ブサイクは祝福に含まれますか? ~テイマーの神様に魔法使いにしてもらった代償~

さむお

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夜鷹編

ボコボコにされてクロノ死す

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 夜空に星が輝くとき、暗殺者は音もなくやってくる。いや、ちょっと来るの早すぎない? 昨日もこんな感じで偵察組が先に来てたのだろうか。


 【シックスセンス】のおかげで暗殺者の居場所は分かる。念のために平然を装って干し肉を齧っているが、敵に動きはない。時間が過ぎていくにつれて、森に潜む暗殺者は増える一方だ……。


「……うー、おしっこでもするか」


 手頃な木に近づき、びば立ちション。その勢いの良さに関心していると、木の上から暗殺者が降ってきた。俺はすぐさま後ろに下がって、小便を続ける。車とおしっこは急に止まらないのである。


「うわっ、汚っ、止め――」

「雑魚一号くんじゃないか。おじさんの小便を浴びたいだなんて、歪んだ趣味をお持ちのようだね……引くわー」

「……貴様のせいだろうがっ!」


 自分から降りて来ておいて、なんたる言い草。汚いなさすが忍者きたない。俺だってどうせかけるなら女の子が良かったよ……。


「人のせいにするくらいなら、暗殺者なんて辞めちまえよ!」

「知ったようなことを抜かすな! 腕の一本で済むと思うなよ……っ」


 雑魚一号が闇に消える。それはもう見た。おじさん飽きたの。


「出てこいよ。そこに居るのは分かってるんだ」


 俺が向いた方向とは全く別の場所から、新しい暗殺者が出てきた。しかし俺は慌てない。仲間が見つかりそうなときは、別の誰かが出てくるようになっている。つまり、昨日の俺の感は間違っていなかったのだ!


『ボクたち、包囲されてるもんね』


 どんなときでも平常心。安易なバトル展開っぽい空気に飲まれてはいけない。俺の人生はエロとギャグで回っている! そう確信できる余裕が、今の俺にはある。


 消えている雑魚一号の動きも把握している。俺の背後に移動し、もうすぐ攻撃をしてくる。その瞬間を狙って、俺のカウンターが炸裂する。


「……ぶえっくしょい!」

「アサシンエッ……汚っ! 【アサシンエッジ】」


 カウンターのくしゃみをお見舞いしたら、逆にカウンターを狙われた。いや、これはただの逆ギレだ。正面から攻撃スキルを受けるチャンス。しっかりと自分のものにする。


 短剣の軌道に合わせて円盾を構えたが、ぶつかる直前で軌道が変わった。おまけに見た目より間合いが伸びた気がした。手甲のつなぎ目に、暗殺者の刃が突き刺さる。


「くそっ! またバリアかっ!」

「惜しかったな。おじさんの鍛え上げられた贅肉の前には、短剣も歯が立たなかったようだなァ!」

「堕落の限りを尽くした体型だろうがっ!」

「暗殺者のお前が言うな。俺は辛いほうに進んでたらこんなになったの!」


 消えた暗殺者は、すぐに攻撃してきた。正面から盾で防いだが、軌道を変えて胴体を狙ってきた。それでも俺にダメージはない。


「どうした? かくれんぼはおしまいか?」

「くそがっ、バリアさえなければお前など……っ」

「だから連撃にしたのか。じゃあお前にチャンスをやる。俺を好きなだけ攻撃していいぞ?」

「ばかにしやがって……地獄を見せてやるっ! 【アサシンエッジ】」


 正面からスキルが乗った短剣が迫ってくる。手甲の隙間を正確に捉えている。それでも俺にダメージはない。


「【アサシンエッジ】【アサシンエッジ】」

「おいおい、せっかく棒立ちしてあげてるんだぞ? 緊張感が足りないんじゃないか? くしゃみしてやろうか?」

『君に言われちゃおしまいだね』


 アサシンエッジは、攻撃スキルではあるが単純火力を上げるものではない。防御の薄い箇所を的確に狙えるスキルだ。シャドーデーモンを纏った今の俺に、弱点などないのだ。


「はぁはぁ……ど、どうなっているんだ……っ」

「お仲間に相談してみたらどうだ? 随分とたくさん連れてきたようじゃないか。様子見のつもりかもしれないが、雑魚が数に頼らなくてどうする?」

『うーん、ブーメラン』


 潜んでいる暗殺者の数と位置は把握している。ここで遠距離攻撃をしたら最高にクールなのに、俺は遠距離攻撃の手段を持ち合わせていない。


「……それだけ固いなら、本気でやっても死なないな? 【ウィスパー】」


 【ウィスパー】……使用者の声を限りなく無音に近づける。職を問わない共通スキルだ。どのスキルを発動させたのか相手に気づかれないので、日陰者の暗殺者には必須とも言えるスキルだ。


 てっきり初日から使ってくるものだと思っていたので、昨日は拍子抜けだった。対人戦向けのスキルを使わなかったのは、交渉するためではなく、使えなかったからだ。


 使えば仲間同士の連携に不安がある。使わなければ、仲間が潜んでいると告げているに等しい。何事も考え方ひとつで、メリットにもデメリットになるのだ。


「……切り札は最初に使うもんだぞ」


 返答の代わりに、後頭部に投げナイフが飛んでくる。それを指で挟んで受け止めて、お礼にドヤ顔を返す。


「今のが【パワースロウ】か? 投擲スキルって弱いなぁ」


 この調子じゃ俺が反撃できるまで時間がかかる。そう思った俺は、棒立ちして夜空を眺めた。頻繁に流れ星のような投げナイフが飛んでくるが、いくら当たってもダメージがない。


 結局、暗殺者たちは朝日が昇るまで攻撃を続けていた。ナイスファイトである。満身創痍で帰る負け犬たちの背中に、励ましの言葉をかけてやろう。


「もう終わりか? 俺は一歩も動いてないぞ?」

「くっ……この……っ……はぁ……」

「俺を動かしたかったら、ダークネス使いでも連れてくるんだなァ!?」


 翌日の夜。懲りない暗殺者たちがやってくる。棒立ちして眺めていると、いきなり笑い始めた。


「お前がカオスマスター・ブサイクロノだな? 喰らえ! 【ダークネス】」


 闇に溶け込む暗黒の球体……間違いなくダークネス。安心の遅さだ。俺は普通に歩いて避けた。


「あっはっは! 本当にダークネス使い連れてきたのか? 当たるわけないだろこんな遅いの。ぷぷぷ、ばかじゃねーの!?」

「き、貴様ぁぁぁっ!」

「そう怒るな。ダークネス使いクロノとして、正しいダークネスの当て方をレクチャーしてやろう……【シャドウバインド】からの【ダークネス】」

「ぐっ……この程度の拘束などっ、すぐに解いて――」

「【シャドウバインド】……あとは、分かるな?」

「ま、待て。まさか……お前……っ!?」

「お前が拘束を解く前に、【シャドウバインド】をかけ直す。もちろん、直撃するまでなァ!」

「ひっ、嫌だ……やめてくれ……助けっ」


 魔術師は、拘束から逃れようともがき始める。俺はダークネスと並んで歩き、ゆっくりと近づいていく。


「知ってること、話して貰おうか。嫌ならそのまま、死ね」

「あっ、あぁぁ……嫌だっ、死にたくない!」


 着弾する直前で拘束を解くと、魔術師は倒れ込むようにダークネスを避けた。俺はそいつを見下ろして、こう言うのだ。


「随分とみっともない避け方だな。俺には真似できんよ」

『君の十八番でしょ』


 暗殺者の攻撃によるダメージはないが、ナイトメアの精神攻撃はクリティカルヒットである。命拾いしてホッとしている魔術師の肩に、手を置く。


「やっぱり、見事な避けっぷりだったと思う。今後の参考にしたいから、もう一度、試させてくれる?」

「ひぃっ……は、話が……違うじゃないか……っ? こいつを動かしたら、任務完了なんじゃないのか!?」


 俺は何の約束もしていない。よく見ると魔術師の視線は、後ろでガッツポーズしている暗殺者たちに向けられていた。


「ハハハハハッ! 見ろ、あいつ、動いたぞ!」

「やった! やったんだ……俺たちはあいつを、動かしたんだぁぁぁっ!」


 月に吠えてる。目的を履き違えているらしい。とはいえ、それをぶっ壊すほどノリの悪い俺ではない。せっかくなので彼らに同調してやろう……。


「俺を、動かしたな? おめでとう……congratulation! さぁ、セカンドステージだぁ! 【ウィスパー】【エンチャント・ダークネス】」

『何このラスボス感』


 威力を見せつけるように大木に剣を当てる。消し飛ぶ幹。一目散に逃げ出す暗殺者……うぅむ、今日も収穫はありませんでした。


『あの人たち、だんだん壊れてきてるね』

「敗北を知りたい」

『脱獄した途端にこれだよ。ちょっとだけ彼らに同情しちゃう』

「いや、正面から正式な手続きを取って出てきたよ!? むしろ冤罪だったろ」


 翌日の夜……俺は全身全霊で優しさを表すことにした。


「お前らがどれだけ俺を攻撃しようと、無駄無駄。寝っ転がって眺めておくから、好きなだけ攻撃していいよ……【ウィスパー】」


 俺のふざけた態度に激怒したらしく、隠れていたはずの暗殺者が俺を取り囲む。血走った目で執拗に踏みつけてくるが、もうこれただの憂さ晴らしだ。せめて攻撃スキルを使ってくれないと……。


「そこにナイトスワンプを仕掛けた。嘘でーす!」

「……なっ!? ふぅ……」

「油断すると、フラッ……目をぎゅっとつぶっちゃって可愛いなぁ! はっはっは! 【フラッシュ】 使わないとは言ってなァい!」

『煽るときだけ律儀にウィスパー解除するの止めなよ』

「おのれぇぇぇぇっ! よくも騙したなぁぁぁぁっ!!」

「戦いは、高度な心理戦だぞ?」

『低次元すぎる。君こそ全世界のバトルモノ主人公に喧嘩売ってるじゃないか』


 暗殺者の男がとうとうおかしくなってしまったらしい。ズボンを下げて俺に小便をかけようとしたので、【ナイトスワンプ】で沼に沈めた。あの世で反省しろ。足だけ出てるから、どこぞのミステリー作品が頭をよぎった。


「人に小便かけるなんてどういう神経してるんだ?」

「貴様がっ、言うなぁぁぁっ!」


 煽りの基本スタイルは、自分のことは棚に上げることである。


「雑魚一号くん、ウィスパーを解除していいのか? 攻撃するつもりがないなら、俺の口はどんどん悪くなるぞ?」

「ちくしょう! ちくしょうっ、ちくしょう……っ」


 雑魚一号がナイフを手放した。膝から崩れ落ち、泣き出してしまった。それが引き金になり、暗殺者の誰もが諦めた。予想外すぎて流石に可哀想なので、優しい言葉をかけてあげよう。


「参った。降参だ。だから帰っていいぞ」

「ばかにしやがって……ぐうぅ、うぅ……殺せ」

「勘違いするな。俺はお前らを殺したいわけじゃない。毛根を一本残らず、死滅させたいだけなんだ」

「くそっ、くそぉ……こんなクソ野郎に……うぅぅ……っ」


 先に心が折れてしまったらしい。これだけ煽ったのだから、俺の気は済んだ。もうそろそろ目的を果たしてもいいと思った。


「少し話をしよう。お前たちは下っ端だな? もっと強いやつが居るなら、まとめて連れて来い。それが嫌なら、暗殺者なんて辞めちまえ」

「……どちらも、不可能だ。我々は、お互いに面識も連絡手段もない。上からの命令で集まったに過ぎない。足を洗おうにも、逃げたものは夜鷹の暗殺対象になるんだ」

「そう落ち込むなよ。良い方法があるんだ。乗ってくか?」

「話を聞かなければ返答のしようがない……」


 もうすっかり負け犬になってしまっている。ここは普通、協力して俺を殺すぞ、おーっ! と団結するのが暗殺者の青春ではなかろうか?


「なぁ、俺って暗殺の依頼出てる? 俺を襲った理由だけでも教えてくれよ」

「……我々の目的は、貴様の珍しい魔物を奪うことだった。邪魔な所有者を殺して奪おうとしたやつも居たが、今では貴様が闇と光の魔術師だと報告したことにより、誘拐対象になっている」

「夜鷹は諦めないんだよな?」

「あぁ、目的が達成されるまで続く。我々を殺したいなら好きにするといい。どうせすぐに補充されるだけだ……」

「分かった。最後の質問だ。この中に、俺の家を荒らしたやつは居るか?」


 暗殺者が、お互いを顔を見合わせる。そして、誰もが首を振って否定した。


「一線を超えなくて良かったな。お前らを助けてやる。ここに銀貨30枚ある。この金を使って、夜鷹に暗殺依頼を出せ。ターゲットは、この俺だ」


 いつどこで襲われるか分からない生活を一生続ける気はない。不滅の夜鷹を壊滅させる。少なくとも、俺が天寿を全うするまで、立ち上がれないようにしばき回す。


 その目的を果たすためには、誘拐対象から暗殺対象になったほうがいい。優先度を自分で引き上げ、内情に詳しい敵さんが自発的にやってくる流れを作るしかないのだ。


「正気なのか? 頭が出てくる保証はどこにもないぞ?」

「俺のウザさを知って、それでもムリだと思うか?」

「ふっ、貴様なら……あるいは……」

「どちらに転んでもお前らは得するわけだ。そんじゃ、頼んだぜ!」

「……あぁ、のたうち回って死んでくれることを祈ってるよ」


 暗殺者たちは影に消えた。まぁ、シャドウデーモンを付けている限り、居場所は分かるわけだが、追ったところで頭にはたどり着かない。呼び戻してねぎらいの言葉をかけてやるのが上司というものだ。


「お疲れ、シャドーデーモン。二階級特進したやつらもお疲れ」

『君も、お疲れさま。うまくいくといいね』

「大丈夫だって。絶対成功するって!」


 あとで知ったのだが、渡した銀貨30枚は普通にパクられた……泥棒!



あとがき

ウィスパー使えたらどうします? さむおは気兼ねなく咳します ん゛ん゛っ、ごっほごっほ!
隠密スキル使えたらどうします? さむおはめっちゃ屁をこきます すかしじゃないから匂いを99.9%除去
まえがきとあとがきの項目がないのが不便っすね
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