ブサイクは祝福に含まれますか? ~テイマーの神様に魔法使いにしてもらった代償~

さむお

文字の大きさ
上 下
73 / 230
夜鷹編

拷問姫ヌル その2

しおりを挟む


 拷問姫ヌルが目を見開き、後ずさる。どうやらイビルドーザーとやらがヌルの切り札だったようだ。


 個では俺を突破できず、巨体のせいで集団では連携できない。たとえ100匹いたとしても、結果は変わらなかっただろう。


「ありえない……ど、ドーザーまで……っ!? サモン――」

「もういい。どうせまた気色悪い虫を出すだけだろ……クロックタワー」


 シャドーデーモンたちがヌルを掴み、宙吊りにする。ヌルはまるで磔にされた状態だが、まだダメージは与えていない。


「うぎぎっ、こんなものっ、ただの拘束スキルがどうしてこんなに……っ」

「その拘束はお前には解けない。俺は優しいから、お前に懺悔する時間をやる」


 クロックタワーは、スキルではない。拷問が好きなイカれ女に悔い改めさせる目的で、即興で呼んだにすぎない。


「懺悔したくないなら、しなくてもいい。抜け出そうとしてもいいし、助けを呼んでもいい。一時間後にお前は死ぬ。それまで好きに過ごせ」

「懺悔なんてするわけないでしょ!? まだ終わってない……こんな拘束っ、すぐに解いて、お前に拷問の限りを尽くしてやるっ!」

「MPを切らした魔術師が? この処刑台から抜け出せるはずがないだろ」


 ヌルの目は死んでいない。とはいえ、やれることは限られている。同じ魔術師だからこそ、ヌルの考えはよく分かる。


「【サモン:ブラッドモスキート】」


 大量の蚊を呼び出し、俺を襲わせるふりをして視界を塞ぎ、丸薬を口に運ばせる計画だ。あえてサモンさせて、MPを消耗させてから丸薬ごとモスキートの群れを覆い潰した。


「うぐぐぐっ……見えてないはずなのに……っ!」

「見えない手があるなら、見えない目もある。勉強になったな」

「……お前もサモナーかっ!?」


 俺は性格が悪い。勝ちを確信しても、決して種を喋ったりしない。


「大外れ……さて、そろそろ時計の針が動き出すぞ」


 磔にされて横に伸びていたヌルの右腕が、わずかに回る。


「これがあんたの攻撃? ちょっと腕が回ったくらいで……っ!?」


 拷問が好きなヌルのことだ。クロックタワーの意味に気づいたらしい。


「時計の針はお前自身だ。ゆっくりとお前の手足を回す。10分ごとに右手・左手・右足・左足……最後に、首。ねじ切れるまで好きに過ごせ」


 始めは手のひらが見えていたが、時がたった今では手の甲が俺に向けられている。そろそろ関節の可動域も限界を迎える……。


「あ、あんたみたいな醜いブタがっ、私を拷問しようだなんて……っ!」

「拷問が好きなんだろ? 俺なりのプレゼントだ」

「うそっ、嘘よ……嘘でしょ!? やっと見つけた自分の居場所を……あんたみたいなゴミクズに奪われてたまるかぁぁぁっ!」

「お前の居場所なんて地獄しかないだろ」


 血走った目を向けられ、噛んた唇からは血が滴る。相手の悔しがる表情は好きだが、今このときばかりは何も楽しくない。


「……そろそろ、10分か」

「ま、待って! あんた女好きって話じゃない! この拘束を解いてくれるなら、抱かせてあげ……いぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」


 シャドーデーモンによってねじられ続けた右腕が、とうとう限界を迎えた。ぶちぶちと音を立てながら回り続け、肩からねじ切れた腕が床に落ちる……。


「……止血をしているから、死にはしない。死ぬほど痛いだろうが、残りの50分を有効に使ってくれ」

「ま゛っ、待って……私と組みましょう……っ。その力があれば……夜鷹を掌握できる……女だって抱き放題よ……っ」


 世界の半分をやろう。魔王からの提案に、勇者はどう答えるのか。俺は置いてけぼりを食らった半端者の勇者だし、性根は勇者とは程遠いが、俺なりの返答は決まっている。


「約束されたセックスに価値などない!」

「だったら! あなた好みの女を拐ってくるわ! 夜鷹ならそれができる! 他に望みがあるなら、何だって叶えてみせるっ!」

「俺好みの可能性に満ちた女は、お前に殺されたよ。俺の望みはひとつ……お前をここで殺すことだ」

「嫌だ……死にたくない……やっと……見つけた……自分の居場所……っ。助けて! 誰でもいいわっ、あたしを……助けなさい…… 助けてよぉぉぉっ!!」


 声を枯らしながら、なりふり構わず助けを求める。けれどこの場には誰も居ない。誰の耳にも届かない。人を遠ざけたのは、他でもないヌル自身だ。


「お前のこれまでの行いが自分に返ってきただけだ。受け入れろ」

「どうして……ヘルム。あなたに言われた通りにしたのに……私を見捨てるの……?」


 虚ろな瞳でこの場に居ない者に助けを求める。殺すまでに時間をかけたのは、半分はこいつに懺悔させるためであり、もう半分はヘルムとやらをおびき寄せるためだった。


「懺悔もなしか。救えないやつだ。言われた通りにしてきたから、このまま死ぬんだろ」


 両腕を失い、両足も既にねじ切れた。そこから首が回り始めるまで10分の猶予を与えたが、すべて無駄だったようだ。


 発動してから一時間になる。最後までヘルムに助けを求めたヌルの首がゆっくりと回り始め、ねじ切れて落ちた……。


「ヌルならヘルムをおびき出す餌になるかと思ったが……ただの捨て駒か」


 あっけないものだった。影武者の可能性は低いと思うが、ここまでしておいて確認を怠るわけにはいかない。


 落ちた首は布で包んでシャドーデーモンに運ばせる。拷問器具はすべて【ダークネス】で破壊し、隠し部屋を出て地上に戻ってきた。


「……拷問なんて楽しくも何ともないじゃないか」


 首が腐るまでに帰ろう。ヌルの素顔を知っているであろうテレサちゃんに見せないといけない。重い足取りで山を降りた……。
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...