養っていただかなくても結構です!〜政略結婚した夫に放置されているので魔法絵師として自立を目指したら賢者と言われ義母にザマァしました!(続く)
陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中
文字の大きさ
大中小
110 / 190
第49話 不器用な2人③
しおりを挟む
トラウマ、というやつだろうか。貴族の女性と関わることが恐ろしくなって、私の姿がそれに突然見えるようになる。私も、貴族の若い女性だから。だから避けていたの?
「私たち……。もっと早くに話し合えたら良かったわね。そうしたら、きっと今、こんな風になっていなかったと思うわ。」
「離婚の意思は……変わらないのか?」
「ええ。私はこの家を出て、絵師として自立したいの。父にも、ロイエンタール伯爵家にも、縛られない人生をおくるのよ。」
「私も離婚を拒む意思は変わらない。」
「どうして?唯一吐き気がしないから?」
「違う。」
イザークが私の手を掴んだ。
「──君じゃなきゃ、駄目だからだ。」
私の目をじっと見つめてくるイザーク。
こんなに切羽詰まったような表情を見るのも初めてのことだ。
「初恋……だったんだと思う。君のことが。
記憶に蓋をして、忘れていたけれど、君のことだけはどこかで覚えていたんだと思う。」
私の脳裏にあの日の少年の姿が浮かぶ。
「それなのに突然怖くなって、自分で自分がわからない。どうしたらいいのかも……。
こんな自分を知られるのが怖かったんだ。
もう、話してしまったがな。」
イザークが苦笑しつつそう言った。
その手は私に、つながれたまま。
「子どもの頃欲しかったのは、子猫と過ごせる生活と、君といられる時間。それだけだ。
それだけが、私の欲しいものなんだ。」
「でも……大人になったあなたが私にしてきたことは消えないわ。私が無視されて悲しかった時間も。最初から話してくれていれば、私だって寄り添えたかも知れないけれど、私が苦しかったことも事実なのよ?あなたのお母さまにされてきたことだってそうだわ。
あなたはそれを止めなかったじゃない。」
「そうだな……。私は自分を守ろうとするあまり、君を傷つけてきたんだな。今日、君と話してそれをまざまざと実感したよ。頑なになっている私につき合わせるべきじゃなかったと。私は結婚すべきではなかったんだ。
少なくともこの傷が癒えるまで。」
イザークは真面目な顔つきでそう言った。
私は困惑していた。イザークの言葉にも、態度にも。これはいったい、誰……?
「あなたの行動に理由があったことはわかったわ。だけど、それで同じことを私にしていいわけじゃない。この年になってしつけされるだなんて、……こんな屈辱、ないわ。」
「そうだな。私はお母さまの言う通り、君のことが“くだらないもの”に感じるから、そういう感情が沸き起こるのだと思っていた。だからしつけが必要だと思っていた。私がされてきたように。それは私の間違いだった。」
──どうしてイザークは、こんなに素直なんだろうか。どうして私たちは、もっと早くに話し合えなかったのだろうか。どうしてこうなる前に、もっと早く……。
「私は君と、やり直したい。」
「……でももう、私は前を向いて歩いているのよ。あなたから離れたいの。
ロイエンタール伯爵家からも。
それは尊重してくれないの?」
「フィリーネ……。」
「今更名前を呼ばないでよ……!
今まで一度も、一度だって呼んでくれたことなんてなかったじゃない……!」
思わず涙があふれた。これはなんの涙なんだろうか。困惑、愛憎、今更という気持ち、色んなものが混ざりあって溢れ出て来くる。
「私だって、あなたと愛し合えたら、あなたと幸せになれたら、それが1番良かったわ!
今更よ、今更なのよ……!」
イザークがそっと指の甲で溢れ出る涙を拭ってくる。そんな風に優しくしないで。あなたも辛かったんだって、本当はずっとこうしたかったんだって、そう思ってしまうから。
今更だと思っていてもイザークに対する情は残っている。あなたと愛しあいたくて求めた時間が心をよぎる。このまま彼を遠ざけたい気持ちと、どこか憎みきれない気持ちも。
イザークが、そっと私を抱きしめた。
私はされるがまま、イザークに背中を抱かれていた。あふれる涙が止まらないまま、私は感情を吐き出すように泣き続けた。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
「私たち……。もっと早くに話し合えたら良かったわね。そうしたら、きっと今、こんな風になっていなかったと思うわ。」
「離婚の意思は……変わらないのか?」
「ええ。私はこの家を出て、絵師として自立したいの。父にも、ロイエンタール伯爵家にも、縛られない人生をおくるのよ。」
「私も離婚を拒む意思は変わらない。」
「どうして?唯一吐き気がしないから?」
「違う。」
イザークが私の手を掴んだ。
「──君じゃなきゃ、駄目だからだ。」
私の目をじっと見つめてくるイザーク。
こんなに切羽詰まったような表情を見るのも初めてのことだ。
「初恋……だったんだと思う。君のことが。
記憶に蓋をして、忘れていたけれど、君のことだけはどこかで覚えていたんだと思う。」
私の脳裏にあの日の少年の姿が浮かぶ。
「それなのに突然怖くなって、自分で自分がわからない。どうしたらいいのかも……。
こんな自分を知られるのが怖かったんだ。
もう、話してしまったがな。」
イザークが苦笑しつつそう言った。
その手は私に、つながれたまま。
「子どもの頃欲しかったのは、子猫と過ごせる生活と、君といられる時間。それだけだ。
それだけが、私の欲しいものなんだ。」
「でも……大人になったあなたが私にしてきたことは消えないわ。私が無視されて悲しかった時間も。最初から話してくれていれば、私だって寄り添えたかも知れないけれど、私が苦しかったことも事実なのよ?あなたのお母さまにされてきたことだってそうだわ。
あなたはそれを止めなかったじゃない。」
「そうだな……。私は自分を守ろうとするあまり、君を傷つけてきたんだな。今日、君と話してそれをまざまざと実感したよ。頑なになっている私につき合わせるべきじゃなかったと。私は結婚すべきではなかったんだ。
少なくともこの傷が癒えるまで。」
イザークは真面目な顔つきでそう言った。
私は困惑していた。イザークの言葉にも、態度にも。これはいったい、誰……?
「あなたの行動に理由があったことはわかったわ。だけど、それで同じことを私にしていいわけじゃない。この年になってしつけされるだなんて、……こんな屈辱、ないわ。」
「そうだな。私はお母さまの言う通り、君のことが“くだらないもの”に感じるから、そういう感情が沸き起こるのだと思っていた。だからしつけが必要だと思っていた。私がされてきたように。それは私の間違いだった。」
──どうしてイザークは、こんなに素直なんだろうか。どうして私たちは、もっと早くに話し合えなかったのだろうか。どうしてこうなる前に、もっと早く……。
「私は君と、やり直したい。」
「……でももう、私は前を向いて歩いているのよ。あなたから離れたいの。
ロイエンタール伯爵家からも。
それは尊重してくれないの?」
「フィリーネ……。」
「今更名前を呼ばないでよ……!
今まで一度も、一度だって呼んでくれたことなんてなかったじゃない……!」
思わず涙があふれた。これはなんの涙なんだろうか。困惑、愛憎、今更という気持ち、色んなものが混ざりあって溢れ出て来くる。
「私だって、あなたと愛し合えたら、あなたと幸せになれたら、それが1番良かったわ!
今更よ、今更なのよ……!」
イザークがそっと指の甲で溢れ出る涙を拭ってくる。そんな風に優しくしないで。あなたも辛かったんだって、本当はずっとこうしたかったんだって、そう思ってしまうから。
今更だと思っていてもイザークに対する情は残っている。あなたと愛しあいたくて求めた時間が心をよぎる。このまま彼を遠ざけたい気持ちと、どこか憎みきれない気持ちも。
イザークが、そっと私を抱きしめた。
私はされるがまま、イザークに背中を抱かれていた。あふれる涙が止まらないまま、私は感情を吐き出すように泣き続けた。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
319
お気に入りに追加
1,465
あなたにおすすめの小説

年に一度の旦那様
五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして…
しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。

もう尽くして耐えるのは辞めます!!
月居 結深
恋愛
国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。
婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。
こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?
小説家になろうの方でも公開しています。
2024/08/27
なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)
miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます)
ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。
ここは、どうやら転生後の人生。
私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。
有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。
でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。
“前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。
そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。
ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。
高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。
大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。
という、少々…長いお話です。
鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…?
※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。
※ストーリーの進度は遅めかと思われます。
※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。
公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。
※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、142話辺りまで手直し作業中)
※章の区切りを変更致しました。(11/21更新)

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる