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第59話 貴族の離婚専門弁護士との契約③

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「……ロイエンタール前伯爵夫人は、何度か社交界でお見かけしましたが、正直見栄っ張りなところのおありになる方です。魔塔の賢者を、義理とはいえ身内に持つようなことがあれば、自慢の種に使われるでしょうね。」
 
 シュテファンさまもそう同意する。私はそれにこっくりと頷いた。
「……知られるのであれば、離婚後に、ということでよろしいですね?」

 アウラさんが、メガネをクイッと上げながら不敵な笑みを浮かべる。私の意図を、どうやら言わずして察してくれたようね。

「ええ。義母は私をロイエンタール伯爵家で最も見下している人間です。その私が魔塔の賢者に選ばれたなどと知れば、最大限に悔しがり歯噛みすることになるでしょうから。」
 私とアウラさんはフッと微笑み合う。

「義理のお母さまが歯噛みするところを見るのがとても楽しみですね。これほどに才能のある方を今まで飼い殺しにしてきたのです。魔法絵師は貴族の女性が憧れる人気職業、ましてや魔塔の賢者は全国民の憧れです。」
 アウラさんの言葉にシュテファンさまがうなずく。

「魔塔の賢者は、魔法の力が強いだけでは選ばれないと聞きます。理知的で、研究に注ぐ情熱を持ち、新たな魔法や技術を開発しなくてはなれないものである、と。そんな魔塔の賢者に選ばれるような方が、領地経営や家屋敷の管理程度がおこなえない程、無能なわけがありません。それが知られた日には、すぐに化けの皮がはがれることでしょうね。」
 シュテファンさまがそう言った。

「──なにより、今までそんな状況にも関わらず、あなたのことを放置してきたロイエンタール伯爵には、怒りすら感じます。」

 シュテファンさまは本当に怒っているようだった。……美しい方が怒ると、こんなにも怖く感じるものなのね。少し驚いたわ。

 困惑している私に、驚かせてしまったことに気が付いたのか、シュテファンさまは申し訳なさそうに眉を下げて微笑んだ。

「それではさっそく契約に移りましょう。貴族の離婚に関しては、魔法のインクが使われた契約書が必要となります。準備させますので少々お待ち下さい。」

「そんなに早く、魔法の契約書を作れるものなのですか?」
 魔塔でも、契約書の準備の為に、しばらく待たされて呼び出されたのだけれど。

「ええ、草案は作ってありますので、お客さまに合わせてそれを変更するだけです。
 しばらくお待ちいただければ、すぐにでも契約が可能です。手付金として小金貨3枚程必要になりますが……お持ちですか?」

 月に小金貨5枚しかお金を渡されていなかった私が、小金貨3枚すら持っていないかも知れないことを心配してくれた。

 商会の印章と、銀行口座を作る際のお金などは、ヴィリのペットの絵のお金の支払いから引く予定で、ヴィリがすべて立て替えてくれているので、私の手持ちは変わらない。

「はい、問題ありません。」
「わかりました。では暫くお待ち下さい。」
 アウラさんが従者に、契約書を作成するよう命じた。

 私はアウラさんとシュテファンさまとお茶を楽しみながら、今後の進行や、証拠の日記などについて話を詰めていき、しばらくすると契約書を持って従者が再び現れた。

「──これで契約は完了です。よき結果になるよう尽力させていただきますので、よろしくお願いいたします。」
「こちらこそ。お会いできて幸運でした。」

 私はアウラさんと握手をかわした。こうして無事に貴族の離婚専門弁護士を味方につけた私は、意気揚々と家に戻ったのだった。

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