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夜鷹編

真夜中の魔導具祭りでクロノ死す

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「闇の魔術師クロノ・ノワールがアルバの町に帰ってきてやったぞ! 心配してくれたやつも、してくれなかったクソどもも、どうもありがとう! お礼にこの金で酒を奢ってやらぁぁぁぁぁっ!!」


 冒険者たちの宴が始まる。歌ったり踊り出すのは行儀がいいほうで、腕相撲からのガチンコファイトに発展するやつもいる。どちらも屈強な肉体を持つ戦士や騎士なので、派手な割には流血沙汰になっていない。


 軽度であっても怪我に違いはない。宴の主賓っぽい存在なのに、結局いつものようにバイトヒーラーに勤しむことになった。


 せっかくワイルドな暮らしで痩せてきていたのに、また太ったらどうしよう。支給されたポーションに手を伸ばしかけたが、ティミちゃんとの約束を思い出してしまった。


(……支給されたポーションもダメかな?)

『神のみぞ知る』


 浮気は男の甲斐性だ。別にどうってことないのだが、手コキ神のサービス受けられなくなると困る。せめて初日くらいは約束を守り、、今後の言い訳を作っておくべきだろう。


 マジックポーチにはティミちゃんから渡されたポーションが入っている。支給されたポーションと比べて色が濃い。一口だけ飲んでみると、あっという間に吐き気が消えた……。


(これ、中級マナポーションじゃね?)


 中級ポーションは、下級ポーションと比べて賞味期限が長く、回復量も多いらしい。流行らない理由は、生産できる人が少ないのと、お高いことだ。


 認可ポーション制度が適用されないから値段は店ごとに違う。平均価格は一本で大銅貨1枚はする。そんなものをマジックポーチにみっちり詰め込まれたので、総額を考えると恐ろしい。


 そもそも、ミラちゃんの話ではマナポーションは売れないから作っていないはずなのに、いきなり中級ポーションを渡してくるなど夢にも思わなかった。


 どう考えても俺のためだけに作られた中級マナポーションを掲げて、ぼーっと見つめる。最初はティミちゃんのわがままに困ったものだが、実用性を追求する俺には泣いて喜ぶ代物だ。ネクタイ貰った気分。


(俺ブサイクなのに貢がれてるんですけど)

『どうだい、愛の味は?』


 下級ポーションより甘さ控えめで大人の味だ。後味はほんのりとした清涼感がある。まるで俺とティミちゃんの清く正しい関係みたいだ。


 少し飲むだけで全回復するのだから、俺はこれ以上太らなくて済むかもしれない。何だろう、健康を管理されてるような。


 俺に惚れなきゃどこぞの誰かと普通に結婚して、幸せな家庭を築けていたはずなのに、悪い男に引っかかってしまったのだ。なんて可哀想な女の子なんだ。興奮しちゃうじゃないか。




「お金……意外と残ったなぁ」


 ギルドを出て真夜中の魔導具祭りの会場に戻った俺は、軍資金を確認していた。酒を振る舞ったとはいえ、最初の一杯だけだし、そこからバイトヒーラーでマッチポンプ返しをキメたおかげで金貨2枚くらいはありそうだ。


「……さぁて、良いすけべ道具がありますように」


 会場の客はまばらだが、みんな顔を隠している。仮面を付けている人もいるし、フードを深く被って身バレしないように楽しい買い物をしたいようだ。


 一応、飛び入りの人のためか、仮面も安く売られている。ちなみに、俺は隠さない。見た目通りのすけべ男だから。


「おーい、さっきの冒険者さんじゃないですかい!」


 カメラを売っていた店主さんだった。昼は健全な魔導具が並んでいたのに、今はもうすけべ魔導具がずらりと並んでいる。


 バイブ・ローター・媚薬入りローションと一般的なものから、手錠・猿ぐつわ・首輪といけない道具もある。もはやただのアダルトショップだ。


「圧巻だな。おすすめある?」

「正直なところ、こっちが本業みたいなもんですぜ。昼間のあっしは仮の姿よ。おすすめでしたら、これなんていかがですかい?」


 店主おすすめは、ピンク色のローターだ。コードレスで遠隔操作が可能。振動の強弱や間隔を細かく調整できて、ランダムモードもあるらしい。マナを最大まで注ぎ込めば、12時間連続稼働ができる優れもの。銀貨2枚なり。


「こいつは、抜けにくい特殊素材で表面加工されてやす。手を縛り上げちまえば、所有者が指を突っ込んで取り出してやるしかありやせん。この小さなローターには、上下関係が詰まってるんでさぁ」


「買いましょう。他には?」


 次の品物は、バイブだ。膣と陰核を同時刺激するものだが、なんと形を自在に変えられる。ロックを外して膣内に入れて、その子の形に変える。あとはロックをするだけで理想のバイブになるとか。24時間駆動が可能で、銀貨2枚なり。


「買いましょう。この怪しい小瓶は?」

「そいつは、LV1のピュアスライムですぜ」


 ピュアスライムは純水によって育ったスライムで、透明度が極めて高い。食用に培養されていると聞いたことがあるが、エログッズとしてもイケるなんて。ファンタジー感ある代物だが、個人的には微妙だ。


 すけべの才能を秘めたフィーアちゃんを、スライムで手抜き仕込みするわけにはいかない。それは男が廃るというものだろう。ついでに、このスライムは数日で死ぬらしい。体験版ってレベルじゃねーな。


「分かりやすぜ。男なら自分で仕上げたい」

「それな。適当な女なら別にいいけど、今回はちょっとね」


 その後も店主のおすすめを二つ返事で買っていく。両手にはバイブ・ローター・鎖・手錠・猿ぐつわ・大容量ローションなどを抱えているので、歩くわいせつ物になってしまっている。


 もちろん、最初の目的であるカメラも買った。記録する魔石も大量に買ったので、財布が軽くなった。そこでハッとした。地下室を俺好みにする金も残しておかなければ、と。


 しかし牢屋を作るとなると誰に頼めばいいか分からない。大工さん? 武器屋さん? 知らないものは聞くしかあるまい。これだけ買い込んだ上客を無碍に扱う店主ではないはずだ。


「ねぇねぇ、牢屋組み立てキットってない? 素人でも簡単に作れて、それっぽい見た目になれば堅牢性は必要ないんだけど」

「牢屋ですかい。いいねぇ。どこに作るつもりで?」

「ログハウスに地下室があるんだ。ここだけコンクリート製で、ワンルームとちょっとした広さなんだけど、鉄格子を設置してイケナイ感じにしたい。扉も必要だけど、鍵とかは必要なし」

「そりゃ材料を運んで内部で作業しないとダメですぜ。その両手に抱えた魔導具をお届けするついでに、うちで手配しやしょう。ただの鉄で作れば銀貨10枚ってところですが、いかがしやす?」

「……作ったこと内緒にしてくれる?」

「もちろんですぜ。近所迷惑にならない静かな工事オプションを付けて、お値段据え置き!」


 あらお安い。しかも翌日から着工してくれるらしい。俺の秘密の地下室作りは順調な滑り出しを見せた……。
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