吉田定理の小説以外

赤崎火凛(吉田定理)

文字の大きさ
上 下
4 / 27

紙村さんについて 【KAC2023 ~カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ 2023~ その1】

しおりを挟む
 紙村(かみむら)さんは、近所の大きな本屋をよくうろうろしている。
 文庫のコーナーでぼーっとしていることもあれば、雑誌の棚の間できょろきょろしていることもあるし、新刊のランキングを難しい顔で眺めている日があったかと思うと、マンガのコーナーで立ち読みをしている姿を見かけたりもする。
 もちろん児童書のコーナーで小さい子どもに混じって絵本をぺらぺらとめくっているところだって見たことがある。紙村さんはクラスの女子の中で一番背が高いので、児童書コーナーにいるとすごく目立つ。
 また別の日には、あごの辺りに手をあてて、じっとビジネス書の棚を眺めていたりする。女子高生が真剣な顔つきでビジネス書を選んでいる姿は、なんとなくかっこいい。
 だけど紙村さんが本を持ってレジに向かうところは、一度も見たことがない。
 紙村さんは、あくまでも本を眺めたり、ちょっと立ち読みしたりするくらいなので、本屋さんにはあまり歓迎されていないと思う。彼女ほど背の高い女子高生はめったに見ないので、店員さんも紙村さんのことをよく覚えているはずだ。
「ああ、またあの子が来たな」
 そんなことを呟いているに違いない。

 紙村さんは、駅の近くの古本屋にもよく出没する。
 人と人がすれ違うのも大変な、狭い店舗に所狭しと本が詰め込まれている。
 紙村さんは必ずつま先立ちして目を細め、棚の上のほうまで本をチェックする。さらに、しゃがみ込んで完全に通路を塞いでしまうのも構わずに、足元のケースに入った本を物色する。
 だけどやっぱり本は買わずに、店を出ていく。なぜかすごく満足そうな笑顔を浮かべ、足取りもどこか軽やかだ。
 どうしてそんなに幸せそうなのか分からないけど、そんな紙村さんの姿を目撃した日は、こっちまで幸せな気分になる。

 でも不思議なことに、図書館では紙村さんを一度も見かけたことがない。
 だから思い切って紙村さんに、図書館に行かないのかと聞いてみた。

「図書館の本は、売り物じゃないから。売り物じゃないケーキを眺めても、仕方がないでしょ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

架空戦記の書き方(雑談もするよ!)

ypaaaaaaa
エッセイ・ノンフィクション
初投稿からかれこれ1年半が経ちました。 駄文でありながらこれほど多くの人にお読みいただき感激です。 さて、今回は”架空戦記の書き方”について自分なりの私見で書いていこうと思います。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【作家日記】小説とシナリオのはざまで……【三文ライターの底辺から這い上がる記録】

タカハシU太
エッセイ・ノンフィクション
書けえっ!! 書けっ!! 書けーっ!! 書けーっ!!  * エッセイ? 日記? ただのボヤキかもしれません。 『【作家日記】小説とシナリオのはざまで……【三文ライターの底辺から這い上がる記録】』

「繊細さんの日々のこと」

黒子猫
エッセイ・ノンフィクション
「繊細さん」の私が、日常で感じたことなどを綴ります。 ちなみに私は内向型HSPです✨

処理中です...