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バカにされてクロノ死す
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「……時間だ。これより講習を始める。よって、私語を禁ず」
訓練場に居るのは少年少女と俺を合わせて三人。指導はギルド長がしてくれるようだ。やったぜ。
「冒険者になるからには依頼を元に魔物と戦わねばならない。そのためには攻撃スキルが必須だ。よってスキルを習得する方法を教えよう」
他の人から緊張感が薄れた。習得していないのは俺だけか。
「まずは目を閉じる。そして敵を倒す力を求めるんだ。火の適正を持つなら【フレイム】。風なら【エアブレイズ】。闇なら【ダークネス】だ。それを握り潰すイメージで習得出来るだろう」
暗闇にじわりと浮かび上がってきたのは、【ダークネス】。遠くにあるそれを心の中で手を伸ばし、掴んで握り潰す。砕けた文字が粒子となって自分の中に入ってくる不思議な感覚がした。
【ダークネス】
暗黒の球体を放つ。
「習得出来たようだな。さっそく効果を確かめよう。先にある的をめがけて順番に攻撃してくれ」
まずは少年である。退屈そうに手をかざし、【フレイム】と唱えた瞬間、手のひらから炎の球体が金属の的をめがけて飛んで行く。命中し燃え上がったのは一瞬で、すぐに鎮火した。
次の少女は、どこか緊張した様子だったが、動作に迷いはない。【エアブレイズ】と唱えると、景色が揺らいだと思った次の瞬間には、的に新しい傷が増えていた。少年のスキルより弾速が早く、見え辛いようだ。
「うむ。二人とも問題ない。最後の者は木製の的を使ってくれ」
いよいよ俺の番である。訓練場の端にあるくたびれた木製の的を見据え、準備完了! 人生初魔法……行くぜ!
「【ダークネス】」
囁くように唱えると、黒く光沢のある球体が手のひらから現れた。初めて魔法を使った感動は……すぐに違和感に変わった。弾速が遅い。いつまで経っても、的に届かない。
「ププッ……何あれ……おっそ」
「赤ちゃんのハイハイより遅いなんて……くすくす」
オスガキはいつか埋めよう。メスガキはいつか犯そう。実行するかはさておき、心の安寧を図り、じっとダークネスを見つめ、ようやく着弾した。的が消し飛んでも球体は進み続けている。
「【ドラゴンライトニング】」
ギルド長の指先から放たれた青い雷が、瞬きより早くダークネスに直撃する。それでようやく物騒な暗黒球体は消えた。
(攻撃スキルによる打ち消しね。狙って出来るなら便利だな)
「ギルド長かっけぇ。それに比べてあのおっさん……プププッ」
「わ、笑っちゃダメだよ。闇も当たれば凄い威力なんだから。当たればね」
「私語は禁止と――」
ギルド長の発言を、野太い笑い声がかき消した。いつの間にか随分と外野が集まっている。ある者は口を抑え、ある者は指をさしてバカ笑い。いずれも視線は俺に向けられていた。
(なるほど。ガイルさんが言っていたのはこれか)
ダークネスは基礎スキル。これであの威力だ。木の的を指定された辺り、鉄の的であっても破壊しただろう。人の歩みより遅い弾速は滑稽に見える。当てる手段さえ見つければ中級スキル並の威力はありそうだ。
「黙らんか! 講習の邪魔をする者は降格させるぞ!」
その一喝で場は静まり返るが、美人の眉間にシワが深く刻まれた。おじさんこっちのほうが好き。
「こちらも暇ではない。次に無関係な口を開いた者は帰りたまえ」
氷のように冷たい目はそのままガキ共へと向けられる。いいなぁ、おじさんもワルしとけば良かったよ。
その後は邪魔者もなくギルド長の説明が続き、俺の脳みそはスポンジが如く知識を吸収した。内容は大きく分けて4つだ。
ひとつ、冒険者には階級が存在し、俺たちはHランクからスタート。普通はGランクからだが、見習い期間があるアルバの冒険者ギルドならではのシステムだ。貢献に応じてランクは上がるが、強力な魔物は周辺には基本的に存在しない。
ふたつ、誰かと共通の依頼をこなすいわゆるパーティーを組むのは、Fランクまで禁じられた。個あっての集団であり、個が未熟なまま集団に慣れると、不測の事態に陥ったときに死亡率が跳ね上がるらしい。
みっつ、魔術師が使う魔術や魔法などの単語は、厳密には間違いで、正しくはスキルと呼ぶ。【ダークネス】という魔術ではなく、【ダークネス】というスキル。詳細を知りたければ書庫で学べとのことだった。これ、どうでもいいな。
よっつ、MPを消費して発動する『スキル』の他に、日によって使用回数に制限があるが、MPを消費せず使える『スキル化』がある。習得時に願うことで決定される。取り消しは出来ない。
基礎スキルのように多用し、消費MPも少ないものをスキル化で習得するメリットは皆無なので、的当てのときは説明を省かれたらしい。納得である。
(スキル化するなら中級か上級スキルだな)
講習を終えた俺はダークネスの本質を検証したかったが、外野が多すぎて捗りそうもない。外でのスキル練習は極力避けるようにとのことなので、日を改めて人が居ない時間帯を狙うしかなさそうだ。
(まぁ、クマと間違えて人を撃っちまった猟師の話だと思えば不満もないさ)
クソガキ共は森に直行するらしいが、俺の目的地は書庫だ。知識は金であり力である。いちいち人に聞いてばかりでは迷惑だろうし効率も悪い。見習い特典で書庫が無料のうちに可能な限り知識を蓄えておこう。
(これが書庫ね……期待しすぎちゃったかな)
書庫と呼ぶには本の数が少ない。100冊ほどしかない。おまけに表紙は質素で、まるで文庫本だが、紙の質は悪くなかった。
(これ印刷じゃん。ケバブの件といい、過去にも俺のように転生したやつが伝えた技術が随所にありそうだな。まぁ、便利なら何でもいいや)
目標は見習い期間のうちに書庫を読破すること。そして借金の銀貨5枚を使い切る前に独り立ちして借金返済。成長に応じて王都に行き、同じく転生者である勇者御一行に合流することだな。魔王、勝手に死なねーかなぁ。
静かな空間は集中力を生む。本も分厚いわけではないし、図解もあって実に分かりやすい。しかし使用感がまるでない。それほど常識的な内容なのか、単純に皆が勉強嫌いなのか。
(後者なら本が泣いてるぜ……うぉっ!?)
半開きになった書庫の扉の向こうから、ギルド長が覗いてた。なぜか泣いてるし、嬉しそうでもある。ギルド長……恐ろしい子。
俺と目が合ったギルド長は、目元をハンカチで拭い、何事もなかったかのように近づいてきた。
「どうかね、この書庫は?」
「素晴らしいです。分かりやすくて図解も多い。俺が求めていた知識がここに揃っている」
「そうかそうか。だが、何か不満があるのではないかね?」
(何をそわそわしているんだ? おしっこか? おじさん着いて行こうか?)
「不満……あえて言うなら、本が少ないことですかね。これなら10日と経たずに読破しちゃうと思いませんか?」
「そうか、そうかぁぁぁっ!! 私は嬉しい。君のような勤勉な子がうちに入って来てくれて本当に嬉しい!!」
(テンション高くね? 氷の瞳プリーズ)
「書庫にある本は全て、私の自費出版なのだよ。未来ある若者たちに少しでも役に立って欲しくて……欲しかったんだが……誰も読まなくてな……」
(これ作ったのギルド長かよぉ!?)
なぜ講習中にスキルの詳細を説明しなかったのか? ギルド長は書庫に導きたかったのではないだろうか。頑張って作ったのに誰も読まない本のために。いや、自分のためだな。
「す、スキルの本は良かったですよ。まさか俺たちが使ってるスキルが元は魔術で、かつての大魔導師アルマ・ロダン様が誰でも使えるように改良したものだったなんて、度肝を抜かれましたよ!」
魔法陣もいらないし、長ったらしいほにゃららの闇よ、などといった詠唱をせずに使えるようになった。デメリットとして威力や弾速、効果などの性質を変更することは出来ないのだが、些細なことだろう。
飯を食うとする。店主にさばの味噌煮、白米、漬物、湯豆腐、お吸い物と個別に頼まなければいけなかったものが、Aランチひとつ。これだけで済むのだ。この構築理論が元になり、職業を問わず今のスキルがあるわけだ。
「ふふっ、その本を読んでくれたのは君が初めてだ。学がない子が入って来るんじゃないかと思って用意した物だが……おっと、失礼した」
「いいですよ。何も知らないんで」
「魔導神・アルマ・ロダン様のことを知らない魔術師は君くらいだろうが、お役に立てたようで嬉しいよ」
(あぁ、これって童話とか絵本レベルなのか。リヴィーズ様のマブダチだったりするんだろうか。紹介してくれないかな……はぶてそうだな)
「人が神になるなんて、壮大な話ですよね」
リヴィーズ様はどうも親しみやすいと思っていたが、元は人間だった。ご存命のうちに多大なる功績を認められ、主神アルフレイヤ様によって神というかその職業の管理者に任命されたというわけだ。
(遠い話で実感が沸かないな。うぅむ、係長みたいなもんか?)
元は人なら、生前はどのような方だったのか気になる。しかし何万年も前の話となれば知る人はいない。ならば答えられることを聞けばいいのだ。
「リヴィーズ様って、どれくらい強かったんでしょうね」
「世界最強だと言われている。反論するものが現れないほどに」
(……は? そんな強いのか!?)
「従魔が時を操る古代龍や、南国を永久凍土に変えた氷狼。もう魔物と言うより天災だろう。どちらも死後、種族を束ねる神になったと聞く。純粋な強さならリヴィーズ様に並ぶ者などおらんよ」
「へ、へぇー。それはもう……凄いとしか……」
「おまけにその時代に存在した魔物全てを従魔としたらしい。演劇などでも大人気なんだぞ」
(○○モンマスターかよ!? テイマー選んどけば良かったか!?)
「だが、リヴィーズ様の後は英雄が生まれなくてだな。従魔使いが強いのではなく、リヴィーズ様という職業なのだ。そう結論付けられた」
「えぇっ? テイマーってもう存在しないんですか?」
「もちろん居るとも。畜産・運送・ペットショップなど、人々の生活に多大な貢献をしてくださっている」
(それ一般市民じゃねーか! 危ねぇ、牧場ライフ始まるところだったわ)
やはり闇が厳しかろうと、俺の選択は間違っていなかったのだ。いや、厳しいという考えもきっと間違っている。言うならば、ロマン。闇はロマン職なのだ。
「おっと、読書の邪魔をしてしまったな。私はこれで失礼する。失礼するが、覚えたと思った内容を忘れることは多々ある。3回は読み返したほうがいいぞ!」
(どんだけ読んで欲しいんだよ)
釘を差されてしまったので、重要そうなところはもう1回読み直すことで手を打とう。熱心すぎる教育者にも困ったものだ。
訓練場に居るのは少年少女と俺を合わせて三人。指導はギルド長がしてくれるようだ。やったぜ。
「冒険者になるからには依頼を元に魔物と戦わねばならない。そのためには攻撃スキルが必須だ。よってスキルを習得する方法を教えよう」
他の人から緊張感が薄れた。習得していないのは俺だけか。
「まずは目を閉じる。そして敵を倒す力を求めるんだ。火の適正を持つなら【フレイム】。風なら【エアブレイズ】。闇なら【ダークネス】だ。それを握り潰すイメージで習得出来るだろう」
暗闇にじわりと浮かび上がってきたのは、【ダークネス】。遠くにあるそれを心の中で手を伸ばし、掴んで握り潰す。砕けた文字が粒子となって自分の中に入ってくる不思議な感覚がした。
【ダークネス】
暗黒の球体を放つ。
「習得出来たようだな。さっそく効果を確かめよう。先にある的をめがけて順番に攻撃してくれ」
まずは少年である。退屈そうに手をかざし、【フレイム】と唱えた瞬間、手のひらから炎の球体が金属の的をめがけて飛んで行く。命中し燃え上がったのは一瞬で、すぐに鎮火した。
次の少女は、どこか緊張した様子だったが、動作に迷いはない。【エアブレイズ】と唱えると、景色が揺らいだと思った次の瞬間には、的に新しい傷が増えていた。少年のスキルより弾速が早く、見え辛いようだ。
「うむ。二人とも問題ない。最後の者は木製の的を使ってくれ」
いよいよ俺の番である。訓練場の端にあるくたびれた木製の的を見据え、準備完了! 人生初魔法……行くぜ!
「【ダークネス】」
囁くように唱えると、黒く光沢のある球体が手のひらから現れた。初めて魔法を使った感動は……すぐに違和感に変わった。弾速が遅い。いつまで経っても、的に届かない。
「ププッ……何あれ……おっそ」
「赤ちゃんのハイハイより遅いなんて……くすくす」
オスガキはいつか埋めよう。メスガキはいつか犯そう。実行するかはさておき、心の安寧を図り、じっとダークネスを見つめ、ようやく着弾した。的が消し飛んでも球体は進み続けている。
「【ドラゴンライトニング】」
ギルド長の指先から放たれた青い雷が、瞬きより早くダークネスに直撃する。それでようやく物騒な暗黒球体は消えた。
(攻撃スキルによる打ち消しね。狙って出来るなら便利だな)
「ギルド長かっけぇ。それに比べてあのおっさん……プププッ」
「わ、笑っちゃダメだよ。闇も当たれば凄い威力なんだから。当たればね」
「私語は禁止と――」
ギルド長の発言を、野太い笑い声がかき消した。いつの間にか随分と外野が集まっている。ある者は口を抑え、ある者は指をさしてバカ笑い。いずれも視線は俺に向けられていた。
(なるほど。ガイルさんが言っていたのはこれか)
ダークネスは基礎スキル。これであの威力だ。木の的を指定された辺り、鉄の的であっても破壊しただろう。人の歩みより遅い弾速は滑稽に見える。当てる手段さえ見つければ中級スキル並の威力はありそうだ。
「黙らんか! 講習の邪魔をする者は降格させるぞ!」
その一喝で場は静まり返るが、美人の眉間にシワが深く刻まれた。おじさんこっちのほうが好き。
「こちらも暇ではない。次に無関係な口を開いた者は帰りたまえ」
氷のように冷たい目はそのままガキ共へと向けられる。いいなぁ、おじさんもワルしとけば良かったよ。
その後は邪魔者もなくギルド長の説明が続き、俺の脳みそはスポンジが如く知識を吸収した。内容は大きく分けて4つだ。
ひとつ、冒険者には階級が存在し、俺たちはHランクからスタート。普通はGランクからだが、見習い期間があるアルバの冒険者ギルドならではのシステムだ。貢献に応じてランクは上がるが、強力な魔物は周辺には基本的に存在しない。
ふたつ、誰かと共通の依頼をこなすいわゆるパーティーを組むのは、Fランクまで禁じられた。個あっての集団であり、個が未熟なまま集団に慣れると、不測の事態に陥ったときに死亡率が跳ね上がるらしい。
みっつ、魔術師が使う魔術や魔法などの単語は、厳密には間違いで、正しくはスキルと呼ぶ。【ダークネス】という魔術ではなく、【ダークネス】というスキル。詳細を知りたければ書庫で学べとのことだった。これ、どうでもいいな。
よっつ、MPを消費して発動する『スキル』の他に、日によって使用回数に制限があるが、MPを消費せず使える『スキル化』がある。習得時に願うことで決定される。取り消しは出来ない。
基礎スキルのように多用し、消費MPも少ないものをスキル化で習得するメリットは皆無なので、的当てのときは説明を省かれたらしい。納得である。
(スキル化するなら中級か上級スキルだな)
講習を終えた俺はダークネスの本質を検証したかったが、外野が多すぎて捗りそうもない。外でのスキル練習は極力避けるようにとのことなので、日を改めて人が居ない時間帯を狙うしかなさそうだ。
(まぁ、クマと間違えて人を撃っちまった猟師の話だと思えば不満もないさ)
クソガキ共は森に直行するらしいが、俺の目的地は書庫だ。知識は金であり力である。いちいち人に聞いてばかりでは迷惑だろうし効率も悪い。見習い特典で書庫が無料のうちに可能な限り知識を蓄えておこう。
(これが書庫ね……期待しすぎちゃったかな)
書庫と呼ぶには本の数が少ない。100冊ほどしかない。おまけに表紙は質素で、まるで文庫本だが、紙の質は悪くなかった。
(これ印刷じゃん。ケバブの件といい、過去にも俺のように転生したやつが伝えた技術が随所にありそうだな。まぁ、便利なら何でもいいや)
目標は見習い期間のうちに書庫を読破すること。そして借金の銀貨5枚を使い切る前に独り立ちして借金返済。成長に応じて王都に行き、同じく転生者である勇者御一行に合流することだな。魔王、勝手に死なねーかなぁ。
静かな空間は集中力を生む。本も分厚いわけではないし、図解もあって実に分かりやすい。しかし使用感がまるでない。それほど常識的な内容なのか、単純に皆が勉強嫌いなのか。
(後者なら本が泣いてるぜ……うぉっ!?)
半開きになった書庫の扉の向こうから、ギルド長が覗いてた。なぜか泣いてるし、嬉しそうでもある。ギルド長……恐ろしい子。
俺と目が合ったギルド長は、目元をハンカチで拭い、何事もなかったかのように近づいてきた。
「どうかね、この書庫は?」
「素晴らしいです。分かりやすくて図解も多い。俺が求めていた知識がここに揃っている」
「そうかそうか。だが、何か不満があるのではないかね?」
(何をそわそわしているんだ? おしっこか? おじさん着いて行こうか?)
「不満……あえて言うなら、本が少ないことですかね。これなら10日と経たずに読破しちゃうと思いませんか?」
「そうか、そうかぁぁぁっ!! 私は嬉しい。君のような勤勉な子がうちに入って来てくれて本当に嬉しい!!」
(テンション高くね? 氷の瞳プリーズ)
「書庫にある本は全て、私の自費出版なのだよ。未来ある若者たちに少しでも役に立って欲しくて……欲しかったんだが……誰も読まなくてな……」
(これ作ったのギルド長かよぉ!?)
なぜ講習中にスキルの詳細を説明しなかったのか? ギルド長は書庫に導きたかったのではないだろうか。頑張って作ったのに誰も読まない本のために。いや、自分のためだな。
「す、スキルの本は良かったですよ。まさか俺たちが使ってるスキルが元は魔術で、かつての大魔導師アルマ・ロダン様が誰でも使えるように改良したものだったなんて、度肝を抜かれましたよ!」
魔法陣もいらないし、長ったらしいほにゃららの闇よ、などといった詠唱をせずに使えるようになった。デメリットとして威力や弾速、効果などの性質を変更することは出来ないのだが、些細なことだろう。
飯を食うとする。店主にさばの味噌煮、白米、漬物、湯豆腐、お吸い物と個別に頼まなければいけなかったものが、Aランチひとつ。これだけで済むのだ。この構築理論が元になり、職業を問わず今のスキルがあるわけだ。
「ふふっ、その本を読んでくれたのは君が初めてだ。学がない子が入って来るんじゃないかと思って用意した物だが……おっと、失礼した」
「いいですよ。何も知らないんで」
「魔導神・アルマ・ロダン様のことを知らない魔術師は君くらいだろうが、お役に立てたようで嬉しいよ」
(あぁ、これって童話とか絵本レベルなのか。リヴィーズ様のマブダチだったりするんだろうか。紹介してくれないかな……はぶてそうだな)
「人が神になるなんて、壮大な話ですよね」
リヴィーズ様はどうも親しみやすいと思っていたが、元は人間だった。ご存命のうちに多大なる功績を認められ、主神アルフレイヤ様によって神というかその職業の管理者に任命されたというわけだ。
(遠い話で実感が沸かないな。うぅむ、係長みたいなもんか?)
元は人なら、生前はどのような方だったのか気になる。しかし何万年も前の話となれば知る人はいない。ならば答えられることを聞けばいいのだ。
「リヴィーズ様って、どれくらい強かったんでしょうね」
「世界最強だと言われている。反論するものが現れないほどに」
(……は? そんな強いのか!?)
「従魔が時を操る古代龍や、南国を永久凍土に変えた氷狼。もう魔物と言うより天災だろう。どちらも死後、種族を束ねる神になったと聞く。純粋な強さならリヴィーズ様に並ぶ者などおらんよ」
「へ、へぇー。それはもう……凄いとしか……」
「おまけにその時代に存在した魔物全てを従魔としたらしい。演劇などでも大人気なんだぞ」
(○○モンマスターかよ!? テイマー選んどけば良かったか!?)
「だが、リヴィーズ様の後は英雄が生まれなくてだな。従魔使いが強いのではなく、リヴィーズ様という職業なのだ。そう結論付けられた」
「えぇっ? テイマーってもう存在しないんですか?」
「もちろん居るとも。畜産・運送・ペットショップなど、人々の生活に多大な貢献をしてくださっている」
(それ一般市民じゃねーか! 危ねぇ、牧場ライフ始まるところだったわ)
やはり闇が厳しかろうと、俺の選択は間違っていなかったのだ。いや、厳しいという考えもきっと間違っている。言うならば、ロマン。闇はロマン職なのだ。
「おっと、読書の邪魔をしてしまったな。私はこれで失礼する。失礼するが、覚えたと思った内容を忘れることは多々ある。3回は読み返したほうがいいぞ!」
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