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夜鷹編

キャンプファイヤーでクロノ死す

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 犯罪組織・夜鷹……。それはひとまず置いといて、今の心配はナイトメアだ。物騒な連中に拐われたのだから、今頃はきっと一人で泣いているだろう。


「それで、アジトは分かりましたか?」

「いや……使い捨ての末端だ。自分が夜鷹の構成員であり、金になりそうな魔物の強奪が任務だということしか知らされていない。お前の家を荒らしたのもやつだった」

「俺が尋問してもいいですか?」

「ばかもの。衛兵の真似事など止めておけ」

「隠してるかもしれないじゃないですか。こっちはナイトメアを拐われてるんですよ!」

「ナイトメア? 黒くてテカテカしたやつなら、お前のベッドの下に居るぞ」

「ゴキ○リみたいな言い方は止めてっ!? 俺の相棒はもっと可愛いの!」


 ちょっと怒りながらベッドの下を覗き込むと、ナイトメアが居た。驚きすぎて変な声が出た……。


『やぁ、見つかっちゃった』

「心配させやがって! どうやって逃げてきたんだ!?」

『ボクは君だからね。離れられるはずがないじゃないか』

「……で、本当のところは?」

『この姿は仮のものだからね。君と離れすぎて、普通に消えて、ここに現れたんだよ』

「どうして黙っていたのかな? おじさんは熱心に呼びかけたけど……?」

『いつも君に驚かされてばかりだったからね。たまにはボクが驚かせてみたいなって思ったのさ……てへっ』


 お茶目な一面を持つナイトメア。流石は俺の相棒だ。感動の再会と呼べるか怪しいものの、抱きしめて頬ずりしているとガイルさんが咳払いをした。


「ブサクロノは、夜鷹についてどれだけ知っている?」

「いや、何も知らないですよ。犯罪とは無縁の清く正しい生活をしているので」

「そ、そうか。仮に清く正しい生活を送っていても、犯罪者が群がってくることもある。最低限の知識は頭に入れておけ。もしかしたら生き残れるかもしれん」


 犯罪組織・夜鷹……いつどこで誰が設立したのか分からないが、金のためなら何でもする連中らしい。構成員の強さもピンキリで、名の通った暗殺者より下の脅威と認定されている。


 そんな微妙な組織なのに、知名度はダントツだ。地位のある人ならともかく、一般市民でも噂で知っている。


 その理由は、銀貨30枚で暗殺の依頼を引き受けてくれるお手軽さと、依頼はターゲットが死ぬまで有効というアフターサービスにある。


 これだけ有名なのだから、壊滅させようとした国や人は数知れず。ときには魔王を倒した勇者様も名乗りあげて取り組んだらしいが、何度潰されようとも、いつの間にか噂にあがるらしい。不滅の厄介者だ。


「……俺、死ぬまで狙われるってことですよね?」

「暗殺の依頼を受けているなら、そうだろう。だが夜鷹の目的は、そのナイトメアなのだろう? 渡さない限り同様の事件が起こる……」

「ナイトメアは渡しません。俺の相棒ですから」

「夜鷹が相手では、壊滅は不可能だ。投獄生活にも限界がある。それまでに答えを出すことだ……」

「とりあえず、ここを出ていきます。あの女の子を拝ませて貰っても?」


 復讐をしない条件で、ガイルさんとともに、別室の牢屋に向かう。肝心の女の子は、丸裸だった。立ったまま両手と両足を鎖に繋がれ、目隠しに猿ぐつわまでされている。足元には金属のバケツが置かれていた。


「ちょっとやりすぎじゃないですか?」

「これでもぬるい方だ。どこの国だろうと、重犯罪者に権利などない」

「……そういう、ものですかね」

「裸にしなければ、暗器を見落とす。目隠しがなければ、脱出経路を練られる。口を塞がねば、スキルを使って逃走を図る。俺たちの前に居るやつは、暗殺者だ。女ではないし、子供でもない。人の姿をした魔物だと思え!」

「……肝に銘じておきますよ。そのつもりで、ここに来たんですから」

「良い心がけだ。この犯罪者は明日にも別の町に移送され、処刑される」

「処刑!? 俺は生きてるんですよっ!?」


 ぐったりしていた女が顔を上げた。体をよじって拘束から逃れようとする。うめき声と鎖の音が酷く不快だった。


「投獄したところで情報源にならない。逃がせばお前か、別の誰かの命を狙う。仮にこいつが更正して組織から抜けようとしても、いつか必ず殺される。夜鷹はそういう連中だ」

「そう、ですか……っ」

「甘さは捨てろ。だが、それでも、何か思うところがあるなら……これ以上、不安を掻き立ててやるな」


 例えどのような事情があろうとも、人の命を狙えばどうなるか。この子もそれを理解して行動に移したのだろう。俺は自分の牢屋に戻り、ナイトメアと身を寄せ合って眠った……。


「ククッ、クククッ……ハーッハッハッハ!」

「……毎日そうやって起きているのか?」


 牢屋で目覚めた俺は、景気づけに【闇の喜び】を使った。ガイルさんが苦笑いしている。俺だって恥ずかしいが、いつまでも引きずるわけにはいかないのだ。


「まぁ、気合を入れ直すときに。お世話になりました。牢屋から出ます」

「まだ数日は平気だと思うが、行く宛はあるのか?」

「ありますよ。キャンプファイヤーしようかなって」


 首を傾げたガイルさんにお礼を言って、ブタ箱から出た。朝日のなんと眩しいことか。衛兵が居るおかげで出待ちされることはない。人通りの多い道を選んで家に戻り、隠していた有り金を持って雑貨屋に向かった。


「おや、しぶといオークのお出ましじゃないか」

「元気そうだな、くそばばあ。この金で買えるだけマナポーションや日用品を売ってくれ」

「うちの店を潰す気かい? 相変わらず非常識な子だよ」

「あるだけでいい。ついでに荷車があるなら貸してくれ」

「遠征かい? 張り切る気持ちは分かるけどね、限度ってものがあるよ」

「一身上の都合で討伐されそうなんでね。必要な備えなんだ」


 ばばあが長い溜息をつく。店の奥から古ぼけたバッグを持ってきた。恐らくはマジックバッグなのだろうが、この大きさだと俺の持ち金で買える値段じゃない。


「うちの旦那が使っていたマジックバッグさ。あんたに貸してやるよ。ちゃんと返すんだよ」

「俺が討伐されたら剥ぎ取られちまうぞ?」

「死にそうになったらバッグだけ持って逃げな。衛兵にマジックバッグを盗みましたって自首すりゃいいのさ」

「ばばあ……ガイルさんみたいなことを言うのな。しばらくお借りします」


 大量の品物を詰め込み、マジックバッグを背負って雑貨屋を出た。次に向かったのは防具屋だ。残りの金を使えば盾をいくつか買えるはず……。


「よぉ、ブサイク。新しい盾が入ったんだ。見たいか?」

「いや、いつもの円盾をいくつか買うだけなんで――」

「入荷したはいいが、性能テストをする時間がなくてね。暇そうなお前に頼もうと思うんだ」


 押し付けられるように渡されたのは、カイトシールドだった。小型の円盾と比べて倍近い大きさだ。立派な金属盾だが、今のレベルと闇の祝福の効果もあって取り回しに苦労しない。


「感想、聞かせろよ?」

「かっこいいと思う!」

「子供かっ! 今じゃなくて、実戦で使った感想を聞かせろよ。壊れてもいいから、ばんばん使ってくれ」

「この盾を狙って賊が増えなきゃいいけどな」

「なぁに、安物さ。人の命に比べれば、な……」


 何、この流れ。恥ずかしくて死にそう。お互いに目を逸しながら防具屋を出て、武器屋の看板を見上げる……。


「……武器はいいや」

「ちょっと待てやぁぁぁっ!? ここは立ち寄る流れだろ!?」


 立ち去ろうとしたら店から出てきて抗議された。暇か、暇なのか。


「えっ、でも俺にはルーティンソードがあるから。使いやすいし勇気出るから」

「じゃーん! これ、なーんだ?」

「おー、刀じゃないか。取り扱うことにしたんだな。これも時代の流れか」

「そんなわけで、お前にやる!」

「えっ、いや……いらないです」

「どうしてそんなこと言うの!? 欲しがってたじゃん! 死ぬ前の土産に使っていけよぉ!」


 刀のことを散々こき下ろしたのは誰なのか。まさか忘れたわけではあるまい。俺は死ぬつもりはないのだから、刀はまじでいらなかった。気持ちだけ受け取るつもりが、押し付けられて町を出た……。


 北の森に入って手頃な場所を見つけた俺は、マジックバッグを置いた。そのまま薪集めをしていると、夕方になってしまった。これだけの量があれば一晩は持つだろう。さっそく薪を組み立てて、ロマンを作り上げた。


「くくく……キャンプファイヤーの完成だ!」


 キャンプファイヤー。それは、人類が最初に作り出した憩いの場。燃え上がる炎は魔物を遠ざけ、体を温めてくれる。そしてなにより、何か落ち着く!


『いやぁ、きれいだねぇ。魔物を倒す余裕があったら、BBQも出来たのに』

「なぁに、明日やればいいんだよ。今は人生初の野営……キャンプを楽しもうじゃないか」

『揺れる炎を見ていたら、眠くなってきちゃった』

「寝たら死ぬぞ!? いや、まじで!」

『少しからかっただけさ。こんな光景を見逃すなんてもったいないからね』

「お茶目さんだなぁ。ほら、あれを見ろ。空に輝いてる青い光があるだろ? あの星がマクシミリアン座だ」

『君は、嘘つきだね』


 ナイトメアを抱えて、地面に寝転がる。干し肉を齧りながら夜空に輝く星々を眺めてそのときを待っていた。


 虫の鳴き声が止んだ。ぴちゃりと足音がする。焚き火に薪をくべて立ち上がる。もちろん完全武装している。それはきっと、敵も同じだ……。
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