ブサイクは祝福に含まれますか? ~テイマーの神様に魔法使いにしてもらった代償~

さむお

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夜鷹編

闇と契約してクロノ死す

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 殺さず無力化したい。俺の願いに【星の記憶】が新しいスキルを出した。これがきっと役に立つと信じて、握りつぶす……。



【闇の契約】

スキルタイプ:アクティブ

消費MP:44

対象と約束を交わすと発動可能。偽りを述べた罪人に、裁きを与える。



 説明文はいつも言葉が足りない。『裁き』とは、どの程度のものなのか。気絶しているこいつを叩き起こして、試すしかあるまい。ついでにフィーアちゃんも回収しよう。


「えー、負け犬くんと優しいお嬢さんにお話があります。おじさん、また新しいスキルを取りました。でも効果がいまいち分かっていません。そこで、どちらかに実験台になって貰います!」

「……回りくどいことを。さっさと殺せばいい。俺は何も知らない、吐かない」

「まぁトゲトゲするなよ。スキルの効果が分かったら、普通に逃してやるよ。必要ならぼろぼろの歯もヒールでくっつけてやる。どうする? どっちが引き受けてくれるのかな?」


 沈黙が続く。やがてフィーアちゃんが弱々しく手を上げた。


「だ、だったら……わたしが……」

「待て。俺がやる。お前は下がっていろ」

「で、でも――」

「俺の作戦で大勢が死んだ。その責任を取る」


 結局、指揮官が実験体に名乗り出た。良い心がけである。


「終わったらヒールかけてやるからな。それじゃ、まず俺と約束してくれ。内容は……そうだな、『咳払いをするな』」

「……分かった。約束する」


――闇の契約は結ばれた。これを破ること叶わず……。


「ぶっそうな声しなかった?」

「あ、あぁ……俺にも聞こえた」


 遠くに居るフィーアちゃんは聞こえなかった。契約に関わらない人には聞こえないようだ。


 裁きが何なのか分からないので、とりあえず指揮官から距離を取る。後ろを向いて、耳も塞ぐ。これで離れていても発動するのか試せるのだ。


「それじゃ、咳払いをよろしく!」


 少し待って振り返ると、指揮官が自分の体を押さえてうずくまっている。


「なっ、何だこの感覚は……か、体から……力が抜けて……」


 指揮官の体から、黒いもやが出ている。やがて形を成していき、俺とフィーアちゃんが見た影の正体は……。


「……し、死神、か?」


 不気味に揺らめく黒いローブ。人の形をしているように見えるが、足と顔がない。両手に持っている大鎌から、俺がイメージする死神にそっくりだった。


――罪人に死の裁きを。


「ひっ……ば、ばばばっ、化物!」


 指揮官が腰を抜かしそうになりながら、走って逃げている。だが、様子がおかしい。足が遅すぎる。いくら恐れているとはいえ、あの様子は……まるで……。


『うん、あれはボクたちの契約と似ているところがあるね』


 あの死神は、罪人のレベルを吸い取って育ったということだ。指揮官が危ない。気づいたときには、もう遅かった。死神は大鎌を構え、振り始めている。


 大鎌が指揮官に当たる直前……フィーアちゃんが、あいだに立っていた。


「っ、きゃぁぁぁぁっ!」


 短剣で大鎌を受け止められるはずもなく、吹き飛ばされてしまった。再び、指揮官に大鎌が向けられる。フィーアちゃんが稼いでくれた時間を無駄にしない。今度は俺がルーティンソードで受け止めるっ!


「ぐっ、おあぁぁぁぁっ!?」


 触れた瞬間に、骨が軋んだ。シャドーデーモンにも支えて貰っていたのに、受け止められずに吹き飛ばされる。木に叩きつけられたときに、シャドーデーモンが全て剥がれてしまった。


「に、逃げろ! 遠くに逃げろっ!」

「たっ、たたたた……助けっ、体が……動かな……っ」


 指揮官が大鎌に刈り取られた。血の雨が降り注ぐ。やっと見つけて噛み砕いた丸薬は、血の味がした……。


「威圧スキルまで持っていたのか……」


 威圧スキル……自分よりレベルの低い相手の動きを封じるパッシブスキルだ。いつぞや出会った赤竜の苦い経験が蘇る。この死神は指揮官のレベルを吸って成長したため、具体的なレベルは不明だが、指揮官には確実に通る。


「なんだこの絶対殺すマンは……ちょっと嘘をついただけだぞ……?」


 死神は消えない。首を回し、俺を見た。しかし反応を示さず、気絶しているフィーアちゃんに向き直った。


――罪人を庇うもまた罪人……裁きを受けよ。


「もう終わっただろ!? お前を生み出したのは俺だ! 命令を聞け!」


 死神は俺を見ない。スキル使用者は攻撃対象に含まれない? そして、命令も聞かない。


「フィーア! 起きろ! 【メディック】【ヒール】」


 フィーアちゃんの肩が動いた。だけどこのままでは間に合わない。目覚め、気付き、行動する。死神の大鎌が触れる前に行うのは不可能だ。だったら……。


「背中ががら空きだぜ! ダークネ――ごはぁっ」


 背後から襲いかかったら、柄で殴られた。何て卑怯なやつなんだ……。


『ふざける余裕がある相手じゃないね。どうするの?』


 俺は考えた。死神はとにかく強い。俺を狙うことはないが、自衛はしてくるし、攻撃に割って入っても止まらない。目標はフィーアちゃん。だったら、俺の取るべき行動は……。


「フィーアちゃんを抱えて、逃げる!」


 ナイトメアと同じ特性を持つなら、いずれは消えるはず。タイムアップまで逃げ切れば俺の勝ちだ。逃げ足には自信がある。木の合間に姿を隠しながら、死神から距離を取った。


「はぁはぁ……どうにか撒い……てないっ!?」


 後ろに居たはずの死神が、前から現れた。木を通り抜けながら、直進してくる。化物か、こいつ!?


『ボクと似た性質なんだよ?』

「離れたらワープして来るんだったね!?」


 大鎌を避けながら走っていると、フィーアちゃんが目覚めた。顔を上げたら、後ろの死神とこんにちはするに違いない。


「……へっ? きゃあぁぁぁっ!」

「待て待て待て! 暴れないでくれ! あれから逃げてるんだから! お尻を撫でてあげるから! 良い子だから!」

「向き! 向きが悪いのよ!」

「仕方ないだろ。こっちも必死で向きなんて考えてる余裕が……っ!? 瞬間移動、キター!?」

「……ほっ。もう何も怖くない」

「からの、ターン!」

「えっ……きゃぁぁぁぁっ!?」


 本気で走って逃げてるんだから、死神が前から現れたら、こっちも方向転換するに決まってる。


「おろおろっ、降ろしてぇぇぇっ!」

「あれはずっとフィーアちゃんを狙ってる。おまけに距離を取りすぎると、瞬間移動してくるんだ!」

「そっ、そんなの最上位の……化物なのっ!?」

「瞬間移動って最上位なのか!? そうなの!? どうなの、ナイトメア!?」

『ボクは君さ!』


 ダメだこりゃ。ナイトメアの正体よりも、後ろから来る……やっぱ目の前に現れた死神をどうにかしないと……。


「……おじさん。わたしを降ろして。逃げて」

「はぁ? 逃げ切れると思ってるのか? いや、フィーアちゃんの足ならできるかもしれないけど……」

「おじさんが体を張って守る価値なんて、わたしにはないよ。また100人殺すくらいなら……ここで……っ」

「やかましい! 子供は黙って、大人に守られていなさい!」

「関係ないよ……だって……あんな化物……どうしようもないっ」


 うぅむ、柄にもなく怒鳴ってしまった。あがくことを諦めた人を見ると、どうしても腹が立って我を忘れてしまう……。


「フィーアちゃん、君はまだ子供だ。心が未熟な子供なんだ。歳は同じくらいだろうと、場数が違うおじさんに任せておきなさい。必ず君を、人間にしてあげるからね」

「……分かった。わたしも戦う。一緒にあいつを倒そうよ」

「いや、おじさんにおぶさってくれ。離れると守れない。あいつの相手はおじさんがする。たぶん」


 抱えていたフィーアちゃんを地面に降ろし、背負い直す。両手が使えるなら、何とかなる!


「まずはしばらく逃げる! 消えてくれたら超ラッキー!」

「おじさん、重くない……?」

「うーん、おっぱい!」

「なっ、ふざけないで!」

「どんなときでも平常心だよ。ずっと真面目に生きてると、疲れるからね!」

「平常心……おじさんって、いつもすけべなの!?」


 世界がすけべであり続けることをなかなか許してくれないだけで、おじさんはいつもすけべでありたい。そのために作戦もしっかり考えた。


「フィーアちゃん、もう少し逃げる。ある場所に来たら、一緒に戦ってくれ!」

「分かった! その場所はどこなの!?」

「おじさんのマジックバッグがあるところだよ。あいつに勝つための装備が入ってるんだ!」


 今はただ走り続ける。ときどき大鎌が振るわれるが、シャドーデーモンたちに守って貰っている……待て、全員で大鎌を止めに行くな。お願いだから、おじさんの身も守って。


「フィーアちゃん! 丸薬ある? おじさんに食わせて!」

「こ、これでいい!? もうちょっと残ってるけど、あんまり余裕がないよ」

「大丈夫さ。見えてきたよ! フィーアちゃんも心の準備をしておいてね!」


 とうとうマジックバッグまで辿り着いた。手を突っ込んで取り出したのは、防具屋の店主から貰ったカイトシールドだ。


「短剣出して! 今からあいつと戦う! 【ウィスパー】【エンチャント・ダークネス】」


 フィーアちゃんの短剣と、俺のカイトシールドにダークネスを付与した。今日はもう3回使ったので、30分であいつを倒さなければいけない。


「うわっ、何これ!?」

「秘密! 今から説明することをよく聞いて。君がアタッカーで、おじさんがタンクだ。敵の攻撃は全ておじさんが受けるから、君は攻撃しまくって!」

「わ、わたしがアタッカー!? ほとんど隠密スキルしか取ってないよ!?」

「おじさんはノースキルさ。君の素早さを活かした連撃なら、攻撃スキルなんて気にする必要はない! ほら、やるよっ!」


 現れた死神に向き直る。俺の後ろにはフィーアちゃんが居る。大鎌が俺たちに向かって振り下ろされる。両手でカイトシールドを持ち、正面から受け止める!


「ぐっ……うぐぐっ、だらっしゃぁぁぁい!」


 黒い稲妻が走り、大鎌の威力を殺した。それでも力任せに押し込んでくる大鎌を、気合とシャドーデーモンたちの力を借りて、弾き返した!


「今だ! フィーアちゃん!」

「【ステップ】【アサシンエッジ】」


 俺の背後の居たはずのフィーアちゃんが、死神の後ろを取った。黒い短剣が突き刺さる。死神の体を構成している黒いもやが蒸発している。


「斬って斬って、斬りまくれ! 手数で押すんだ!」


 威力の低いはずの短剣も、ダークネスが付与されれば最強の武器になる。そこに短剣の持ち味である手数の多さが合わさり、桁違いのダメージを死神に与えている。


――罪人に……裁き……を……っ。


 死神が形を維持できなくなった。不気味な声をあげたあと、黒いもやが消えていく……。


「……ふぅぅ、勝った! 第三部、完!」

「や、やった……やったぁ! おじさん、やったよおぉぉぉっ!」


 涙目で抱きついてくるフィーアちゃん。それを支える余力すら残っていないおじさんは、派手に倒れ込んだ……。

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