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取引23件目 期間限定白子ポン酢味
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「幻中くんは、明るく元気な女性に惹かれたやすいんだな」
「え、なんのことすか」
全く心当たりがない。百鬼さんは明るく元気ではなくて、クールな人な気がするんだけどな。
「以前、不破さんにしつこく誘われていた時も満更じゃなかったじゃないか。私とのルールがなければ行っていただろう?」
そんな事ないですよ、俺はあの人苦手なんで。
「え、若干嫉妬されてる……と捉えていいやつ?」
「ユメ、多分考えと発言が逆」
「嫉妬!? いや、なぜ私が嫉妬するんだ、そ、そんな必要なんてないだろう」
ガバッと顔を俺たちからそむけるが、耳は赤く熟れている。
口が滑ってしまったが、この反応を見れただから不幸中の幸いだな。
「やっぱラブコメしてる! いいな! 羨ましいな!」
「してない、なんだ揶揄いに来たのか福原さんは」
「いやいやぁ、そんな事ないですよ? ラブコメの波動を浴びに来ただけですから!」
「それを世間一般では揶揄ってるって言うんだ、用は済んだろ? もう帰る時間だ」
今日はもう疲れた、めぐるの相手をできるほど体力が残っていない。
だから、もう今日はお引き取り願おう。
「また来るぜ」
「間に合ってるんで大丈夫」
「気をつけてな。街には危険がいっぱいだからな」
素直に帰り支度をするめぐるに、親戚のような優しさを振り撒く百鬼さん。中身が百鬼さんってだけで、唄子の声もクールに聞こえるの不思議だな。
「百鬼部長が言うと説得力すごいですね」
「おいこらめぐる、不謹慎だろうが」
「すみません……」
めぐるは昔からこうだ、思ったことを素直に言う。
それが、正解でも不正解でも。
だが、言った後に不正解だと気づけばちゃんと謝れる。
「大丈夫だ、構わない。私の経験で誰かの教訓になるならそれが本望だ」
「百鬼さんはもう少し自分を大事にすべきじゃないすかね?」
この人は自己犠牲が強すぎると思うんだ。
「百鬼部長が自分自身を大事にしてないなら、ユメが大事にすればいいだけだぜ? ですよね、百鬼部長」
「ああ、ぜひ大事にしてもらおうじゃないか?」
「面白がってますね完全に」
百鬼さんとめぐる。実は俺にとっては混ぜるな危険な組み合わせなんじゃなかろうか。
「じゃあそろそろ帰るわ。ユメ、これからもラブコメ展開楽しみにしてるから逐一報告な」
「うるさいはよ帰れ。気をつけてな」
騒々しく部屋を出ていくめぐるは、どうやらリビングにいる両親に挨拶してから帰るようだ。
リビングでは母さんとめぐるの笑い声が聞こえていた。
「随分と明るい子だったな」
「すみません、休日なのに騒がしくて。俺があいつに言わなければこんなことには……」
万が一のためにと最善を尽くしたが、こんな騒がしさになるなら言わないほうが良かったかもしれないな。
「嬉しかったぞ。幻中くんが私のために手を打ってくれてたんだなってわかって」
「そすか……ならよかったす」
少しむず痒いような感覚に陥る。
染めた頬で照れる表情でそんなこと言われたら、男なら誰だってときめくだろう。
でもなぁ……妹なんだよな……。
「あ、そういえば百鬼さん」
「どうした?」
俺は今日の病院での出来事を思い出した。
百鬼さんが助けた少女のことを。
「あの日、百鬼さんが助けた女の子と会いましたよ」
「怪我はなかったか?」
「ええ、元気に健康でしたよ」
百鬼さんに、あの子のメンタルが弱ってたことは伝えなくていい。
ただ、あの子が無事でいることだけを伝えたかった。
「そうか……本当に良かった……」
「そうすね。感謝してましたよ」
「そうか、できれば直接無事な姿を見たかったな」
少女が無事なことが本当に嬉しいんだろうな、少し涙目だ。
「目を覚ましたら直接感謝を告げたいそうっす」
「なら早く目覚めないとな。唄子ちゃんの社会復帰に手を抜くわけにはいかないが」
百鬼さんは決意を改めて固めたように、芯の通った声で言葉を発していた。
「俺にできることがあったら言ってくださいね、お兄ちゃんなんで」
「ああ。頼りにしているぞ、お兄ちゃん」
俺も決意が固まった。できることは全部やる。
今までは別に、無理してまで腐った社会に復帰する必要性を感じていなかった。だが、百鬼さんがやると決めたんだ。それに唄子も社会復帰をする覚悟はある。
だったら、部下として、お兄ちゃんとして奮起せざるを得ないだろ。
まずは唄子が百鬼さんの仕事を通して学ぶことが最優先。だから俺は百鬼さんに雑務の処理が回ってこないように、いつも以上にこなすとしよう。
それだけ決めて、あとはもう考えないことにした。
休日に仕事のことを考えると幸運値が急激に下がっていく気がする。
***
めぐるが来訪したくらいしかトラブルが起きなかった週末はあっという間に過ぎて、もう週の真ん中を過ぎていた。
「ぬはぁ……死ぬる……」
雑務を率先して引き受ける様子をカズさんたちに心配されながらも、新規問い合わせ対応などもこなして俺の体はとっくに悲鳴を上げていた。
「お疲れ様。珍しいですね、幻中くんがそんなに疲弊してる姿」
「あ、お疲れ様です。別府さんは相変わらず余裕の表情っすね」
「僕は家に帰れば愛する妻に労ってもらえるからね」
カフェで少し休息を取ろうと席で項垂れている俺に、紙コップに入ったブレンドコーヒーをご馳走してくれるこの人は、総務部の別部倫也。
爽やかな短髪に、スーツ越しに伝わる筋肉。
物腰の柔らかなこの人は、誰彼構わず優しくとてもモテモテ。社内一モテていると言っても過言じゃない。
だが、この人は愛妻家。付け入る隙がない男としても有名な人だ。
「でも幻中くんもそういった人を見つけたのかな? 僕が妻と結婚する寸前のような雰囲気を感じるよ」
「全然っすよ。ただ、頑張る理由はできたっすね」
「いいね、若さを感じるよ。でも無理は禁物だよ?」
マイルドな表情で男相手にもイケメンオーラを振り撒き、この人はさも当然と言わんばかりに優しさも振り撒く。
「疲れたらいつでも言ってね、話くらいは聞けるからさ。肩の力抜いて頑張ろ」
「うす、あざす。なんかそう言ってもらえるだけで気持ちが楽になった気がするっす」
颯爽と現れ、コーヒーと優しい言葉をくれた別府さんは、ひらひら背中越しに優雅に手を振りながら去っていった。
これが大人の男……!
できれば将来は別府さんのような、一人の女性を愛してその人のために頑張れる、余裕のある男になりたいな。
小さくなっていく背中を見て感化され、俺はもう少し頑張ってみようと思った。
コーヒーを一口含み、気持ちを落ち着けてから自分のデスクへと戻った。
「大丈夫か? 死にそうな顔でデスクを立ったのが心配でな」
「チルしたんで大丈夫す」
「そうか、ならいい。あまり無理しすぎるなよ」
「うす」
紙コップを持参しているコースターの上に置いて、カタカタとキーボードを叩く。後三十分程度はこのモチベーションを維持できそうだ。
「幻中さん、お疲れ様です!」
「あ、不破さん。お疲れ様です、どうしたんすか?」
ここ数日、意味もなく不破さんが話しかけてくることが増えた。部署近くまで寄った際に声をかけてくれているらしい。
ここまで不自然だと、この人俺のこと好きなんじゃ? とか思ってきてしまうよな。一切靡かないが。
「これ、期間限定のお菓子なんですけど、幻中さん好きそうなんで上げちゃいます」
「そすか、あざす」
渡されたのは、ポテトチップスの白子ポン酢あじ。これは新手の嫌がらせだろうか、俺は白子が大の苦手だ。
「じゃあアタシはこれで」
「うす」
「え、なんのことすか」
全く心当たりがない。百鬼さんは明るく元気ではなくて、クールな人な気がするんだけどな。
「以前、不破さんにしつこく誘われていた時も満更じゃなかったじゃないか。私とのルールがなければ行っていただろう?」
そんな事ないですよ、俺はあの人苦手なんで。
「え、若干嫉妬されてる……と捉えていいやつ?」
「ユメ、多分考えと発言が逆」
「嫉妬!? いや、なぜ私が嫉妬するんだ、そ、そんな必要なんてないだろう」
ガバッと顔を俺たちからそむけるが、耳は赤く熟れている。
口が滑ってしまったが、この反応を見れただから不幸中の幸いだな。
「やっぱラブコメしてる! いいな! 羨ましいな!」
「してない、なんだ揶揄いに来たのか福原さんは」
「いやいやぁ、そんな事ないですよ? ラブコメの波動を浴びに来ただけですから!」
「それを世間一般では揶揄ってるって言うんだ、用は済んだろ? もう帰る時間だ」
今日はもう疲れた、めぐるの相手をできるほど体力が残っていない。
だから、もう今日はお引き取り願おう。
「また来るぜ」
「間に合ってるんで大丈夫」
「気をつけてな。街には危険がいっぱいだからな」
素直に帰り支度をするめぐるに、親戚のような優しさを振り撒く百鬼さん。中身が百鬼さんってだけで、唄子の声もクールに聞こえるの不思議だな。
「百鬼部長が言うと説得力すごいですね」
「おいこらめぐる、不謹慎だろうが」
「すみません……」
めぐるは昔からこうだ、思ったことを素直に言う。
それが、正解でも不正解でも。
だが、言った後に不正解だと気づけばちゃんと謝れる。
「大丈夫だ、構わない。私の経験で誰かの教訓になるならそれが本望だ」
「百鬼さんはもう少し自分を大事にすべきじゃないすかね?」
この人は自己犠牲が強すぎると思うんだ。
「百鬼部長が自分自身を大事にしてないなら、ユメが大事にすればいいだけだぜ? ですよね、百鬼部長」
「ああ、ぜひ大事にしてもらおうじゃないか?」
「面白がってますね完全に」
百鬼さんとめぐる。実は俺にとっては混ぜるな危険な組み合わせなんじゃなかろうか。
「じゃあそろそろ帰るわ。ユメ、これからもラブコメ展開楽しみにしてるから逐一報告な」
「うるさいはよ帰れ。気をつけてな」
騒々しく部屋を出ていくめぐるは、どうやらリビングにいる両親に挨拶してから帰るようだ。
リビングでは母さんとめぐるの笑い声が聞こえていた。
「随分と明るい子だったな」
「すみません、休日なのに騒がしくて。俺があいつに言わなければこんなことには……」
万が一のためにと最善を尽くしたが、こんな騒がしさになるなら言わないほうが良かったかもしれないな。
「嬉しかったぞ。幻中くんが私のために手を打ってくれてたんだなってわかって」
「そすか……ならよかったす」
少しむず痒いような感覚に陥る。
染めた頬で照れる表情でそんなこと言われたら、男なら誰だってときめくだろう。
でもなぁ……妹なんだよな……。
「あ、そういえば百鬼さん」
「どうした?」
俺は今日の病院での出来事を思い出した。
百鬼さんが助けた少女のことを。
「あの日、百鬼さんが助けた女の子と会いましたよ」
「怪我はなかったか?」
「ええ、元気に健康でしたよ」
百鬼さんに、あの子のメンタルが弱ってたことは伝えなくていい。
ただ、あの子が無事でいることだけを伝えたかった。
「そうか……本当に良かった……」
「そうすね。感謝してましたよ」
「そうか、できれば直接無事な姿を見たかったな」
少女が無事なことが本当に嬉しいんだろうな、少し涙目だ。
「目を覚ましたら直接感謝を告げたいそうっす」
「なら早く目覚めないとな。唄子ちゃんの社会復帰に手を抜くわけにはいかないが」
百鬼さんは決意を改めて固めたように、芯の通った声で言葉を発していた。
「俺にできることがあったら言ってくださいね、お兄ちゃんなんで」
「ああ。頼りにしているぞ、お兄ちゃん」
俺も決意が固まった。できることは全部やる。
今までは別に、無理してまで腐った社会に復帰する必要性を感じていなかった。だが、百鬼さんがやると決めたんだ。それに唄子も社会復帰をする覚悟はある。
だったら、部下として、お兄ちゃんとして奮起せざるを得ないだろ。
まずは唄子が百鬼さんの仕事を通して学ぶことが最優先。だから俺は百鬼さんに雑務の処理が回ってこないように、いつも以上にこなすとしよう。
それだけ決めて、あとはもう考えないことにした。
休日に仕事のことを考えると幸運値が急激に下がっていく気がする。
***
めぐるが来訪したくらいしかトラブルが起きなかった週末はあっという間に過ぎて、もう週の真ん中を過ぎていた。
「ぬはぁ……死ぬる……」
雑務を率先して引き受ける様子をカズさんたちに心配されながらも、新規問い合わせ対応などもこなして俺の体はとっくに悲鳴を上げていた。
「お疲れ様。珍しいですね、幻中くんがそんなに疲弊してる姿」
「あ、お疲れ様です。別府さんは相変わらず余裕の表情っすね」
「僕は家に帰れば愛する妻に労ってもらえるからね」
カフェで少し休息を取ろうと席で項垂れている俺に、紙コップに入ったブレンドコーヒーをご馳走してくれるこの人は、総務部の別部倫也。
爽やかな短髪に、スーツ越しに伝わる筋肉。
物腰の柔らかなこの人は、誰彼構わず優しくとてもモテモテ。社内一モテていると言っても過言じゃない。
だが、この人は愛妻家。付け入る隙がない男としても有名な人だ。
「でも幻中くんもそういった人を見つけたのかな? 僕が妻と結婚する寸前のような雰囲気を感じるよ」
「全然っすよ。ただ、頑張る理由はできたっすね」
「いいね、若さを感じるよ。でも無理は禁物だよ?」
マイルドな表情で男相手にもイケメンオーラを振り撒き、この人はさも当然と言わんばかりに優しさも振り撒く。
「疲れたらいつでも言ってね、話くらいは聞けるからさ。肩の力抜いて頑張ろ」
「うす、あざす。なんかそう言ってもらえるだけで気持ちが楽になった気がするっす」
颯爽と現れ、コーヒーと優しい言葉をくれた別府さんは、ひらひら背中越しに優雅に手を振りながら去っていった。
これが大人の男……!
できれば将来は別府さんのような、一人の女性を愛してその人のために頑張れる、余裕のある男になりたいな。
小さくなっていく背中を見て感化され、俺はもう少し頑張ってみようと思った。
コーヒーを一口含み、気持ちを落ち着けてから自分のデスクへと戻った。
「大丈夫か? 死にそうな顔でデスクを立ったのが心配でな」
「チルしたんで大丈夫す」
「そうか、ならいい。あまり無理しすぎるなよ」
「うす」
紙コップを持参しているコースターの上に置いて、カタカタとキーボードを叩く。後三十分程度はこのモチベーションを維持できそうだ。
「幻中さん、お疲れ様です!」
「あ、不破さん。お疲れ様です、どうしたんすか?」
ここ数日、意味もなく不破さんが話しかけてくることが増えた。部署近くまで寄った際に声をかけてくれているらしい。
ここまで不自然だと、この人俺のこと好きなんじゃ? とか思ってきてしまうよな。一切靡かないが。
「これ、期間限定のお菓子なんですけど、幻中さん好きそうなんで上げちゃいます」
「そすか、あざす」
渡されたのは、ポテトチップスの白子ポン酢あじ。これは新手の嫌がらせだろうか、俺は白子が大の苦手だ。
「じゃあアタシはこれで」
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