ブサイクは祝福に含まれますか? ~テイマーの神様に魔法使いにしてもらった代償~

さむお

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ギルド職員編

噛みつかれてクロノ死す

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「ここがやつのハウスね」


 開幕からこんにちはされなかった俺は、周囲をぐるりと見渡す。魔術師の塔と呼ばれているから、妄想を膨らませていたのだが、内装は地味の一言に尽きる。


 ただの石造りの建物……古臭い要塞みたいな感じだ。物や窓がないから、それ以上の感想が出てこない。


「もっと魔法的な要素が欲しいよぅ」


 一応、壁に備え付けられたクリスタルが内部を照らしている。魔法的ではあるが、形が違うだけの照明なんだよな……。


「……いや、待て。インテリアは最低だが、生活拠点としては悪くないぞ」


 ここは空気がひんやり冷たい。吹き出てきた汗が乾くと、身震いしてしまう。


 蒸し暑いジャングルのど真ん中に建っているのに、この涼しさの理由はなんだ……? もう一度、内部を見渡して、クリスタル照明に目が止まる。恐る恐るクリスタルに触れると、冷たかった。


「……これも聖遺物なのかな」


 この世界は一般的に松明やカンテラを使って、油を燃やして明かりとする。当然ながら、燃えた分だけ熱が発生する。しかし、このクリスタルは仕組みは不明だが、熱を発していない。


 そして、外壁を覆っている苔が、直射日光や熱を防ぐ。いわば、グリーンカーテンになっているのだろう。だからこの建物はこんなにも涼しいのだ。


 インテリアに関心が薄い俺だが、ここまで殺風景なものを前にすると、自然と顧みることもある。敵地であることも忘れて、心の赴くままに叫ぶ。


「L・E・D!! L・E・D!!」


 そう、カンテラが白熱灯なら、クリスタルはLED。こいつぁとんでもない便利アイテムだ。さっそくひとつ頂いていくぜぇ!


「……あれ? 消えちまった」


 クリスタルを取ると輝きが消える。元の位置に戻すと、また輝く。


「エネルギー源は不明。しかし、ヒントはある。ここは魔術師の塔……だったら、マナを流せば……」


 手に持ったクリスタルが輝きを取り戻した。やはり、壁になんらかの仕組みがあり、マナが流れているのだろう。


 俺は魔術師である。自分でマナを流せば光るのではないか。その予想は正しかった。さっそく照明代わりに使おうとしたが……。


「なんだか燃費が悪くねぇ?」


 気持ちが沈んでいく。じわじわとMPが減る感覚は、ちょっと不快だ。そもそも、塔はそれなりに明るいので、これを持ち運ぶメリットが感じられない。マナの無駄遣いは止めておこう……。


「魔術師の塔っていうか、技術者の塔って感じだった」

『いい加減、早く進もうよ』

「やだ。魔物に襲われたらどうすんの」

『あのねぇ……冒険しようよ……』

「冒険と無計画は違うのだよ」

『そこまで分かっていながら、敵地でLEDって叫ぶ人、君くらいだよ』

「そう呆れないでくれ。ほんの序の口だぞ」


 ここは敵地である。もし俺が魔物なら、物陰に隠れて獲物を待ち構える。地の利を活かした戦いに持ち込む。仲間を呼ぶのもいいな。やるのは構わないが、やられるのは本当に困る……。


 相手の姿は見えずとも、自分が不利だと自覚する。五分に持ち込むために、相手に思い通りの戦いをさせたくない。そのために、作戦を考えた。


 コードネームは、D・V・D!!


「D・V・D!! D・V・D!! D・V・D!!」

『説明しよう。コードネーム、D・V・Dとは、ただ単純に叫ぶだけである。その効力は、凄くやかましいよ!!』


 はたから見れば、ふざけているか狂っているように見えるだろう。しかし、本当に真面目にやっているのである。


 俺は魔術師だ。隠密能力は皆無だし、索敵能力も劣っている。頑張ったところで気疲れするだけ。だったら、開き直って自分から存在感を出していく。


 俺が居るこの場所には、魔物が居ない。見通しがよくて、罠の類もない。出口もすぐ近くにある。戦うならこれほど理想的な場所はないだろう。


 先に進んで戦闘が発生したとき、その物音を聞いてさらに奥に潜んだ魔物もやってくるはずだ。不利な地形と、不確定な増援に怯えながら戦うなんてとんでもない!!


 今この場で、声が届く範囲の魔物をおびき出せば、戦闘の規模は最小限で済むのだ。控えめに言って俺のIQは1億ある。隙のない作戦に敵は乗らざるを得ない。


「……やっと来たか。そんなにDVDが見たいか!? そんなものは、なぁい!!」

『いや、やかましいから来たんでしょ』


 唸り声とともに現れたのは、黒い毛並みの狼。魔術師の塔に生息するシャドーウルフだ。その数は、3匹。腕試しにはちょうどいい。


「あの日の俺とは違う。来いよ、ワンちゃん!」


 魔物には個体差がある。中央のやつは体が一回り大きい。ユニークではないが、この中では一番強いはず。


 小振りな2匹の狼は、左右に展開して俺を囲むつもりらしい。どうぞどうぞ。


 狼は狡猾だ。数と勢いに任せて襲いかかりはしない。より険しく唸り、少しずつ輪を狭めていく……。


 やつらの戦法は察しが付く。群れのボスがわざと獲物の視界に入り、注意を引きつける。背後に回った弱い狼が、不意打ちをしてくる。このとき、攻撃は高確率で足に受ける。


 その理由は、獲物にダメージを与えつつ、逃げられないようにするためだ。群れて生きる獣の知恵……単純だが効果的だ。ただし、俺には通用しない。



 戦法が分かれば対策もできる。手足に入れた鋼のプレートが、狼の牙を通さない。ガチリと鈍い音がして、すぐに離れたのがその証拠だ。


 俺が思う防具とは、敵の攻撃を軽減するものではなく、強敵と集中して向き合うためにある。


 攻撃してくるザコは無視して、群れのボスを視界に入れ続ける。足への攻撃が通じないとなったら、敵の取る行動はひとつ。弱点に、より強力な一撃を与える……すなわち、首に牙を立てること。


 中央の狼が動く。助走をつけて走り、そのまま飛びかかってくる。身長差を埋めるにはこれしかない。それがこいつらの隙……ルーティンソードを振り下ろし、返り討ちにした。


「ひとぉつ!! 背後のザコに、ふたぁつ……スカッ」

『シャドーウルフはクロノの攻撃を素早い動きで躱した』


 軽快な動きの前には、魔術師のへっぽこソードなど通じない。それが分かっていたから飛びかかりを誘っていたのに、ノリと勢いに任せて攻撃したら外したあげく、ナイトメアから煽られて真顔になる。


「おらっ、どうしたっ! かかって来いよ……っ!」


 ボスを叩き切ったことで狼は警戒している。俺の周囲を回るように歩きながら、唸っている。近づけば距離を取られる。


 このまま睨み合いを続けるくらいなら、魔術師らしく戦うべきか。


「【シャドウバインド】」


 小型の魔物には、拘束スキルが有効だ。縫い付けられたようにその場で動けなくなったシャドーウルフにルーティンソードを振り下ろした。


 最後の一匹は、甲高い鳴き声とともに逃走を図る。速度は向こうが圧倒的に上だ。走ったところで追いつけない。


「【ナイトスワンプ】」


 いかに狼が素早くとも、逃走経路はひとつ。そこに沼を作り出せば、狙わずとも勝手にハマってくれる。


「助けは来ねぇぞぉぉぉ!!」


 沼から抜け出そうともがく狼に突進する。勢いに任せてルーティンソードを突き出し、最後の獲物を倒した。


 血を振り払い、鞘に収める。長く細い息を吐き出し、勝利の余韻に浸った。


「正義は勝つ!! グッバイ、あの日の俺」

『完全にこっちが悪役だった。さよなら、純粋だった君』


 俺が悪堕ちしたような発言は止めていただきたい。せめて少しくらい祝福してくれてもいいじゃん。


『君なら勝てると思っていたからね。ボクに頼らず、無事に生きて帰ったら褒めてあげるよ。さぁ、今度こそ冒険の時間だ』

「あぁ、分かってるさ。行くぜ、相棒!」


 D・V・D!! D・V・D!! D・V・D!!


 もちろん、叫びながら進む。目指すは塔の最上階だ……。
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