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半龍人シャロン

箱入り娘

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 『乙女おとめ槍隊ヤリたい』として活動することになったリサたちに、さっそく指名依頼が舞い込んだ。


「家出したお嬢様を連れ戻せ、だってさ。どうする?」
「ココン? パーティーはなんでも屋じゃない」
「天使としては、困った人が居るなら助けたいが。リサに任せるよ」
「んー、コンちゃんの言い分はごもっとも♡ でも、報酬が破格なんだよね」
「ココン? 時は金なり……5000万!? 5000万!?」
「成功報酬だけどね。捜索範囲は王都トカイのみ。かなり美味しいと思うんだ」
「受ける。人探しはコンの得意分野」
「決まりだな。では、行くとしよう」


 先立つものがなければ旅は続けられない。
 美味しい報酬につられて目的地にのこのこやってきたリサたちは、ご立派な建物を見上げていた……。


「わーお。さすが家出娘に5000万出すだけあるね」
「門が大きい。たぶん、商人の家? 店?」
「入れば分かるさ……すまない、依頼を受けた『乙女おとめ槍隊ヤリたい』だ。通してくれ」
「お待ちしておりました。案内させていただきます」


 礼儀正しい小綺麗な青年に案内されて、依頼主とご対面。
 見たところ、冴えないおじさんのようだが……。


「よく来てくれた。依頼の通り、家出した娘を連れ戻して欲しいのだが……」
「なぁに? 歯切れが悪いけど。やっぱなしとか?」
「いや、俺は娘の父なのだが、依頼主に紹介するには身なりがちょっと……」
「??? 父親なのに依頼主は別なの?」
「うむ、複雑な事情がある。実は――」


 この冴えないおっさんは今でこそ富豪だが、昔は破産寸前だった。
 資金繰りに困ったおっさんは、娘を嫁に出すことを条件に、資金提供を受けた。
 そして、娘が適齢期になったので出資者に引き渡すつもりが……。


「娘のシャロンが嫌がってな。逃げられてしまった。このままでは一家が路頭に迷う」
「迷えば良くない?」
「そう言わないでくれ。他に方法がなかったんだ」
「俺は女の子の味方だからなぁ。いくら報酬がよくても、限度があるよ」
「俺もシャロンの父だ。何かと考えた。それでもだ、伯爵様の嫁になるほうが幸せになる」
「ふーん? 帰っていい?」
「せめてシャロンの説得だけでもして欲しい。破談になるにせよ、伯爵様に直接お会いして謝罪するのが筋だろう!?」
「分かったよ。説得できなかったら降りるね」
「助かる。少し活発なところがあるが、大事な箱入り娘なんだ。家出した娘が王都から出ないのも、恩義を感じて迷っているからだろう。君たちは女の子だし、警戒されにくいと思うんだ」


 娘の特徴を渡されたリサたちは、屋敷を出て捜索を始めたが……。


「赤髪のお嬢様のシャロンねぇ。きっと背が低くて、守ってあげたくなるようなお嬢様だと思うんだけど……どうやって探せばいいやら」
「コンに任せて。くんくん……こっち」
「さすがコンちゃん♡ 頼りになる♡」
「コンは頼りになる」


 コンが匂いをたどり、リサがコンのしっぽを追いかけ、レアが周囲を見渡す。
 そうしてやってきたのは、いかにもヤバそうな裏路地への入り口だった。


「ココン。この奥に匂いが続いてる」
「コン殿を疑うわけではないが、もしそうなら時間がない」
「コンちゃんの鼻を信じなさい♡」
「いや、犯罪に巻き込まれているかもしれない。箱入り娘が、こんな犯罪者の巣窟のような場所に自ら入るとは思えない。私たちも危険だが、早く保護しなければ」
「やだぁ、コンちゃん怖い♡」
「怖くない。コンがついてる」


 わざとらしくコンに抱きつくリサを、コンがなだめる。
 百合百合ゆりゆりな空気が流れ始めたとき、いきなり男が飛び出してきて、コンはぶっ飛ばされた。


「ココーン!?」
「コンちゃぁぁぁん!?」
「コン殿ぉぉぉ!? おい、貴様!! どこを見て歩いて……この男、気絶してないか?」


 コンをぶっ飛ばした男は、逃げるでもなく、その場で気絶していた。


「ココン? コンが強すぎた……?」
「うんうん、そうだね♡ あの鎧、エグい凹みかたしてるなぁ」
「鈍器のようなもので殴り飛ばされたか。かなりの強者だが――」
「おーっほっほっほ!! わたくしを口説くなんて、100年早いですわっ」


 高笑いとともに路地裏から現れた女は、リサたちが探していた家出娘だった。
 ワインレッドの長髪に、緩やかなウェーブがかかっている。
 仕立てのいい赤と黒のドレスには、急所を守る鎧が付いていた。


「あら? あなた達、こんな吹き溜まりに居ては危ないですわよ? 送って差し上げましょうか?」
「地獄に……?」
「心外ですわねぇ。そこの男は暴漢野郎なのですから、ぶっ殺して差し上げただけですわ」


 このお嬢様は、血の気が多すぎる。
 出会う前のイメージが音を立てて崩れたリサは頭を抱えた。


「おかしいなぁ。箱入り娘って言ってなかったっけ? 思いっきり武闘派じゃん」
「ココン……強い」
「あれはバトルドレスか。また珍しいものを。探していたお嬢様で間違いないだろう」


 バトルドレスは、おしゃれと性能を両立させた、オーダーメイドの防具だ。
 貴族令嬢が式典など堅苦しい場で身につけることが多いが、実用性はある。
 ぶっちゃけレアより高い最高級品だ。


「あなた達、お父様の依頼で来たのね? わたくしは家に帰るつもりも、あのブタ野郎と結婚するつもりもなくってよ」
「そんなこと言わずに、話くらい聞いてよー」
「もしどうしても連れ戻したいなら、力を見せることですわね!!」


 拳に付けたガントレットを打ち鳴らし、構えを取るお嬢様。
 見た目からは高貴さが漂うのに、性格がヤンキーすぎる……。


「レア、いける? あのレディースを生け捕りにしたいんだけど?」
「武闘家《モンク》に素手で勝つのは難しい。討伐なら別だが……」
「そこのあなた……威勢がいいですわね。わたくしと戦ってみない?」
「それを決めるのは、私じゃない」
「つれないですわねぇ。楽しみま……しょう!!」
「くっ……斬らねば分からんか?」


 人がせっかく穏やかに接していたのに、お嬢様はレアに殴りかかった。
 盾で受け止めたレアだったが、騎士道精神に反する不意打ちに苛立つ。


「あー、もう!! お話しよっか♡」


 リサは空気を読まず、お嬢様に抱きつきながら、そう言った。
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