吉田定理の小説以外

赤崎火凛(吉田定理)

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紙村さんについて 【KAC2023 ~カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ 2023~ その1】

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 紙村(かみむら)さんは、近所の大きな本屋をよくうろうろしている。
 文庫のコーナーでぼーっとしていることもあれば、雑誌の棚の間できょろきょろしていることもあるし、新刊のランキングを難しい顔で眺めている日があったかと思うと、マンガのコーナーで立ち読みをしている姿を見かけたりもする。
 もちろん児童書のコーナーで小さい子どもに混じって絵本をぺらぺらとめくっているところだって見たことがある。紙村さんはクラスの女子の中で一番背が高いので、児童書コーナーにいるとすごく目立つ。
 また別の日には、あごの辺りに手をあてて、じっとビジネス書の棚を眺めていたりする。女子高生が真剣な顔つきでビジネス書を選んでいる姿は、なんとなくかっこいい。
 だけど紙村さんが本を持ってレジに向かうところは、一度も見たことがない。
 紙村さんは、あくまでも本を眺めたり、ちょっと立ち読みしたりするくらいなので、本屋さんにはあまり歓迎されていないと思う。彼女ほど背の高い女子高生はめったに見ないので、店員さんも紙村さんのことをよく覚えているはずだ。
「ああ、またあの子が来たな」
 そんなことを呟いているに違いない。

 紙村さんは、駅の近くの古本屋にもよく出没する。
 人と人がすれ違うのも大変な、狭い店舗に所狭しと本が詰め込まれている。
 紙村さんは必ずつま先立ちして目を細め、棚の上のほうまで本をチェックする。さらに、しゃがみ込んで完全に通路を塞いでしまうのも構わずに、足元のケースに入った本を物色する。
 だけどやっぱり本は買わずに、店を出ていく。なぜかすごく満足そうな笑顔を浮かべ、足取りもどこか軽やかだ。
 どうしてそんなに幸せそうなのか分からないけど、そんな紙村さんの姿を目撃した日は、こっちまで幸せな気分になる。

 でも不思議なことに、図書館では紙村さんを一度も見かけたことがない。
 だから思い切って紙村さんに、図書館に行かないのかと聞いてみた。

「図書館の本は、売り物じゃないから。売り物じゃないケーキを眺めても、仕方がないでしょ?」
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