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ギルド職員編
裏切られてクロノ死す
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フロントデーモンが背伸びをするような動きと同期して、凝縮していたマナが解き放たれようとしていた。
開幕全体攻撃……やつを中心に、周囲のすべてを灰燼と化す。理不尽の塊のような攻撃が迫って来る……!
信じるぞ、シャドーデーモン。ヘルムの攻撃に耐えたお前らなら、あの攻撃もきっと防げる――。
――呼んでる……行かなきゃ……。
「待てシャドーデーモン!! どこへ行く!? 戻って来い!!」
シャドーデーモンたちが、体から離れていく。寄り付いた先は、他でもない。あの悪魔の周囲だった。
語りかけても返事はなく、命令しても従わない。俺の切り札が使えない。窮地での裏切りによって、このまま死……んでたまるかっ!!
「【バリア】【バリア】【バリア】【ダークネス】」
万が一にも勝ち目はない。あの攻撃を少しでも軽減し、壁をぶっ壊して逃げるしか生き残る道はない!
オリハルコンを砕いたダークネス。お願いだ、このクソみたいな状況をお前の力で変えてくれ……!!
迫りくる暗黒の壁。砕け散っていくバリア。最後はバリアと壁に挟まれ、体が悲鳴をあげる。意識が遠のき、圧死する寸前で……壁が、崩れた!!
太陽の光が眩しい。熱風に汗が吹き出る。森が見渡せる。放心している暇もなく、落下を始める。
「あぁぁぁぁぁっ!!」
この状況を覆す方法を持っていない。だが、望みはある。俺を困らせてたまに助けてくれるツンデレスキル。【星の記憶】よ、聞いてくれ!!
「空を自由に飛びたいな。はい……何も出ない!!?!???!?!?」
ムリだ。もう方法がない。結局、俺はダメだったよ。悪いな、相棒……っ。
「眷属よ! 我が魂を喰らえぇぇぇぇっ!!」
『呼ぶのが遅い。危うくハンバーグになるところだったよ』
浮遊感が止まり、羽ばたく音が聞こえる。目を開けると、ナイトメアはいつもの姿とは違っていた。
「黒いフェニックス……か?」
『君の深層に触れたら、この姿になったのさ』
「落ちてたもんなぁ。助かったよ、相棒」
『これは君の力だ。さて、逃げるとしよう。あの悪魔が油断しているうちにね』
ナイトメアが羽ばたくと、大きく浮き上がり、景色が流れていく。九死に一生を得たせいか、その広大な景色に熱いものがこみ上げてきた。
「おろろろろろろっ!!」
『うわぁぁぁっ!? な、なんてことをするんだ!!』
「す、すまん。マナ切れの吐き気が今頃になって……」
『生暖かいよぅ……おや、あんなところにお猿さんが居るよ?』
お互いにニヤリと笑う。散々クソを投げつけてくれたお礼が必要だ。ナイトメアが回転し、溜まっていたゲロが猿に降りかかる。
「あーっはっはっは! あばよ、クソ猿!!」
『スッキリしたし、馬車まで飛ぶよ。落ちないでね』
「頼んだぜ、相棒!!」
空を飛べる。それは凄いことだ。あれだけ苦労して進んでいた森を、あっという間に抜けてしまうだろう。
遠くに馬車が見えてきた。背後からフロントデーモンが追ってきている様子もない。安心したところで、無慈悲なことを言い渡される。
『ごめん。時間切れだ。どうか死なないでね』
「へ……? あぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
フェニックスが霧となって消えていく。多少は降下していたものの、飛んでいた俺は慣性の法則に従い、森の中に突っ込んだ。
「よ、良かったぁ! 生きてる!!」
体中がズタボロであるが、しゃーなし。折れた枝を杖代わりにして、馬車に到着した。
「よぅ、どうしたんだ? そんなに強い魔物は居なかったはずだぜ」
「ウソつけ。フロントデーモンから命からがら逃げてきたんだよ!!」
「……何だって? フロントデーモンなんて上位の悪魔がこんなところに居るわけ――」
森の奥から、つんざくような叫び声がした。鳥たちが羽ばたき、猿の断末魔が聞こえる……。
「なんてこった……楽な護衛のはずだったのに……ありえねぇ」
「おっさん強いんだろ? 討伐してよ」
「無茶言うなよ……レスキューバード! 王都ギルドに伝えてくれ!!」
籠から放たれた青い鳥が、空の向こうに消えていく。名前から察するに、伝書鳩のようなものだろうか。
「それで、これからどうしたらいいんですか?」
「もちろん逃げる。さっさと馬車に乗れ」
「いやいや、先輩強そうじゃないっすか。やれますって」
「いきなりすり寄って来るなよ。それなりに腕に自信はあるがな、冒険者を長く続ける秘訣は、冒険しないことだ」
元も子もないことを言うなぁ。俺もその考えに賛成だけど。
馬車に揺られるうちに冷静な自分が戻ってきた。するとある疑問が沸く。
「あの、俺ってギルド職員の試験を受けてたけど、どうなります?」
「ただの護衛に聞かれてもな。もし本当にフロントデーモンなら合格。下級悪魔なら不合格だろうな。不確かな情報を発信したらそんなもんだ」
「装甲を着込んだようなゴリマッチョで、俺の3倍近く大きくて、開幕全体攻撃してきましたけど?」
「……別物だと、いいんだがな」
深刻な顔でぼやいた男の意味を、俺はまだ知らなかった。
翌日になると、完全武装したハゲとギルド長がやってきた。見知った顔に安堵して気さくに話しかけようとしたら、ハゲにはヘッドロックをキメられ、ギルド長から質問攻めされる。地獄である。
「伝達を聞いて驚いたぞ。フロントデーモンだぁ? なんであの塔にそんなやつが居るんだよ。見間違えだろ?」
「俺が聞きたい。悪魔みたいな試験出してきやがって。殺す気か!!」
「シャドーウルフが出るだけのしょぼい塔だぞ。フロントデーモンなんて化物が出るのを知ってたら、単独で送り出すわけねぇだろ」
「ブサクロノくんは我々を疑っているようだが、本当に危険度の低い場所なんだ。そのはずだったんだがね……」
みんな一様に深刻な顔をする。これだけ強いメンツが揃ったんだし、サクっと討伐できるんじゃないか?
「ブサクロノくんには話していなかったが、私は戦闘に参加できないんだ。これでもギルド長なのでね。国の命令には従う他ない」
ギルド長という立場は代わりが居ないらしく、危険な戦闘は極力避けないといけないらしい。なぜ来たのかと聞けば、自衛の範疇ならセーフらしい。
「じゃあ、俺たちがサポートに回るとして、誰が倒すんだ?」
「王都から応援が来る。それまで待機だ。誰が来るかは私にも分からない」
腕自慢が揃う王都ギルドだが、人手不足によりそれぞれ多忙の日々を過ごしているらしい。今日中に集まるかも不明だとか。
「俺、帰っていい? サポートできるほど強くないし。ここ暑いし」
「当事者が帰れるわけねぇだろ。安心しろって。オークと間違われて討伐されそうになったら、助けてやるからよ」
「私からも口添えをしよう。しかし、早く来て貰いたいものだね。悪魔との戦いは、一刻を争う」
俺は一刻も早く帰りたい。別にやる気がないとか、悪魔が怖いとかそんな理由ではない。
サモンしたシャドーデーモンは相変わらず言うことを聞かない。それが意味することは、俺の弱体化である。
今の俺は防御力が魔術師並み。それでいてMP上限はガタ落ち。レベルも上がらない。しかもフロントデーモンを強化しちまった。
この事実を伝えるか迷ったが、シャドーデーモンは俺の生命線だ。内緒にしておこう。王都のやつら、強いらしいから平気だよな。
「見張りは交代で行う。ブサクロノくんはお疲れだろう。先に休むといい」
美人で気立てが良くて部下思い。こんな上司の元なら、意外と楽しく過ごせそうだな……そんなことを考えながら眠りについた。
翌朝……生活魔法で顔を洗っていると、青い鳥が飛んできた。俺の肩に留まって毛づくろいを始めた。ういやつよのぅ。
「お前、レスキューバードだっけ? チュンチュン、チュンチャァァァ?」
鳥語で君かわいいね、いくら? と爽やかに挨拶をしていると、ハゲとギルド長がやってきた。
「まーたバカなことやってんのか。レスキューバードは平時は喋らないぜ」
「あっはっは、いいじゃないかハーゲル。ひょっとしたら伝わっているかもしれないよ」
レスキューバード。外敵に遭遇すると声真似をして仲間だと思わせる習性を持つらしい。それを利用して伝達役として使ってるようだ。伝書鳩ではなく、オウムやインコの部類だろう。
「ブサクロノくん、レスキューバードが戻ってきたということは、じきに王都から援軍が到着する。支度を整えて出迎えるとしよう」
「分かりました。腹踊りでいいですか? 横断幕は切らしてまして」
「いや、そうではなくて……冒険の支度だよ。すぐに出発することになる」
ギルド長の話を聞いて身構えていたが、しばらくしてやってきたのは4人パーティーが一組だけだった。前に出てきたリーダーと思われる男が口を開く。
「待たせたな。Cランクパーティー『深緑の翼』のリーダーの、アレックスだ。職は戦士……大剣を使う」
この男は若い。年齢にして二十歳前半だろう。茶髪で明るい印象。俺が嫌いなタイプだ。死なねぇかな。
「……ガルシアだ。職は重騎士。槍と剣どちらも使える」
寡黙っぽいガタイのいいおっさんは、重厚な鋼の大盾がよく似合う。槍と剣を携えていることから、状況に応じて戦闘スタイルを変えるのだろうか。
「リーラです。火と土の魔術師です」
ローブを着込んだ魔女っ子ちゃんは、背が低い。お辞儀するとなおさら。両手に握りしめた杖の先には、こぶし大の赤い魔石がはまっている。ファンタジー基準なら100点だ。
「アリシアです。副リーダーです。職は精霊弓士です」
この女はパツキンロング。耳が横に伸びている。きっとエルフだろう。ギルド長より耳が長い。顔立ちは可愛い系かな。それにしても……。
このアリシアという女は、言葉にしがたいオーラがある。このパーティーの中でも一際目を引く。美人だから……という理由だけではなさそうだ。
【シックスセンス】越しに見ると、マナの密度が違う。魔術師基準ならあのパーティーの中でアリシアが一番強い。
気のせいかもしれないが、喋っている吐息にもマナが混ざっている。魔女っ子には見られないので、やはり特別なのだろうか。おっぱいもデカイし。
「……そこのオーク。あまりジロジロ見ないでくれますか。サモン越しに聞こえていますよね? とにかく、以上です」
何か勘違いされているようだが、王都組みの挨拶が終わった。こちらの進行役は、他でもないギルド長だ。
「挨拶をありがとう。私はアルバでギルド長をやっている。深緑の翼の諸君は、私の指揮下に入って貰う。異論があるなら帰りたまえ」
凄まじい物言いである。普段のギルド長が、より固くなった感じ。初対面の人間と生死をともにするのだから、上下関係を焼き付ける狙いだろうか。
「異論はない。深緑の翼は、あなたの指示に従う。今すぐにでも作戦の詳細を教えて欲しい」
「深緑の翼の名はアルバにも届いている。王都ギルドに現れたゴールデンルーキー。若さと勢いだけではなさそうだ。安心したよ。では、作戦を説明する」
こいつらそんなに凄いのか。俺も金玉のデカさなら負けないんだが。
まず最初に話した通り、アルバ組と護衛のおっさんはサポート役らしい。具体的な内容は、周辺の魔物の討伐。
深緑の翼は、魔術師の塔に入り、フロントデーモンと戦う。不利な状況になったら撤退が認められるらしい。この辺は、冒険者らしいと言える。
「……以上だ。深緑の翼の諸君、何か質問があれば聞こう」
「単純な好奇心だが、あのオークのサモナーはどこだ? 先に行って見張りをしているのか?」
あ゛ぁ? 俺のこと言ってんのか。最近はあまりバカにされてないから忘れていた。我慢強さもセットで忘れていた。
口を開こうとしたらギルド長に手で制止された。美人のお願いは聞くとも。
「彼はオークではない。人間だ。アルバのギルド職員候補だ。そしてその試験中に、彼がフロントデーモンと遭遇した」
「……どこからツッコんだらいいやら。ランクは?」
「Dランクだ。職は、闇の魔術師だ」
「Dランクぅ? 闇だって? 誤報じゃないのか?」
リーダーのアレックスは呆れ、重騎士のガルシアは眉間にシワを寄せる。リーラとアリシアはヒソヒソ話し合っている。王都のやつらは、とびきり感じ悪いねぇ。でも女の子は許す。
「彼は生き残る能力に抜きん出ている。君たちとは違うベクトルのセンスを持っている。私はそれを信じている。不服かね?」
「……ふぅ。分かった。すぐ出発しよう」
納得していない。その言葉を飲み込んだアレックスは、地面に下ろしていた荷物を担ぎ上げた。それを引き金にして、それぞれ支度を済ませて森に入って行く。
ちなみに、こっそり帰ろうとしたらハゲに捕まった。弱体化した状態で、化物が居る森に行くしかないようだ……。
開幕全体攻撃……やつを中心に、周囲のすべてを灰燼と化す。理不尽の塊のような攻撃が迫って来る……!
信じるぞ、シャドーデーモン。ヘルムの攻撃に耐えたお前らなら、あの攻撃もきっと防げる――。
――呼んでる……行かなきゃ……。
「待てシャドーデーモン!! どこへ行く!? 戻って来い!!」
シャドーデーモンたちが、体から離れていく。寄り付いた先は、他でもない。あの悪魔の周囲だった。
語りかけても返事はなく、命令しても従わない。俺の切り札が使えない。窮地での裏切りによって、このまま死……んでたまるかっ!!
「【バリア】【バリア】【バリア】【ダークネス】」
万が一にも勝ち目はない。あの攻撃を少しでも軽減し、壁をぶっ壊して逃げるしか生き残る道はない!
オリハルコンを砕いたダークネス。お願いだ、このクソみたいな状況をお前の力で変えてくれ……!!
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太陽の光が眩しい。熱風に汗が吹き出る。森が見渡せる。放心している暇もなく、落下を始める。
「あぁぁぁぁぁっ!!」
この状況を覆す方法を持っていない。だが、望みはある。俺を困らせてたまに助けてくれるツンデレスキル。【星の記憶】よ、聞いてくれ!!
「空を自由に飛びたいな。はい……何も出ない!!?!???!?!?」
ムリだ。もう方法がない。結局、俺はダメだったよ。悪いな、相棒……っ。
「眷属よ! 我が魂を喰らえぇぇぇぇっ!!」
『呼ぶのが遅い。危うくハンバーグになるところだったよ』
浮遊感が止まり、羽ばたく音が聞こえる。目を開けると、ナイトメアはいつもの姿とは違っていた。
「黒いフェニックス……か?」
『君の深層に触れたら、この姿になったのさ』
「落ちてたもんなぁ。助かったよ、相棒」
『これは君の力だ。さて、逃げるとしよう。あの悪魔が油断しているうちにね』
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「おろろろろろろっ!!」
『うわぁぁぁっ!? な、なんてことをするんだ!!』
「す、すまん。マナ切れの吐き気が今頃になって……」
『生暖かいよぅ……おや、あんなところにお猿さんが居るよ?』
お互いにニヤリと笑う。散々クソを投げつけてくれたお礼が必要だ。ナイトメアが回転し、溜まっていたゲロが猿に降りかかる。
「あーっはっはっは! あばよ、クソ猿!!」
『スッキリしたし、馬車まで飛ぶよ。落ちないでね』
「頼んだぜ、相棒!!」
空を飛べる。それは凄いことだ。あれだけ苦労して進んでいた森を、あっという間に抜けてしまうだろう。
遠くに馬車が見えてきた。背後からフロントデーモンが追ってきている様子もない。安心したところで、無慈悲なことを言い渡される。
『ごめん。時間切れだ。どうか死なないでね』
「へ……? あぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
フェニックスが霧となって消えていく。多少は降下していたものの、飛んでいた俺は慣性の法則に従い、森の中に突っ込んだ。
「よ、良かったぁ! 生きてる!!」
体中がズタボロであるが、しゃーなし。折れた枝を杖代わりにして、馬車に到着した。
「よぅ、どうしたんだ? そんなに強い魔物は居なかったはずだぜ」
「ウソつけ。フロントデーモンから命からがら逃げてきたんだよ!!」
「……何だって? フロントデーモンなんて上位の悪魔がこんなところに居るわけ――」
森の奥から、つんざくような叫び声がした。鳥たちが羽ばたき、猿の断末魔が聞こえる……。
「なんてこった……楽な護衛のはずだったのに……ありえねぇ」
「おっさん強いんだろ? 討伐してよ」
「無茶言うなよ……レスキューバード! 王都ギルドに伝えてくれ!!」
籠から放たれた青い鳥が、空の向こうに消えていく。名前から察するに、伝書鳩のようなものだろうか。
「それで、これからどうしたらいいんですか?」
「もちろん逃げる。さっさと馬車に乗れ」
「いやいや、先輩強そうじゃないっすか。やれますって」
「いきなりすり寄って来るなよ。それなりに腕に自信はあるがな、冒険者を長く続ける秘訣は、冒険しないことだ」
元も子もないことを言うなぁ。俺もその考えに賛成だけど。
馬車に揺られるうちに冷静な自分が戻ってきた。するとある疑問が沸く。
「あの、俺ってギルド職員の試験を受けてたけど、どうなります?」
「ただの護衛に聞かれてもな。もし本当にフロントデーモンなら合格。下級悪魔なら不合格だろうな。不確かな情報を発信したらそんなもんだ」
「装甲を着込んだようなゴリマッチョで、俺の3倍近く大きくて、開幕全体攻撃してきましたけど?」
「……別物だと、いいんだがな」
深刻な顔でぼやいた男の意味を、俺はまだ知らなかった。
翌日になると、完全武装したハゲとギルド長がやってきた。見知った顔に安堵して気さくに話しかけようとしたら、ハゲにはヘッドロックをキメられ、ギルド長から質問攻めされる。地獄である。
「伝達を聞いて驚いたぞ。フロントデーモンだぁ? なんであの塔にそんなやつが居るんだよ。見間違えだろ?」
「俺が聞きたい。悪魔みたいな試験出してきやがって。殺す気か!!」
「シャドーウルフが出るだけのしょぼい塔だぞ。フロントデーモンなんて化物が出るのを知ってたら、単独で送り出すわけねぇだろ」
「ブサクロノくんは我々を疑っているようだが、本当に危険度の低い場所なんだ。そのはずだったんだがね……」
みんな一様に深刻な顔をする。これだけ強いメンツが揃ったんだし、サクっと討伐できるんじゃないか?
「ブサクロノくんには話していなかったが、私は戦闘に参加できないんだ。これでもギルド長なのでね。国の命令には従う他ない」
ギルド長という立場は代わりが居ないらしく、危険な戦闘は極力避けないといけないらしい。なぜ来たのかと聞けば、自衛の範疇ならセーフらしい。
「じゃあ、俺たちがサポートに回るとして、誰が倒すんだ?」
「王都から応援が来る。それまで待機だ。誰が来るかは私にも分からない」
腕自慢が揃う王都ギルドだが、人手不足によりそれぞれ多忙の日々を過ごしているらしい。今日中に集まるかも不明だとか。
「俺、帰っていい? サポートできるほど強くないし。ここ暑いし」
「当事者が帰れるわけねぇだろ。安心しろって。オークと間違われて討伐されそうになったら、助けてやるからよ」
「私からも口添えをしよう。しかし、早く来て貰いたいものだね。悪魔との戦いは、一刻を争う」
俺は一刻も早く帰りたい。別にやる気がないとか、悪魔が怖いとかそんな理由ではない。
サモンしたシャドーデーモンは相変わらず言うことを聞かない。それが意味することは、俺の弱体化である。
今の俺は防御力が魔術師並み。それでいてMP上限はガタ落ち。レベルも上がらない。しかもフロントデーモンを強化しちまった。
この事実を伝えるか迷ったが、シャドーデーモンは俺の生命線だ。内緒にしておこう。王都のやつら、強いらしいから平気だよな。
「見張りは交代で行う。ブサクロノくんはお疲れだろう。先に休むといい」
美人で気立てが良くて部下思い。こんな上司の元なら、意外と楽しく過ごせそうだな……そんなことを考えながら眠りについた。
翌朝……生活魔法で顔を洗っていると、青い鳥が飛んできた。俺の肩に留まって毛づくろいを始めた。ういやつよのぅ。
「お前、レスキューバードだっけ? チュンチュン、チュンチャァァァ?」
鳥語で君かわいいね、いくら? と爽やかに挨拶をしていると、ハゲとギルド長がやってきた。
「まーたバカなことやってんのか。レスキューバードは平時は喋らないぜ」
「あっはっは、いいじゃないかハーゲル。ひょっとしたら伝わっているかもしれないよ」
レスキューバード。外敵に遭遇すると声真似をして仲間だと思わせる習性を持つらしい。それを利用して伝達役として使ってるようだ。伝書鳩ではなく、オウムやインコの部類だろう。
「ブサクロノくん、レスキューバードが戻ってきたということは、じきに王都から援軍が到着する。支度を整えて出迎えるとしよう」
「分かりました。腹踊りでいいですか? 横断幕は切らしてまして」
「いや、そうではなくて……冒険の支度だよ。すぐに出発することになる」
ギルド長の話を聞いて身構えていたが、しばらくしてやってきたのは4人パーティーが一組だけだった。前に出てきたリーダーと思われる男が口を開く。
「待たせたな。Cランクパーティー『深緑の翼』のリーダーの、アレックスだ。職は戦士……大剣を使う」
この男は若い。年齢にして二十歳前半だろう。茶髪で明るい印象。俺が嫌いなタイプだ。死なねぇかな。
「……ガルシアだ。職は重騎士。槍と剣どちらも使える」
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「リーラです。火と土の魔術師です」
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「……そこのオーク。あまりジロジロ見ないでくれますか。サモン越しに聞こえていますよね? とにかく、以上です」
何か勘違いされているようだが、王都組みの挨拶が終わった。こちらの進行役は、他でもないギルド長だ。
「挨拶をありがとう。私はアルバでギルド長をやっている。深緑の翼の諸君は、私の指揮下に入って貰う。異論があるなら帰りたまえ」
凄まじい物言いである。普段のギルド長が、より固くなった感じ。初対面の人間と生死をともにするのだから、上下関係を焼き付ける狙いだろうか。
「異論はない。深緑の翼は、あなたの指示に従う。今すぐにでも作戦の詳細を教えて欲しい」
「深緑の翼の名はアルバにも届いている。王都ギルドに現れたゴールデンルーキー。若さと勢いだけではなさそうだ。安心したよ。では、作戦を説明する」
こいつらそんなに凄いのか。俺も金玉のデカさなら負けないんだが。
まず最初に話した通り、アルバ組と護衛のおっさんはサポート役らしい。具体的な内容は、周辺の魔物の討伐。
深緑の翼は、魔術師の塔に入り、フロントデーモンと戦う。不利な状況になったら撤退が認められるらしい。この辺は、冒険者らしいと言える。
「……以上だ。深緑の翼の諸君、何か質問があれば聞こう」
「単純な好奇心だが、あのオークのサモナーはどこだ? 先に行って見張りをしているのか?」
あ゛ぁ? 俺のこと言ってんのか。最近はあまりバカにされてないから忘れていた。我慢強さもセットで忘れていた。
口を開こうとしたらギルド長に手で制止された。美人のお願いは聞くとも。
「彼はオークではない。人間だ。アルバのギルド職員候補だ。そしてその試験中に、彼がフロントデーモンと遭遇した」
「……どこからツッコんだらいいやら。ランクは?」
「Dランクだ。職は、闇の魔術師だ」
「Dランクぅ? 闇だって? 誤報じゃないのか?」
リーダーのアレックスは呆れ、重騎士のガルシアは眉間にシワを寄せる。リーラとアリシアはヒソヒソ話し合っている。王都のやつらは、とびきり感じ悪いねぇ。でも女の子は許す。
「彼は生き残る能力に抜きん出ている。君たちとは違うベクトルのセンスを持っている。私はそれを信じている。不服かね?」
「……ふぅ。分かった。すぐ出発しよう」
納得していない。その言葉を飲み込んだアレックスは、地面に下ろしていた荷物を担ぎ上げた。それを引き金にして、それぞれ支度を済ませて森に入って行く。
ちなみに、こっそり帰ろうとしたらハゲに捕まった。弱体化した状態で、化物が居る森に行くしかないようだ……。
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