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第51話 執拗な強盗犯②

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「おい、お前の絵はどこだ?」
「……アトリエは1階よ。そこの扉の向こうに階段があるわ。家探ししたっていいけど、今はその肖像画しか、私の絵はないわよ。」
 魔法絵は魔塔で鑑定に出しているしね。

「行ってくらあ。」
 御者の男がランプを片手に階下に降りる。
 そして、肖像画を確認したのだろう、再び2階にのぼってくると、

「巨大な絵があるが、ほんとに家族の肖像画だった。探したが、確かに他に絵がありやがらねえ。王族や歴史の偉人でも描いてりゃともかく、家族の肖像画なんて売れねえよ。」

 そう言って、ハーッとため息をついた。
「何か他に売れるものがないか探せ!
 どこかに金を隠しているかも知れねえ。」
「わかった。」

 御者の男が、家中をひっくり返して金目の物を漁っている。だけどこの家に他にお金なんて置いていない。家中をかき回されて汚された挙げ句、ようやくどこにもお金がないことを理解して、御者の男は戻って来た。

「しょうがねえな。この家に売れそうなものなんて見当たらねえ。……この女を連れて行くか。かなりの美人だ。こいつは売れる。」
 なんですって!?

「こいつを縛り上げるぞ。まったく、あてが外れちまったが、こいつ自身がいい金になりそうだ。上品で頭が良さそうだし、貴族相手の娼館でも買ってくれるかも知れねえな。」

「そいつはいい!あそこは高級路線だけに、買うとなるとかなりの金を出すと聞いたことがあるからな!一気に大金持ちだ!」
 娼館ですって!?冗談じゃないわ!

 私は縛られないように抵抗したけれど、女1人で男2人を相手にするのだ。
 さしたる抵抗も出来ないまま、私はグルグル巻きに縛られてしまった。

「大人しくついてこいよ。騒いだら殺すぞ。
 さっさと歩け。そうだ。こっちに来い。」
 後ろから小突かれながら、階段を降りるよう促される。……どうしたらいいの……!

 そこに、ドサッと言う音がした。
「──ドッタンバッタン、夜だってのにやかましいと思ったら、お客さんかい?
 随分と賑やかだな、お嬢ちゃん。」

 レオンハルトさまが天井からスタッと床の上に降り立って、こちらを見て笑っている。
「レオンハルト様!助けてください!」
「誰だ、てめえ!」

「隣の家の者さ。夜だってのに、ベッドをひっくり返すような音はするわ、暗い窓にランプの明かりがチラチラしてたからな。泥棒かと思ったが、──強盗だったか。」

「以前アルベルトが捕まえた御者です!役人に引き渡されたのに、私がお金を持っていると思って、また侵入してきたんです!」

「──ほう?なら、次は二度と出てこられないな。犯罪奴隷いきだ。可哀想に。」
 レオンハルトさまが肩を竦めて笑う。

 冗談を言っている場合かしら?でも、そのくらい、レオンハルトさまにとっては、2人程度の暴漢くらい余裕だということかしら。

「なんだと!?こっちは2人だぞ!?」
「やっちまえ!」
 男たちがナイフを取り出すと、一斉にレオンハルトさまに襲いかかった。

 レオンハルトさまは、なんてことはない、という余裕な態度でそれを、ひらり、ひらりと躱しながら笑っていた。

「それで本気なのか?それとも、暗いからよく見えないのかな?そんなんで人を刺そうなんてやめたほうがいいぜ?」

「ぬかせ!」
「ちっ!フラフラと動きやがって!」
「おい、女を人質にとるんだ!」
「そうか!こっちには人質がいるんだぞ!」

 御者の男が、グルグル巻きにされた私の首に腕を回して、グイ、と引き寄せる。力任せに引き寄せられて、息がしづらくて苦しい。

 いくらレオンハルトさまでも、人質がいる状態で、それを守りながら戦うなんて難しい筈だ。今のうちに邪魔にならないよう、さっさと外に逃げ出すべきだったと思っても、今更遅かった。足手まといになるなんて……!

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