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新島真乃(一人称・夢の中で触手攻め・寸止め焦らし)

新島真乃①

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 私――新島真乃(にいじま まの)は他人の夢の中に、自由に入り込むことができる。
 夜な夜な悪夢にうなされるという友人・ミキを助けたくて、彼女の夢の中に入り、悪夢の原因を調べていた。
 だけど、ちょっとした油断のせいで、敵に捕まってしまった。


「あなた、何者なの?」
 私は敵に向かって尋ねた。
 ミキの夢の風景は、真夜中の廃校だった。
 制服姿の私は荒れ果てた教室で、気色悪い触手に手足を縛られている。割れた窓ガラスから差し込む月明りが映し出しているのは、人ならざる者の姿だ。
 中年男性の格好をしているけれど、片方の肩から生えているのは、人間の腕ではなく触手の束だ。その触手が伸びて、私の手足に絡みついている。一本一本が私の腕よりも太くて、力も強い。
 触手男は、私の問いに答えず、不気味な笑みを浮かべている。
 ……言葉が通じないのかしら?
 こいつは十中八九、妖魔と呼ばれる者なのだけど、知能の低い妖魔は言葉を理解できないこともある。
「なぜ彼女の夢に現れるの? 二度とここに現われないでほしいのだけど」
 これは命令ではなく忠告だ。
 やろうと思えばこの程度の触手、引き千切って抜け出すことはできるし、戦ってこいつを倒すこともできる。だけどできれば穏便に済ませたい。他人の夢の中でドンパチをするのは、夢の主(あるじ)の精神に悪い影響を与えることもあるから、気が引けるのだ。
「お前だ」
 触手男が口を開いた。……なんだ、しゃべれるんじゃないの。会話が通じてる気はしないけど。
「……私?」
 こんな男、私は現実世界で知らない。……どういうこと?
「新島真乃(にいじま まの)。お前を犯す」
 あー、はいはい。そういうことですか。
 名乗った覚えはないのに名前を知られているってことは、何か裏があるってことだ。
 こいつの目的ははっきり分からないけれど、本性を現わしたようなので、私はちょっと本気を出すことにした。
 夢の中だから何をされても現実世界の私の体は無事なのだけど、だからといって大人しく犯されてあげる筋合いはない。
「忠告に従ってもらえないようなら、痛い目を見てもらうしかないわね」
 私は体の奥底に眠っている霊力――退魔師が操ることができる特別な力――を少しだけ解き放つ。瞬間的に全身に力がみなぎり、両手に力をこめると、私を縛っていた触手が簡単に千切れた。
 うん、この妖魔、大したことなさそう。
「あなた、妖魔でしょ? 退魔師であるこの私に勝てると思ってるの? しかもここは、私の友人の夢の中。つまり、こっちのホームグラウンドなんだから」
 私は乱れた制服のスカートのすそを直しながらそう言い、次いで、何もない空間からトゲトゲの付いたムチを取り出した。不届き者を夢からたたき起こすための、私専用の武器。このムチを見てときどきあらぬ誤解をする男性がいるけど、変な趣味はないから!
 これで妖魔が聞き分けよく尻尾を巻いて逃げて、一生この娘の夢に現われないでくれればいいのだけど、この触手男は逃げる素振りを見せない。
 むしろ千切れた腕の触手を再生して、やる気満々という様子だ。
 ため息が出る。自分と相手の実力差を理解できないほど、知能が低いのかしら。
 もしくは何か秘策でもあるのか。全く動揺を見せずに、相変わらず笑っているのがちょっと不気味だけど……。
 なんにせよ、言って分からない相手には体に分からせてあげるしかないわね!
「目を覚まさせてあげる!」
 私が構えの姿勢を取ると同時に、男の触手が襲い掛かってきた。それをムチの一振りで叩き落とし、返す一振りで男の体を切り裂いてやろうとした――その時。
「うそっ……どうして!?」
 何かの意思によって体の主導権を奪われたみたいに、急に動けなくなってしまった。
 あのまま攻撃できていれば、確実に触手男を八つ裂きにできていたのに……。
 触手男が勝ち誇った笑みを浮かべながら、何が何だか分からなくて混乱している私のそばに悠々と歩いてくる。そして腕の触手を再生させ、私の腕や太ももに絡みつかせ、固く縛り上げた。
「ここがお前のホーム? 笑わせるな」
「どういう……こと……」
 私は痛みに耐えながら、声を絞り出した。夢の中では現実の体に手出しすることはできなくても、痛みや苦しさはちゃんと感じるのだ。
「ここでは俺が神だ」
「なにが神よ、バカじゃないの」
「これでも信じられないか?」
 男が触手ではないほうの手をパチンと鳴らした。
 ……?
「それがなんだっていうのよ」
「分からないのか? 下を見てみろ」
 むかつくヤツ。言葉に従うのは癪(しゃく)だけれど、私は警戒しつつ下を向く。
 足元には普通の教室の床材――え? 床じゃなくて、私の制服のチェックのスカートが、なぜか不自然に盛り上がっている。
「うそっ……なに、これ……」
 不気味すぎて、寒気がした。
 夢の中では、現実にはありえないことが平気で起こる。だからといって、私がこんなふうに私の体に干渉されたなんてことは、今まで一度もなかった。この夢の中では、私の意思がなんの力も持たないのだろうか?
 男の触手が伸びてスカートの中に忍び込み、ショーツの布越しにその膨らみを撫でた。
「……っ♡」
 今、私、変な声出した!?
 触手男は意味深なニヤニヤを顔に貼り付けている。私は恥ずかしくなって男から顔を背けた。
「どうした? 顔が赤いようだが?」
「……うるさい」
 この夢は何かがおかしい。私が夢の中で妖魔に遊ばれるなんて、本当はありえないのだ。
 そのとき、触手がいきなりショーツと肌の隙間に入り込み、ギュッと握りしめるように『それ』に巻き付いてきた。
「んぁッ♡!?」
 私は思わず腰をビクッと引いて、普段なら絶対に出すことのない声を漏らしてしまう。体験したことのない、ゾクゾクするような刺激がお腹の下のほうから脳へと一気に走り抜けていったのだ。
「いい反応だな」
 自分の反応が触手男を喜ばせてしまったと知り、私はさらに顔が熱くなるのを感じた。最悪な気分だった。一方で、自分の体が何かを期待して、妙に火照り始めていることに気が付く。こんな感覚は初めてで、戸惑いを隠せない。
 すると、別の触手が伸びてきて、私のスカートをめくりあげた。
「ちょっ、何するのよ!?」
 スカートの下に隠れていたものを、自分の目ではっきりと見てしまったとき、私はショックで何もしゃべれなくなった。得体の知れない男に下着を見られた恥ずかしさなんて、吹っ飛んでしまうくらいショックだった。
 なぜなら、私の股の間から太い肉の棒が突き出して、ショーツから完全にはみ出していたのだ。実物は見たことがないけれど、私は『これ』が何かを知っている……。
 男根。ペニス。おちんちん。
 あってはならないものが、私の体に生えている。
「…………っ」
 混乱した私の頭の中には「やばい」という言葉がたくさんグルグルと回っていた。それ以外、何も言葉にできない。
「ここでは俺は神だと言っただろう。その意味が分かったか?」
 ……まずい。何が起こっているか分からないことばかりだけど、とにかくここにいるのは危険すぎる。
 友人の悩みは解決できていないし、敵から逃げるようで本当は嫌だけど、この夢からすぐに離脱して作戦を練ったほうがいい。
 私は自室のベッドで眠っているはずの自分の体に命じる。――目を覚まして!
 いつもだったら、それで現実の体がパッと目覚めて、他人の夢から出ることができるのだけど――。
「ど、どうして目が覚めないの!? 目を覚まして! 早く! どうして!?」
 取り乱して叫ぶ私を、面白そうに眺めている触手男。腕の触手が、うねうねと気色悪く身をくねらせる。
 ありえない。今までは夢の中で、いつだって私が妖魔を翻弄して手玉に取り、やっつけることができていたのに……。
 今、私は妖魔に弄ばれているだけでなく、この友人の夢の中に閉じ込められてしまったのだ……。
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