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住宅ローンでクロノ死す
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ギルド長はヨルムンガンドの話が聞きたくてたまらないらしい。ここは良識ある大人として、弱みに付け込み、最大限の譲歩を得るべきだろう。
「いくらなんでも、家は難しいな……」
「ヨルムンガンドの話は、なかったことにします」
「ま、待ってくれ! 家はその、法律的に難しいんだ。銀貨50枚あれば市民権を買える。これからも冒険者として励めば家の購入資金もすぐ貯まるさ」
家を買うには市民権が必要だ。だが、俺は市民権は買いたくない。いずれ王都に行く予定なので、銀貨50枚が丸損になってしまう。
「交渉は決裂ですね。安心してください。ヨルムンガンドのことは誰にも話しませんから」
「乙女に、職権を乱用させるつもりかね……?」
「そうなったら俺は王都に行きます。その道を潰すつもりなら、聖職者になる道もありますから」
おじさんのしぶとさを舐めて貰っては困る。そもそも俺は、勇者なのだ。まぁ、置き去りにされてしまったが。
エンチャントの力があれば旅の途中で合流できるはず。【強運】スキルのせいで周辺の強敵を呼び寄せてしまうが、お強い勇者御一行に守って貰えばいい。
「……家を与えることは出来ない。その代わりに、借家を用意しよう。建物を傷つけないのなら、どのような目的で使おうと咎めない」
家が買えないなら、家を借りればいいじゃない。どんなときもアントワネット生活論は優秀だ。
「でも、お高いんでしょう?」
「月に銀貨6枚でどうかね? 立地は少し悪いが、君には好都合かもしれないよ」
「借りま…………すっ!」
「契約、成立だねっ!」
翌日、俺は風呂敷に荷物を入れて寮を出た。せっかくなので風呂敷は鼻に巻いた。無駄に忍び足で周囲を見渡す。完璧だ。
『こそ泥だーっ!?』
「やってみたかったの! 人が憧れるのは何も勇者だけじゃない!」
『まぁ、ベッドのシーツ持ってきちゃったもんね。ある意味、泥棒だよね』
「大銅貨を置いてきたからいいだろ。このシーツは俺のものだ」
『ある意味、下着泥棒みたいなもんだよね』
「ちゃうねん。レイナとの思い出やねん」
地図を頼りにお目当ての物件を探すと、辿り着いたのはスラムのすぐ近く。さらに否認可娼婦の憩いの場から徒歩5分の最高の立地だった。
「……おぉ、これが夢のマイホーム」
『レンタルだけどね。壊したら出ていくときに弁償だよ』
夢のマイホームは、ログハウスのような外観だった。温かい木の色に、緑色の屋根……突き出た煙突がキュートである。
『お邪魔しまーす』
「ナイトメア、そんなことじゃいけないぞ。今日からここが俺たちの住処なんだ。ただいま、と言うべきだろう!」
『わぁ、二階があるよ!』
「話を聞けって! まずは寝室からだろ!」
おじさんは大人なので、二階にあがった。部屋はひとつだけだが、廊下の手すりに掴まって一階を見下ろすと、広々とした空間にほっこりした。
肝心の部屋には二段ベッドと棚が置かれているだけだ。インテリアはそのうち考えるとして、空気を入れ替えるために窓を開け放つ。すると、非認可娼婦の広場が見えた。
「さ、最高すぎる!」
『ボク、上のベッドね』
「ズルいぞナイトメア! 俺も上がいい!」
『仕方ないなぁ。じゃんけんで決めよう!』
「じゃんけん……負けたぁぁぁっ! ま、待てナイトメア!」
『敗者はただ、去るのみ。違うかい?』
「お前、俺の心が読めるだろ!? 後出しってレベルじゃねぇぞ!」
『……ボクは君さ!』
流石は俺。ズルいやつだ。上のベッドは誰にも渡さん。俺たちのものだ。
寝心地を確かめるつもりが、起きたときには夕方だった。非認可娼婦も食べ頃の時期である。さっそく女を連れ込もうとしたら、誰かが訪ねてきた。
「おう、ブサクロノ! 様子を見に来てやったぜ!」
「帰れハゲ! 初めての来客がお前ってどういうことだよ」
「そう言うなよ。家から反対なのに、わざわざ来てやったんだぞ」
「ハゲ、ゴーホーム!」
「良い家じゃねぇか! もうちょっとだけ見せてくれよ」
「好きなだけ見ていけ。良い家だからな、ハッハッハ!」
「どうせなら案内してくれよ。大家さん?」
「しょうがないなぁ。大家さんだからなぁ!」
二階のベッドで寝ただけなので、案内するほど詳しくない。ぶっちゃけ対応に困っていると、またもや客が来た。ライオネルだった……。
「クロノ! 家を借りたんだって!?」
「こ、今度はイケメンかぁ。揃いも揃って男ばっかりじゃねーか」
「いやぁ、良い家だなぁ。俺もいつか、こんな家が欲しいぜ!」
「ゆっくりしていきなさい。お茶を用意しよう」
俺のことを褒められるのは嬉しくないが、俺が大事にしてるものを褒められるのは好きなのである。こいつら、見る目あるわ。
『君、ちょろすぎでしょ』
「……おぉ? なんだその変な生物は。魔物なのか?」
ハゲがナイトメアに気づいた。まぁ、相棒を紹介するのもやぶさかではない。
「俺の相棒だ。ナイトメアと名付けた」
「へぇー、名前はともかく、可愛いやつだなぁ! 触ってもいいか!?」
食いついたのはライオネル。ハゲはじっと見つめるのみだった。
「ちょっとだけだぞ? あんまり変なところ触るなよ?」
「おぉーっ! ぶにぶにしてるなぁ! 可愛いじゃん!」
「そうだろうそうだろう。俺の相棒だからな」
「こいつ、鳴かないのか?」
頼れる相棒から、ボケとツッコミまでこなすナイトメア。同時にペット的なポジションでもあるわけで、それらしい鳴き声があっても不思議は……。
――きゅうぅ。
「うはっ! 可愛いじゃねぇか! 俺もサモナーの彼女が欲しいなぁ」
ナイトメアに骨抜きになったライオネルは、未来の奥さんの姿を思い浮かべているのか、遠い目をしていた。せっかくの提案なので、ナイトメアはサモンしたことにした。
「……なぁ、ブサクロノ。俺も触っていいか?」
「ちょっとだけな。痛くするなよ?」
「分かってるって。変な感触だな……どこで見つけたんだ? 本当にサモンしたのか?」
「あー、俺はアレ持ってるからな。アレだよアレ」
「【星の記憶】か? 道理で見たことないはずだ。俺はギルド職員だからな。王都の書庫にも、こんなやつは載ってなかった」
「激レアってやつ? クロノ凄ぇじゃん!」
「そう褒めるな。ナイトメアが照れてるじゃないか」
ナイトメアを囲んでだべっていると、腹の虫が鳴った。すると、ハゲがドヤ顔で食材を取り出した。
「キッチン、使うぜ?」
「おう。家賃代わりに作っていけ」
「やりぃ! ハーゲルの飯はうまいからなぁ」
男たちの宴。空気はまずいが飯はうまい。そこにライオネルが持ってきた酒が入れば、飲んだくれの集まりに早変わりだ。ハゲはキッチンで追加を作ってくれている……。
「かぁーっ! 彼女が欲しい!」
「お前イケメンだろ? 彼女くらい掃いて捨てるほど作れるだろうが」
「俺は同業者はタイプじゃないんだ。私生活と仕事は、分ける!」
「ほー、その辺はどうなんだ? 好みの女は?」
「俺はなぁ、可愛くて優しくて、守りがいのある子がタイプなんだ! 普通の町娘がいい! それなのに、気になった子は、みぃーんな彼氏持ち! 誘ってくるのは、みぃーんな冒険者!」
「イケメンでもダメなのか。先に唾付けておけ」
「冒険者だからなぁ。都合が合わないことが多くてよぉ。通いつめてる客に、取られちまうの! はっはっはぁ……」
異世界の恋愛事情は、生々しいものだった。冒険者は冒険者とくっつきやすく、市民は市民とくっつく。ともに過ごした時間が愛を育むのね。
「イケメンは、めっちゃ好きな子が出来たとしたら、冒険者辞めるのか?」
「分からん! 俺はハーゲルみたいに割り切れない!」
「ハゲが、何だって……?」
「ハーゲルはなぁ、王都でBランク冒険者だって知ってるだろ? しかもバリバリのエース級。そんなやつが冒険者を辞めたのは、嫁を選んだからだ!」
「ハゲって嫁居たのかよぉ!?」
衝撃の事実である。居てもおかしくないとは思ったが、まさか冒険者を辞めてまで女を取るとは……真人間だな。
「おい、ライオネル。恥ずかしいから止めろ。殺すぞ」
「いいじゃーん。知ってる人は知ってるんだからさぁ」
若かりし頃のハゲ。略して、若ハゲはアルバのウェイトレスに惚れたらしい。忙しい時間の合間を縫ってアプローチを続けたが、『冒険者の帰りを待つのは嫌』と振られかけ、女を選んだらしい。
「俺が料理が得意なのものよぉ、かーちゃんの気を引くために始めたんだ。晴れてくっついたあとに、ギルド長にスカウトされて、ギルド職員と酒場のマスターとコックを兼任してんの」
「……あれ? 肝心の嫁は? 見たことないぞ?」
「かーちゃんは町の店でウェイトレスしてるから、ギルドには顔出さないぜ。俺のことより、ブサクロノはどうなんだ? 好みの女とか居るだろ?」
「あっ、それ気になるぅ! 女好きって噂だぜー?」
酔っ払ったライオネルは、うぇぇーい系。
「俺は価値の高い女が好きだな」
「逆玉の輿ってやつ? お姫様とか可愛いもんなぁ」
「地位・名声・態度……どれでもいい。俺が抱けそうにない女の子が好きだ。それを札束ビンタで抱くのがたまらないんだよ」
「ブサクロノ、歪みねぇな」
「いや、歪んでるだろ!? そこに愛はあるのかぁ!?」
「ないに決まってるだろ。俺って飽きっぽいんだよ。生涯現役・生涯独身! それが俺の信念だ!」
「クロノ……お前ってやつは……寂しいやつだなぁ! 分かった、俺がまた遊びに来てやる! 元気出せって!」
「やかましい。もう来るな。今日だって新居に女を連れ込むつもりだったのに、邪魔しやがってぇぇぇっ」
「いだだだだっ! 悪かったって! また来るから、機嫌直せって!」
「がっはっは! 爛れた色恋より、男の友情だよなぁ! ブサクロノもライオネルも、もっと飲め飲め!」
「人の家であんまり飲みすぎるなよ……吐いたらぶっ飛ばすからな」
「そう言うな。飲めるときに飲むのが冒険者だ! 昨日のブサクロノは、いつ死んでもおかしくなかった!」
まさかクソヘビの話をするつもりなのか? あれはギルド長に売った。ハゲが勝手に話したところで契約には触れないが、止めるべきか。
「おい、その話はギルド長に――」
「いいんだよ。注意喚起もギルド職員の役目なんだから! 聞けよライオネル。こいつよぉ、ヨルムンガンドに襲われたんだよ!」
「んー? 世界を飲み込んだとか言われてるやつだっけ? 神話の化物に襲われて、何で生きてるんだよ、あっはっは!」
「だよなぁ! 普通は死ぬよなぁ! しぶとい、ブサクロノはしぶとい! だから今日のうちに一生分、酒を飲んどけぇ!」
「せっかく生き残ったのにアル中で殺す気か」
「いや! クロノは死なない! 俺が守る! だからパーティー組もう!」
「がはははっ! いいぞー、凸凹コンボの結成だ!」
「顔面基準かよぉ!? 組まないって言ってるだろうが。神話だか何だか知らないが、そいつから生き延びたんだ。この先もくたばってたまるかっ」
酔いと疲れから口数が減り、うっかり眠ってしまった。ハゲとライオネルもいびきをたてて爆睡していた……。
「そろそろ帰れって……寝るなって……クソどもがぁぁぁ!」
新居で一夜をともに過ごしたのは、男でした……。
「いくらなんでも、家は難しいな……」
「ヨルムンガンドの話は、なかったことにします」
「ま、待ってくれ! 家はその、法律的に難しいんだ。銀貨50枚あれば市民権を買える。これからも冒険者として励めば家の購入資金もすぐ貯まるさ」
家を買うには市民権が必要だ。だが、俺は市民権は買いたくない。いずれ王都に行く予定なので、銀貨50枚が丸損になってしまう。
「交渉は決裂ですね。安心してください。ヨルムンガンドのことは誰にも話しませんから」
「乙女に、職権を乱用させるつもりかね……?」
「そうなったら俺は王都に行きます。その道を潰すつもりなら、聖職者になる道もありますから」
おじさんのしぶとさを舐めて貰っては困る。そもそも俺は、勇者なのだ。まぁ、置き去りにされてしまったが。
エンチャントの力があれば旅の途中で合流できるはず。【強運】スキルのせいで周辺の強敵を呼び寄せてしまうが、お強い勇者御一行に守って貰えばいい。
「……家を与えることは出来ない。その代わりに、借家を用意しよう。建物を傷つけないのなら、どのような目的で使おうと咎めない」
家が買えないなら、家を借りればいいじゃない。どんなときもアントワネット生活論は優秀だ。
「でも、お高いんでしょう?」
「月に銀貨6枚でどうかね? 立地は少し悪いが、君には好都合かもしれないよ」
「借りま…………すっ!」
「契約、成立だねっ!」
翌日、俺は風呂敷に荷物を入れて寮を出た。せっかくなので風呂敷は鼻に巻いた。無駄に忍び足で周囲を見渡す。完璧だ。
『こそ泥だーっ!?』
「やってみたかったの! 人が憧れるのは何も勇者だけじゃない!」
『まぁ、ベッドのシーツ持ってきちゃったもんね。ある意味、泥棒だよね』
「大銅貨を置いてきたからいいだろ。このシーツは俺のものだ」
『ある意味、下着泥棒みたいなもんだよね』
「ちゃうねん。レイナとの思い出やねん」
地図を頼りにお目当ての物件を探すと、辿り着いたのはスラムのすぐ近く。さらに否認可娼婦の憩いの場から徒歩5分の最高の立地だった。
「……おぉ、これが夢のマイホーム」
『レンタルだけどね。壊したら出ていくときに弁償だよ』
夢のマイホームは、ログハウスのような外観だった。温かい木の色に、緑色の屋根……突き出た煙突がキュートである。
『お邪魔しまーす』
「ナイトメア、そんなことじゃいけないぞ。今日からここが俺たちの住処なんだ。ただいま、と言うべきだろう!」
『わぁ、二階があるよ!』
「話を聞けって! まずは寝室からだろ!」
おじさんは大人なので、二階にあがった。部屋はひとつだけだが、廊下の手すりに掴まって一階を見下ろすと、広々とした空間にほっこりした。
肝心の部屋には二段ベッドと棚が置かれているだけだ。インテリアはそのうち考えるとして、空気を入れ替えるために窓を開け放つ。すると、非認可娼婦の広場が見えた。
「さ、最高すぎる!」
『ボク、上のベッドね』
「ズルいぞナイトメア! 俺も上がいい!」
『仕方ないなぁ。じゃんけんで決めよう!』
「じゃんけん……負けたぁぁぁっ! ま、待てナイトメア!」
『敗者はただ、去るのみ。違うかい?』
「お前、俺の心が読めるだろ!? 後出しってレベルじゃねぇぞ!」
『……ボクは君さ!』
流石は俺。ズルいやつだ。上のベッドは誰にも渡さん。俺たちのものだ。
寝心地を確かめるつもりが、起きたときには夕方だった。非認可娼婦も食べ頃の時期である。さっそく女を連れ込もうとしたら、誰かが訪ねてきた。
「おう、ブサクロノ! 様子を見に来てやったぜ!」
「帰れハゲ! 初めての来客がお前ってどういうことだよ」
「そう言うなよ。家から反対なのに、わざわざ来てやったんだぞ」
「ハゲ、ゴーホーム!」
「良い家じゃねぇか! もうちょっとだけ見せてくれよ」
「好きなだけ見ていけ。良い家だからな、ハッハッハ!」
「どうせなら案内してくれよ。大家さん?」
「しょうがないなぁ。大家さんだからなぁ!」
二階のベッドで寝ただけなので、案内するほど詳しくない。ぶっちゃけ対応に困っていると、またもや客が来た。ライオネルだった……。
「クロノ! 家を借りたんだって!?」
「こ、今度はイケメンかぁ。揃いも揃って男ばっかりじゃねーか」
「いやぁ、良い家だなぁ。俺もいつか、こんな家が欲しいぜ!」
「ゆっくりしていきなさい。お茶を用意しよう」
俺のことを褒められるのは嬉しくないが、俺が大事にしてるものを褒められるのは好きなのである。こいつら、見る目あるわ。
『君、ちょろすぎでしょ』
「……おぉ? なんだその変な生物は。魔物なのか?」
ハゲがナイトメアに気づいた。まぁ、相棒を紹介するのもやぶさかではない。
「俺の相棒だ。ナイトメアと名付けた」
「へぇー、名前はともかく、可愛いやつだなぁ! 触ってもいいか!?」
食いついたのはライオネル。ハゲはじっと見つめるのみだった。
「ちょっとだけだぞ? あんまり変なところ触るなよ?」
「おぉーっ! ぶにぶにしてるなぁ! 可愛いじゃん!」
「そうだろうそうだろう。俺の相棒だからな」
「こいつ、鳴かないのか?」
頼れる相棒から、ボケとツッコミまでこなすナイトメア。同時にペット的なポジションでもあるわけで、それらしい鳴き声があっても不思議は……。
――きゅうぅ。
「うはっ! 可愛いじゃねぇか! 俺もサモナーの彼女が欲しいなぁ」
ナイトメアに骨抜きになったライオネルは、未来の奥さんの姿を思い浮かべているのか、遠い目をしていた。せっかくの提案なので、ナイトメアはサモンしたことにした。
「……なぁ、ブサクロノ。俺も触っていいか?」
「ちょっとだけな。痛くするなよ?」
「分かってるって。変な感触だな……どこで見つけたんだ? 本当にサモンしたのか?」
「あー、俺はアレ持ってるからな。アレだよアレ」
「【星の記憶】か? 道理で見たことないはずだ。俺はギルド職員だからな。王都の書庫にも、こんなやつは載ってなかった」
「激レアってやつ? クロノ凄ぇじゃん!」
「そう褒めるな。ナイトメアが照れてるじゃないか」
ナイトメアを囲んでだべっていると、腹の虫が鳴った。すると、ハゲがドヤ顔で食材を取り出した。
「キッチン、使うぜ?」
「おう。家賃代わりに作っていけ」
「やりぃ! ハーゲルの飯はうまいからなぁ」
男たちの宴。空気はまずいが飯はうまい。そこにライオネルが持ってきた酒が入れば、飲んだくれの集まりに早変わりだ。ハゲはキッチンで追加を作ってくれている……。
「かぁーっ! 彼女が欲しい!」
「お前イケメンだろ? 彼女くらい掃いて捨てるほど作れるだろうが」
「俺は同業者はタイプじゃないんだ。私生活と仕事は、分ける!」
「ほー、その辺はどうなんだ? 好みの女は?」
「俺はなぁ、可愛くて優しくて、守りがいのある子がタイプなんだ! 普通の町娘がいい! それなのに、気になった子は、みぃーんな彼氏持ち! 誘ってくるのは、みぃーんな冒険者!」
「イケメンでもダメなのか。先に唾付けておけ」
「冒険者だからなぁ。都合が合わないことが多くてよぉ。通いつめてる客に、取られちまうの! はっはっはぁ……」
異世界の恋愛事情は、生々しいものだった。冒険者は冒険者とくっつきやすく、市民は市民とくっつく。ともに過ごした時間が愛を育むのね。
「イケメンは、めっちゃ好きな子が出来たとしたら、冒険者辞めるのか?」
「分からん! 俺はハーゲルみたいに割り切れない!」
「ハゲが、何だって……?」
「ハーゲルはなぁ、王都でBランク冒険者だって知ってるだろ? しかもバリバリのエース級。そんなやつが冒険者を辞めたのは、嫁を選んだからだ!」
「ハゲって嫁居たのかよぉ!?」
衝撃の事実である。居てもおかしくないとは思ったが、まさか冒険者を辞めてまで女を取るとは……真人間だな。
「おい、ライオネル。恥ずかしいから止めろ。殺すぞ」
「いいじゃーん。知ってる人は知ってるんだからさぁ」
若かりし頃のハゲ。略して、若ハゲはアルバのウェイトレスに惚れたらしい。忙しい時間の合間を縫ってアプローチを続けたが、『冒険者の帰りを待つのは嫌』と振られかけ、女を選んだらしい。
「俺が料理が得意なのものよぉ、かーちゃんの気を引くために始めたんだ。晴れてくっついたあとに、ギルド長にスカウトされて、ギルド職員と酒場のマスターとコックを兼任してんの」
「……あれ? 肝心の嫁は? 見たことないぞ?」
「かーちゃんは町の店でウェイトレスしてるから、ギルドには顔出さないぜ。俺のことより、ブサクロノはどうなんだ? 好みの女とか居るだろ?」
「あっ、それ気になるぅ! 女好きって噂だぜー?」
酔っ払ったライオネルは、うぇぇーい系。
「俺は価値の高い女が好きだな」
「逆玉の輿ってやつ? お姫様とか可愛いもんなぁ」
「地位・名声・態度……どれでもいい。俺が抱けそうにない女の子が好きだ。それを札束ビンタで抱くのがたまらないんだよ」
「ブサクロノ、歪みねぇな」
「いや、歪んでるだろ!? そこに愛はあるのかぁ!?」
「ないに決まってるだろ。俺って飽きっぽいんだよ。生涯現役・生涯独身! それが俺の信念だ!」
「クロノ……お前ってやつは……寂しいやつだなぁ! 分かった、俺がまた遊びに来てやる! 元気出せって!」
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「いだだだだっ! 悪かったって! また来るから、機嫌直せって!」
「がっはっは! 爛れた色恋より、男の友情だよなぁ! ブサクロノもライオネルも、もっと飲め飲め!」
「人の家であんまり飲みすぎるなよ……吐いたらぶっ飛ばすからな」
「そう言うな。飲めるときに飲むのが冒険者だ! 昨日のブサクロノは、いつ死んでもおかしくなかった!」
まさかクソヘビの話をするつもりなのか? あれはギルド長に売った。ハゲが勝手に話したところで契約には触れないが、止めるべきか。
「おい、その話はギルド長に――」
「いいんだよ。注意喚起もギルド職員の役目なんだから! 聞けよライオネル。こいつよぉ、ヨルムンガンドに襲われたんだよ!」
「んー? 世界を飲み込んだとか言われてるやつだっけ? 神話の化物に襲われて、何で生きてるんだよ、あっはっは!」
「だよなぁ! 普通は死ぬよなぁ! しぶとい、ブサクロノはしぶとい! だから今日のうちに一生分、酒を飲んどけぇ!」
「せっかく生き残ったのにアル中で殺す気か」
「いや! クロノは死なない! 俺が守る! だからパーティー組もう!」
「がはははっ! いいぞー、凸凹コンボの結成だ!」
「顔面基準かよぉ!? 組まないって言ってるだろうが。神話だか何だか知らないが、そいつから生き延びたんだ。この先もくたばってたまるかっ」
酔いと疲れから口数が減り、うっかり眠ってしまった。ハゲとライオネルもいびきをたてて爆睡していた……。
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