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伊東愛奈(NTR要素あり。ヒロインには異性の恋人がいます)

伊東愛奈③

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「伊東(いとう)さん、今日は学校、来てたんだ」
 昼休みに廊下でばったり出くわしたのは、一番会いたかった人物――白浜(しらはま)タクミだ。
「白浜くん!」
 愛奈(あいな)はいつだって、タクミに会うと笑顔になる。大変なことも心配なことも全部忘れて、幸せな時間を過ごせるのだ。
 二人きりのときは名前で呼び合うようにしているが、学校ではお互いを名字で呼ぶのがルールだ。
「伊東さん、今日は体調いいの?」
「うん。ごめんね、最近、休んでばっかりで」
「気にしないで。それより、僕は伊東さんが早く元気になってくれたら嬉しい」
「……ありがとう。えへへ、私、早く元気になるね」
 愛奈はのろけて無防備な笑みを見せたが、本人はそんなことに気付いていない。
 妖魔――アルラウネとの戦いから一か月が経過したが、現在も愛奈は体に生えた男根に悩まされていた。
 今は体の火照りがおさまっていて、サイズも小さく縮こまっているが、ひどい日は制服の上からでも分かるほど不自然にスカートを押し上げてしまうし、自慰がしたくてたまらなくなることもある。
 また、体育の日は、着替えるときに友だちに見られるのが怖いし、体操着が膨らんでしまうため、体調不良と言って休んだり見学したりしている。
 それで恋人や周囲の友人を心配させてしまっているのだが、「男の人のモノが生えている」だなんて相談できるはずもなく、ずるずると一か月も経ってしまったのだ。
(いつになったら消えてくれるんだろう。普通は妖魔が死んだら、こういう呪いは解けるはずなのに……)
 まさか一生このままなのでは、という不安。それから周りの人たちに隠し事をしているという罪悪感。最近は気持ちが沈むことも多かったが、タクミと会えたおかげでささやかな幸せを感じた。
(こんな体だって知られたら嫌われちゃう。バレないようにしなきゃ)
 そのことだけは、忘れないようにと頭の端にいつも置いてある。
「そうだ、伊東さん。今日の放課後、一緒に帰らない?」
 愛奈はちょっとドキッとしたけれど、嬉しくて提案を受け入れる。
「うん、もちろんだよ! 私もタクミくんと帰りたい」
 午後の授業の間は、ずっとそわそわ、うきうきして過ごした。友だちに「何かいいことあった?」なんて言われたくらいだ。
 待ちに待った放課後。タクミと待ち合わせをして、並んで帰り道を歩いた。
「そういえば、中野さんたちと旅行に行くのって、来週末だよな? 忘れてたけど、そろそろ旅館の予約とかしなきゃだ」
 中野さんというのは、タクミと仲の良い男女のグループに属する女子生徒だ。愛奈、タクミ、それから、このグループの数人で一緒に、一泊二日の旅行へ行くことになっている。
「愛奈、体調的にどう? 中野さんも宮田も、すごい楽しみにしててさ」
「あー、どうしよう……」
 アルラウネの一件のせいで、すっかり忘れていた。
 みんなで旅行に行くのは愛奈も楽しみだった。タクミを通じて交友関係が広がっていくのも嬉しい。
 だが、来週末までに、体は元に戻るのか?
 もし、戻らなかったら? 直前でキャンセルしたり、行ってからみんなに迷惑をかけるのは避けたい。
「ごめんタクミ。私、もしかしたら無理かも。ちょっと、考えさせて」
「そっか、そうだよな」
 タクミのがっかりした声に、申し訳なさが募る。胸中でもう一度、ごめんと謝った。
「愛奈、手、繋いでいい?」
 学校から離れて、生徒たちの姿がほとんどなくなる頃、タクミから言い出した。
 決していきなり手をつかんだりしないところが紳士的。
「……うん」
 愛奈は久しぶりにタクミの手を握る。温かくて大きくて、少しだけ硬い手のひら。ドキドキする。
 まだ慣れていないので、歩行者が歩いてくると、二人はさっと手を放す。その間に手汗を拭いておいて、歩行者が通り過ぎると、また手を握る。
 二人が別れる交差点が見えてきたき、タクミは路上駐車された車の手前で立ち止まった。何か言いたそうな顔をしていたので、愛奈も止まって待った。
「あ、あのさ……。キス、していい?」
 愛奈は自分の顔が熱くなるのを感じて、顔をそらした。
「ここなら、他の人から見えないから」
 それで車のところで止まったのだな、と愛奈は理解した。
「……はい」
 こくりと頷いて、少し高いところにある恋人の顔を見上げた。優しげな眼差しが愛奈を見つめ、ゆっくりと近づいてくる。
 そのとき脳裏をよぎったのは、あの日のアルラウネの顔だった。愛奈は反射的に顔を背けてしまう。
「愛奈……?」
「ご、ごめんね、タクミ。私、まだ……その……」
「うん、そうだね。僕のほうこそ、急いで、ごめん」
 沈んだタクミの声を聞いて、愛奈は胸がぎゅっと締め付けられる思いだった。タクミはきっと拒絶されたと思っている。
「違うの。嫌なわけじゃない。私もタクミとキスしたい。本当だよ。だけど、本当に、今は……できないの。だから、ごめんなさい……」
 愛奈は申し訳なくて下を向いた。
「愛奈、最近、何か隠してるよな……? ちょっと変だよ」
 そう指摘されて、急に怖くなった。もしも下半身に生えている男のモノがバレたら、お仕舞いだ。学校へ二度と行けなくなるかもしれないし、友だちでもいられないかもしれない。
 それに、タクミ以外の人たちはどこまで見抜いているのか?
「そ、そうかな?」
「誤魔化しても、さすがに分かる。どうして隠すんだ? 何か言ってほしいし、相談してほしい」
「っ……」
 愛奈は唇を噛むことしかできない。こんな恥ずかしいこと、相談できるわけがないのだから。
 それよりも、なんと言えば、タクミは隠し事に納得してくれるだろう? ――分からない。下手な嘘を吐けば、疑念は深まり、信頼を失うかもしれない。
「……愛奈?」
「……ごめんなさい。誰にも言えないの」
「僕にも?」
「ごめんなさい」
 愛奈はタクミの目を見れなかった。
「……分かったよ。行こう」
 二人はまた歩き始めたが、交差点で別れるときにサヨナラの挨拶をした以外は何も話さなかった。


「んっ♡ 来るう゛ぅッ♡ ん゛ぅ――ッッ♡♡♡!!!」
 深夜。少女の押し殺した喘ぎ声が、部屋に響く。
 愛奈はベッドに座って壁に背中を付け、脚を大きくM字に開いて、男根をしごいていた。たった今、三度目の絶頂を迎えたところだ。
「はぁ……♡ はぁ……♡ はぁ……♡」
 脱力して弱々しく呼吸する。精液で汚れてしまったシーツを拭かなければと思うのだが、まだ絶頂の余韻が残っていて、体が動かない。
 少し経って落ち着くと、また男根が疼いてくる。大きさも硬さも衰える気配がなく、最近は疼きが以前よりもひどくなり、自慰にふける回数も増えていた。
「どうして……おさまってくれないの?」
 呟きが夜の静寂に吸い込まれて消える。
 泣きそうな顔で再び男根を握った。
「……っ、ん♡ ……あぁ♡」
 愛奈は目を閉じて、唇を結んで、できるだけ何も考えずに自慰にふける。片手は無意識のうちに自分の胸をまさぐり、敏感な突起を見つけると、自然とそれをつまんだり弾いたりしてしまう。
(いつまで、こんな生活を続けなきゃいけないの……?)
 快感の中に、漠然とした不安が忍び込んでくる。
(このままじゃ、勉強も部活も、退魔師の仕事も、全部できなくなっちゃう。タクミくんとも何もできない。そんなのイヤだよ……)
 暗い気持ちを頭から追い出そうと、愛奈は手の動きを速めた。今は不安や恐怖を快楽で塗り潰すことしかできないのだ。より強い快楽に浸っている間は、少なくともその悩みから解放される。
「あ、ぅ♡ んぁっ……! いいっ♡ うぅ♡」
 快感が高まり、熱いものが奥底から込み上げてくる。家族に聞かれる心配も忘れて、喘ぐように大声を出し、右手を激しく上下させた。
「ん、出る♡ また出ちゃう♡ あぁん♡ あっ! いぐっ♡! う゛ぅぅッッッ♡♡♡!!!」
 不安も罪悪感も悩みも、頭の中が何もかも真っ白に塗りつぶされる。愛奈は上体をのけぞらせ、腰を突き上げて、四度目の絶頂に達した。一回目と変わらず濃い精液がベッドのシーツに、壁に、床に――白いシミを作る。
 襲ってきた脱力感に負けて、愛奈はベッドの上で大の字になった。光を失った瞳で天井を見つめたまま、消えかけのロウソクのような息をしている。
 ようやく男根は精力を使い果たしたのか、へにゃりとして、愛奈の太ももに横たわった。
(やっと眠れそう……)
 ふと、愛奈は音に反応して、枕元に置いたスマホに目をやった。画面には新着メッセージが表示されている。
『旅行のこと、残念だけど、僕だけ行くことにしたよ』
 タクミからだ。結局、愛奈は行かないことに決めたのだが、楽しみにしていたメンバーがいたため、中止にはしなかった。タクミはどうするか迷っていたが、ようやく決断したというわけだ。
(そっか、タクミくんは行くんだ。一緒に行きたかったな……。でも、仕方ないよね。私がこんな体じゃ……)
 愛奈は深いため息を吐いた。
 自分で思っていた以上に、ショックだった。
 ――あの日、油断しなければ。自分がもっと強ければ。あの妖魔がいなければ。
(もしかしたら……)
 一つの可能性。愛奈の体が元に戻らないのは、この呪いをかけた妖魔がまだ生きているからではないのか。
 あの日、確かにアルラウネは退魔師たちから一斉攻撃を受けて焼け滅んだはずだが……本当に死んだのか?
(またあそこへ行けば、何か分かるかも。このまま何もしないより、できることをしよう)
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