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第61話 潔白の証明③

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「ど、どういうことですか?」
「夫婦の間で、操を立てる為にかわす制約魔法があることはご存知ですか?」
「いえ、存じ上げません……。」

「その昔、嫉妬に狂った男が開発した魔法ですが、配偶者以外に体を許していると、それがわかる魔法というのが存在するのですよ。配偶者と双方にその制約魔法をかける必要があるのだが、それを使えば、ロイエンタール伯爵夫人の潔白をこの場で証明出来る。」

「なんでも協力します。ぜひ、妻の身の潔白を証明してやって欲しい!」
 イザークがフェルディナンドさまに、すがるような目でそう頼んだ。

「ロイエンタール伯爵夫人。あなたの協力も必要です。今のあなたには辛いかも知れませんが、なんでも出来ると約束出来ますか?もちろん証明後に解除しますので。」

「……はい、それを証明出来るというのであれば。どのようなことでも従います。」
「いいでしょう。では、私に従って互いに呪文を唱えて下さい。」

「わかりました。」
「“私、イザーク・フォン・ロイエンタールは、配偶者以外にその身を許さないということを誓う。ザフィ、ルド、エルクルド”。」

「私、イザーク・フォン・ロイエンタールは、配偶者以外にその身を許さないということを誓う。ザフィ、ルド、エルクルド。」

「“私、フィリーネ・フォン・ロイエンタールは、配偶者以外にその身を許さないということを誓う。ザフィ、ルド、パルクルド”。」

「私、フィリーネ・フォン・ロイエンタールは、配偶者以外にその身を許さないということを誓う。ザフィ、ルド、パルクルド。」

「な、なにを……。」
 義母は呪文を唱える私たちを、驚愕した眼差しで見つめていた。

 私とイザークの体の前に紋章が浮かび上がると、それが首筋で聖痕のように定着した。
「さあ、これで契約は完了です。ロイエンタール伯爵、夫人に口づけをして下さい。」

「フェルディナンドさま!?」
 私は驚いてフェルディナンドさまを見上げた。フェルディナンドさまは少しも動揺せずに、じっと私をみつめていた。

「双方どちらかが契約に違反していれば、口づけは弾かれて、違反した者の体は、耐え難い焼けるような痛みに貫かれる。だが違反していない場合は光に包まれるのです。」

「だからって、フェルディナンドさまの前でイザークとそんなこと……。」
「これが唯一の手段ですよ、ロイエンタール伯爵夫人。あなたにはお辛いかもですが。」

 イザークと離婚したがっている私に配慮した上での言葉だったのだろう。確かに離婚したがっている夫と口づけしたがる妻はいないから。でもそれしか証明の手立てがないのなら、私はイザークと口づけするしかない。

「イザーク……。」
 私は困惑した眼差しでイザークを見つめた。イザークがそっと私の手を取って、私を抱き寄せていたその手に力を込めた。

「……君にまた触れられるとは、思っていなかった。こんな形で触れるつもりはなかったが……。申し訳ないが、君の為にも証明したいと思う。フィリーネ。目を閉じて。」
 私は覚悟を決めて目を閉じた。

 イザークの唇が、優しく振ってくる。いまだかつてこんな風に、イザークに優しく口づけられたことなんてなかった。本当に愛おしくてたまらないみたいに、何度も私の唇をついばんでくるのがたまらなく恥ずかしい。

 ましてやすぐ横にフェルディナンドさまがいらして、しっかりとその光景を見られているのだから。

「ほ、ほほ……。光らないじゃないの。随分と痛みに強いのね。さっさと音を上げてしまいなさいな、それがあなたの為ですよ。」
 義母の声が遠くに聞こえる。

 私は……イザークの熱い口づけに、頭がボーッとしてどうにかなりそうだった。こんな、こんなキスの出来る人だったなんて。

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