回数制限がある。1日3回。効果は1回あたり30分。ウ○トラマンに親近感が湧く。


 スキル化は、俺には当たり前だが、世間的には珍しい。正確には、デメリットのほうがはるかに多いから、取る人があまり居ないのである。


 俺はそれを理解したうえでスキル化したが、今日の戦いでマイナーな理由を痛感した。


 スキル化は序盤には凄まじい強さを発揮するが、中盤以降は伸びない早熟型なのだ。


「たった90分で、フロントデーモンみたいな化物を倒せるのか?」

「むぅ……いや、難しいだろうな……」


 ランクが上がるほど強い魔物と戦う。これまで【強運】様のせいで、アホみたいに強い魔物と遭遇してきたが、俺はなりふり構わず逃げ出している。戦ったところで勝てるとは、今も思ってない。


 フロントデーモンの戦いにサポートとして参加し、上位の魔物との戦闘を知った。まず戦闘の長さに驚いた。丸一日戦ってもまだ終わらない。しかも、あれで早いほうだと言われたら、もうため息しか出ない。


「ハゲの考えは分かるよ。あのスキルでPTメンバーを強化する。全員が聖遺物に匹敵する得物を使える。確かに、いずれ英雄と呼ばれるかもしれん。でもな、それはできない。分かるだろ?」


 ハゲは存在しない髪を掻きむしり、力なく頷いた。


「分かってくれて何よりだ。で、俺は合格か? それとも不合格か?」

「……合格だ。お前をギルド職員として歓迎する」


 ハゲは落胆しているような、ホッとしているような……判断の難しい表情をしていた。恐らく、どちらでもあるのだろう。


 俺としては、これがベスト。一身上の都合により、王都に行く気がない。アルバで少しでも安全に力を貯めて、やがて魔王討伐するべく勇者御一行に加わらなきゃならんのだから。


「ハゲの出世街道をぶち壊して悪いが、田舎で過労死しないように協力させて貰うよ。センパイ」

「センパイは止めろ。気持ち悪いだろ。俺たちは揃ってギルド長の下だ。ギルド試験で怪我をしている様子はないし、明日の朝から出てくれ」


 よっしゃ勝ったわ。先に後輩風を吹かせておけば、相手は謙虚になる。これで立場はイーブン。ハゲはハゲ。センパイなんて呼ぶのは嫌すぎるからな。


 愛しのマイホーム(借家)に戻ってきた俺は、目頭が熱くなる。数日離れただけなのに、随分と昔のように感じる。ぶっちゃけ、帰って来れたのが奇跡だ。


「ただいまー。テレサちゃん元気にしてたかー!?」


 返事はない。地下室にも姿はなく、隠し部屋を開けると、床に置き手紙があった。


――散歩して来ます。夜には戻ります。テレサ。


 ふむ、出かける前より字がキレイになったな。ちょっとだけ。たぶん。子供の成長の速さに驚きつつ、地下室をチェック。


 まずは脱ぎっぱなしの黒のおパンティーを見つけた。なんとだらしない。こういう見えないところに気を使うのがオシャレなんだぞ。たぶんな。


「すーはーすーはー。た、たまらん……っ!」


 ジャングルのむせ返る緑の匂いより、女の股の匂いを嗅いで生きていきたい。おパンティーは癒やし。五臓六腑に染み渡る。


 ふっくらした息子をパンティーでしごく。おほっ、これこれ。


「……ふぅ、ドバドバ出たな。オナニー最高。スッキリしたし寝よう」


 溜まっていたのは別に精液だけではない。どちらかと言えば、疲労のほうが溜まっている。目を閉じると、あっという間に眠りについた……。


「……ちょっと! ねぇってば! あんた、何してくれてんのよ!?」


 薄目を開けると、テレサちゃんが居た。事情は分からないが、お怒りである。女心と秋の空ってやつか。


「あんたねぇ! 人のパンツどろどろにしておいて、呑気に寝てるんじゃないわよ。これお気に入りなんだから、ダメになったらどうすんのよっ」

「別にいいじゃん。破れたらまた買ってあげるよ」

「お気に入りって言ったでしょ。あんたってば人の話は聞け聞け言うくせに、あたしの話は聞かないんだから……」


 お小言炸裂である。このプチヒステリー、嫌いじゃないねぇ。帰ってきた実感が湧いてきた。とはいえ、疲れすぎていつもの調子で接する気になれない。


「おじさんさぁ、疲れてるんだよ。フロントデーモンっていう化物に襲われてさぁ。命からがら帰ってきたのに、テレサちゃん冷たくて悲しいなぁ」

「うぅん、まぁ……そうね……。あたしも怒ってるけど、さすがに帰ってこなければいいのに、なんて言うつもりはないし……」


 いじらしいところもあるじゃない。言葉にし難いむず痒さを感じて、腹いせにテレサちゃんのほっぺたツンツンしてやる。


「……あんた、風呂は? 汗臭いわよ?」

「明日にする。今日はもう一歩も動けない。話したいことがあるなら聞くよ。でも手短に頼む」

「……怪我はないの? また無茶したんじゃないの?」

「即死か無傷の二択だったからなぁ。無茶しないと生き残れなかったよ」

「ふぅん。ヘルムとどっちが強かった?」


 ヘルムか。懐かしい。どちらも強いが正解なのだろうが、フロントデーモンは本気で殺しにきていた。ヘルムはどうも手加減していた気がするし、強さは今も未知数だ。ゆえに答えられない。


「テレサちゃん知ってる? フロントデーモンってさ、ソロじゃ絶対に勝てないって言われてるんだよ。あの強さなら納得だよ」

「あんた知らないの? フロントデーモンは、正面からの攻撃を無効化するの。背後の攻撃なら通るってだけで、弱点じゃないみたい。ステータスが高すぎて、ソロじゃ絶対に背後を取れない。だから勝てないってわけ」


 無効化……? なんだか穏やかじゃない単語が耳に入ってきたぞ。無効化だなんて、そんなハハハ。インチキに決まってる。シャドーデーモンが見えないやつらが勘違いした可能性もあるしな。


「嘘じゃないわよ? 夜鷹時代に、王都で冒険者たちが話してるの聞いたことあるし。酒の席の思い出話っぽかったけど、Cランクパーティー3組で倒したって……聞いてる?」


 パーティーは基本的に5人だ。3組で15人。何かと衝突した新緑の翼は、4人だった。やつらは本当に強かったのか。次に会ったら、揉み手しとくか。ヘヘヘッ。


「テレサちゃん、そろそろ寝ようか。汗臭いのが嫌なら、上で寝ていいよ」

「……いい。あたしも散歩で疲れた。ここで寝るわ」


 翌朝……目が覚めて起き上がろうとしたら、腕が重い。テレサちゃんが腕にしがみついたまま、丸くなって寝息を立てていた。猫みたいな子だなぁ。


「起きてよテレサちゃん。おじさん、今日からギルド職員なんだ」

「……なによぅ。まだいいでしょ」


 放すどころか、腕にしがみつく力は増し、内ももに挟まれてガッチリホールドされてしまう。温かくてすべすべな肌が、二度寝へと誘惑してくるが……。


「テレサちゃん、そろそろ放してよ。おじさん腕が痺れてきちゃって……」


 予期せぬギブアップ宣言に、テレサちゃんの目が大きく開いた。なぜかニヤリと笑った。


「ふぅん……腕、痺れちゃったの?」


 指先で規則的に叩いてくる。そのたびに電撃が走る。


「オーマイガー! だ、ダメだって……めっちゃキテるから! 痺れて……あぁっぁっ、ストップ、ストップ!!」


 散々弄ばれたあと、ようやく手が開放された。腕の痺れ耐性とかあったら、全力で取りたいと強く思った瞬間であった……。


「うふふ、いい朝ね?」

「……おかげさまで、眠気は吹き飛んだよ」


 皮肉を言ってもテレサちゃんは上機嫌で笑うだけだった。年相応の子供らしさってことにして、許してやるか。そして、テレサちゃんの腕が痺れた暁には、エアギターでロックロールをかましてやろう。


「それじゃ、おじさんギルド行ってくるね」

「はいはい。早く帰ってくるのよ。あたしも適当に散歩行くから、外で会ったら絡んでいい?」

「うーん、基本的にダメだな。完全に人気がない場所ならいいよ」

「……はぁい。ひとり寂しく昼ご飯を食べますよっと」

「夜は一緒に食べよう。ついでにマナー教えてあげるから。行ってきます」


 テレサちゃんは世間的にアインである。衛兵に捕まり、魂の色を調べられたら一発でアウト。そして何より、俺という存在は激しく目立つ。隠密スキルに秀でているテレサちゃんであっても、注目されるとボロが出るかもしれないからな。


 この辺はいずれ解決するつもりだ。まずは、一般人が知らない情報を握っている連中と接点を持ちたい。そのためには、己の地位向上が必要不可欠だ。ゆえにギルド職員は、その目標の一歩なのである。


――ただいま。帰ったよ。おかえりは? ねぇ?


 家を出てギルドに向かっていると、どこからか声がする。この声は、尻軽デーモンだ。


 おかしい。尻軽デーモンは召喚していない。フロントデーモンになびいたやつらは皆殺しになったはずだし……ふーあーゆー? どちら様ですか?


――ヘルムに付けって言われたのに。情報持って帰ってきたのに。酷い、死にたい。


 あぁ! もうすっかり忘れていたが、ギルド長とハゲと一緒に、ヘルムについて説明を受けていたとき、どうも穏やかじゃないことを言われたので、警戒を兼ねてシャドーデーモンを1匹だけヘルムの体に付けていたのを忘れていた。


 森でシャドーデーモンを召喚せず、生身で戦ったのにレベルが上がらなかったのも納得である。距離が遠すぎたためか、会話もできなかった。そのおかげで、フロントデーモンに引っ張られずに済んだというわけか。


「すまん。ガチで忘れてた。面白い話があったら聞かせてくれ」


 ヘルム。夜鷹の頭にして、もうまじクズ。その正体は、聖遺物に分類される超高性能のゴーレムだった。それを鉄クズにしてやったわけで、本人が喋ることは二度とない。


――マスターが探していた魂の染色機。それがヘルムだった。


 染色の魔道具。これにより夜鷹は猛威を振るっていたわけだが、ヘルムが染色の魔道具だと……? これは歩みを緩めて、聞き入るしかあるまい。


――ちゃんと話すから、ご褒美に殺してね。


 魂の染色の魔道具は、ケバブによって作られた。現在の司法の要となっているだけあり、悪用されれば大変だ。


 そこでケバブは、その魔道具を守る魔道具を作った。それこそが、ヘルム。全身を高純度のオリハルコンで作られ、染色の魔道具を組み込まれた、心を持ったゴーレムらしい。


 自立モードと服従モードを搭載し、管理者となる人物には絶対服従する。しばらくはそれでうまくいっていたようだが、管理者が急死したことで、引き継ぎができなくなった。


 ヘルムは自立モードとなり、結果として暴走。姿を消し、夜鷹として活動を始めたわけか。製作者のケバブ野郎は、とっくの昔に死んでるわけで、対策のしようがない。


 セキュリティを強化しすぎたばかりに、パスワードを忘れてログインできなくなった。そんな例えが浮かぶほど、しょうもない出来事が世界を混沌に染めていたとは、なんとも頭が痛い話である。


「誰かが何かしら知ってるとは思ってたけど、まさかここまでとは……」


 つまり、国のお偉いさんは、ヘルムの存在を知っており、自分たちの恥を隠すために夜鷹を黙認していたことになる。


 肝心の魂の染色機は、俺との戦闘で破壊されているようだ。


「はぁ……最悪そんなアホどもと関わらなきゃいけんのか……」

――すべて話した。ご褒美、ご褒美。死にたい。

「……お疲れ様。【ダークネス】」

――ん゛っ、ギモッヂイイイイイ……ありがとう……。


 安らかな声とともに消えていくシャドーデーモン。それとは対称的に、俺は憂鬱な気分になった。


「……先のことを考えても仕方ない。その日暮らしだ」


 気持ちを切り替えて、ギルドの扉を開いた……。


 あとがき

そんなのあったなって回
連載してると読者も作者も設定忘れるんで、分からなかったら読み返すか鼻ほじりながら質問してもいいよ
今後のネタバレじゃなかったら鼻ほじらず答えますよ。こっちの環境PCなんでね
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