ブサイクは祝福に含まれますか? ~テイマーの神様に魔法使いにしてもらった代償~

さむお

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夜鷹編

帰還者クロノ死す

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「……やっとアルバに帰れるんだな」


 北の森の奥地に生息し、暗殺者たちと戦う日々は随分と長く感じた。遠くに見える町の外壁を見ると、始めてこの町に来たときを思い出して目頭が熱くなる。連日歩き続けて疲れているはずなのに、自然と駆け出してしまう。


「走っていてもまるで疲れない。あの頃とは違うなぁ……」


 町を出て、初めて暗殺者を殺した夜から、俺はひとつもレベルが上がっていない。サモン中は経験値を得られないので仕方がない。それでも、人として大きく成長した気がした。


 懐かしい門が見えたので、手を振りながら呼びかける。闇の魔術師クロノの帰還を、ガイルさんなら喜んでくれるだろう。


「お゛ぉーい! お゛お゛ぉーい!」

「くそっ! ユニークかっ!?」


 この流れ、どこかで……? 思い出したときにはもう遅い。あっという間に門番に取り囲まれ、武器を向けられる。


「えっ!? またっ!? 俺だよ、クロノだよ!!」


 両手をあげて命乞いすると、衛兵のひとりが兜を外した。懐かしのガイルさんだった。


「お前、本当にブサクロノか! よく戻って来たな!」

「ガイルさん、酷いじゃないですか。やっとの思いで帰ってきたら、いきなり武器を向けるなんて……」

「す、すまん。実は少し前にオークが出てな。また魔物だと思ってしまった」

「気持ちは分かりますけど、俺の顔を見忘れるなんて酷いですよ……」

「そう言われてもな。髪も伸びてるし、ヒゲも生えてるし、ちょっと薄汚いし……毛の生えたユニークかと思ったぞ」


 周りの衛兵たちもしきりに頷いている。サバイバルライフを続けていたので、伸び放題になっていることを忘れていた。


「鏡を持っていくの忘れまして……」

「とにかくよく戻った。聞きたいことは山ほどあるが、今は仕事中なんだ。通ってよし! また会おう」


 町に入ったあとは、なるべく人通りの少ない裏道を選んでマイホームを目指す。もし大通りを歩こうものなら、冒険者にも囲まれる。さっさと髪とヒゲをどうにかしないと……。


「……おぉ、愛しの我が家よ」


 ログハウスは健在だった。ロマン溢れる外観が俺の心を癒やしてくれる。扉に手をかけると、しっかり鍵が閉まっている。取り出した鍵で解錠すると、家が荒らされていないことを祈りながら、扉を開けた。


 そして、家に入った瞬間に、襲われた。

「……ふんっ!」

「うおぁっ!? 危ねぇっ!」


 這いつくばるように避けると、頭上をロングソードが通り抜けた。新手の暗殺者かと思ったら、イケメンことライオネルだった。


「クロノか!? 生きてたんだな!」

「何殺しにかかってんだ。とうとう本性を見せたな!?」

「違う違う。暗殺者かと思って。避けてくれて助かった……」

「……なぜ、俺の家に居るんだ?」

「ギルド長から鍵を借りて、住み込みながら家の警備をしてたんだよ」

「……まじか。異常はなかったか!?」

「お前が消えた直後は、よく襲われたぜ。返り討ちにして、ガイルさんに引き渡しといた」


 まさかイケメンが自宅警備員になっていたとは。野郎に住み着かれるなんて御免だが、今回だけは許した。流石はガードだ。


「やっぱイケメンだなお前。よくぞ俺の家を守ってくれた!」

「小人族の女の子たちに頼まれたんだ。クロノが帰って来るまで、どうかこの家を守ってくださいってな」

「ミラちゃんとティミちゃんかな?」

「おう。すげー心配してて、酒場じゃちょっとした騒ぎになってたからな。ハーゲルが止めてたけど、まるで聞き耳を持たなかったそうだぞ。それで、俺が引き受けたってわけさ」

「本当に、助かった。あの子たちの気持ちは嬉しいが、危険すぎる。持つべきものはイケメンだな!」


 感謝の気持ちを伝えるべく、笑顔で握手をしようとしたら、げんこつを落とされた。このイケメン、なぜかお怒りである……。


「……水臭いだろ。俺たちダチだろ? お前が暗殺者に狙われてるって知ったときは、どうして頼ってくれなかったんだってムカついた! だからげんこつ!」

「まぁ……夜鷹だからな。イケメンは冒険者だし、暗殺者をしばいたところでランクアップも報酬もない。巻き込みたくなかったんだよ」

「それでも相談くらいしろよ。小人族の女の子まで泣かせてさ。お前は悪いやつだよ。ついでに、冒険者も悪党ばっかりだ!」

「はぁ? なぜ冒険者が悪党に……?」

「みんな、俺にだけ黙ってたんだよ! 酷くね!? 俺が知ったら絶対に首突っ込むから、話すなって決まってたらしくてよ!」


 ま、真っ直ぐなやつだなぁ。イケメンにも限度があるだろ。他のやつらが内緒にするのも納得だ。


「悪かったよ。おかげさまで、無事に帰って来れたわ。俺が居ないあいだ、変わったことなかった?」

「おぉ、そうだった。ハーゲルが見つけたんだけど、この家に地下室があったんだよ!」

「どどどどっ、どこどこ!? 地下室どこ!?」


 地下室……なんてすけべな響きなのだろう。このログハウスは夢の宝石箱や!


「ははは、すげぇ食いつきだな。こっちだ」


 寝室に入ると、イケメンが剣の柄で床を叩いて回る。鈍い音が響くなか、音が違う箇所を見つけた。そして床を外すと、木の階段が現れた。


「うぉぉぉっ! 地下室キター!」


 早足で階段を降りると、念願の地下室とのご対面だ。三角木馬や鎖、牢屋といった後ろ暗いものはなく、貴重品や食料を収める倉庫として使われていたらしい。
寝室と同じくらいの広さなので、この空間を俺好みにしたい。


「生きてて良かった! 地下室バンザイ!」

「ははは、ただの倉庫なんだろ? 大げさだな」

「いや、俺の部屋にする。秘密基地だから! 内緒にしてくれよ!」

「別に良いけど、どうすんの? ベッド運ぶくらいなら、後日でいいなら手伝うぜ?」

「いや、これは自分の力で成し遂げてこそ意味がある。女の子を連れ込むんだ。背徳に勝る媚薬などない!」

「お前、そういうの本当に好きだな……まぁ好きに使えよ。俺はもう帰る。いろいろと聞きたいことがあったんだけど、時間がヤバい」


 訳を聞けば、このイケメン、言い寄ってくる女冒険者から俺が夜鷹に狙われていることを聞き出したらしい。見返りとして、何度かパーティーを組む約束をさせられたのだとか……。


「……何か、すまんな」

「しょうがないさ。こうでもしないと教えてくれなかった。悪いのはクロノと、黙ってた他の冒険者さ」


 やっぱり俺も悪いらしい。まじすまんかった。何かお礼をしないといけないが、イケメンの好みが分からない。


「何か欲しいものあるか? そのうちお礼させてくれよ。頼まれたとはいえ、マイホームを守ってくれたガーディアン様でもあるわけで」

「んじゃ、またパーティー組んでくれよ。本当は明日にでも……って誘いたかったんだけど、しばらくムリなんだ。10人くらいでひとつの秘密を話してくるのって、ズルくね……?」

「……ハメられたんだな。責任の分散って建前かな」

「毎日ローテーションだぜ……今だけ王都の冒険者になりたい……これ、預かってた鍵な。またいつか会おうぜ……はぁ」


 イケメンは長い溜息をつきながら帰っていった。守りの固いガードは、自分の貞操も守り通せるのか。気になります。逆レイプはおじさん好みのシチュで、イケメンの好みではないのだ。


「……さて、髪切ろうっと」


 この世界に美容室はない。お貴族様は専属のスタイリストを雇っているが、庶民は自分か、仲間内で切るのだ。


『つまり、ボクの出番だね』


 懐から飛び出してきたナイトメア。ちょっと乗り気である。風呂場に入って鏡の前に立つ。ハサミを持たせてやると、うにょっと手が伸びた。相変わらずの謎生物だ。


『お客さん、自分で髪を切った経験は?』

「うーん、ときどきですかねぇ」

『なるほど。じっとしておいてくださいね。命の保証はできませんので』

「ノリ良すぎだろ。ひょっとして、楽しんでる?」

『まぁね。髪を切るなんて経験は、あまりないから』

「お手柔らかに頼むぞ。シザーハンド・ナイトメアくん」


 生活魔法で髪を濡らすと、チョキチョキと軽快な音が響く。技量などはさておき、俺がやったことがあるならナイトメアもできるようだ。


「俺よりうまいじゃないか――」

『おっと、手が滑ったよ』


 褒めた瞬間に、ジョキっと凄いところを切られた。こいつ、確信犯だ。そういうところもお茶目なんだから……。


 どうにかリカバリーが効いたようで、元の髪型に戻れた。ヒゲを剃ったついでに体を洗って身を清める。


 マジックバッグを返すために荷物整理をしていると、扉が控えめに叩かれた。警戒しながら開けると、そこにはジト目が愛らしいティミちゃんが居た……。


「ブサクロノ……生きてた……良かったぁ!」


 いきなり抱きついてきたティミちゃんは、顔を埋めて動かない。とりあえず言えることは、【ブサイク】の呪いのせいで感動の再会も台無しなことだろうか。


「おやおや、甘えん坊さんだねぇ」

「……違う。これは生存確認だから……家、入ってもいい?」

「うーん、ダメ。おじさんはまだ狙われてると思う。危ないからもうお帰り」

「……やだ。お邪魔します。襲われたら守ってね」


 うーん、反抗期。今日のティミちゃんはグイグイ来るなぁ。おじさん、そういう押しに弱いのだ。


「……どうして何も言ってくれなかったの?」

「心配させたくなかったからだよ。人質を取られたりしたら困るし」

「それでも、話してくれたほうが良かった。どれだけ心配したと思ってるの? ミラだってずっと心配して……聞き出すの大変だった」

「ちなみに、どうやって聞き出したの?」

「ミラが客から聞き出した。お預けしたらさらっと話したみたい。ちょろい」


 ミラちゃんが合法ロリビッチに磨きがかかっているらしい。うぅむ、素晴らしい成長速度だ!


「ミラちゃんは? 一緒に来なかったの?」

「ミラは予約入ってたからムリだった。客との約束をすっぽかして会いに行ったら、ブサクロノに叱られるって言ってた」

「予約だって!? 目の前の客を大事にするサービス精神……素晴らしい! ミラちゃんはわしが育てた!」

「そんなことより、どこでどうやって暮らしてたの?」


 森での暮らしを話すと、ティミちゃんの体が震えていた。がばっと顔をあげて、グッと顔を近づけてきた。


「ブサクロノの浮気者」

「えー、別に付き合ってないし……暗殺者は人間じゃないし……」

「違う。ブサクロノがどこの誰とヤっても関係ない。そこは分かったうえで好きになった。許せないのは、他の人が作った丸薬で回復していたこと!」


 な、何だってー!? 奪い取った丸薬を飲んだら浮気だと!? 小人族の感性は変わってるなぁ……。


「……これから先、ブサクロノのポーションは、あたしが作る。他の子から買っちゃダメ」

「そ、そう言われても、おじさん冒険者だから。今後は遠征とかあるだろうし、周辺の町から補充することも――」

「ダメ。ポーションが尽きたら帰ってきて」


 いくら可愛いティミちゃんの頼みであっても、即答できない。どうやって言いくるめようか悩んでいると、がばっとズボンを降ろされた。


「聞き分けの悪いブサクロノには、おしおき」


 あらやだ、おじさんおしおきされちゃうんですって。
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