12 / 16
12
しおりを挟む
●処女作の歌詞以外完成! 俺の才能やばすぎ!
「藤井くん、自画自賛ですね」
綾乃さんが苦笑した。お母さんは懐かしそうに
「昔から走り出すと、もうどこまでも走って行っちゃって、止まらないんですよ」
と言った。
●ボカロ購入! とりあえずラララで歌わせることに成功!!!
「びっくりマーク、太く書きすぎですね」
と綾乃さん。紙面に書きなぐられた大根みたいなぶっといびっくりマーク三本から、藤井の喜びが伝わってくる。
そして作詞作業が始まった。紙面には思いつきを片っ端からメモしていったような、言葉がずらりと並んでいる。
●グッドラック! ドラッグ! 最高の気分さ。イェイイェ。天国へトリップ! キミのリップ! 天使のキミに会えてグッドモーニング! …………
「こういうのは俺だったら絶対見られたくないです」
「あ、そうですね……」
「…………」
ページをどんどんめくった。
●俺には作詞の才能がない。ひどい。ださい。
「気づいたみたいですね」
「案外早かったですね」
しかし妥協してよく分からん歌詞のまま完成に至った。
●調教いまいち。しかしマスタリング完了! ついに傑作が完成!
●西村曰く、全体的につたない。これじゃ厳しいらしい。投稿はやめといたほうがいいとのこと。どうしようか悩む。確かに言われてみれば俺の曲はプロのと比べてしょぼい。どう考えてもランキング入りはできない気がする。だったら投稿する意味があるのか?
「ここに書いてある通り、俺は藤井に、曲の発表はやめたほうがいいと言ったことがあります。だけどあいつはネット上に投稿しました」
そう。あいつは俺に何を言われてもポジティブだった。
今、違和感の正体が分かった。このノートに気持ちを綴っている藤井は、確かに藤井らしいポジティブさも見受けられるが、全体的にはネガティブな言葉が多い。それが、俺の知っているあいつの印象とは異なるのだ。
あいつは創作で悩みもせず、躊躇いもせず、自分が思うがままに次々と作品を世に出した。それが俺の知っている藤井。
●初投稿してやった!!! チョー緊張!
そして再生数とお気に入りリストへの登録数がグラフ化されている。再生数は投稿初日に10回になり、それから勢いが弱まり、一か月後には32で増加しなくなった。お気に入りリストへの登録数は、2のままずっと変動なしだった。一か月でグラフは終わっていた。これ以上の記録は虚しいだけと気づいたのか。
●西村の言うとおりだった。全然相手にされていない。ほとんど批判のコメントばっかり。クズって書いたやつのほうがクズ。
「今あいつがメジャーデビューまでこぎつけたのを考えれば、本当に見る目がなかったのは俺ですね」
俺は自嘲的に言った。あいつはすごい。全然相手にされなくても、次の曲を作ろうと思い、実際に作ってしまったのだから。俺はずっと足踏みをしているだけなのに。
「そんなことないですよ。あの子には、あなたのようにブレーキをかけてくれる人が必要だったはずですから」
お母さんは静かに藤井の文字を見つめている。
●西村に全然反響がなかったことを伝えた。そうしたら「予想通りだけど何回聞いても厚みというか鬱陶しさだけはすげえよな」と言っていた。少しやる気が出た。二作目を作り始めようと思う。
「これって誉め言葉だったんですか?」
綾乃さんが尋ねてきた。
「いやー……あんまり覚えてないんですけど、誉めたつもりは……」
「じゃあもしかして、何回も聞いてくれてる、というところが効いたのでしょうか」
「確かにこう言ったかもしれないですけど、実際二、三回しか聞いてないですよ俺」
「私には難しいことは分からないですが……あの子が音楽に一生懸命になっていたのは、きっとあなたのおかげだったんですね」
お母さんが俺を見て、なぜか納得したように呟いた。俺は少し動揺して、
「あの……どうして急にそんなふうに思ったんですか。俺なんかいなくても、藤井、くんは音楽やっていたと思うんですけど」
「だってあの子、あなたの言葉をすごく信頼していると言いますか、私にはそんな気がしてきました。すごく影響を受けているように見えました」
「西村くんの影響は、実際すごかったと私も思います。たぶん西村くんがいなかったら、藤井くんがメジャーデビューするなんてなかったんじゃないでしょうか」
なんだか、この人たちは俺を買いかぶりすぎていると思う。藤井の才能は藤井のもので、俺は一曲すらまともに完成させたことのない三流だ。確かに藤井は俺と出会ってから、ギターやDTMに手を出したのかもしれない。当時の藤井の目には、俺は音楽に関して一歩進んだ憧れの対象に見えていたのかもしれない。だけど俺と会う前からそもそも藤井は音楽に強い興味を持っていたし、いずれこの道に進んでいたのではないか。そして人気アーティストの仲間入りを果たし、メジャーデビューの話が舞い込んでいただろう。
俺はノートをめくる。二作目、三作目についての記述がある。二作目は、再生数とお気に入り登録数の記録はほとんど変化がない。三作目で、せいぜい200回。しょぼいが、一作目の再生数32回よりだいぶいい。
ノートは三冊目へ。
「藤井くん、自画自賛ですね」
綾乃さんが苦笑した。お母さんは懐かしそうに
「昔から走り出すと、もうどこまでも走って行っちゃって、止まらないんですよ」
と言った。
●ボカロ購入! とりあえずラララで歌わせることに成功!!!
「びっくりマーク、太く書きすぎですね」
と綾乃さん。紙面に書きなぐられた大根みたいなぶっといびっくりマーク三本から、藤井の喜びが伝わってくる。
そして作詞作業が始まった。紙面には思いつきを片っ端からメモしていったような、言葉がずらりと並んでいる。
●グッドラック! ドラッグ! 最高の気分さ。イェイイェ。天国へトリップ! キミのリップ! 天使のキミに会えてグッドモーニング! …………
「こういうのは俺だったら絶対見られたくないです」
「あ、そうですね……」
「…………」
ページをどんどんめくった。
●俺には作詞の才能がない。ひどい。ださい。
「気づいたみたいですね」
「案外早かったですね」
しかし妥協してよく分からん歌詞のまま完成に至った。
●調教いまいち。しかしマスタリング完了! ついに傑作が完成!
●西村曰く、全体的につたない。これじゃ厳しいらしい。投稿はやめといたほうがいいとのこと。どうしようか悩む。確かに言われてみれば俺の曲はプロのと比べてしょぼい。どう考えてもランキング入りはできない気がする。だったら投稿する意味があるのか?
「ここに書いてある通り、俺は藤井に、曲の発表はやめたほうがいいと言ったことがあります。だけどあいつはネット上に投稿しました」
そう。あいつは俺に何を言われてもポジティブだった。
今、違和感の正体が分かった。このノートに気持ちを綴っている藤井は、確かに藤井らしいポジティブさも見受けられるが、全体的にはネガティブな言葉が多い。それが、俺の知っているあいつの印象とは異なるのだ。
あいつは創作で悩みもせず、躊躇いもせず、自分が思うがままに次々と作品を世に出した。それが俺の知っている藤井。
●初投稿してやった!!! チョー緊張!
そして再生数とお気に入りリストへの登録数がグラフ化されている。再生数は投稿初日に10回になり、それから勢いが弱まり、一か月後には32で増加しなくなった。お気に入りリストへの登録数は、2のままずっと変動なしだった。一か月でグラフは終わっていた。これ以上の記録は虚しいだけと気づいたのか。
●西村の言うとおりだった。全然相手にされていない。ほとんど批判のコメントばっかり。クズって書いたやつのほうがクズ。
「今あいつがメジャーデビューまでこぎつけたのを考えれば、本当に見る目がなかったのは俺ですね」
俺は自嘲的に言った。あいつはすごい。全然相手にされなくても、次の曲を作ろうと思い、実際に作ってしまったのだから。俺はずっと足踏みをしているだけなのに。
「そんなことないですよ。あの子には、あなたのようにブレーキをかけてくれる人が必要だったはずですから」
お母さんは静かに藤井の文字を見つめている。
●西村に全然反響がなかったことを伝えた。そうしたら「予想通りだけど何回聞いても厚みというか鬱陶しさだけはすげえよな」と言っていた。少しやる気が出た。二作目を作り始めようと思う。
「これって誉め言葉だったんですか?」
綾乃さんが尋ねてきた。
「いやー……あんまり覚えてないんですけど、誉めたつもりは……」
「じゃあもしかして、何回も聞いてくれてる、というところが効いたのでしょうか」
「確かにこう言ったかもしれないですけど、実際二、三回しか聞いてないですよ俺」
「私には難しいことは分からないですが……あの子が音楽に一生懸命になっていたのは、きっとあなたのおかげだったんですね」
お母さんが俺を見て、なぜか納得したように呟いた。俺は少し動揺して、
「あの……どうして急にそんなふうに思ったんですか。俺なんかいなくても、藤井、くんは音楽やっていたと思うんですけど」
「だってあの子、あなたの言葉をすごく信頼していると言いますか、私にはそんな気がしてきました。すごく影響を受けているように見えました」
「西村くんの影響は、実際すごかったと私も思います。たぶん西村くんがいなかったら、藤井くんがメジャーデビューするなんてなかったんじゃないでしょうか」
なんだか、この人たちは俺を買いかぶりすぎていると思う。藤井の才能は藤井のもので、俺は一曲すらまともに完成させたことのない三流だ。確かに藤井は俺と出会ってから、ギターやDTMに手を出したのかもしれない。当時の藤井の目には、俺は音楽に関して一歩進んだ憧れの対象に見えていたのかもしれない。だけど俺と会う前からそもそも藤井は音楽に強い興味を持っていたし、いずれこの道に進んでいたのではないか。そして人気アーティストの仲間入りを果たし、メジャーデビューの話が舞い込んでいただろう。
俺はノートをめくる。二作目、三作目についての記述がある。二作目は、再生数とお気に入り登録数の記録はほとんど変化がない。三作目で、せいぜい200回。しょぼいが、一作目の再生数32回よりだいぶいい。
ノートは三冊目へ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
乙男女じぇねれーしょん
ムラハチ
青春
見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。
小説家になろうは現在休止中。
深海の星空
柴野日向
青春
「あなたが、少しでも笑っていてくれるなら、ぼくはもう、何もいらないんです」
ひねくれた孤高の少女と、真面目すぎる新聞配達の少年は、深い海の底で出会った。誰にも言えない秘密を抱え、塞がらない傷を見せ合い、ただ求めるのは、歩む深海に差し込む光。
少しずつ縮まる距離の中、明らかになるのは、少女の最も嫌う人間と、望まれなかった少年との残酷な繋がり。
やがて立ち塞がる絶望に、一縷の希望を見出す二人は、再び手を繋ぐことができるのか。
世界の片隅で、小さな幸福へと手を伸ばす、少年少女の物語。
一人用声劇台本
ふゎ
恋愛
一人用声劇台本です。
男性向け女性用シチュエーションです。
私自身声の仕事をしており、
自分の好きな台本を書いてみようという気持ちで書いたものなので自己満のものになります。
ご使用したい方がいましたらお気軽にどうぞ
ペア
koikoiSS
青春
中学生の桜庭瞬(さくらばしゅん)は所属する強豪サッカー部でエースとして活躍していた。
しかし中学最後の大会で「負けたら終わり」というプレッシャーに圧し潰され、チャンスをことごとく外してしまいチームも敗北。チームメイトからは「お前のせいで負けた」と言われ、その試合がトラウマとなり高校でサッカーを続けることを断念した。
高校入学式の日の朝、瞬は目覚まし時計の電池切れという災難で寝坊してしまい学校まで全力疾走することになる。すると同じく遅刻をしかけて走ってきた瀬尾春人(せおはると)(ハル)と遭遇し、学校まで競争する羽目に。その出来事がきっかけでハルとはすぐに仲よくなり、ハルの誘いもあって瞬はテニス部へ入部することになる。そんなハルは練習初日に、「なにがなんでも全国大会へ行きます」と監督の前で豪語する。というのもハルにはある〝約束〟があった。
友との絆、好きなことへ注ぐ情熱、甘酸っぱい恋。青春の全てが詰まった高校3年間が、今、始まる。
※他サイトでも掲載しております。
お茶会でお茶しましょ!
田上総介
青春
高校一年生の北条麦(ほうじょうむぎ)は幼い頃から思入れのある喫茶店『喫茶ニシキノ』でのアルバイトを頼み込む。
何とか許可してもらうも得た役割は恰も客のように振る舞い、繁盛しているかのように見せる「お客様役」だった。
納得のいかない麦は喫茶店への熱い思いを伝えると、店長らはクラッカーを取り出し「合格」を告げる。
ここまでが採用審査の流れだったのだ。
しかし、帰り道同じ高校の生徒にアルバイトをしていることがバレてしまう。
そして、アルバイト禁止の高校で数日後に停学処分を下されるが、その理由はストーカー行為で…
(二話までのあらすじ)
昔飲んだ珈琲が忘れられない 麦
祖母の残した店を引き継ぐ高校生店長 モモ
実はアルバイト歴たったの三日! ポンコツ先輩 緑
シャイなお手伝いJC 穂乃果
自身を最かわと称するボクっ娘 紅花
店長の座と崩壊を狙う 檸檬
喫茶店に異常な執着を持つ みるく
天然キャラになりたいチェーン店店長 茶茶
「ツンデレだからモテてしまう」と考えるツンデレラ 龍子
弱みを握られたイマドキギャル 日向
妹(みくる)に嫌われたい変態冷酷美人 いちご
そんな高校生達が起こすほのぼの喫茶店日常です。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる