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5、隠しごと 

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「会長、どうかしましたか」
 後輩に声をかけられて、桐葉はハッと我に返った。
 放課後の生徒会室では、役員たちがせっせと仕事をしている。ほとんどは雑務……入力作業や書類のチェック、整理などだが、ぼーっとしている者はいない。
「ううん、何でもないわ」
 そう答えると、後輩は逆に心配そうな顔になった。だが何も言わずに自分の仕事に戻った。桐葉も生徒からの意見書を確認する作業を再開した。
(集中しないと……みんなに心配かけてしまう。でも……)
 体が……熱い。あの日、妖魔に犯されそうになった時に生まれた熱源が、今もおなかの下のほうにあって、脈動している。うずく……。
 桐葉はその後、意見書に意識を集中させ、なんとか仕事をやり終えた。役員たちが一人、また一人と帰っていくたびに、安堵が広がる。自分以外の全員が帰ったら、この部屋の鍵を閉めて、職員室に鍵を返却し、帰宅できる。
 最後まで残っていたのは、いつも声をかけてくれる後輩だった。後輩でありながら、何かと桐葉に気を遣ってくれるのが嬉しかった。
 だが今は……彼女が一刻も早く帰ってくれるよう願っていた。そうでないと……早くこの場を去らないと……何か馬鹿なことをしてしまいそうな気がするのだ。
「……会長」
「うん?」うずく体を悟られないように、桐葉は至って普通の返事を繕った。
 後輩はまるで嵐の崖の上に立っているかのように頼りなげに見えた。心細さと勇気との間で揺れているのが分かった。
(もしかして……気づいてしまったんじゃ……)
 桐葉の心臓がバクバクと鳴り始めた。と同時に、ドクンと下腹部が脈打った。
「あのう、こんなこと言うのは、ちょっと変かもしれないですけど……」明らかに何かを決意して話している様子だ。「最近の会長は、少し……、その……妙と言いますか……」
「そ、そうだよね。ちょっと私、疲れてるのかな」軽く笑ってみせた。うまく笑えたという自信はなかった。
「会長のことが、心配です。顔も少し赤いですし……」
 桐葉は驚いて自分の頬に手を当てた。……熱を持っている。
 ドクン……と再び下腹部が脈打ち、熱いものが全身に送り出された。
(ダメだ……これ以上隠し切れない……)
「体調悪いのに、無理しているんじゃないですか。もっと、私たちのことを……その……頼ってくれることって、できないでしょうか」
 その言葉に、桐葉は心の底から感謝した。
「実は……風邪を悪化させてしまったみたい。来週から、早く帰っても大丈夫か、みんなに相談しようと思う」結局その場は風邪ということにして誤魔化すことができた。心配してくれた後輩に礼を言い、この後、すぐに帰ることを約束した。
 後輩がさっきより少しすっきりした顔で帰っていくのを見届けると、桐葉はその場に膝から崩れ落ちた。立っていることができない。
「はぁ……んっ……、ふぁ……」粘っこいような、鼻にかかった息が漏れる。
(体が……熱い。体が……おかしい……)
 桐葉は無意識のスカートの下に手を入れて、強力な熱を持っている部分に触れようとした。が、寸前のところこで正気に戻り、手を止めた。
(私、今、自分で触ろうと……)
 ショックだった。そんな不潔なこと、今まで考えたこともなかったのに。
(このままじゃ、私、おかしくなる……。なんとか、しなきゃ……)
 桐葉は自力で立ち上がって、部屋の鍵を掛け、職員室に鍵を返し、校門を出た。このままではいずれ後輩に本当のことを気づかれてしまうだろう。自分はもっと誰かを頼ったほうがよいのかもしれない。
 桐葉は自宅とは反対の方向へ歩き出す。目的の場所は何度か訪ねたことがある。
 柏崎家の門の前に、桐葉はいた。
 龍ヶ崎家と比べると、敷地は四分の一もないはずだし、門の造りもそれほど立派なものではない。生きる伝説の退魔師・柏崎早苗が頭首を務めているが、その夫はすでに亡くなっている。彼の死以来、早苗は退魔師協会との関わりを弱めていき、仕事も独自に動くことが多くなったようだ。つまり退魔師としては孤立傾向にあるわけだが、そのことが桐葉にとって都合がよかった。龍ヶ崎家の時期頭首たる自分が、他の名家を頼るなど、桐葉の母に言わせれば、あるまじきことなのだから……。
 桐葉は意を固める。ここに来たからには、全て打ち明けなければならない。つまり、あの日自分を襲ったのが、失踪した天才姉妹……柏崎凜と柏崎雪菜だったということも。
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