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第七話 花言葉
しおりを挟む『今度、逢う時に鈴蘭の花言葉を教えてあげるね』
ーー 嘘つき。
紅葉の言葉に、彼女の視界は暗く歪んでいった。黒い渦が、彼女を飲み込んでいった。
「もう、いないの・・・」
「はい・・・でも、兄は最後まであなたのことを想っていました・・・兄はあなたの・・・「嘘つき」
思わず、紅葉の言葉を遮ってしまった。
「嘘つき嘘つき嘘つき嘘つきっ!!!!!!!!!!!!!」
突然、立ち上がり襖の向こうでマフラーを預けていた妖からマフラーを奪ってそのまま外へと逃走した。
「また、金魚が逃げ出したぞーーーッ!!」
彼女は、必死に走った。
『この先にね、橋があるんだ。そこから見える月はとても美しいんだよ。次、逢う時はそこへ連れて行ってあげるからね』
ーー あの言葉は・・・あの約束は・・・嘘だったのですか。
下駄の鼻緒が切れた。そのまま、彼女は勢い良くコケてしまった。
華梅の追手たちが彼女を捕まえに来た。
片手には、愛しい人からもらったマフラー、もう片方には紅葉からもらった竜胆からの手紙。
『鈴蘭は、雪女なのに冷え性なんだね・・・ほら、コレをあげる。これでもう、寒くないだろう?』
そのまま、身動きが取れなくなってしまった彼女は追手たちにあっさりと捕まってしまう。
『鈴蘭は、俺が守るよ』
脳裏に通り過ぎる竜胆の笑顔に、思わず彼女は叫ぶ。
「嘘つきッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「ぐはっっ!!」
突然、彼女の体が自由になった。ふと、後ろを向くとそこには竹刀を持った紅葉の姿があった。
「彼女は、僕が守ります」
ーー なんで・・・なんでなのですか?なんで、私には、不幸しか訪れないのでしょう。辛い、悲しい、寂しい・・・。でも、そんな私にも貴方様がいてくださったからここまで、私は生きて来れたのです。貴方様に出逢えたおかげで、この世界を愛することができたのです・・・なのに、こんなお別れズルいではありませんか・・・。
自分の為に戦っている紅葉を見て、思わず涙が溢れてしまう。マフラーと手紙を握りしめて、涙を流す。
その時、しぐれで待機していた葉月と鞍馬が無気力な鈴蘭を立たせてその場から離れた。
場所は、自然と鈴蘭と竜胆がいつか行こうと約束をしていたあの橋の上だ。
「ここまで、来れば大丈夫!!鈴蘭さん、大丈夫??」
「なんで、助けたのさ・・・」
「え?」
「あの人がいない今。私は、生きている価値などないっ!!」
片を付けてきた紅葉が、後を追ってきた。
「あの方が・・・竜胆様がいないこの世界なんている価値などないっ!!」
ーー パチンッ!!
彼女の頬に鈍い痛みが広がった。彼女の頬を叩いたのは、葉月だ。葉月は、大きな瞳から大粒の涙を流しながら彼女を抱きしめた。
「生きてっ!!価値なんかなくても生きてっ!!生きないとっ!!りん兄は、何を望んでいたの?あなたの鈴蘭さんの笑顔を望んでいたんじゃないの?!」
「それは・・・」
思い出したかのように紅葉が声を出す。
「あ、思い出した。鈴蘭って兄が大好きだった花の名前だ・・・」
「花言葉っ!!花言葉は?!」
それに食いつく鈴蘭。
「えっと・・・確か・・・『再び、幸せが訪れる』」
その瞬間、彼女の目から涙が溢れだした。
ーー あの方は、これを伝えたかったんだ。
鞍馬が、鈴蘭が落とした手紙を手に取り音読し始める。
「愛しい人、鈴蘭へ。手紙を書くなんて数年ぶり過ぎて少し照れるものだね。さて、鈴蘭・・・キミはいつも眉間にしわを寄せてこの世が嫌いだと言っていたね。俺も、同じだった・・・この世の中が嫌いで嫌いで仕方なかった。でもね、今は不思議と少しこの世の中のことを好きになれたよ。それも、全て鈴蘭のおかげだ。キミと出逢えた、キミを愛することができた。鈴蘭、今がどんなに辛くて、悲しくて、寂しくても生きてくれ・・・再び、幸せが訪れるよ。僕は、もうすぐ死んでしまうだろう・・・でも、心はいつもキミの傍にいる・・・何が遭っても俺は、秋里 竜胆は・・・鈴蘭を愛してる。いつまでも、キミの幸せを祈って見守り続けているからね。次は、きっともっといい人がキミを守ってくれる・・・。大丈夫さ・・・。愛を込めて、秋里 竜胆」
鈴蘭は、涙が止まらなかった。ふと、夜空を見上げるととても美しい満月が四人を照らしていた。
「本当ね・・・綺麗だわ・・・」
初めて、この時鈴蘭は心から笑えた気がした。
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