ブサイクは祝福に含まれますか? ~テイマーの神様に魔法使いにしてもらった代償~

さむお

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ぼったくられてクロノ死す

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「冒険者に向いてないってどういうことですか!?」

「闇の魔術スキルは使い勝手が悪いんだ。初級スキル【ダークネス】は威力が高いが弾速が遅い。まず当たらない。中級スキルも癖が強くて使いこなすという表現を躊躇うほどに不便なものだ」

「それなら光の魔術は!?」

「傷を癒やす【ヒール】や、状態異常と体力を回復する【メディック】などが便利だ。光の攻撃スキルはゴーストタイプには無類の強さを誇るが、魔物が相手では有効とは言えないな」


 なんてこった。ギルド長の説明だけで悟ってしまうほどの弱さ。これも代償だと言うのか……? いや、無知故の選択ミスか。


「他の魔術師は!? 闇の適性を持った魔術師がきっと――」

「闇のスキルは一切使っていない。もうひとつの属性で戦っているが、不利なのは間違いないだろう。君は闇と光だからこちらも参考にはならない」


 闇に活路はないのか。きっとあるはずだ。やる前から諦めてどうする、俺。


「……魔術師はサモンスキルもある。倒したことのある魔物の種族を呼び出して戦わせるスキルだ。ただし、召喚中は一切の経験値を得られない。召喚された魔物がレベルアップすることもない」

「……は? 経験値ゼロ……?」

「そういうスキルだ。使い所は多いが、サモナーは強くなれない。おまけに召喚する魔物の種族ごとに召喚スキルを習得しなければならず、SPが足りない」


 詰んだ。どっちになっても未来はない。頭では分かっている。それでも俺は、納得出来るだけのことをしていない。


「……俺は、不合格ということでしょうか?」

「合格も不合格もない。一人の人間として、君を心配している。危険な冒険者にならずとも、神殿に所属して聖職者になれるように私が口添えをしよう。市民権も無料で得られるし、衣住食も保証される」


 聖職者になるのが得なのは間違いない。だが、俺はリヴィーズ様に受けた恩を返していない。世界はどうでもいいが、これは譲れないんだ。素直は美徳? クソ食らえだ。ギルド長にも冒険者として恩返ししてやる。


「冒険者として、やるだけやらせてください。引き際は自分で決めます」

「そうか、そうだな。やってみるといい。手続きはハーゲルに頼んでくれ。掃除も終わった頃だろう」


 そういえば仮眠中に起こされたんだったか。忙しいのに俺なんかに親切な対応をしてくれたのだからこれ以上、甘えるわけにはいかないな。


「最後にこれだけは言わせてくれ。私はギルド長として君に一切の便宜を図ることはないが、いち個人として応援しているよ」


 合格したのにお祈りをいただきました。きっと見返してやるさ。ドヤ顔でな。



 掃除を終えたハーゲルに事情を説明し、書類に先ほど見たデータを書き込む。文字の勉強から始めなくて済んだのはありがたい。世界様が上手い具合に変換してくれているのだろう。


「なぁ、本気で冒険者になるつもりか?」

「なりますよ。やる前から諦めてどうするんですか。それに、男なら強くなりたいでしょう?」

「ふっ、違いねぇ。書類に不備はなし。今からお前は冒険者見習いだ」

「見習い? 俺が弱いからですか?」

「うちのギルドは特別でな。見習い期間を設けて冒険者の基本を叩き込むんだ。
見習い特典として30日間、無料で部屋を借りれる。利息なしで銀貨5枚まで借りれる。どうだ、凄ぇだろ? 無一文くん?」

「冒険者ギルドバンザーイ!! ところで、銀貨5枚っていかほどの価値が?」


 頬杖をついていたハーゲルが机に突っ伏した。知らないものは知らない。聞くなら早いほうがいいし。


「銅貨1枚で100ルフ。パンが買える。中銅貨1枚で1000ルフ。安宿で一泊出来るぞ。銀貨1枚で10000ルフ。安い武器が買える。金貨は、お前がもし手に入れたら教えてやろう」


 銅貨100枚イコール銀貨1枚ね。この法則は金貨も同じだな。ふたつの袋を差し出され、片方には銀貨が4枚。もう一方には銅貨100枚。ずしりと重い。紙幣がないと不便だな。


「あとは部屋に案内しないといけないんだが、俺も忙しくてな。誰かさんを見て受付嬢が気絶からの早退キメちまってよ。地図を書くから待ってろ」


 悲鳴を上げた受付嬢か。見ないと思ったら気絶していたとは。これから世話になるかも知れないし、釘を差しておくか。


「きっと貧血でしょう。精の付く物を食べて安静にするようお伝えください。また倒れたときは看病に行く、とも」

「いい根性してやがるぜ。伝えないでおいてやるよ。ほら、地図だ。迷うんじゃねぇぞ。明日の正午から始まる講習には必ず参加しろよ」


 地図を頼りに辿り着いた物件は、ギルドから徒歩5分。木造建築のワンルーム。キッチンなし、家具はベッドのみ。風呂とトイレは共同でまさしくボロアパートと言ったところだ。


 問題は風呂の使い方が分からない。浴槽なし、シャワーなし、蛇口なし。曇った鏡と小さな排水口のみ。水はそのうちどうにかするとして、せっかく鏡があるのだから自分の御尊顔を拝見しようじゃないか。


「……普通じゃね? 若い頃の顔だわ。懐かしいなぁ」


 ブサイクの祝福は自分には適応されない。それが分かっただけ収穫だ。


「……腹減ったし飯にすっか。ついでに市場調査と行きますか」


 賑わう市場も俺が来ると一瞬静まり返る。将軍のお通りである。道を開けよ。自然に開けていく道を歩きながら市場を見渡すと、どの食べ物も予想より大きくて安い。悩んだ末にケバブらしき食べ物を見つけて店長に声をかけた。


「ケバブひとつください」

「……銀貨1枚だ」


 なぜケバブがこの世界にあるのかは知らないが、店の案内には銅貨1枚と書かれている。それが銀貨1枚だと? なるほど、俺に売るつもりがないのか。それならこっちにも考えがある。


「えぇ!? 銀貨1枚もするの!? 流石に高すぎるよ!!」

「はっ、嫌なら別の店に行きな」


 店主の意思確認は終わった。確実に嫌がらせだな。俺も本気出すわ。最大の声量で猛烈に抗議する。


「ケバブひとつで銀貨1枚!? ぼったくりじゃないか!!」

「うるせぇ。さっさと失せろ。他の客に迷惑だろうが」


 分かってるじゃないか、ご主人。だから俺は止めないんだよ。お店の名前も頭に入れたし。


「他の客には銅貨1枚で売って、俺には銀貨1枚だって!? ローランのケバブ屋は客を選んで値段を変えるのか!!」

「うるせぇ! これ以上騒ぐなら衛兵を呼ぶぞ!!」


 効いてる効いてる。騒ぎが長引けば人だかりも増えてくる。俺の味方は元から居ないが、看板を掲げてるお店にはさぞ痛手だろうな。


「……何の騒ぎだ!? お、お前はブサイクロノじゃないか!」


 人だかりを掻き分けるように現れたのは門番のガイルさんだ。ひょっとして衛兵もやってるのか。ご苦労さまです。そして待ってましたっと。


「衛兵さん、このブサイクを営業妨害で捕まえてくれ!」

「ガイルさん、お互いに言い合っては聞き手として困るでしょう。まずは俺の話を聞いて貰えますか?」

「むっ、そうだな。まずはお前の話を聞こう。何があった?」


 ガイルさんに事情を説明すると、目をつぶって険しい顔をしている。取り締まる側の門番として落とし所を探しているのだろう。


「ご主人、銅貨1枚で売られている商品が、なぜこいつだけ銀貨1枚なんだ?」

「こいつが近づいただけで客足が遠のいた。損失を埋めて貰うのさ」


 その金勘定は商人としてある意味で正しいが、ド三流だな。もうこれ、俺の勝ちじゃないか。煽りがいのない男だ。


「ご主人の考えは分かった。商品の取引は店と客、両者合意の元に行われる。ブサイクロノは他の店を探してはどうだ?」

「門番さんの言う通りだ。今すぐ失せろ!!」


 ガイルさんの人柄は分かった。いざ事が起きればともかく、この程度の揉め事では誰も罰したくないのだろう。優しく誠実な人だ。だから、あえて言わせて貰うとしよう。


「いいえ。ここで買います。銅貨1枚で売ってくれるまで、何度でも訪れます。何時間でも並びますよ」

「ブ、ブサイク……てめぇ……まさか」

「おや? 顔色が悪いですよ。体調不良なら今すぐ閉店してお休みになられたほうがよろしいかと。また明日、買いに来ますから」


 お前が売るまで店に来るのを辞めない。俺が近づくだけで客が逃げるのだ。その損失は一体いくらになるだろうな。


「ふむ、確かに顔色が悪いな。店じまいをしたくて銀貨1枚と言ったのか?」

「あ、あぁ……実はそうなんだ。どうにも調子が悪くてよ。店じまいするつもりだったんだ。自慢のケバブは冷めちまってるし、明日にでもアツアツ最高のケバブを食って貰いたくて銀貨1枚なんて言っちまったんだよ」

「そうか。気づいたからいいものの、そのような対応は関心しないぞ」


 糾弾は必要ない。俺は腹が減った。落とし所を提示して、さっさと帰りたい。


「食品を扱うお店としては、体調不良により衛生面を疑われたく無かったのでしょう。私の勘違いでご迷惑をおかけしました。冷めたケバブで構いませんので、ひとついただけますか?」

「ま、毎度あり……」


 銅貨1枚を置き、ケバブをひとつ取る。冷めただ体調不良だと言ったしょうもない嘘がなければガイルさんにもご馳走したのだが、仕方ない。用事も済んだしこの場から去るとしよう。


「うん、美味い」

「美味そうな顔をしていないぞ」

「冷めてますからね。しばらくケバブはいいかな……」

「……なぜ、あそこまで食い下がった? 騒ぎが大きくなれば牢屋に入れられることもあるんだぞ」

「俺はね、途中からケバブなんてどうでも良かったんですよ」

「だったら――」

「俺が近づくだけで客足が遠のくなら、店の理想は俺の排除。だけど俺が折れないとなると、居着かれたほうが損。素直に売ってさっさと帰って貰うのが最善。あれだけ騒げば他の店も分かるでしょう」

「むっ……必要な揉め事であったと」


 今後のことは分からないが、しばらくはアルバで暮らすことになる。他店があの店のように購入拒否の対応をしてくると、今後の生活に支障を来す。だからあのとき、あの場で俺はどうしてもケバブを買わないといけなくなった。


「はい。今後はガイルさんに迷惑はかからないと思います」

「難儀なことだな……」

「俺は店に愛想もおまけもアフターサービスも求めてない。欲しい商品を適正価格で売ってくれれば満足です」

「そう寂しいことを言うな。今は来たばかりで知人は居ないだろうが、俺で良ければ力になろう」


 現代人なら普通の考えだが、ここではそんなものか。


「そうそう、風呂ってどうやって使うんですか?」

「ん? お前は魔術師だろう? 生活魔法について聞かなかったのか?」

「事情があって忙しそうでしたからね。聞きそびれました。ところで、どうして俺が魔術師だと?」

「お前を案内したのは俺だ。ギルド長に聞きに行っただけのこと。それで、生活魔法についてだが、習得せずとも誰でも使えるスキルだ。【ウォーター】」


 ガイルさんの手から水が流れ落ちる。まさに魔法だ。テンション上がるぜ。俺もさっそく唱えてみると、出るわ出るわ……止まらないね!?


「止めるときは拳を握り締めるんだ。【イグニション】で種火も出せる。お前が借りた部屋は火気厳禁だが、野営をするときに使えばいい。お前は魔術師だから生活魔法でMPに困ることはないだろう」


 ガイルさん、あんたカッケーよ。門番なのに魔術師より魔術師っぽいよ!


「……いい顔をしているな。どうもお前には教えがいがあってついつい話をしてしまうな」

「いやぁ、ガイルさんの説明がお上手だからですよ。ハーゲルさんはつまらなさそうにしているので聞き辛くって」


 この世界の常識は俺にとって目から鱗である。槍の恐怖に負けて記憶喪失だと言ったときはやらかした感が凄かったが、これで良かったのだ。


「……少し、独り言を呟こうと思う。お前は明日の講習で大恥をかくだろう。それからどうするかはお前次第だ……ではな」


 独り言なのだから返事はしない。ただ心構えだけしておけばいい。誰も通ったことのない道を選んだんだから、むしろ早く明日になれとさえ思った。
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