ブサイクは祝福に含まれますか? ~テイマーの神様に魔法使いにしてもらった代償~

さむお

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夜鷹編

紹介してクロノ死す

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 俺は堕ちるところまで堕ちている。拷問姫ヌルを見つけるために、夜鷹の構成員を拷問の生贄として差し出したに等しい行為をしたのだ。


 後味は悪いが、罪の意識は感じていない。すべてはヌルを生み出した夜鷹が悪い。だが引き金を引いた以上、元凶であるヘルムをどんな手を使ってでも必ず見つけ出して、始末するつもりだ。


 だから手塩にかけて教育したテレサちゃんだろうと、ヘルムをおびき出す餌にすることにした。


「テレサちゃん、今日からお出かけしようか」

「……? 嬉しいけど、どこに行くの?」

「まぁ、お散歩みたいなものだよ。紹介したい人も居るし、案内したいところもある。夜までには終わるから安心して」

「ふぅん……まっ、いいわ。あんたに任せる」


 興味がありません。そんな口調とは裏腹に、しきりに短い髪を弄っている。口角は吊り上がっているし、微かに鼻歌のようなものも聞こえる。ここまでくると意図的なのではないかと疑うレベルである。


 服装はメイド服にした。誰かにテレサちゃんの素性を聞かれたとき、召使いってことにして乗り切りやすくなる。


 いざ、家の外へ。扉に手をかけたテレサちゃんが固まった。


「……今って昼じゃない? 夜じゃなくていいの?」

「大半の人は昼に活動して夜に寝るんだよ。テレサちゃんになったんだから、その辺も直していかないとね」

「はぁい。そう言われると実感が湧いてきたわ」


 今度こそ扉を開けると、テレサちゃんは太陽に手をかざして眩しそうに立ち尽くす。ぽんと肩に手を置いてやると、我に返ってくれた。感傷に浸るのも悪いことではないが、ワケありの身であることを忘れてはいけない。


「それじゃ、おじさんに付いてきて。隠密スキルは使えるなら使って」


 テレサちゃんの姿が消える。目の前でその効果を体験すると、正直なところ驚きが大きい。腐っても元アイン。蹴散らしてきたザコと違って、上位の隠密スキルはインチキと言いたくなるレベルで強力だった。


「それが【インビジブル】なのか?」

「そうよ。【ナイトウォーク】は自分の物音を消すけど、【インビジブル】は自分の存在を希薄にするの。合わせると探索スキルを持ってない人には、まず見つからないと思うわ」

「戦闘中は使わなかったのか?」

「そこまで万能じゃないわよ。派手に動くと気配が大きくなっちゃうから。時と場合に応じて、【インビジブル】を切り替えて撹乱したんだけどね?」

「なるほど。そっちのほうが厄介だな。実際、戦ったときはかなりやり難いと思った。まぁ、今も気を抜くと見失いそうなんだが」

「……あんた、性格悪いわね。見えてるくせに」


 目視こそできないが、【シックスセンス】を使えばぼんやりとマナの光が見えるし、シャドーデーモンを付ければ判別に苦労しない。これなら自由に出歩かせても問題ないだろう。


 最強の探索職は、魔術師である。ただしサモン中に限る。


「そんじゃ、行きますか。逸れるなよ?」

「これから返事はしないけど、ちゃんと居るからね?」


 目的地は、スラム……小人族ことミラちゃんとティミちゃんの家となるボロ宿である。


 静かで人通りの少ないスラムは、普段なら暗殺者が潜んでいるのだろうが、夜鷹が壊滅した今となってはシャドーデーモンの探知に引っかかるやつも居ない。かつてない平和な世界となっていた。


 ボロ宿まで少し距離がある。退屈が俺に素晴らしい閃きを与えた。


 目の前に居ても目視できない上位の隠密スキル。つまりは見つからないわけで、そのうちテレサちゃんに露出プレイをさせよう。いつか、必ず……っ!!


 楽しい妄想をしていると、目的のボロ宿に到着した。建付けの悪い扉を恐る恐る開くと、ジト目のティミちゃんが受付で頬杖を付いていた。


「……あっ! ブサクロノ!」


 軽く手を振ると、笑顔の花が咲く。小走りにやってきたティミちゃんの頭に手をおいて、軽いスキンシップをする。


「やぁ、ティミちゃん。相変わらず可愛いね。今日は暇なのかい?」

「……ありがと。今はポーション作りの休憩中。窯の様子は他の子に頼んでるから、しばらく大丈夫。お話する? それとも……する?」


 舌を出してエア手コキで誘ってくるティミちゃんまじ天使。普段ならル○ンダイブするところだが、今日の目的はそれではない。


「今日は遠慮しとくよ。紹介したい人が居るんだ……出てきておいで」

「……うわっ! だ、誰……? 奴隷でも買ったの……?」

「は、始めまして。テレサです。奴隷というか……その……」

「彼女はテレサちゃん。訳あっておじさんが面倒を見ることになったんだ。そこでティミちゃんにお願いがあるんだけど、この子にポーション作りを体験させて貰えないかな?」


 恋に恋する少女、ティミちゃんなら二つ返事で了承すると思っていたが、意外にも目を細めて唸っている。


「ポーション作りは命に関わる仕事だから、遊びじゃダメだよ」

「軽視しているわけじゃないんだ。ティミちゃんは中級ポーションを作れるほどの腕前を持っているから、その凄さを間近で見せたくてね。今日だけでも構わないから、おじさんのお願いを聞いて貰えないかな?」

「よ、よろしくお願いします」


 完璧なお辞儀をキメたテレサちゃんを見て、ティミちゃんも満更でもない様子だ。少し迷っていたが、最終的には了承してくれた。好き。


「死なない程度にこき使ってあげて。小人族と比べれば背も高いし、力もあるからね」

「助かる。人手が足りなくて困ってたの。ブサクロノも見ていく?」

「そもそもどこで作ってるんだ?」


 ティミちゃんは下を向くと、軽く足踏みをした。


「……ボロ宿は仮の姿。ここの地下室があたしたち小人族の生活スペースで、ポーション作りもしてるよ」

「そんな大事なことを言っていいのかな? 不用心がすぎるよ。おじさん心配しちゃう」

「本当は内緒なんだけど、ブサクロノは特別だから。好き。お嫁さんにして」


 突然の告白であるが、ティミちゃんの視線はテレサちゃんに向けられた。これはあれだ……女の牽制ってやつか。


 勝手に対抗意識を燃やされたテレサちゃんは、ぎょっと目を見開いて俺とティミちゃんを交互に見比べていた。


「うぅーん、嬉しい提案だけど、もっとよく考える時期だよ。3年後に気持ちが変わらなかったらまた告白してね」

「……無念。あたしの勇気はいつも軽く流される」

「ふははは、ごめんね。場数が違うからね」


 冗談のように流していると、テレサちゃんが目を細めて呟く。


「嘘でしょ……こいつモテるの……ありえないわ……」


 そうだ、ありえない。変な誤解はしないように。俺はシャドーウルフにバイキングされただけの間抜けだからな。


「ブサクロノも来て。地下室、案内してあげる」

「遠慮しておくよ。これから用事があるんだ。夕方にはテレサちゃんを迎えに来るから、おじさんとの関係が気になるなら根掘り葉掘り聞いてもいいよ」

「……やっぱりブサクロノはやり手」


 地下室は小人族の生活スペース。つまりは本拠地なわけで、ポーション見学と軽く考えたら小人族に囲まれて既成事実を作られそうなので入れない。


 非力な小人族に手足を押さえつけられて、大勢の目に見られながらティミちゃんに逆レイプされる展開は非常に魅力的なのだが、ここは涙を呑んで堪えるしかない。


 こちらの提案を断られないために、テレサちゃんに質問する権利を献上したので、交渉はおじさんの勝ちである。


 もしテレサちゃんが人質に取られたとしても、腐っても元アインなので脱出は簡単だろう。


「そろそろ時間だけど、テレサさんだっけ? 大丈夫なの?」

「よ、よろしくお願いします! 力と速さには自信があります!」


 自分より小さな子に頭を下げる。うむ、教育の成果が早くも出ている。


「テレサちゃん、一流の技をしっかりと見ておくんだよ。やるやらないは別として、得難い体験になるからね」

「う、うん。あんたもしっかりやるのよ。何するか知らないけど」


 この様子なら心配いらないだろう。俺も自分の目的を果たすために、ボロ宿を出た……。


 あとがき

あと4話くらいで夜鷹編終わります。
それと久々にブックマークが1件増えました。嬉しいです!
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