ブサイクは祝福に含まれますか? ~テイマーの神様に魔法使いにしてもらった代償~

さむお

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ギルド職員編

大根役者クロノ死す

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 状況を整理しよう。俺たちはたった3人で、空を埋め尽くすガーゴイルの大群を始末しないといけない。しかも、後ろに通すことも許されない。


「あのー、少しくらい通しても許されますかねぇ?」

「追いすがってでも止める。そういった手前、難しいだろうね」

「ですよねー。ちょっと考えます」


 窮地に追い込まれた青狸ばりに、マジックポーチを探ってみる。所持品は、愛の中級マナポーション・煙幕・トイレットペーパー・携帯食料だ。


 まず煙幕はダメだろう。俺も視界不良になる。煙から逃げたガーゴイルが塔に入る可能性も高い。そもそも量が足りない。


 次にトイレットペーパー。ただケツをふくための代物だ。相手がマミーなら、体にぐるぐる巻きして同族認定を受け、内部崩壊を狙うのだが。


 携帯食料はどうか? やつらは腹をすかせて攻撃的になっている……はずがない。こんなことを言いたくはないが、肉ならある。塔をデコって腐るほどある。鮮度の話なら、しょぼい干し肉より太った俺を食うに違いない。


 分析終了……打つ手なし!!


「あばばば……もうダメだぁぁぁぁぁっ!!」

「少し落ち着きたまえ!!」

「はい。落ち着きました」

「君は切り替えが早いな。まぁ、落ち着いたところで、状況が良くなるわけではないのだがね」

「やっぱり、もうダメだぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ちくしょう。こうなったら、深緑の翼の連中に、ジャンピング土下座をキメるしかない。あいつら強いらしいし、もう知~らないっ。


「おい、ブサクロノ。あれをやれ。さっきの……ビビる演技で引きつけられるかもしれねぇ」

「ふむ……せっかくだ。やらないよりは、良いのではないかな?」


 なぜかギルド長も乗り気である。ちくしょう。何匹釣れるか知らないが、やってやる!!


「うわぁぁぁっ!! な、なっ、なな……なんじゃありゃぁぁぁっ!?」


 目を見開き、力の限り大声を出して、ガーゴイルの群れに指をさした。


「おい、嘘くせぇぞ。さっきの自然な演技はどうした!?」

「うるせぇ。これがベストなんだ」

「ふむ……説明してくれるかな?」


 この人達、状況分かって言ってんの!? ガーゴイルの大群が迫ってるのに、演技指導をしなきゃならんのか……。


「さっきは至近距離で、タイマンだろ。相手は俺に注目する。だから自然で控えめな演技で通じる。でも今は、距離が離れていて、敵は大勢だ。まず興味を引くことから始める。オーバーリアクションが基本だ。オーケー!?」

「へぇ、すげぇ納得した。引退したら吟遊詩人にでもなれよ」

「ブサクロノくんの新たな門出を祝おう」


 ガーゴイル通したらクビってか!? 愛と勇気を歌う連中に誰がなるか。俺がその日限りの愛を囁くのは、可愛い子にだけ。見世物じゃねーぞコラ。


 水をさされてしまったが、演技は続行する。ガーゴイルが先ほどより近づいて来ている。今なら、次の芝居を打てる!


「ひっ、ひぃぃ……お、お助けぇぇぇぇぇっ!!」


 まず背中を向ける。次に赤子のようにハイハイして、弱腰逃げ腰を見せつけてから、後ろを振り返る。


 大群のうち、半数近くが釣れた。やはり悪魔は狡猾で残虐……弱くて肉祭りの俺を我先に殺そうと、凄まじい速度で降下してくる。


「半分釣れましたぁ! 掃討をお願いしても!?」

「よくやってくれた。しばらく持ちこたえてくれたまえ」

「無茶おっしゃる!?」


 ガーゴイルの大群が俺に迫る。接触したら三秒で細切れにされちまう。煙幕とナイトスワンプを使えば逃げられるが、俺の姿を見失ったガーゴイルが、塔に向かう可能性がある。


「ちくしょぉぉぉ! やってやるぅぅぅ!!」


 俺にできる行動は、姿を見せたまま逃走を続けることである。幸いにもここはジャングルだ。


 相手は空を制している。ならば、こちらは地を駆ける。無数に生い茂った木々が、天然の障害物となる。


 よく分からんスキルが背後からドッカンドッカン飛んでくる。平地だったらまず避けられなかった。いくらか被弾したが、直撃しなければ致命傷にならない。


 ガーゴイルの大きな翼は枝に引っかかり、満足には飛べない。そのおかげで、飛ぶ速度は俺の全力疾走と大差はない。俺の謎の渋とさも相まって、苛立ちを感じていることだろう。


 しかし、あと少しで獲物に手が届く。もう少し、もう少しだけ……欲に駆られて俺を追って来る。


 前から木が折れる音がする。いや、そこら中から聞こえてくる。ガーゴイルに囲まれているらしいが、早めに気づけば方位を突破するのは簡単だった。


 ただ、いつまでも逃げられない。森を住処としていたクソ猿や動物たちが、皆殺しにされたのだ。いずれ捕まってしまう。


 対策として、しっかりと罠も張る。最強にして最悪の罠……その威力を思い知るがいい。


「【ダークネス】」


 敵も森の中での飛行に慣れてくる。最初に比べて速度が上がった。立ち並ぶ木を自在に躱し、調子に乗った次の瞬間……置きダークネスに直撃する!


「ふはははは! まんまと引っかかったな!」


 ダークネスは遅い。赤子のハイハイより遅い。狙って当てるのではなく、障害物を利用して、自ら当たってもらう。これなら逃げながら敵を処理できる。


 たとえ硬質なガーゴイルであっても、ダークネスを直撃すればほぼ即死だ。一発あたり一匹……次々とガーゴイルが墜ちていく。


 やはりダークネスこそ至高。あとでハゲに自慢しよう。


「はぁはぁ……あと何匹だ……っ」


 走り続けるのも限界だ。森に潜み、気配を殺す……。


 先ほどまで愚かな豚は、奇声を発しながら、これでもかと物音を立てていた。ゆえに、その落差が生み出すスキルを使わない隠密術により、ガーゴイルは俺の姿を見失う。


 ガーゴイルの思考はなんとなく分かる。罠に注意を払いつつ、獲物を見つけて八つ裂きにする。そうなれば、自然と飛ぶ速度が緩やかになり、キョロキョロと辺りを見渡しながら進むだろう。


「ステンバーイ。ステンバーイ……【シャドウバインド】」


 相手から速さが失われれば、スキルも当たりやすくなる。シャドウバインドで体の動きを止める。ステータスの差によって、一瞬で解かれる。だが、それでじゅうぶんなのだ。


 羽ばたけないガーゴイルが、地上へと落下する。ゼロ距離こそが俺の間合いだ。気づいたところでもう遅い。【ダークネス】をぶち当てて始末した。


「……意外となんとかなったなぁ」

『お見事。卑怯において君の右に出る者はいないね』

「そう褒めるな。一度戻るぞ。おしゃべりはお預けだ」


 囮の役目は果たした。ひとりで倒しちゃったけど。向こうもきっと終わったに違いない。パーティーって何だっけ。そんなことを考えながら戻った。


 森を抜けて魔術師の塔に戻ってきた俺は、ドヤ顔で手を振った。


「おーい、英雄のご帰還だぞー。讃えよ……っ!?」


 ガーゴイルが隠れていたらしい。不意打ちに気づいたときにはもう遅い。反射的に盾を構えようとしたが、間に合わない。ガーゴイルの爪が迫る――。


 その爪が届くことはなかった。どさりと落ちるガーゴイル。背中には切られた痕がある。なにごと……?


「てめぇが英雄なら、英雄を救った俺は何様だ?」


 漆黒の鎧をまとったハゲが、兜を取る。かなりのドヤ顔である。これは助けられてしまったらしい。


「……そんなもん決まってる。家来だ」

「……確かに!!」

「あっはっは! 君たちは息ぴったりだな。それはさておき、安心したよ。ブサクロノくんを心配していたところだったのでね」

「心配してくれてどうも。頑張りましたよ」


 ぶっちゃけヤバくなったら沼隠れするつもりだったが、意外となんとかなっただけで、流石にドヤ顔する気にはなれなかった。疲れたというのが本音だ。


 肝心のふたりは、もちろん無傷である。やはり強いな。


 周辺にはガーゴイルの死体が散乱している。ぶった切られたやつに、焼け焦げてるのもあるし、弓が刺さっているのもある。


「ガーゴイルって、動く石像って呼ばれてるのに、中身はちゃんと肉なのか」

「これらは魔物だからね。石像を操って襲ってくるゴースト系の魔物なら、見たとおりの石像なのだがね」


 おいおい、幽霊も当たり前の世界か。やだなぁ、怖いなぁ。


「心配すんな。どっちも大した魔物じゃねぇ。正体は、ぶった切れば分かる。肉があれば悪魔。なければゴーストだ」


 これだから脳筋は困る。まぁ、さっきは助けてもらったし、戦士らしい考えってことにしてやろう。


 見知った顔を見て、他愛もない会話をする。安心した俺は、その場に座り込んだ。生活魔法で水を飲んで一息ついていると、塔からまたドッカンドッカン聞こえる。


「こっちは終わったし、中の応援に行きます?」

「いや、すぐに次が来る。ほら、あれを見たまえ」


 青かった空がまた灰色に。気色悪い鳴き声とともに、またガーゴイルの大群がこちらに向かってくるではないか……。


「ま、また戦うのか……頑張りますよ」

「うむ。今度は全部引き連れてくれないか」


 なんですと!? 俺は疲れている。幻聴を聞いちまったらしい。


「冗談だよ。また引きつけてくれないか」

「いやいや、ムリですって!!」

「しかし、さっきは出来ただろう?」


 上官よ、理解してくれ。一度できたことが、次もできるとは限らない。先ほどの逃走劇は、ジャングルの木々が障害物となり、ガーゴイルの攻撃と移動を妨害してくれたから成功したのだ。


 周囲一体は随分と見通しがよくなってしまった。これでは逃げも隠れもできない。


「困ったね。実は、矢は尽きてしまった。マナポーションの残りも心もとない」

「いやいやいや、ギルド長ともあろうお方が、準備不足などありえなぁい!?」

「報告を受けたとき、ろくに準備もせずに飛び出したのでね。まさかガーゴイルしか来ないとは思っていなかったのも災いしたね」


 なんですと? ギルド長がそんなに俺のことを心配してくれていたとは。おじさん感動して前が見えな――。


「もうずっと休みなしだったのでね。さすがに限界を感じて、休暇を兼ねて飛び出してきたんだ。本当にすまない」

「ギルド長をひとりにするわけにはいかねぇ。そんなわけで、俺も休むことにした。ぶっちゃけ、本当に悪魔狩りになるとは思ってなかったしな!」


 なんだこいつら。疲労で頭ぱぁになってたのか。


「そんな目で見ないでくれたまえ。これでも最低限の準備はしてきたのだよ。当初の見通しが外れたことは間違いないけどね」


 悪魔狩りのときは、そりゃもう大量に悪魔が来るらしい。先ほどの作戦の通り、地上型の悪魔をハゲが担当し、上空をギルド長が担当する……はずだった。


 実際にやってきたのは、全てガーゴイル。ジャングルに囲まれた魔術師の塔なので、地上型の悪魔は遅れているのだろうか。


「ちょっと待ってくださいよ。あそこのハゲは何してたんですか!?」


 いつもは威勢のいいハゲが、妙に静かである。まさかとは思うが、届かないから棒立ちしてたなんてことはないだろうな。


「あー、その、俺だって倒したぜ? 戦士だからって、遠距離攻撃の手段がないわけじゃない」


 怪しい。ハゲは嘘つき。横目で見ていると、ハゲが斧を構えた。


「なんだその目は。しょうがねぇ、見せてやる!!」


 視線の先には、もう見慣れたガーゴイルが居る。大群から飛び出し、先んじて攻撃を仕掛けてくる若さ溢れるやつだ。


「【飛翔刃】」


 ハゲがいかつい斧を振ると、間もなくしてガーゴイルが空中で真っ二つになった。親指を立てて、どうだ見たかと問いかけてくる。


「おぉ、これはまさか……飛ぶ斬撃! かっけー」

「これが中級スキルよ。戦士だってできるんだよ。まぁ、燃費が悪いんだけどな……」

「……そのスキルで、何匹倒したんだ?」

「……覚えちゃいねぇな」

「答えたくない、の間違いだろ。ハゲが持ってるマナポーション。全部ギルド長に渡しとけ」

「そ、そんなことしたら、俺が暇に――」

「マナ効率考えろや。賑やかしでもやってろハゲ」


 肩を落としたハゲが、とぼとぼと歩いてきて、ギルド長に差し出す。これでマナ不足は解決するといいんだが……足りないだろうなぁ。


「ギルド長、燃費は抜きにして、あの大群を一掃できるスキルあります?」

「あるとも。マナ不足でもう使えないがね。君からポーションをもらったところで――」


 背に腹は代えられない。ティミちゃんの愛を横流しするしかないだろう。ヘルム戦で浮気したこともまだ謝ってないのに……。


「中級マナポーションじゃないか! 経費で落とすとして、今はありがたく頂戴しよう」


 弾むような声から察するに、これでひとまず安心だろう。俺も役立たずになったので、ハゲと一緒に賑やかしするか。


「お礼を兼ねて、見せてあげよう。広範囲に及ぶ、風の中級スキルだ。【トルネイル】」


 ジャングルに竜巻が発生する。土埃を飲み込み、散らばった木の葉をまといながら、どんどん大きくなっていく……。


 地上から伸びた竜巻が、木々をなぎ倒しながら進み、灰色の空を割った。切り刻まれた者も居れば、吹き飛ばされる者……そして、墜落する者も居た。


「ギルド長、それもう2~3発お願いします。間隔は適度に開けて」

「見た目に反して、あまり威力はないんだ。混乱しているうちに、別のスキルで各個撃破したほうがいいと思うのだが……」


 それこそ燃費が悪い。もっと効率のいい方法を閃いた。
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