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第一部 桃井さんとイチャイチャしたい編

14,なんとなくイイ男

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「繰り返す! ウインナーは男根を意味している!」
 そう叫びながら食堂に飛び込んできたのは伊集院慧(いじゅういん けい)。叫んでいる内容はバカげていたが、メガネの奥の瞳は真剣そのものである。
 食事をしていた生徒たちも、俺と宮本さんも、唖然とした。
 最初に動き出したのは、朝日良輝(あさひ よしてる)。背は低いが元気の良すぎる男だ。
「おい伊集院てめえ食事中にそういう言葉を連呼するんじゃねえ! せっかくのメシがまずくなるだろうがっ!」
 朝日は席を立ってズカズカと伊集院慧に詰め寄った。伊集院慧は一歩も引かなかった。
「俺はあくまでこれ以上の死者を出さないために行動したまでだ」
「下品な言葉を叫ぶこと自体、爆死の危険があるだろうが!」
「承知している。だがすでに食事を始めている者たちがいる以上、一刻の猶予もなかったのだ」
「俺たちこれがゲーム主催者の悪趣味な罠ってことくらい、気づいて対策してるんだよ!」
 そう言うだけあって、朝日良輝とそのペアの霧島澪(きりしま みお)の皿の上には、輪切りにされたウインナーが並んでいた。他の生徒たちも同じようにしていた。唯一、一ノ瀬ノノだけはウインナーを縦に裂いて皮をむいたバナナのようにして食っていた。
「対策を分かっているならいい。俺の行動が無意味だったとすれば、むしろそれは喜ばしいことだ」
「カッコつけるな!」
 二人が鼻先がくっつきそうなほど至近距離でにらみ合っていると、
「男同士だからって安全とは限らないんじゃない?」
 と霧島さんがつぶやいた。普段は物静かでクールで、あまりベラベラとしゃべらないタイプ。
「BLにもラッキースケベシチュはあるわよ? もしも今どちらかが不注意で前のめりになりすぎて、互いの唇が触れ合ってしまったら……。さて、無事でいられるかしらね?」
 二人は青ざめて素早く距離をとった。
「こ、こんなエセインテリ男とキスして死ぬなんて、最悪すぎる!」
「ふん、俺だってお前とは…………御免だ」
「おい伊集院、なんで今ちょっと考えたんだ!?」
「何も考えてなどいない。気のせいだ」
 いや待て。BLにもラッキースケベが存在するだと!? もしそうなら、百合はどうだ? やっぱりラッキースケベ展開はあるのか!? なんかもう、同性だったら安全って言えなくないか?
「だが正直BLまで考えていなかったな。もし同性でもラッキースケベ認定されるのなら、誰といても危険ということになる」
 伊集院慧はクイッとメガネを直し、冷静に分析を述べた。
「私、このデスゲームから生きて帰れたら、朝日くんと伊集院くんのBLマンガを描くわ」
 霧島さんがなぜかどうでもいいことを宣言した。
「おいやめろ霧島! 俺でBLマンガを描くとか絶対やめろ! しかも今の発言は死亡フラグだからな!?」
 朝日は自分がBLマンガにされるのがすごく嫌ならしい。
「好きにしろ。妄想は個人の権利だ」
 一方、伊集院慧は寛大だった。
 朝日は元いた席に戻り、伊集院はなぜか俺と宮本さんを見つけてこっちに向かってきた。
 なんとなく嫌な予感がした。
「宮本さん、いいところにいた。俺とペアにならないか? もちろんミッションクリアのためにだ」
 伊集院慧は、大胆にも宮本さんの手を取った。
 宮本さんがびっくりしている。
「おい待て伊集院慧、宮本さんは俺とペアを組んでるんだぞ!?」
 俺は伊集院慧と宮本さんの間に割って入った。
「……そうなのか?」
 伊集院慧は宮本さんをじっと見つめる。
「そ、そうよ、あたしはいま佐藤とデート中なの」
「なっ……お前たち、付き合っていたのか……?」
 なんでショック受けてるんだよ。
 こいつも分からんヤツだな……。
「いや俺たち付き合ってないから。デートじゃなくてミッションのために一緒にメシ食うだけだから」
 俺は事実を述べた。
「宮本さん、佐藤を裏切って俺を信じてみないか?」
「いやいやいや、なんでそんなこと言い出すんだよ!? おかしいだろ!? まだ他にも女子はいるじゃないか! 待ってれば誰か来るって」
「ごめんなさい。あたし、佐藤を信じるって心に決めたから」
「何その言い方!? いつ決めたんだよ!? さっき偶然会ってペアになっただけだよな!?」
「……こんな男の何がいいんだ? 俺は佐藤より顔も頭もいいし、運動神経もいいし、だいたいなんでも佐藤以上のスペックだし、宮本さんのことを必ず幸せにしてやれる」
 こんな男で悪かったな! だがすまん。もうツッコミ入れるの疲れた。この二人、俺の話を聞いてないし。
「佐藤はこんなヤツだけど、……なんとなくいいヤツなのよ」
 なんとなくかよ……。
「なんとなくのヤツに、俺は負けたのか?」
「ごめんなさい」
「ふはははははっ!!」
 いきなり魔王みたいに笑う伊集院慧。
 ……ついに壊れたか?
「簡単に手に入ってしまっては面白くない。今回は引こう。邪魔して悪かったな。また会おう、佐藤、そして宮本さん!」
 寂しげに去っていく伊集院慧の背中。
 伊集院慧は食堂の入り口の壁にもたれかかって、次の女子が来るのを待っている様子。
 なんだあいつ……。宮本さんのことが好きなのか……?
「ところで、席、どこにしようかしら?」
 宮本さんは俺と視線を合わせなかった。なんとなく気まずい。なんでだか知らんけど……。
「メシがまだだったこと、すっかり忘れてたよ。あっちが空いてそうだ」
 俺と宮本さんは他のペアと距離を取れる位置へ移動し、席についた。
 このとき俺はまだ気づいていなかった。
 俺たち生徒の生存者は現在二十一人。

 つまり、誰か一人は余るのだ。


1日目 12:40
生存者21人
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