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夜鷹編

ガチ泣きしてクロノ死す

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 アナル処女を散らしたおじさんは、床にへばって男泣きしている。


「痛ぇ……まじ痛ぇ……ケツがふたつに割れた……ひっく」

『……君、バカだろう!? 何もそこまでする必要ないじゃないか!』


 ナイトメアからお叱りを受けてしまった。確かにおじさんはバカだが、これは彼女が更正した暁には必ず、やり遂げる覚悟をして挑んだことであった。


『ケツの穴を掘られる痛みなんて、知りたくなかったよ……ボクも泣きたい』

「ぐすっ……まじ痛ぇよな……自分が情けなくてガチ泣きしちまうよ……」

「はぁはぁ……泣きたいのはこっちよ! 何で初めての誕生日に、男のケツを掘らないといけないわけっ!?」

「……復讐なんて、ろくなもんじゃないって分かっただろ……?」

「何カッコつけてんの!? これそういうことなの!?」


 ペニスバンドを投げ捨てて床に座り込んだテレサちゃんは、肩で息をしている。腰振りは疲れるからな。よく頑張った。俺もよく頑張った……。


 裂けたアナルに【ヒール】を使う。立ち上がろうとすると、膝が笑っている。生まれたての子鹿になった気分。こんな地獄は二度と御免である。


「テレサちゃん、おじさんのアナル、がばがばになってない?」

「なってないわよ。治ってるから! 見せつけないで!」


 心配になって鏡にケツを向ける。元の状態は分からないが、ガバガバになっていないから一安心である。やはりヒールは痔に効くようだ。


「テレサちゃんのアナルはあんなにきれいなのに、野郎のアナルはどうしてこんなに汚いんだ……? 分かる?」

「あたしに聞かないでくれる!?」


 ばしーん、ケツに張り手をされてしまった。永遠の謎……アナルミステリーとでも名付けよう。何の役にも立ちそうにない。これは確信であった。


「テレサちゃん、今日から一緒に寝ようか」

「どういうつもり? いつもあたしを犯したら帰るのに」

「そりゃ、暗殺者と一緒に寝るとか怖すぎてムリっしょ。可愛い女の子となら喜んで一緒に寝るよ」


 テレサちゃんは何かを言いかけたが、当然の考えなので反論できまい。口喧嘩に勝ったおじさんはドヤ顔で立ち上がろうとしたら、腰に力が入らない。


「やべぇ、しばらく歩けそうにない。テレサちゃん、先にベッドで寝てていいよ。おじさんは這って行くから」

「真顔でとんでもないこと言わないでよ。あんたと話してると頭がおかしくなりそうだわ」

「夜更かしはお肌の敵だよ。テレサちゃんせっかく可愛いんだから、素材にあぐらをかいてちゃいけないよ」

「うっさいわね……ほら、行くわよ……重っ」


 テレサちゃんにお姫様だっこされてしまい、ベッドルームまで運ばれた。あらやだ、おじさん恥ずかしい。


 おじさんを投下したテレサちゃんは、端のところで背を向けて寝転がった。キングサイズのベッドの広さは、激しいプレイをしても落ちないのが魅力であり、お互いに距離を取るためのものではない。よって近づくしかあるまい。


「ローリングミートプレスッッッ!」

「……うざっ。あっち行ってよ」


 ふかふかのベッドを転がり、テレサちゃんを後ろから抱き締める。やはり柔らかさと肌触りにおいて、女の子の体は最強である。


「一緒に寝るんだから、これくらいはくっつかないとね。テレサちゃんの温もりを感じながら一緒に寝られるなんて夢みたいだよ。あぁ、これから見るんだったね!」

「……勝手にすれば。永眠しても知らないわよ」

「怖い怖い。でもおじさんはテレサちゃんを信じてるからね。どうせなら防御スキルも解除しておくよ」

「……あたし、99人殺してるの。あんたで100人目ってわけ」

「ふーん。おじさんを殺して自由になる、か。それも悪くない……なんて言わないよ。めっちゃ悪いから。最悪」


 内心はとんでもなく恐ろしかったが、態度には出さない。俺はテレサちゃんを信じると決めたのだから、どのような結果になろうとも受け入れるつもりだ。


 さぁ、眠ろう。何事もなく目覚められることを祈りながら……。




「……ぬっ、生きてるな」


 翌朝、俺は普通に目が覚めた。起き上がろうとすると肩に痛みが走る。白い布が巻かれていて、うっすらと血が滲んでいた。


 白い布には見覚えがある。俺の腕の中で寝ているテレサちゃんのキャミソールが破れている。俺は賭けに勝ち、テレサちゃんもまた欲望に打ち勝ったらしい。


「テレサちゃん起きて。朝だよ」

「……起きてるわよ。何か言いたいことがあるんじゃないの?」

「ありがとう! 手当てしてくれたんだねっ!?」

「……はぁ? 何を言って――」

「おじさんが寝ぼけて自分の肩を引っ掻いて、血が出てたところをテレサちゃんが自分の服を破ってまで手当てしてくれた。感動しちゃったよ!」


 この子はもう暗殺者に戻らない。一晩も自問自答を繰り返した末に出た答えが、おじさんの肩にある傷なのだ。


「あたしは! あんたを殺そうとしたのっ!」

「殺意が芽生えても、踏みとどまった。それはとても難しいことなんだ。偉いよテレサちゃん」


 人が人を殺さないのは当たり前。しかし、明確な殺意と動機があったらどうだろう? 踏みとどまった事実は、無害な人間よりもよほど信頼に値するものだ。


「……調子狂うわ。それと、その……ごめんなさい」

「昨日はよく眠れなかったようだね。今日は特別に、寝直そうか」


 後ろからテレサちゃんを抱きしめる。借りてきた猫のようにおとなしい。そのまま眠るのかと思ったが、意外にもまだお喋りしたいようだ。


「あたしに聞きたいこと、あるんじゃないの?」

「スリーサイズは目と手と舌で測った。女の子に年齢を聞くほど野暮じゃない」

「そうじゃなくて! 夜鷹のこと……知りたいでしょ」

「話してくれるのなら聞くとも」

「フィーアを売ったやつは分からない。あの子は友達が多かったし、優しかった。でも殺したやつは分かる。ヌル……拷問姫ヌル」


 ヌル……ドイツ語で0番を意味する名前か。お決まりの裏設定ではあるが、拷問姫か……穏やかな名前ではない。


「ヌルは100点になって夜鷹を卒業する資格を得た。でも残ったの。裏切り者を拷問することが生きがいのクソ女よ。隠密に長けたフィーアを殺せるとしたら、ヌルかヘルムしか居ない」

「ヘルムとやらの可能性は? どちらも潰すつもりだから、些細なことか」

「ヘルムは入学と卒業にしか現れない。夜鷹を恐怖で縛ってるのはヌルよ。どっちも居場所が分からないから、あんたが知ってもどうしようもないけどね」


 ヘルムはさておき、ヌルは確実に始末する。居場所が分からないなら、探せばいいじゃない。アントワネット探索術を閃いた。


「ありがとう。おじさんが必ず、倒すよ」

「ま、待って! あんたじゃ勝てない! あたしでも勝てない! ヌルは……蟲使いなの!」

「蟲使いか。そのうち調べてみるよ。教えてくれてありがとう」


 あれだけ強かったアインが手も足もでないとなると、おじさんも勝てないかもしれない。だが、今回ばかりは退けないのだ。


「……大丈夫さ。もうおやすみ。明日から算数を教えてあげる」


 落ち着きがないテレサちゃんを寝かしつけて、ベッドルームを出る。外に客が集まっているようだ。今日に限ったことではないが、闇に潜む悪党からお姫様を守るのも変態おじさんの役目である。


 俺は鬼になる。待ってろ、ヌル。必ず引きずり出して、後悔させてやる。
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