14 / 15
第一部 桃井さんとイチャイチャしたい編
14,なんとなくイイ男
しおりを挟む
「繰り返す! ウインナーは男根を意味している!」
そう叫びながら食堂に飛び込んできたのは伊集院慧(いじゅういん けい)。叫んでいる内容はバカげていたが、メガネの奥の瞳は真剣そのものである。
食事をしていた生徒たちも、俺と宮本さんも、唖然とした。
最初に動き出したのは、朝日良輝(あさひ よしてる)。背は低いが元気の良すぎる男だ。
「おい伊集院てめえ食事中にそういう言葉を連呼するんじゃねえ! せっかくのメシがまずくなるだろうがっ!」
朝日は席を立ってズカズカと伊集院慧に詰め寄った。伊集院慧は一歩も引かなかった。
「俺はあくまでこれ以上の死者を出さないために行動したまでだ」
「下品な言葉を叫ぶこと自体、爆死の危険があるだろうが!」
「承知している。だがすでに食事を始めている者たちがいる以上、一刻の猶予もなかったのだ」
「俺たちこれがゲーム主催者の悪趣味な罠ってことくらい、気づいて対策してるんだよ!」
そう言うだけあって、朝日良輝とそのペアの霧島澪(きりしま みお)の皿の上には、輪切りにされたウインナーが並んでいた。他の生徒たちも同じようにしていた。唯一、一ノ瀬ノノだけはウインナーを縦に裂いて皮をむいたバナナのようにして食っていた。
「対策を分かっているならいい。俺の行動が無意味だったとすれば、むしろそれは喜ばしいことだ」
「カッコつけるな!」
二人が鼻先がくっつきそうなほど至近距離でにらみ合っていると、
「男同士だからって安全とは限らないんじゃない?」
と霧島さんがつぶやいた。普段は物静かでクールで、あまりベラベラとしゃべらないタイプ。
「BLにもラッキースケベシチュはあるわよ? もしも今どちらかが不注意で前のめりになりすぎて、互いの唇が触れ合ってしまったら……。さて、無事でいられるかしらね?」
二人は青ざめて素早く距離をとった。
「こ、こんなエセインテリ男とキスして死ぬなんて、最悪すぎる!」
「ふん、俺だってお前とは…………御免だ」
「おい伊集院、なんで今ちょっと考えたんだ!?」
「何も考えてなどいない。気のせいだ」
いや待て。BLにもラッキースケベが存在するだと!? もしそうなら、百合はどうだ? やっぱりラッキースケベ展開はあるのか!? なんかもう、同性だったら安全って言えなくないか?
「だが正直BLまで考えていなかったな。もし同性でもラッキースケベ認定されるのなら、誰といても危険ということになる」
伊集院慧はクイッとメガネを直し、冷静に分析を述べた。
「私、このデスゲームから生きて帰れたら、朝日くんと伊集院くんのBLマンガを描くわ」
霧島さんがなぜかどうでもいいことを宣言した。
「おいやめろ霧島! 俺でBLマンガを描くとか絶対やめろ! しかも今の発言は死亡フラグだからな!?」
朝日は自分がBLマンガにされるのがすごく嫌ならしい。
「好きにしろ。妄想は個人の権利だ」
一方、伊集院慧は寛大だった。
朝日は元いた席に戻り、伊集院はなぜか俺と宮本さんを見つけてこっちに向かってきた。
なんとなく嫌な予感がした。
「宮本さん、いいところにいた。俺とペアにならないか? もちろんミッションクリアのためにだ」
伊集院慧は、大胆にも宮本さんの手を取った。
宮本さんがびっくりしている。
「おい待て伊集院慧、宮本さんは俺とペアを組んでるんだぞ!?」
俺は伊集院慧と宮本さんの間に割って入った。
「……そうなのか?」
伊集院慧は宮本さんをじっと見つめる。
「そ、そうよ、あたしはいま佐藤とデート中なの」
「なっ……お前たち、付き合っていたのか……?」
なんでショック受けてるんだよ。
こいつも分からんヤツだな……。
「いや俺たち付き合ってないから。デートじゃなくてミッションのために一緒にメシ食うだけだから」
俺は事実を述べた。
「宮本さん、佐藤を裏切って俺を信じてみないか?」
「いやいやいや、なんでそんなこと言い出すんだよ!? おかしいだろ!? まだ他にも女子はいるじゃないか! 待ってれば誰か来るって」
「ごめんなさい。あたし、佐藤を信じるって心に決めたから」
「何その言い方!? いつ決めたんだよ!? さっき偶然会ってペアになっただけだよな!?」
「……こんな男の何がいいんだ? 俺は佐藤より顔も頭もいいし、運動神経もいいし、だいたいなんでも佐藤以上のスペックだし、宮本さんのことを必ず幸せにしてやれる」
こんな男で悪かったな! だがすまん。もうツッコミ入れるの疲れた。この二人、俺の話を聞いてないし。
「佐藤はこんなヤツだけど、……なんとなくいいヤツなのよ」
なんとなくかよ……。
「なんとなくのヤツに、俺は負けたのか?」
「ごめんなさい」
「ふはははははっ!!」
いきなり魔王みたいに笑う伊集院慧。
……ついに壊れたか?
「簡単に手に入ってしまっては面白くない。今回は引こう。邪魔して悪かったな。また会おう、佐藤、そして宮本さん!」
寂しげに去っていく伊集院慧の背中。
伊集院慧は食堂の入り口の壁にもたれかかって、次の女子が来るのを待っている様子。
なんだあいつ……。宮本さんのことが好きなのか……?
「ところで、席、どこにしようかしら?」
宮本さんは俺と視線を合わせなかった。なんとなく気まずい。なんでだか知らんけど……。
「メシがまだだったこと、すっかり忘れてたよ。あっちが空いてそうだ」
俺と宮本さんは他のペアと距離を取れる位置へ移動し、席についた。
このとき俺はまだ気づいていなかった。
俺たち生徒の生存者は現在二十一人。
つまり、誰か一人は余るのだ。
1日目 12:40
生存者21人
そう叫びながら食堂に飛び込んできたのは伊集院慧(いじゅういん けい)。叫んでいる内容はバカげていたが、メガネの奥の瞳は真剣そのものである。
食事をしていた生徒たちも、俺と宮本さんも、唖然とした。
最初に動き出したのは、朝日良輝(あさひ よしてる)。背は低いが元気の良すぎる男だ。
「おい伊集院てめえ食事中にそういう言葉を連呼するんじゃねえ! せっかくのメシがまずくなるだろうがっ!」
朝日は席を立ってズカズカと伊集院慧に詰め寄った。伊集院慧は一歩も引かなかった。
「俺はあくまでこれ以上の死者を出さないために行動したまでだ」
「下品な言葉を叫ぶこと自体、爆死の危険があるだろうが!」
「承知している。だがすでに食事を始めている者たちがいる以上、一刻の猶予もなかったのだ」
「俺たちこれがゲーム主催者の悪趣味な罠ってことくらい、気づいて対策してるんだよ!」
そう言うだけあって、朝日良輝とそのペアの霧島澪(きりしま みお)の皿の上には、輪切りにされたウインナーが並んでいた。他の生徒たちも同じようにしていた。唯一、一ノ瀬ノノだけはウインナーを縦に裂いて皮をむいたバナナのようにして食っていた。
「対策を分かっているならいい。俺の行動が無意味だったとすれば、むしろそれは喜ばしいことだ」
「カッコつけるな!」
二人が鼻先がくっつきそうなほど至近距離でにらみ合っていると、
「男同士だからって安全とは限らないんじゃない?」
と霧島さんがつぶやいた。普段は物静かでクールで、あまりベラベラとしゃべらないタイプ。
「BLにもラッキースケベシチュはあるわよ? もしも今どちらかが不注意で前のめりになりすぎて、互いの唇が触れ合ってしまったら……。さて、無事でいられるかしらね?」
二人は青ざめて素早く距離をとった。
「こ、こんなエセインテリ男とキスして死ぬなんて、最悪すぎる!」
「ふん、俺だってお前とは…………御免だ」
「おい伊集院、なんで今ちょっと考えたんだ!?」
「何も考えてなどいない。気のせいだ」
いや待て。BLにもラッキースケベが存在するだと!? もしそうなら、百合はどうだ? やっぱりラッキースケベ展開はあるのか!? なんかもう、同性だったら安全って言えなくないか?
「だが正直BLまで考えていなかったな。もし同性でもラッキースケベ認定されるのなら、誰といても危険ということになる」
伊集院慧はクイッとメガネを直し、冷静に分析を述べた。
「私、このデスゲームから生きて帰れたら、朝日くんと伊集院くんのBLマンガを描くわ」
霧島さんがなぜかどうでもいいことを宣言した。
「おいやめろ霧島! 俺でBLマンガを描くとか絶対やめろ! しかも今の発言は死亡フラグだからな!?」
朝日は自分がBLマンガにされるのがすごく嫌ならしい。
「好きにしろ。妄想は個人の権利だ」
一方、伊集院慧は寛大だった。
朝日は元いた席に戻り、伊集院はなぜか俺と宮本さんを見つけてこっちに向かってきた。
なんとなく嫌な予感がした。
「宮本さん、いいところにいた。俺とペアにならないか? もちろんミッションクリアのためにだ」
伊集院慧は、大胆にも宮本さんの手を取った。
宮本さんがびっくりしている。
「おい待て伊集院慧、宮本さんは俺とペアを組んでるんだぞ!?」
俺は伊集院慧と宮本さんの間に割って入った。
「……そうなのか?」
伊集院慧は宮本さんをじっと見つめる。
「そ、そうよ、あたしはいま佐藤とデート中なの」
「なっ……お前たち、付き合っていたのか……?」
なんでショック受けてるんだよ。
こいつも分からんヤツだな……。
「いや俺たち付き合ってないから。デートじゃなくてミッションのために一緒にメシ食うだけだから」
俺は事実を述べた。
「宮本さん、佐藤を裏切って俺を信じてみないか?」
「いやいやいや、なんでそんなこと言い出すんだよ!? おかしいだろ!? まだ他にも女子はいるじゃないか! 待ってれば誰か来るって」
「ごめんなさい。あたし、佐藤を信じるって心に決めたから」
「何その言い方!? いつ決めたんだよ!? さっき偶然会ってペアになっただけだよな!?」
「……こんな男の何がいいんだ? 俺は佐藤より顔も頭もいいし、運動神経もいいし、だいたいなんでも佐藤以上のスペックだし、宮本さんのことを必ず幸せにしてやれる」
こんな男で悪かったな! だがすまん。もうツッコミ入れるの疲れた。この二人、俺の話を聞いてないし。
「佐藤はこんなヤツだけど、……なんとなくいいヤツなのよ」
なんとなくかよ……。
「なんとなくのヤツに、俺は負けたのか?」
「ごめんなさい」
「ふはははははっ!!」
いきなり魔王みたいに笑う伊集院慧。
……ついに壊れたか?
「簡単に手に入ってしまっては面白くない。今回は引こう。邪魔して悪かったな。また会おう、佐藤、そして宮本さん!」
寂しげに去っていく伊集院慧の背中。
伊集院慧は食堂の入り口の壁にもたれかかって、次の女子が来るのを待っている様子。
なんだあいつ……。宮本さんのことが好きなのか……?
「ところで、席、どこにしようかしら?」
宮本さんは俺と視線を合わせなかった。なんとなく気まずい。なんでだか知らんけど……。
「メシがまだだったこと、すっかり忘れてたよ。あっちが空いてそうだ」
俺と宮本さんは他のペアと距離を取れる位置へ移動し、席についた。
このとき俺はまだ気づいていなかった。
俺たち生徒の生存者は現在二十一人。
つまり、誰か一人は余るのだ。
1日目 12:40
生存者21人
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
【短編】怖い話のけいじばん【体験談】
松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。
スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる