上 下
90 / 190

第43話 新しい生活①

しおりを挟む
 次の日の朝、少し気まずい気持ちのまま、私は朝食のテーブルについたのだけれど、アルベルトは別段至って普通の様子だった。

 あんなに動揺するくらい、恥ずかしいお願いをしてしまったのだわ、と思っていたけれど、私も困惑していたから、彼もあまり気にしないようにしてくれたみたいね。

 朝食はトーストに、目玉焼きに、サラダ、何かのお肉と野菜のたっぷり入ったコンソメスープ、ヨーグルトのかかった果物だった。

「目玉焼きは、ニンニクをオリーブオイルと塩で炒めたもので焼いてある。オリーブオイルをパンにかけて、目玉焼きを乗せて、ニンニクを散らして食べてみて。」

 アルベルトにそう言われて、ちょっと貴族としては下品な食べ方だと言われてしまうけれど、言われた通りにして食べてみた。

「なにこれ、とっても美味しいわ……!」
「そう、良かった。そこにハムとチーズを乗せても美味しい。試してみて。」
 アルベルトが微笑む。

 そのやり方も試してみてみたけど、駄目、たまらないわ。こんな食べ方もあるのね。
 貴族の家じゃ絶対出てこないわ。
 でもこの食べ方、癖になりそう……!

 アツアツの半熟の目玉焼きから、とろりと黄身がこぼれて、ちょっとたらしそうになって焦りながらも、パクパクとたいらげる。

 いつもイザークが食べ終わる時間を気にしながら食べていたから、こんな風にゆっくり朝食を取るなんて実家ぶりかしら。

 確かに凝った料理ではないけれど、アイデアが活かされているし、何より美味しいわ。
 アルベルトは料理もとっても上手なのね。

 私が美味しそうに食べる姿を、みんながニコニコしながら見ているので、ちょっぴり恥ずかしくなる。あまり人が食べる姿をジロジロ見たり、見られたりなんてしないもの。

 でも、これからは、自由に料理も出来るんだもの。これは家でも試してみましょう。
「あの、近くにどこか、女性ものの服を購入出来るお店を知りませんか?」

「女性ものの服、ですか?」
「はい、先日拝見させていただいた家を、正式に借りようと思っているのですが、何も持たずに急に出て来てしまったので……。」

「あまり服をお持ちではないのですね。」
「はい、そうなんです。」
「古着屋でしたらありますよ。仕立てるような店は、町まで行かないとないですね。」

「はい、それで結構です。」
 新品を仕立てるのなんて、お金がかかるものね。それはいずれということにしたいわ。

「──以前母さんがよく、買い物していた店があるだろう。まだ道を覚えているだろう?
 アルベルト、案内してやりなさい。」
 アルベルトのお父さまがそう言った。

「覚えてる。だいじょうぶ。案内する。」
「本当?でも、お仕事があるんじゃ?」
「昨日遅くまで作業してたから、今日は午後からゆっくりの予定。問題ない。」

「わかったわ。そういうことなら、お願いするわね。助かるわ。ありがとうございます。
 息子さんを少しお借りしますね。」

 最後の言葉はアルベルトのお父さまに向けて言うと、こっくりと無愛想にうなずいた。
 あまり表情のない方だけど、工房長やアルベルト同様、優しい方なのでしょうね。

「特に契約書みたいなものは作っていませんから、月末になったら来月の家賃を取りに伺います。今月分はお持ちですか?」

「……そういえば、おいくらですか?今、あまり手持ちの現金がなくて。絵の代金がもうすぐ支払われる予定なのですが。」

「こんな場所ですが、一応2階建ての一軒家ですからね。月に小金貨8枚の予定です。」
「それくらいでしたら支払えると思います。絵の代金が入るまで待っていただければ。」

 家賃の相場がわからないけれど、2階建ての一軒家が月小金貨8枚は、私の想定よりもかなり安い金額だった。月に中金貨2枚は必要だと考えていたのに。

 これなら無理なく支払うことが出来る。
 1階にアトリエがあって、裏庭にガゼボまである家なんてそうそうないから、たとえそれでも借りるつもりでいたけれど。

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

もう尽くして耐えるのは辞めます!!

月居 結深
恋愛
 国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。  婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。  こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?  小説家になろうの方でも公開しています。 2024/08/27  なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、142話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(11/21更新)

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

なにをおっしゃいますやら

基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。 エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。 微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。 エブリシアは苦笑した。 今日までなのだから。 今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

処理中です...