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夜鷹編

最強の刺客を倒してクロノ死す

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 夜鷹筆頭・アイン。こいつは今までのやつとは格が違う!


 とりあえず俺ができた反撃は、【フラッシュ】による目潰しだけ。視力が完全に戻るまで10秒も満たないあいだに、行動を決めないといけない。


 まず切り札のナイトメアが使えない。町中で召喚しようものならパニックどころじゃない。俺も犯罪者の仲間入りだ。


 次に、助けを求めることができない。相手が強すぎて並の冒険者なら3秒クッキングされちまう。巻き込めば死体が増えるだけだ。


 最後に、逃げる方法。困ったときの【ナイトスワンプ】先生を使えば、もしかしたら逃げられるかもしれない。だが、それをすると俺の首が締まる。


 アインはよほど自信があるのか昼間に襲ってきた。一方で俺は明るいうちにこのボコられっぷりなのだから、夜に襲われたら本当に殺されてしまう。これは予想ではなく確信だ。


(か、勝てない相手に挑むしかないのか……)


 俺のやる気が戻る前に、アインの視力が戻ってしまった。見えないナイフを投げながら迫ってくる。


(隙がないなら作ればいいじゃない! 【ナイトスワンプ】)


 逆転の発想である。アインの足元に沼を生み出すと、出来上がった頃にはとっくに通過していた。速すぎだろいい加減にしろ!


(くそったれ。こうなったら反撃あるのみ!)


 好き放題にされるのは趣味じゃない。シャドーデーモンを剥がされながら、こちらもルーティンソードを振り回す。アインはそれらを華麗に躱しながら、完璧にカウンターを決めてくる。


 足を出せば逆に転がされ、地面に倒れ込むまでに首・肺・腹と連撃をされる。いずれも俺本体にダメージはないが、シャドーデーモンが喜んでいる。相当なダメージらしい。


(……もう許さん!)


 余裕がなくなった俺は、攻撃を諦めた。両手を横に広げて、抱きつこうとする。アインは俺の腕の下をくぐって避けつつ、横腹を斬りつける。無防備な背中にも容赦ない攻撃が続いた。この通り魔め。


(はい見切った。次で捕まえる)


 またしても抱きつき作戦だ。俺の横には【ナイトスワンプ】を設置済み。こちらの攻撃が当たらないのなら、誘い込めばいいじゃない。


 アインが沼を踏んだ……が、片足が少し沈んだだけですぐに抜け出された。こいつの身軽さと素早さの前には、沼は効かないってことか……?


(だったら、コンボで決める!)


 沼に誘い込み、【シャドーバインド】で動きを封じる。だが、拘束を解かれるまで1秒も満たない。沈むまで使ってやる……連発していたら、吐き気に襲われた。


 俺がふらついたところをアインは見逃さなかった。すぐに脱出されてしまい、起死回生の一手は、もう通用しないだろう。今は悔やんでも仕方がない。MPを回復しなければ戦いにならない。


 だが、相手はアインだ。いつぞやの指揮官のようにポーションを奪うか破壊してくるに違いない。マジックポーチもシャドーデーモンに守らせているが、取り出したポーション瓶まで守る余裕はない……。


(ここはセオリー通りにやる。【フラッシュ】)


 俺のセオリーは、常人なら絶対にしないことを瞬時に行う。目を離せばいつ死んでもおかしくない状況で、敵に背中を向ける。飛んでくるナイフから俺自身が肉壁となり、ポーション瓶を守り、MPの回復に成功した。


(ふっふっふ……お前も回復するのかよ!?)


 俺がMPを回復して余裕を見せると、相手も丸薬を噛んでいた。この戦いは振り出しに戻ってしまった……。


 これは非常にまずい展開だ。まず攻撃が当たらない。攻撃を当てるための作戦もすべて見切られている。手の内をほとんど晒して何の成果も得られませんでした、なんて悪夢としか言いようがない。


(【サモン:シャドーデーモン】×30)


 早口言葉のように唱え続けて減ったシャドーデーモンを補充していく。これでしばらくは解体されない。相手も補給を終えた。第二ラウンドの始まりだ!


 しばらくは死なない。その予想はすぐに裏切られた。牽制のために攻撃したら躱されてカウンターを決められるのはもう諦めている。だが、横腹に鋭い痛みが走った。


(うぐっ、痛ぇぇぇっ!?)


 手を添えると、俺の血がべっとりと付着している。シャドーデーモンは一匹も死んでいないのに、なぜ俺がダメージを受けているんだ……?


(【ヒール】 行け、シャドーデーモン)


 数匹を周囲に展開し、左目を閉じる。シャドーデーモンが見せてくれた光景は、アインの新しい攻撃だった。


 回転して俺の手から逃れると、双短剣で横腹を一点集中。つまり、鉄壁を誇るシャドーデーモンを、生きたまま突破したことになる。急所を重点的に守っていたから、守りの薄い部位を力技で抜けられた……。


 遠くに居るアインが、人差し指を立てた。俺の血が付着していることを見せつけるように、指を左右に振っている。


(まだまだだね、ってか? お決まりの挑発をしてくれるじゃないか)


 俺の鉄壁は未だ健在……キリがないと思ったアインが切り札の新しいスキルを使って傷を付けたに過ぎない。それはもう回復しているし、焦って急所の守りを疎かにすることもない。


(……これでいいのか?)


 俺は死なない。アインも倒せない。だが、それは今この状況がずっと続けばの話だ。相手がまだ手札を隠し持っているとすると、最初の予想通り、夜に殺される可能性が高くなった。


 空はオレンジ色に染まり始めている。もう一刻の猶予もない。自分の命を賭けて、アインを倒すしかない!


(や、やりたくねぇぇぇっ!)


 アインがまた攻めてくる。俺は周囲を見渡しながら後方に飛ぶ。そして家の影に入り込んで、武器を構える。それが罠だと知らないアインが攻撃してきたこの瞬間に、切り札を使う!


(やれ! シャドーデーモン!)


 纏っていたシャドーデーモンのほとんどを、アインに飛ばす。影に生きる悪魔・シャドーデーモンの本当の力を見せてやる!


(カオスバインド!!)


 アインの動きがビタリと止まる。こいつの体には、俺を守っていた大量のシャドーデーモンが絡みつき、物理的に動きを封じている。スキルがすべてではない。個々の力は弱くとも、団結の力は敵に届く!


(道を開けろ! シャドーデーモン!!)


 アインを殴り倒し、シャドーデーモンをアインの腹から避難させる。これでこいつの腹は、本来の防御力に戻る。あとは一心不乱に踏み続ける!


「降参しろ降参しろ降参しろぉぉぉぉっ!!」


 中に防具は付けている。それでも踏み続ければダメージは蓄積する。防具が壊れたのか固かった腹が少しずつ柔らかくなり、とうとう仮面の隙間から血が漏れた。


「このまま死ぬか、降参するか! 早く答えろ!」


 問いかけながらも踏みつけは止めない。俺の切り札を使ったのだ。万が一にも脱出されたら俺に正気はない。肉を踏む嫌な感触をぐっと我慢して、鬼になる。


 そして、とうとうアインが声を出した……。


「誰が……するもんかっ! フィーアの……敵……っ」

「フィーアの敵だと? 俺はフィーアちゃんと仲良しだぞ!?」

「お前のせいで……フィーアが死んだ……許さない……」

「フィーアちゃんが……死んだ……?」


 なぜフィーアちゃんが死ぬ? あの死神に呪いでもかかっていたのか? だったら俺も今ごろ死んでいる。


 別の暗殺対象に返り討ちにあった? 違う、あの子はもう暗殺者を辞めた。友達と一緒に逃げてくると、約束したのだ。


「まさか……裏切られたのか……っ」


 俺とフィーアちゃんが約束をしたあのとき、周りには誰も居なかった。シャドーデーモンを飛ばして確認している。アインのようにいきなり現れたとしても、会話を盗み聴きできるほどの隙は絶対になかった。


 答えはひとつ。フィーアちゃんが一緒に逃げようと誘った友達が、密告したのだ。そしてフィーアは捕まり、殺された……。


 俺の考えが甘かった。あの子は優しすぎた。自分だけ助かろうとしていれば、死なずに済んだ。だが、そんな優しいフィーアちゃんだからこそ、俺は命を賭けて人の生活を与えようとしたのだ……。


 いずれ見つけるであろう、夢や希望をひたむきに追いかけ、輝いてる姿を見ようとしていただけなのに……またなのか。


「……誰が漏らした? 誰に殺された! 言え、言うんだ!」

「お前が……死ねば……良かったんだ……」


 呪詛の言葉を吐き捨てたアインは気絶した……。


「そんじゃ、いっちょ拉致監禁レイプしますか!」



あとがき

次からアイン調教日記です。ガチエロがいっぱいです。めっちゃ続きます。お気に入り登録お願いします。
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